俺達の知ってる『なのはさん』じゃねぇ   作:乾操

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事前に言っておくと、レジアス中将死亡の件は元アニメとまっったく同じな上話にあまり関係ないのでカットさせていただきます。
レジアスファンの皆様、どうか御容赦ください。


17.聖王のゆりかご

本局から機動六課に巡航艦『アースラ』が、この艦を旗艦として活動するようとの通達と共にぶっ壊れた隊舎へやって来たのと、スカリエッティが電波をジャックして盛大な犯行声明を出したのは同日のことであった。

アースラに司令部機能を移し終えようとしていたスタッフ達は辺りの画面という画面に映し出されるスカリエッティの顔を否応なしに拝まなければならなくなった。

 

『……市民の皆様の中には、私が管理局の腐敗を糾弾する革命の戦士だと讃える方もいるようですが、それは大きな誤解というもので、私はただ純粋な欲望に従い、破壊工作を行ったに過ぎません……』

「スカリエッティってさ、正直者なのかな?」

 

アースラの食堂でスバルはコーヒーを啜りながら向かいに座るティアナにふと思ったことを訊いてみた。画面の中ではお立ち台の上に立ったスカリエッティが気持ち良さげに演説(と呼べるかは疑問だか)をうっている。

 

「そうでしょうね。だからと言って好きになれるわけでも無いけど」

「ごもっとも……それにしても、あいつ、何する気なんだろ」

「さぁ。でも、こんな老朽艦を引っ張り出してくるほどでしょ? 曲がりなりにも艦艇が必要だったってことよ」

 

巡航艦アースラは解体が決定された艦である。管理局はこの巨大な粗大ゴミに心ばかりの整備を施して隊舎を失った六課にプレゼントしてくれたのだ。

確かに、このアースラは数々の戦いを渡り歩いた歴戦の艦である。はやてやフェイト、そして、なのはといった人物とも因縁深い。だからと言って、老朽艦を送り付けてくることも無いのじゃないかとティアナは思ったのだ。

 

「まぁ、多分向こうも時間稼ぎしか考えてないだろうけど……」

「そう言わないで。前向きに、ティア!」

 

明るい(装っているのかも知れないが)スバルの笑顔はティアナにとって丁度良い清涼剤のようなものであった。ちょっと前まで少しうざがっていたのに、今では逆である。

「そう言えば、スバル。あんた、いつの間にコーヒー飲めるようになったの?」

「えっ?」

 

スバルの前に置かれたコーヒーからは芳醇な香りがふんわりと漂っていた。

 

 

艦橋(ブリッジ)ではその場にいた全員がモニターに釘付けになっていた。本来なら出航のための最終テストを行うところなのだが、それどころではない。

 

『私は反抗期を迎えたと言っていいだろう。産みの親である局へ、大いに反抗するのだ』

「えらく遅い反抗期やなぁ」

「部隊長、冗談を言ってる場合では……」

「分かっとるよグリフィス君。どうや、アースラの塩梅は?」

 

グリフィスは相変わらずの仏頂面で手元の端末を操作すると上司の質問に淡々と答えた。

 

「出航までは重力下航行機関のテストも含めて一時間半といったところです。本局の要求には間に合いそうですね」

「そっか、なら良かった」

 

笑顔で答えると彼女は再び気に入らない顔の映るモニターに視線を戻した。見たくはないものだったが、今後の作戦計画に必要な情報を漏らしたりするかもしれないのだ。

 

『……管理局は我々にとっておそるるに足りません。何故ならば、我々こそが、局が望み、同時に恐れていた過去の遺物を手にしているからです。さぁ、ご覧ください』

 

彼がそう言うと、画面は突然パッと切り替わり、静かな森……首都郊外だろうか……の風景を映し出した。綺麗な秋晴れの空を鰯雲が彩っている。

その風景が数秒続いた後、どういうわけか画面が突然小刻みに震え始めた。その震動はみるみる大きくなり、森の木々からは鳥達が一斉に羽ばたき始めた。

 

「おい、なんだあれ……」

 

その声はブリッジにいた誰かが発した声だったが、はやてやグリフィスを含め、誰が言ったかなんてどうでもいいことだった。

画面の中の豊かな森。その中央部分がみるみる盛り上がっていき、一つの山を形成し始めていた。やがて、盛り上がった森はボロボロと崩れ始め、その中からあからさまな人工物が姿を現し始めた。

 

『かつての聖王が自らの肉体をキーとして起動させた超兵器、巨大戦艦『聖王のゆりかご』……』

ゆりかごは土砂や木々を全く時の流れを感じさせない滑らかなボディの上を滑らせて下に落としながら徐々に浮上し始めた。その姿は美しく、神々しく、非常に恐ろしい。

 

『我々はこれを持って反抗期を開始する』

 

最後、画面に再びスカリエッティの顔が映ってそう言うとブツンと映像は途切れ、モニターは真っ暗になった。

それから一秒とせず、艦橋に慌ただしい命令の通信やらがわんさか流れ込んできた。

 

「部隊長、地上本部防空司令部より入電! 今時をもってアースラを対ゆりかご作戦の地上司令部とするとのことです」

「本局統合作戦本部より入電、今時をもってアースラはゆりかごの浮上遅延作戦に徹するようにとのことです」

 

早速微妙に違った命令をしてくる地上本部と本部にはやては呆れながら胸元のネクタイを少し弛めた。まったく、相変わらず意思の疎通がなっていないというかなんというか……。

彼女は顔をパンパンと叩くと近くのデスクに置いてあった水を一息に飲み干し、指示を出し始めた。

 

「機関テストは無しや。準備が出来次第作戦行動に入る! 武装チェックと、フォワードは一種戦闘配置、あと、グリフィス君は無限書庫に連絡取ってな。ほらほら、行動開始!」

「了解!」

 

艦橋がにわかに忙しくなり、その空気は瞬く間に全艦に伝わった。

最後の忙しさである。

 

 

「なんだか、来るべき物が来たって感じね」

 

フォワードの四人は自身のデバイスを身に付けて格納庫へと向かっていた。各々の顔には始めて機動六課に来たときとは別の緊張が走っている。

 

「ところでさ、『ゆりかご』ってなんなんだろ」

「私、何かで読んだ事があります。何でも、大きな戦争をその船一つで終わらせたとか……」

 

スバルの疑問に答えるキャロの説明は非常に曖昧なものであったが、ゆりかごという船がどれ程凄い存在なのかは十分理解できた。

 

「でも、所詮はロートルでしょ? アースラでどうにか出来るんじゃないの?」

「分かりませんよ。……それもロストロギアなんでしょ?」

「わ、私に訊かないでよ……」

 

スカリエッティがあれ程までに自信を持っているのだから、きっと凄いものなのだろうが、フォワード達にはやはりよく分からなかった。

 

対して、若くして無限書庫の司書長であり考古学の重鎮であるユーノ・スクライアはゆりかごの力を十分に理解していた。

 

『聖王のゆりかごが実在していたなんてね……ゆりかごは昔話で知ってる人もいるかもしれないけど、その名の通り、聖王オリヴィエの為の船だ』

 

はやてたちの見る画面の向こうのユーノは何やらコンピュータをカタカタ叩きながら説明してくれた。後ろの騒がしさを見る限り、無限書庫でも何かしらの仕事があるのだろう。

 

『オリヴィエは長きに渡った戦争を終わらせるため、圧倒的な力を持つ戦艦を建造したんだ。平和を求めるための圧倒的な兵器というのは何とも皮肉だけど、そういう時代だったんだね』

 

彼曰く、ゆりかごは現代の技術力では到底再現が不可能な性能を誇るらしい。かなりアバウトではあるが、超火力、超防御力、超高速など万能兵器の体をなしていたという。

 

「しかし、司書長。見る限りゆりかごにはそれ程の驚異は感じませんが……」

 

グリフィスが率直な疑問を言うとユーノは笑いながら『まぁ、最後まで聞いて』と言った。

 

『ゆりかごのエネルギー源はレリックとも言われているけど、完全な力を発揮するには更に膨大な魔力が必要なんだ。だからゆりかごは魔力の根元である月へ向かおうとしていると考えられる』

「月?」

『正確には、月とミッドチルダの間にある静止軌道だね』

 

古くから月の存在する各世界では魔法文明の有無に関係なく月についての神話やお伽噺が無数に存在していた。月の神秘的であり無機質で冷たい光は人々に恐れや憧れを抱かせてきた。月は、魔法の根源なのだ。

 

「なるほど、そういう訳なら……本局の艦隊が到着するまでどれくらいなん?」

『それは、はやての方が知ってるんじゃ?』

「それもそうやな。グリフィス君、分かる?」

「報告によれば、五時間後です」

 

それを聞くとはやては苦虫を噛み潰したような顔になった。先程試算してみたところ、ゆりかごが静止軌道に到達するまで四時間半。大気圏を離脱するまで四時間、アースラが発進して戦闘域に入るまで一時間。つまり、放っておいてどうにかなる敵ではないのだ。

 

「その為の時間稼ぎか……」

「とにかく、動力部を潰し、速力を落とす他無さそうです」

 

グリフィスの仏頂面に、冷や汗のようなものが小さく光った。

 

 

「とにかく、時間がない」とフォワード達に語気を強めて言ったのはスターズ分隊副隊長のヴィータである。

機動六課の前線部隊はスカリエッティ本拠地の捜査に向かっているのと寝ているのを抜いた全員が後部格納庫に集められていた。フォワード四人は一列にならび、ヴィータの方を静かに見据えている。

 

「本局からの艦隊が来て、魔導砲アルカンシェルでゆりかごを吹き飛ばすのは五時間後。だけど、ゆりかごがこのミッドチルダを吹き飛ばすのは四時間半後だ」

 

彼女が直接言わなくとも危機的状況にあることは十二分に分かった。背筋をブルッとしたものが走るのを感じる。

 

「お前達はもうヒヨッコじゃない。一人前ではないかもしれないけど、半人前以上はあると思う。自分の力を信じて、戦ってこい……じゃぁ、各人の配置を説明するぞ!」

 

ヴィータはホログラムのモニターを出現させてクラナガンの地図、敵の様子、そしてフォワードの任務を説明し始めた。

 

ティアナはシャマルと共に潜んでいる指揮官の確保。

エリオとキャロはガジェットを出現させる召喚師の確保。

そして、スバルはヴィータ率いる突入隊に加わり、ゆりかご内部に突入する。

 

ゆりかご内部には『AMF』と呼ばれるフィールドが展開されていると考えられる。

AMFとは、魔力結合や効果を低下させるある種の魔法で、これがあるとそこらの魔導師は行動できなくなってしまう。AMFが効かない戦闘機人をチームに加えるのは当然の話である。

 

「もうすぐ作戦が始まる。与えられた義務を果たすように!……怪我すんなよ」

 

ヴィータは笑いながら付け加えた。それにフォワード達は敬礼で答える。

その姿に、ヒヨッコのそれはない。

 

 

……戦闘が始まったのは、アースラが発進し すぐのことである。散発的だった火線が活発になり、地上からのテレビ映像が全世界に向けて流されていた。

それは高町なのはの眠る病室でも同じことである。

 

『……これは映画ではありません、実際の映像です! 管理局のお膝元であるこのミッドチルダ首都クラナガンでこのような戦闘が繰り広げられているのです! ……』

 

リポーターは興奮した様子でマイクを両手で握りながら戦いの趨勢を実況していた。

教会の中もにわかに騒がしくなり、本格的に嵐がやって来たことが分かった。

 

なのはがパッと目覚めたのはそんな時であった。

 

彼女は目覚めるやいなや布団を飛び降り、テレビに映る華やかな光景を見た途端にウズウズし始めた。戦いの臭いを、そして自分をママと呼び慕う少女の危機を敏感に感じ取ったのだ。

……酷く腹が減っていた。

彼女は病室の扉を蹴破って外に飛び出すと驚く看護師達を撥ね飛ばしながら食堂に向かって全力疾走し始めた。戦いを感じ取った彼女の身体がとにかく肉体のエネルギー源を求めているのだ。

時刻はお昼を過ぎた頃で、昼食時の忙しさから解放された調理担当の修道士(シスター)達はお茶を飲みながらクラナガンの戦いをテレビで神妙な顔つきをしながら見ていた。

なのははそんな食堂に回転しながら突入し、お茶を吹き出して驚く修道士達の視線を無視して厨房に突撃した。

厨房にはハムやチーズ、パンなどといった食材がまとめられたり吊るされたりしており、なのははそれらをひっ掴むとまるで海賊のように口の中へ放り込み始めた。

 

「ちょっと! 困りますよ!?」

「もがっもががっ

 

修道士の制止に聞く耳も持たず、彼女は大きなハムの塊を貪った。

 

「もう、警察呼びますよ!」

「いや、モグモグ、私が警察だし」

「は!?」

 

何の事か分からないといった様子の修道士をやはり無視したなのはは、手近にあったロールパンを六つを二回に分けて口に詰め込み、その隣にあったチーズの塊を押し込むと、棚から藁で包まれた一ガロンのワインボトルを取りだし、まるで浴びるように口の中へ注ぎ込んだ。

フードファイターだってもっと落ち着いて食べるところである。

 

「ふーっ!」

 

まりのた食べっぷりに唖然とする修道士を一瞥したなのはは口から溢れたワインを拭き取ると手を合わせて「ごちそーさま!」と日本式の御辞儀をした。

 

「お、お粗末さま……」

「さて! 行くかな! ……あっ、代金は機動六課でツケといて。じゃっ!」

 

まるでまた来るぜ、とでも言いそうな調子でそう言うと彼女はあろうことかその場でバリアジャケットを展開し、あまりの事に悲鳴をあげる修道士を相変わらず無視して、

 

「ひゃっほう!」

 

と叫ぶと壁を突き破って大空へと駆け上がっていった。

彼女が壁を修理しに来ることはなかった。

 

 

つづく




次回か次次回で完結でさぁ。

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