side 織斑 なのは(異世界)
『龍』という組織から根刮ぎ資金を奪……『借り』て、私は海鳴にまで戻ってきた。所要時間は大体三十分くらいかな? 途中で分身を直接送り込んでから変装させたお陰で随分早く終わったし。
戻ってきた私は魔力のインフレを起こさないようにこの世界で使うための魔力を集めるため、魔力の塊である闇の欠片を狩ることにした。
ヴィータちゃんは魔力はそんなに多くなくても体を構成しているもの全てが魔力となると、十分すぎるくらいに魔力がたまる。物質化するほどの高密度な魔力だし、当然と言えば当然だけど。
……でも、流石にこれは予想外だったかなぁ……。
相手が闇の欠片なのは狙い通りだから大丈夫。相手がさくらさんだって言う詰みゲーでもない。でも、これはちょっと予想外だった。
「あら、よそ見なんてしてて大丈夫なのかしら? 闇の書の関係者さん?」
「あっはっは、お肌の曲がり角を過ぎて暫くしてるような人相手に本気なんて出せないからね。真面目にやったら勝負になるわけないでしょ?」
……うん、相手がリンディ提督なんだ。しかも前に見せてもらった魔力炉からのバックアップを受けている最強モードで。綺麗な翡翠の翼が似合ってるけど、その年で妖精って呼び名は無いと思うなぁ……?
今は適当に挑発してるけど、その度に翼が大きくなっていってるし。今飲んだらどのくらい魔力が貯まるかなぁ?
……ああそうだ。わからなかったらやってみればいい。時間は私の味方だから湯水のように使えるし、どうせなら限界まで絞り出させてから食べるべきだよね。
『あの人の仇……!』とか言いたそうな憎しみに満ち満ちた目で私を見てるし、明らかに使おうとしてる魔法が殺傷設定だから、こっちから殺しちゃっても問題無いね。あるわけがない。あっても知らない。
さて、それじゃあ始めようか。さっさと封殺して次に行こう。
私は魔力を集束し続けているレイジングハートを片手でぶら下げるように持ち、もう片方の手をだらんと下に。まるで初めからやる気が欠片もないように見えるかもしれないけど、力を込めてばかりだと速くは動けない。ほどよい緊張と弛緩、それが大切なんだよね。
……殆どディアーチェちゃんが言ってた言葉のパクリだけどさ。
でも、実際そうだから私もそうしている。脱力状態から緊張状態へ。この二つの状態の幅が大きければ大きいほど威力は出るものだからね。経験上。
だからディアーチェちゃんはあんなに虚弱貧弱設定なのに、明らかに力が必要な技をすることができるんだ。
……うん、まさかバスターバロンに発勁一発で片足吹き飛ばす威力が出せるとは思ってなかった。さくらさんの設定上、身体能力的には一番弱い筈なのにね。
そしてそれは威力ではなく速度においても言えること。空中に張ったシールドを蹴って加速し、同時に飛行魔法でさらに加速。フラッシュムーブとフラッシュムーブメントを発動して背後に回り込み、空中に仕掛けられていた設置型のバインドは魔力を奪って無力化する。ここまでの事をするのに0.1秒もかからない。かかってたらシュテルちゃんの『星群』を避けることなんてできないからね。
そしてそのまま闇の欠片が再生しているリンディ提督の背中の左側、肩甲骨と脊柱の中間部分から肋骨の隙間をめがけて二本抜手を打ち込む。
魔力を纏わせて強化した指は簡単にバリアジャケットを貫き、そして私の指は心臓を貫いた。
背中から生えていた翼は私に何の影響を与えることもなく消え去り、リンディ提督の体から力が抜けていく。
魔法を使おうとしても私とレイジングハートが本気で魔力を奪い、集束している中で、しかも体内に指が潜り込んでいると言う最悪に近い状態で魔法が使えるわけもなく。リンディ提督の形をしていた欠片は塵と消え、レイジングハートの魔力取り込み口に消えていった。
……真正面から普通に戦ったら疲れるからね。生身でアースラを覆い尽くせるサイズのディストーションフィールドを張れるような人と正面からぶつかり合ってすぐに終われると思うほど自惚れてないし。
「まあ、今回は沢山魔力が手に入ったし、次に行こうか」
『了解。集束を続けます。過多となった分は結晶にして貯めておきますので、必要とあらば命じてください』
「完璧《パーフェクト》、流石はレイジングハートだね」
『感謝の極み』
私はこうして唐突にネタに走っても拾ってくれる愛機と共に、夜明けにはまだ遠い夜空を駆けた。
……ああ、ヴィヴィオとアインハルトちゃんが戦ってるね。相手は……ユーノ君とこっちの世界の私かぁ。なるほどなるほど、頑張ってね? 私はこうやって、適当に応援してるからさ。
流石の私でも異世界の自分のことに口を出そうとは思わないから、自分達の力で頑張って切り抜けてね?
……じゃないと、ヴィヴィオ達が知ってる未来から外れちゃうかもしれないし……ね?
……まあ、異世界の住人(多分)である私にはあんまり関係の無い話なんだけど、わざわざこの世界を壊そうとする理由もないし、とりあえずこっちの世界がおかしくならない程度に楽しみながら行動していこうかな。
その為には基本的にあんまりやり過ぎないことと、それとあんまり情報を与えないようにすることを徹底しないと駄目なわけだね。
……再起不能にするのはやりすぎだろうけど、相手の実力がわからないと加減のしようが無くって困るんだよね。どうしようかなぁ……。