side 織斑 なのは
今日は楽しいクリスマス。ミッドチルダにはクリスマスは無いけれど、私が地球生まれと言うこともあって地球の文化を取り入れようとする人達も割と多いのでクリスマスフェアとクリスマスパーティーを開催することにした。
とりあえずレトロに招待状を作って知り合いに送り、そこから帰ってきた枚数で参加人数を計算。仕事は『偶然』みんな重なってお休みの日を狙ったし、子供達はヴィヴィオから招待されたり私から手紙を送ったりして来る人は来ると表明してもらっている。
今のところ、参加者ははやてちゃんを筆頭とした八神家一同と機動六課フォワードメンバー、フェイトちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんの幼馴染み組に元ナンバーズ(ただしスカリ博士、お前はダメだ)、それからヴィヴィオの大会で知り合いになった子供達と、管理局に紹介されるきっかけとなったユーノ君。
……クロノ君? 休みがあるなら家に帰って子供達と顔を合わせなさい。そんなんだから『パパ、今日はお泊まりなの?』とか『パパ、また来てね』とか言われるはめになるんだから。
……あれ、どこからか心の折れた音がした。なんとなく原因はわかるけど、ここはあえて空耳と言うことにしておこう。面倒だし。
ちなみに、今回のパーティーはそこまで大きな物にする予定はないので、私の家をそのまま飾り立てて使うようになっている。私のファンだと言うハリーちゃんは私から手紙が送られてきた時に大はしゃぎしていたようだけれど、手紙の内容にさらにはしゃいでいたその姿は年相応で可愛らしいと思えた。
……でも、わざわざ正装とかはして来る必要無いんだけどね。なんならバリアジャケットでも構わない。汚くなければ。
……ちゃんと招待状にはそう書いておいたのになんでか全員正装してくるようなので、私とヴィヴィオとアギト、それにさくらさんも正装することにした。
私はバリアジャケットとほとんど同じパンツスーツで、ヴィヴィオは聖王オリヴィエが着ていたようなドレス。さくらさんは真っ黒なスーツに赤いYシャツで……なんと言うかホストのよう。かっこいいんだけどね。
それから料理も多数用意した。お菓子作りが本領だけれど、これでも喫茶店の店長なのでお菓子以外もそれなりに作る事ができる。栄養価や彩りも考えなくちゃいけないからいつもより少し大変って言う気持ちもあるけど、それはそれで面白い。
ちなみに、シュテルちゃんは私の色違いで黒と赤を主体にしたパンツスーツ。レヴィちゃんは黒と深い青を主体としてあるパンツスーツにボロボロに見えるマント付き。ディアーチェちゃんは何故かサンタのコスプレ(ミニスカサンタではない)をしている。
……私はああいう女の子っぽい格好は似合わないからちょっと羨ましい。さくらさんは男で、さくらさんが幻術を纏うことでできているはずのディアーチェちゃんも本当は男のはずなのに……なんで私よりも女物の洋服が似合うんだろう。羨ま悲しい。
さて、それはそれとして今日のお仕事を終わらせたので、ここから先はプライベートな時間。家や庭の飾り付けも分身や魔法を多用したことでもう終わっているし、プレゼントや料理の準備も終わっている。あとははやてちゃん達が来るのを待つばかり。
……ちなみに、エルトリアでは暦が違うのでやってはいません。かわりにディアーチェとユーリがいつにも増していちゃいちゃと……これ以上は野暮ですね。うん。
はやてちゃん達は早めに家を出て私のお手伝いをする気でいるようだけれど、それはもう終わっている。狭いかもしれないと思ってちょっと空間を歪めて広くしてあるけれど、それも含めて準備のうちだしね。
「……なのはママが本気を出したら一日で家の内装どころか間取りが変わっていた件について」
「姐御のやることだ。諦めろ」
「空間を歪めて間取りを変えるくらい私じゃなくてもできるよ? 無限書庫内でユーノ君は空間を歪めて自分の好きなところに瞬く間に移動できるしさ」
「無限書庫内の司書長とかなのはママと唯一正面から戦って打倒できる可能性を持つ人じゃないですかやだー」
「シュテルちゃんやレヴィちゃんやディアーチェちゃんだって私に勝てるよ? コンスタントに」
「翠屋が人外魔境だった件について」
「常識だろ。と言うかもう五年近く暮らしてるんだから慣れろよ」
「慣れる度に上を行かれてる」
「それこそ諦めるしかねえな。あたしはもう諦めたよ」
ヴィヴィオとアギトが同時にため息をついた。なんと言うか、扱いが酷くないかな? 別にいいけど。
……あ、はやてちゃん達が来たね。それじゃあお出迎えしようか。
はやてちゃんがヴォルケンリッターとリインを連れてきてから、すぐに人は集まった。はやてちゃん達の次はフェイトちゃんとアリサちゃん、すずかちゃんの幼馴染みトリオで、やっぱり綺麗なドレスを着ていた。
……ただし、フェイトちゃんとはやてちゃんはやっぱりお化粧が濃い。はっきり言ってケバいって言うレベル。シャマルさんがやったんだろうけど、これは酷い。フェイトちゃんもはやてちゃんも元がいいんだから、その元を活かす類の薄目のお化粧の方がいいと思うよ?
と言うことで、はやてちゃんとフェイトちゃんを洗面台にご案内。私が薄めにお化粧を直して、それでようやくまともに見れる顔になった。
アリサちゃんもすずかちゃんも、フェイトちゃんに教えてあげればいいのにね。自分達は素材を活かす感じのお化粧で、フェイトちゃんだけこれじゃあずいぶん浮いてたと思うけど……。
そうしてお化粧直しが終わったところで、ヴィヴィオのお友達のコロナちゃんとリオちゃん、そしてアインハルトちゃんがインターミドルの出場選手達を引き連れてやってきた。私の家に来るのは初めてじゃない子も多いはずなのに、どうしてかみんな凄く緊張しているように見える。
「……それ、なのはママが全力で飾りつけをした結果だと思うよ? 私も一瞬ドアが変なところに繋がったのかって思っちゃったし」
「さくらさんの部屋のドアは時々砂漠の黒角竜や火山の黒鎧竜の目の前に繋がることがあるけどね」
「あ、あたし前にテオナナ夫妻が巣でいちゃいちゃしてるところに遭遇して殺されかけた」
「私は鋼竜三頭の喧嘩のど真ん中に……」
すぐに扉を閉めれば襲われることもなかったと言うのに……。まあ、修行だと思っておけばいいよ。分身だったら何体死んだところで問題ないしね。
そんなことよりも、小さなお客さん達をお出迎えしなくっちゃ。
何度か深呼吸をしてから震える指でチャイムを押そうとしているハリーちゃんがいるのはわかっているけれど、普通にさっさと扉を開けてしまう。
「いらっしゃい、ハリーちゃん」
「ひゃわぁぁっ!?」
びっくりしたのか弾けるように後ろに跳んで、履きなれない靴のせいか転びそうになってしまったハリーちゃんの身体を引き寄せる。これで倒れることはなくなったけど、ハリーちゃんは目をグルグルにして顔を真っ赤にして慌てている。
いつもなら靴を履いたまま家にあげたりはしないのだけれど、今日は空間を歪めてあるので普通に上がってもらう。ハリーちゃんは固まったままだったのでお姫様抱っこで運んでみたら、あわわわと慌てて周囲を何度も見回してから腕の中で大人しくなった。
……一時期のフェイトちゃんもこんな感じだったのだけど、今では殆どこういう可愛い姿を見せてくれることは無くなってしまったので、なんだか久し振りに心に潤いが与えられたような気分になる。
「リオちゃんもコロナちゃんもアインハルトちゃんも、いつもの通り緊張なんてしないで上がっておいで。ミカヤちゃんとジークリンデちゃん、それにヴィクターちゃん達も、ようこそ我が家へ。歓迎するよ」
「ははは……これで緊張しないと言うのは難しいけれど、努力はしてみることにするよ」
「頑張った子には美味しいご飯とケーキが待ってるよ?」
「それじゃ行こっかコロナ!私達はお先に失礼します!」
リオちゃんはそう言うとあっという間に走っていってしまった。コロナちゃんを片手にしていたので、コロナちゃんが壁なんかにぶつからないかちょっと心配。
ゴインッ!
「いったぁぁい!」
「リオ!だ、大丈夫!?」
「うぅ……間取りが全然違うからぶつかっちゃったよぉ……痛い……」
あらあら、コロナちゃんじゃなくてリオちゃんがぶつかっちゃったか。全体的に私の魔力で強化してあるから、ぶつかったら結構痛いと思うよ?
まあ、いいや。それじゃあ私も行ってパーティーを始めようかな。早いところハリーちゃんを置いておかないと大変なことになりそうだし。
食べて飲んで大騒ぎして、子供達はもうみんな眠ってしまった。お腹が一杯になったのと騒ぎすぎて疲れたのとが合わされば、子供はあっという間に睡魔の虜になってしまう。
……勿論お酒は子供には飲ませていない。ミッドチルダでは結構若い内から飲酒が許可されるけれど、それでもお酒は16歳から。体格から言ったら間違いなくヴィータちゃんはアウトなんだけど、夜天の書の守護騎士としてとても長い時間を過ごしてきているのだからOKとした。
そう言うわけで今は大人の時間。寝ちゃった子供達や酔い潰れた大人達を除いた、それなりに良識のある大人達の集まりだ。
「なのはちゃんが良識ある大人とか、なかなか笑える冗談やなww」
「良識を失った大人として、はやてちゃんを襲ってあげようか?」
「襲う(意味深)」
「ちゃう、フェイトちゃんそれちゃうから!物理的な意味でかつ必殺の意思を込めて襲われて落とされるわ!」
「堕とされる(意味深)」
「ああもうフェイトちゃんにこのネタ教えたのは誰や!純真無垢なフェイトちゃんに教えたらこうなるのは目に見えとったやろ!?」
「あ、それ教えたの私」
「すずかちゃん!?」
「あ、私別の教えた」
「アリサちゃんまで!? と言うかアリサちゃんはツッコミ役やろ!? なんで平然とボケとんの!?」
「月が綺麗だから?」
「意味わからんわ!」
「アリサちゃん、月が綺麗だね」
「そうね。もう死んでもいいほどに」
「死んだらあかんよ!?」
はやてちゃんはどうやらミッドチルダに染まりきって日本人の謙虚さと言うものを忘れてしまったらしい。全くもって嘆かわしい。
「「「……はぁ…………」」」
「なんでわたしこんな残念そうに溜め息つかれとんの!?」
「残念(笑)」
「フェイトちゃん黙り!」
はやてちゃんは酔って性格が悪くなったフェイトちゃんにぴしゃりと言い放った。でもはやてちゃんが残念なことには変わりないので、とりあえず意味がわかっている謙虚な日本人の意識を未だ持っている私とアリサちゃんとすずかちゃんの三人は、はやてちゃんを意味もなく空虚な目で眺めてみた。
……ああ、そうだ。そろそろヴィヴィオ達もしっかりと寝ただろうし、サンタクロースからのプレゼントを並べておかないと。
ナンバーズの各員がなぜかサンタクロースの逸話を知っていて、さらにそれを信じてしまった数人の子供達がサンタクロースに挑もうと頑張っていた筈だけれど……もうそろそろ起きているのも限界のはずだ。空間を拡げる時に追加で捩じ込んだ催眠誘導術式で、みんなはとっくに夢の中。対象は『20歳未満』だったのでヴィータちゃんは平気なはずが、何故か眠ってしまっているのは……きっとヴィータちゃんが子供であるって言う証拠だね。うん。
私はとりあえずサンタコスチュームのバリアジャケットを纏い、大人達の静か(?)な宴会から抜け出した。
行動の結果については黙秘することにするが、翌日の朝に枕元に並んだプレゼントを見付けてはしゃいだり悔しがったり顔を真っ青にしたり感心したりする子供達がいたことで理解してほしい。
それでは皆様、メリークリスマス!今回は私、喫茶『翠屋』二代目店主の織斑なのはがお送りしました。
ちなみに、はしゃいだり悔しがったり顔を真っ青にしたり感心したりしていた理由。
↓
はしゃいでいた子供達は、純粋にプレゼントを喜んでいた。
悔しがっていた子供達は、サンタクロースを直接見るor戦うことができずに悔しがっていた。
感心していた子供達は、自分が気配に気付けなかったことや自分の欲しい物をピンポイントに選んできたこと、あるいはプレゼントの趣味のよさに感心していた。
顔を真っ青にしていた子供達は、ナンバーズから聞いた話で『サンタクロースは眠っている子供の頭に指を突っ込んで脳味噌と自分の神経を直列させて欲しい物の情報を読み取ってからそれに合ったプレゼントを置いていくから』という物があったから。※ちなみに、その話をした本人はなのシュテレヴィディアの究極生物四人衆にO♪SHI☆O†KIされました。