俺達の知ってる『なのはさん』じゃねぇ   作:乾操

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まさかの最終回(嘘)。

誤字、脱字、などなあったら教えてください!


14.ブレイク・ブロークン

『……公開意見陳述会開催の今日、局の主要議員らが続々と地上本部へ到着しています』

『今陳述会でば、地上本部長のレジアス・ゲイズ中将の推し進める質量兵器一部解放と地上防衛機構の一環である対空砲アインへリアル増設が論点になると考えられ……』

『過激派反対団体やタカ派によるテロ活動も考えられ、警備は厳重に……』

『……それについて、本局代表部はコメントを差し控えています』

 

公開意見陳述会は様々な主要世界で四年に一度開催される大規模な会議である。特に本局のお膝元とも言えるミッドチルダでの陳述会は次元世界の行く末を決めると言っても過言でないほどに重大なものである。故に、テロリズムの標的となりやすい。

 

「しかし、私達はロストロギア対策部隊でしょう。こういうのは、警備部の仕事ではないのですか?」

「まぁ、ティアナの言うことはもっともやな。せやけど、如何せん、地上は人手不足なんや」

 

機動六課も陳述会の警備に駆り出され、隊員達は移動中のヘリの中ではやてからの説明を受けた。

中は隊長たちが、外は副隊長以下フォワード陣が警備を担当するという割り振りである。

 

「はぁ、楽しみ……暴動とかテロとか、起こってくれないかしら」

「高町一尉!」

 

はやてがなのはを階級付きで呼ぶ場合は二つ。一つは公式の場や指令伝達の時。そしてもう一つは、怒っている時である。

はやてから鋭い眼光を向けられたなのははヘラヘラ笑いながら隣に座るスバルの頭を撫でた。撫でられながら、スバルはふとヴィヴィオのことを思い出し、なのはに質問した。

 

「なのはさんが出発するときヴィヴィオは何か言ってましたか?」

「う~ん? そりゃぁ、『ママ、お仕事ガンバってね!』だよ」

「へぇ、ママですか」

「そうだよ」

 

なのはは嬉しそうに答える。その顔にはいつもの暴力的な笑顔ではなく、また違う次元の笑顔が浮かんでいた。まるで、可愛い娘を自慢するかのような……。彼女は、誇らしげに話を進める。

「本当、楽しみだなー」

「何がです?」

「ヴィヴィオの将来」

 

本当に母親のような口振りである。そのようななのはの姿はスバルにとって嬉しくも、悲しくもあった。

 

「将来……どうなってますかね」

「期待大だよ。きっととんでもなく強い魔導師になる。そして、私はそれに向かって思う存分魔法を……」

 

前言撤回、やはりなのはは高町なのはだった。

彼女は「ウヘヘ」という如何にも悪そうな笑い声をあげながら手の指をワキワキと動かした。

母親となっても歪みのないなのはに、スバルは小さな笑みを浮かべた。

 

 

「は? 聞いてねぇし」

 

地上本部に着くや、なのはは先程までの上機嫌と打って変わって不機嫌な歪んだ顔をはやての方に向けた。威圧感満載のその顔は子供が見たら泣き出しそうである。

 

「聞いてなくとも、地上本部へはデバイスは持ち込み禁止! 当然やろ」

「デバイスがなければ砲撃が出来ないんですがそれは?」

「なんや、地上本部で何する気や!?」

 

なのはは今日は様々な場面で日頃のストレス(ゲームを進められない、SLBを撃つ展開がない、などが原因)を発散できると思っていたのだが、大きく期待外れだったようだ。彼女の顔は子供が拗ねたような様子で、傍から見るととても関わりたくはない。

 

「第一さ、本部内に暴漢が出たらどうやって取り押さえんの?」

「そりゃ、訓練所で習った逮捕術とか……」

「何? はやてちゃんふざけてんの? マジ期待外れなんですけど?」

 

はやては久々に目からビームが出そうである。二人の異様な空気に圧倒され、フォワード達どころか他の局員も後退りしたり見て見ぬフリをしている。

流石に不味いと思ったのか、二人の間にヒロイン(仲介)のフェイトが割って入り、無理矢理話の軌道を変えようとした。

 

「き、期待外れと言えばさぁ! なのは、覚えてる? ビッグフット探し!」

「ん? なんやソレ?」

「あっ、はやては知らないことだね。まだ会う前の話だからさ」

 

 

フェイト、思いでのビッグフット探しのあらましはこうだ。

彼女がなのは達の学校に編入してすぐの頃、友人のアリサ・バニングスが近所でビッグフットを見たと言い始めた。そして彼女は、

 

「ビッグフットを見つけて、センセーショナルを巻き起こすのよ!」

 

と宣言し、フェイトとなのは、更にいつものメンバー(所謂、いつメン)の月村すずかを引き連れビッグフットを探すことになった。

だが、その結末は実に呆気なく、何の事はない、ビッグフットの正体は近所の毛深いオジサンだったのだ。

 

 

「て、いう……」

「覚えてないや」

「えっ、じ、じゃぁ、すずかが男の子に告白されちゃったー! って話とか……」

「覚えてねえっす」

 

なのはの回答にフェイトは顔を強ばらせて冷や汗を滝のように流しながら「あは、あはは……」と気まずい笑い声をあげた。

当のなのははしばらく考えるような仕草を見せた後、これ見よがしに溜め息を吐いて、「まー、いいし」とそっぽを向いた。

 

「別にいいし。何か起きればデバイスは使うことになるんだし。別にいーし」

「何や、嫌みっぽいやんか」

「別にぃ。トイレしてくる」

 

そう言うと彼女は怒るはやてと汗を流すフェイトに背を向けて頭の後ろで手を組んだままトイレに歩いていった。

その道中、彼女は「テロの一つや二つ起きねーかなー!」と喚きまくり、周りの顰蹙を買っていたが、彼女自身は気にも止めず、その他のメンバーが無意味に恥をかくのであった。

 

 

 

スバルとティアナ、エリオとキャロはそれぞれなのは、はやてのデバイスとフェイトのデバイスを預かり各々の配置場所へそそくさと向かった。はやては相変わらずプリプリしていたし、その場にいられるほど図太くは無いのだ。

 

「八神部隊長ってやっぱり怖いね」

「何を今さら……でもなのはさんってぶれないわね」

 

スバルとティアナは二人ならんで持ち場の巡回をしていた。外周の一部と、そこに面した内部である。

外の植え込みには季節の花が咲き、夏が終わり秋が本格的に近付いていることを報せてくれていた。

 

「良い天気だねー。秋晴れってヤツかな?」

「それにはまだ早いんじゃない?」

 

陽気は暖かく、風は涼しい。過ごしやすい季節になったものである。

二人はのんびりと裏手の遊歩道を歩き回っていた。すると、ついつい辺りに気を配るのを忘れ、スバルは別の局員とのすれ違い様、身体をぶつけてしまった。相手の局員は小柄の女性……スバル達より歳上にも年下にも見え、目には眼帯をしていた。

 

「す、すみません、大丈夫ですか?」

「いや、こちらこそ、余所見をしていた」

 

少女はジャケットの埃を払うと襟元を整えた。そこには準尉の階級章が光っており、ティアナは不動の姿勢を取った。スバルもそれに気づいて慌てて気を付けをする。

 

「よしてくれ、そういうのは苦手でな……ん?」

 

準尉の少女は小さく笑うと一瞬何かに気付いたような顔をしたが、すぐに何事もなかったのように戻して、話題を変えてきた。

 

「地上本部は、どう思う」

「地上本部ですか? 絶対的な防御力を持ちます。物理も、魔法も、システムも」

「そうか」

 

ティアナの答えに彼女は満足そうな顔をすると、天にそびえる本部ビルを見上げた。

 

「だが、外は丈夫でも中からは脆い。卵のようなものだ」

「はぁ」

「しかも、ミッドチルダの様々な情報もここに集約されている。中央集権的な組織は、一点を突かれると簡単に崩れてしまう」

「どういう、意味ですか?」

 

スバルが首をかしげると少女は背丈によらず大人っぽい微笑みを浮かべ、「まぁ、気にするな」と手を振った。

 

「怪しい人間は捕らえろということだ。さ、仕事に戻れ」

「了解」

 

敬礼する二人の脇を通って少女は向こうへ歩いていった。

二人はその背中を見送ると再び歩き出した。

すると、スピーカーから何やらベルのような音が流れだし、二人はデバイスで時刻を確認した。

 

「開会だ」

 

ティアナの呟きには微かな緊張の音が含まれていた……。

 

 

『ここに、公開意見陳述会の、開会を、宣言します』

 

喋るのがやっとといった調子の老人がモニターの中で開会宣言を読み上げていた。その様子をスカリエッティは椅子に座って面白そうに眺めている。公開意見陳述会はその名の示す通り原則一般公開される。彼はそのテレビ放送を至って合法的な手段で視聴しているのだ。

 

「ああいった老人は、保守的でいけない。その癖、自分の立場が危うくなると何の考えなしに科学の領域へ入り込んでくる」

「でも、ドクターのスポンサーはそのご老人方です」

「ウーノ、そう意地悪を言わないでくれ」

 

彼はウーノの長くて柔らかい銀髪を弄ぶとやおら立ち上がってゆったりした歩調で近くのコンソールに張り付いていたクアットロのもとに近づいた。

 

「局の防御は堅いのだろう?」

「はい。でも、私にかかれば、プチッ! と殺っちゃいますよ?」

「頼もしいじゃないか」

 

彼はクアットロの頭を撫でると掌をひとつ叩き「かくして、幕は上がる、だ」と、声をあげた。

 

「かつての戦争では、首都機能を奪うのに様々な施設を占拠する必要があった。だが、今は違う。本部を叩けばすべて事足りるのだ」

「中央集権的な組織故ですね」

「そうだ、ウーノ……さぁ、娘たち! 時間だぞ!」

 

彼がそう宣言するとクアットロは後頭部からコードを伸ばし、コンピュータに接続して、まるでピアノを奏でるかのようにキーボードを叩き始めた。

彼女がコンピュータから地上本部へ送っているのはウイルスなどのような生易しい物ではなく、彼女自身である。

完全な自由意思を持った何かがシステムに侵入したとなれば、本部は甚大なパニック状態になるだろう。

 

 

果たして、パニックは起きた。

地上本部の中央司令部には十数人からなる対サイバーテロ部隊も存在していた。しかしそれでも怒濤の勢いで防壁を突破するウイルス(らしきもの)は防げず、侵入から僅か五十二秒でメインシステムが書き換えられてしまったのだ。

そのパニックは館内の異常事態という形で全館に伝播し、陳述会の会場も騒然となった。

 

「何や、何があったんや?」

 

非常灯が灯った十五階のロビーにいたはやては辺りを行ったり来たりしている他の局員に事情を訊こうとした。が、全員が状況を理解できておらず、警備部の武装局員も隊伍を組ながら右往左往していた。

 

「はやて!」

「あぁ、フェイトちゃん!……何や、なんでビショビショの粉まみれなんや」

「スプリンクラーや消火装置が誤作動して……それより、これは?」

「テロやなぁ……防げなかったわけやな……」

 

後半の言葉は小さくて聞き取れなくてフェイトは聞き返そうと思ったが、はやては直ぐ様指示を出してきたので訊きそびれた。

 

「とにかく、要人達を誘導せにゃ……ほら」

 

はやての指差す方を見ると、議員の奥様達であろうか、ロビーの奥でヒステリックに悲鳴をあげ続けている。二人は駆け寄ってヒスを静めようと努めた。

 

「皆さん、落ち着いてください! 我々が皆さんを脱出させますから!」

 

しかし、奥様達は腹が立つほど聞く耳を持たない。

 

「もうダメよ! ダメよー!」

「私達もう死ぬんだわっ!」

「アナター! ウオーン!」

「イエーイ! 待ちに待ったテロリズムだぜぇぇ!」

「お前は何しとんねん!」

 

いつの間にやらヒステリッカーズに混じって歓喜の雄叫びをあげていたなのはをはやては矢張ハリセンで思いっきり叩いた。景気の良い音がフロアに響き渡る。

 

「いったーい……もう! なにすんの!」

「何しとんねん! 見当たらんと思ったら!」

「あの人たちも喜んでるのかと思ったんだよぅ。あっ、フェイトちゃんビチョビチョの粉まみれ。エロい!」

「どこがエロいのかは分からないけど、なのはは何ともない?」

 

フェイトの心配そうな声に対してなのはは「オウイエーイ!」と馬鹿みたいな返答をした。二人はそれに呆れながら安堵し、どうするかと素早く話し合った。

三人のデバイスは遥か下にあるのだ。

 

「エレベーターは停まってるよ?」

「せやけど、非常階段だって大変なことになっとりそうやな」

「ねぇねぇ二人とも」

 

なのはは二人に声を掛けると、指を振りながら「私に良い考えがある」と大変不安になる台詞を宣った。

 

「なんやねん、良い考えって」

「一気に下まで降りる方法」

「……あっ、あれか!」

 

フェイトは手を打って納得した。

あれ、というのは、魔力を使ったラペリングのようなものである。掌を魔力でコーティングして、エレベーターのワイヤーを伝って降りていくのだ。

 

「なるほど、訓練所で習ったあれやな?」

「まさか役に立つ日が来るなんてね」

「は? 二人とも何言ってんの?」

 

納得する二人になのはは心底理解できないといった様子で首をかしげた。

 

「何って……ワイヤーを伝って降りるんやろ?」

「そんな回りくどいことしないよ」

「えっ、じゃぁ、どうやって……」

 

フェイトが訊こうとすると、なのはは「まぁ、やればわかるよ」と言って二人の細い身体を脇に抱えあげた。予想以上に力持ちななのはに二人は驚嘆の声をあげる。

だが、それはすぐに悲鳴に変わった。

 

「な、なのは……そっちは……」

「窓……なんやけど……」

「ムフフ」

 

彼女は意味深な笑い声をあげると身体を沈み込ませ明らかに加速の姿勢を取った。脇の二人は半泣きで説得し始める。

 

「なのはちゃん! ここ、十五階! 分かるよな!?」

「なのは、正気になって! も、もしかして酔ってる!?」

「何言ってんの、素面だよ。……よーし、行くぞー」

 

二人は「逝くぞー」の間違いではないのか、と瞬間的にとても下らないことを思い付いたが、それどころではなかった。

 

「はっしーん!」

 

なのはは勢い良く窓に向かって駆け出した。

本部ビルの窓はすべて強化ガラスであり、そう簡単には割れない。

しかし、今窓に向かって突撃しているのはあの『高町なのは』である。

彼女は頭のてっぺんと首に魔力を集中させた。そして、そのまま速度を落とすことなく窓に突っ込み、強化ガラスを簡単に粉砕すると地上数十メートルの空中に踊り出た。

 

「………!」

 

はやてとフェイトは吹き付ける風と否応なく襲いかかる重力に言葉を奪われた。背後からはヒステリッカーズの悲鳴が聞こえ、すぐに遠ざかっていった。

 

「イィィィヤッホォォォォイ!」

 

その日、クラナガンの秋空には嵐の予感と、馬鹿みたいな歓声が充満した。

 

 

 

つづく




スカイダイビングできる人ってすごいと思う。

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