雛祭りなんて言う文化がミッドチルダにあるわけがなく、今日は流石にのんびりといつも通りに営業しました。
なんて、そんなわけがないことはわかると思う。無いなら作ってしまえばいいんだよ? どこかの会社が地球の文化を取り入れて儲けようとしている中にはちゃんと雛祭りのそれもあったわけだし、やってやれないことはない。だったらもうやるしかないでしょ!
とりあえず雛祭りを広める前に、知り合いの子供達に連絡をとってみた。
その結果、見事に多くの子供達の参加表明を得ることができた。
まずはヴィヴィオ。そしてアインハルトちゃんに、リオちゃん、コロナちゃん、ミウラちゃん、ヴィータちゃん、キャロ、シャンテちゃんと言う割と小さい子達(約二名は見た目だけ)に、ハリーちゃんとその周りに居る三人の子達に、エルスちゃん、ルーテシアちゃん、ヴィクターちゃん、ジークちゃん、それから古き良き正統派魔女っ子ファビアちゃん。
お目付け役として、フェイトちゃんとシャマル先生、はやてちゃん、ミカヤちゃん、ノーヴェ、セイン、チンクが。スポンサーとしてすずかちゃんとアリサちゃんが参加することになった。見る人が見れば間違いなく涙を流して喜ぶ感じの内容……と言うか、人によっては本当にそのくらいの事ならやっちゃいそうな顔触れだったりする。
……ちなみに、ハリーちゃんは私の大ファンらしく、私に出会うとわんこが尻尾を振って走り寄ってくる感じで近寄ってくる。なんでもハリーちゃんが試合用のユニフォームの背中に『一撃必倒』の文字を背負っているのは、その文字が私の世界でよく使われている字で、かつ自分の性格と戦法に合っているかららしい。可愛い娘だよね?
さて、参加する人が決まったところで今度は誰がどこに座るのかを決めなくてはならない。参加人数は男雛、女雛、三人官女、五人囃子、随臣二人に仕下三人の計15人……物によっては歌人だとか小町だとかが追加されることもあるけれど、基本はそれだから今回はそれだけにしておく。
誰にどの衣装を着せるかは適当にサイコロで決める。24面体のサイコロを使ってやれば、ある程度簡単に決めることができる。
……さて、重要な事ではないけれど、世の中の事象を確率で表すとほぼ間違いなくその内容には偏りができる。コインを無造作に弾いて表と裏のどちらかが出る確率が50%、なのに何度か繰り返している内に明らかにどちらかの面が出た回数が多くなってしまう現象。それを『偏り』と呼ぶ。
そしてその偏りは、色々な場所で様々な呼び名で呼ばれている。例えば『ツキ』。例えば『運』。例えば『流れ』。その他にも多数。
それらの物には偏りがある。その偏りを掴むのが上手い者は幸運あるいは不運などと言われるわけだけれど……偏りと言うだけあってそれにはやっぱり波がある。
『波』が、ある。
そう言うわけで、私はサイコロを振ってランダムに配役を決めていく。幸運なことに、15回振っただけで全ての役職が決まったので、後はその役割に合わせて布から服を作るだけだ。
別にバリアジャケットのように魔力で編んだ服を使ってもいいのだけど、それだとちょっと味気ないからね。作る時間だって精々一時間程度しか変わらないんだから、やる意味はある。
遊びだからこそ全力で。そうじゃないと息抜きにもならないし楽しくもない。楽しむ時には楽しんで、しっかりやるときにはしっかりやる。社会に出たからにはそれくらいの事はやっておくべきだ。
さて、それじゃあ作ろうか。糸から作るのはちょっと時間がかかりすぎるから、流石に布から作ることになるだろうね。ちょうどみんなに似合う感じの布が見つかったからいいんだけど、もしもいい布がなかったら……時間移動をして布を用意しておかなくちゃいけないところだったよ。見つかったんだから別にいいけどさ。
布を切り、縫い合わせて形を作る。魔力で編んだ服なら文字通りの『天衣無縫』を作ることができるだろうけど、普通の布でそんなものを作ることはちょっと難しい。
と言うことで、間に合うように適度に手を抜きつつしっかりした服を作り上げていく。大変ではあるけれどやりがいのある仕事だ。
やっぱり何かを作る製作業って言うのは最高だね!
と、若干発狂してから数日。つまりは雛祭り当日になって、翠屋に招待客が集まった。
まずは雛祭りと言う行事がどんな意味を持っているのかを説明し、それからお色直しの時間。何人かはちょっとどころじゃなく驚いた表情を浮かべていたけれど、私はそれを気にせずにサイコロで決めた服をそれぞれに渡していく。
ちなみに、服は重いと動くのが嫌になるだろうと思ったので、綺麗で重厚に見えるけれど実際には割と軽く作ってあるのが大半。一部の人は自分の服の作りが他の人達と違うと首を傾げていたけれど、それでもちゃんと着てくれた。
……ううん、やっぱりヴィータちゃんにも何か着てほしかったなぁ……一応用意はしてあるけれど、多分着てはくれないだろうし。
そしてお披露目の時間。人間サイズの大きな雛壇と雛飾り(さくらさん提供)に、自分の位置を確かめながら座っていく。
ヴィヴィオは最上段の左側。簡単に言っちゃうとお内裏様の位置。なんだかちょっと複雑そうな表情を浮かべているのは、お内裏様が男だって知っているからなんだろうね。
でも、子供がやっているせいか似合って見える。できればもう少し柔らか目の笑顔を浮かべてくれるのがいいんだけど、残念ながらそんな表情は浮かべてくれないらしい。
ヴィヴィオ能登なり……じゃない、ヴィヴィオの隣は、お雛様の格好をしたアインハルトちゃん。まあ、ヴィヴィオと比べて身長があるからちょっとアンバランスに見えるけど、恥ずかしがって身を縮めているアインハルトちゃんと堂々としているヴィヴィオを並べれば大丈夫。可愛いよ?
三人官女はハリーちゃん、エルスちゃん、ジークちゃんの三人。しっかり物とやや荒っぽい娘と天然な娘の三人を並べるけれど、やっぱりハリーちゃんとエルスちゃんを並べると騒がしくなるなぁ……。ジークちゃんじゃなくてヴィクターちゃんにしようかと思ったけど、思い止まって良かったよ。
……いや、サイコロだけどね? 決めたのはサイコロの出目だよ? ほんとだよ?
それから五人囃子はリオちゃん、コロナちゃん、ミウラちゃん、シャンテちゃん、ファビアちゃんの五人。
リオちゃんが一番左で太鼓、次はミウラちゃんで
リオちゃんとミウラちゃんは力が強いから太鼓と大鼓で、素早いシャンテちゃんが小鼓。魔女と言えば呪い、呪いと言えば呪詛、呪詛と言えば詠唱……と言うことでファビアちゃんは謡で、器用なコロナちゃんは笛。
五人囃子は一番上の内裏雛とは比べるまでもなく、三人官女と比べても服自体は地味に見える。まあ、見た目よりも音楽で魅せる職業だから仕方無いね。
その下に随臣……つまりは右大臣と左大臣。ここにはミカヤちゃんとヴィクターちゃんが座っている。男物の服を完璧に着こなして見えるような気がするのだけれど、この二人は男前だね。
……あ、そうそう、右大臣のミカヤちゃんはちょっと甘酒飲んでほっぺを赤くしておいてね? 甘酒は作ってあるし、ミカヤちゃんは飲める年齢だから問題はないはず。
……剣が似合うね。うん。流石は抜刀☆剣士ミカヤたん。
一番下の段にいる仕丁は、ハリーちゃんと一緒に居ることの多いリンダちゃん、ルカちゃん、ミアちゃんの三人。一番背の高いミアちゃんが日傘をさす立傘、一番背の低いルカちゃんが靴を運ぶ沓台、中間くらいのリンダちゃんが雨笠をさす台笠と言う役目を持つ場所に座っている。
本当だったらそれぞれ笑い、泣き、怒りの表情を浮かべていなくちゃいけないところなんだけど、流石にそんなところまで要求しようとするほど理想は高くないし、わざわざ高くする必要はない。
今回のこれは子供が楽しむことが大前提であって、苦労するところは大人がやっていればいい。そうじゃないと楽しくないだろうしね。
「……ねえ、なのは?」
「あれ? どうしたの、フェイトちゃん」
綺麗に雛人形に扮している全員が並んだ所を写真に納めていると、フェイトちゃんが私に質問をしてきた。
「あのメンバーって、どうやって決めたの?」
「サイコロで」
「……魔法とかで出目の操作はしてないよね?」
「それじゃあ楽しくないじゃない。魔法を使ったのは雛壇の飾りつけの時とあの服を作ったときだけだよ?」
「ふーん……それにしては皆のキャラに合ってる場所に座っているように見えるんだけど……」
「サイコロの出目には偏りがあるし、そういう風になっちゃってもしょうがないよ」
どうしてフェイトちゃんがそんなことを聞いてくるかと思えば……キャロが雛壇に居る皆とその服を見て羨ましげにしているのが目に入った。……親バカだね、フェイトちゃんってば。
「安心しなよ、フェイトちゃん。ちゃんとみんなの分のコスプrげふんげふん衣装も用意してあるからさ」
「コスプレ!? いまコスプレって言った!? 言ったよねコスプレって!?」
「言い切ってないよ」
「同じようなことだよそれはっ!?」
フェイトちゃんからのツッコミ入りました。けれどもそれを軽くスルーして私はその場に居たみんなの分の衣装を出した。場所はどこになるのかわからない……と言うか、三枚目より後の写真を撮ってる最中からずっと場所なんてどうでもよくなってきているので、五人囃子が八人に、三人官女が六人に、お内裏様が一人なのにお雛様が二人居るようなことになっても私は知ったことじゃない。むしろ、面白いからもっとやってほしいと思っているくらいだ。
ハリーちゃんとエルスちゃんが角突き合わせて居るところをジークちゃんが仲裁し、ヴィクターちゃんが上ってきてハリーちゃんがつっかかり、ミカヤちゃんがそれを眺めて溜息をつきながら甘酒で酔っぱらってしまったらしいリオちゃんに膝枕して、コロナちゃんがどこからか出したスケッチブックに何かを書いているところにシャンテちゃんがきて中身を見て赤面し、それに気付いたコロナちゃんも顔を真っ赤にする。
リンダちゃん、ルカちゃん、ミアちゃんの三人はハリーちゃんの気を押さえてもらおうとして、ミウラちゃんが正座で痺れてしまったから伸ばしていた足に引っ掛かって転倒する。脚を持ってごろごろしているミウラちゃんにシャマルさんが回復魔法を使い、着替えたヴィータちゃんがはやてちゃんの手を引きながら走っていく。
すずかちゃんとアリサちゃんはそんな光景を苦笑いしながら眺めつつ私が淹れた紅茶を飲んで、ノーヴェがセインやヴィヴィオ達に引っ張られて雛壇の方に上がっていく。
……さて、それじゃあ私はこれを写真に残そう。アギトやレイジングハートも一緒に、みんなで一緒に写ろうか。
そうだね、題名は……『我が騒がしくも愛しき日常』かな? 日常とは程遠いような気もするけれど、間違ってはないはずだしね。
ひょいっと一歩後ろに下がり、全員がフレームに入るようにしてから、両手の人差し指と親指で作った覗き窓の光景を記録する。
はい、チーズ。