幻想明星伝(幻水Ⅱ×TOV)   作:桃てん

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最近虫が多くなりましたね。
カロル先生と虫嫌い同盟を組みたい私が一番苦手な
虫はトンボです。
今回もお目通しありがとうございます!
駄文ですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
少しだけユーり、先生サイド(´・ω・`)


運命の火蓋

 

「リタ・モルディオを逃がした、ですって?」

 

高い位置で二つに結んだ色素の薄い水色の髪がゆらゆら揺れる。身長はそう高くもなく、体格は小柄な少女が、しかし態度は尊大に大きな椅子に足を組んで座り目の前で跪いて報告をする兵士に鋭く問いを投げ掛ける。

そうして深くため息をつくと椅子から立ち上がり、資料を大量に重ねた机へと足を運ぶ。

 

「ルカ様も追わないなんて、気紛れにも程がありますわ。もうテルカ・リュミレースに人材を求めている時間はないですわね…今ある頭脳で進めていくしか」

 

一枚の設計図を手に取る。形は仕上がってはいるものの、改良を加えながら大量に作成するとなれば自身と同じくらいの知識を持つ人材が欲しかったのだが、と少女は残念だと呟く。

しかしすぐにその表情を厳しいものにすると未だ跪いたままの兵士に命を下した。

 

「現段階の設計図での兵器の量産にすぐ取り掛かるよう研究者たちに伝えなさい。それと…リタ・モルディオの捜索もですわ。発見した場合は速やかにここへ連れてきなさい。おまけは不要、全て排除してから、モルディオのみ連れてくるんですのよ」

 

慌てて頭を深く下げた兵士は立ち上がり敬礼をした後駆け足に部屋を出ていった。静かになった室内で、設計図を片手に少女は再び椅子に腰を落ち着ける。その表情は先ほどの厳しさを含ませたものから、口許にはうっすら笑みを浮かべ、どこか優越感に浸っているかのようなものへと変わっていた。

 

「わたくしを捨てた帝国、テルカ・リュミレースという世界、…彼らに見えない場所ではあるけれど、ついにわたくしの研究の、理想の、素晴らしさを証明出来る時が来たのですわね…」

 

どこか恍惚としているかのようにも見える少女はふっと息を吐くと、また表情を厳しい研究者のそれへと変える。どこか気品の良さを漂わせてふわりと立ち上がると、他の研究者たちの集う部屋へと足を向けた。

 

 

 

××××

 

 

 

ハイランドの片隅にある静かな街、キャロ。その外れにある古びた道場へ、紙袋いっぱいに様々な野菜や果物を抱えたカロルがぱたぱたと駆けていく。そうして今にも外れてしまいそうな戸をバァンと開けると「ただいまー!」と元気に声をかけて中に入った。

 

「おう、カロル。ごくろーさん」

 

台所へ立ちぐつぐつと音をたてる鍋の様子を見ていたユーりが応える。美味しそうな匂いに惹かれ、買ってきた食材をそれぞれの保管場所にしまうと、カロルも鍋の傍へと寄ってきた。

 

「今日はユーりがご飯作ってくれてるんだね、良かった!やった…!」

 

どこか安堵したような表情を浮かべて喜ぶカロルに、しかしユーりは間髪いれず無表情で返す。

 

「オレじゃねぇよ。ナナミに鍋の様子見といてくれ、って頼まれたんだ」

 

途端、カロルの表情は凍りつき、ゆっくりとその場にへたり込む。そしてガバッとユーりの足へしがみつくと涙に震える声で必死に訴えかけた。

 

「ユーりお願いだよぉぉぉ!ユーりなら、味付けを常識的なものに変えることくらい朝飯前でしょ!?ボクもうあんな…あんな…ご飯食べて全身痙攣なんてしたくないよぉぉぉ!!」

 

悲痛なカロルの叫びにユーりはどうしたもんかね、と溜め息をついた。

 

この道場の家主、ナナミは天真爛漫、笑顔のよく似合う少女である。元はゲンカクという育ての親とリオウという血は繋がっていないらしい弟との三人暮らしだったらしいが、ゲンカクは他界し、リオウは今ハイランド軍のユニコーン隊という少年ばかりを集めた部隊に所属しており遠征中のため、しばらくナナミは一人暮らしなのだという。

ユーりとカロルはあの祠で光に包まれた後、次に目が覚めるとこの道場の裏手にある大木の下で倒れていた。その時、二人が目覚めるまで様子を看ていてくれたのがナナミだったのだ。流石に成人男性を担いでは歩けないと、その場で出来る限りの処置をしてくれた少女は、目を覚ました二人に行き場がないと知ると快く自身の住む道場へ来るようにと勧めてくれた。その言葉に甘え、ユーりとカロルは家事の手伝いをしながら街で日雇いの仕事を見つけてはそれをこなし路銀を稼ぎ、街の周辺を回って仲間たちの所在についての情報集めをするといった生活を早二週間程、繰り返していた。

ナナミには、ユーりたちがここへ来た経緯を話している。おそらく自分達は異世界の住人ということになるのだろうとも。少し驚いていたナナミだが、すぐに「異世界の人と友達になれて嬉しい」と笑顔を見せたのだ。そして、ユーりたちのために協力を惜しまないとも。どこの馬の骨ともわからない人間を全面的に信頼し、受け入れ、友と呼び、力を尽くそうとする。そんなナナミに、大したものだ、とユーりは感心していた。そして、二人のナナミに対する信頼も大きなものになっていったのだった。

 

そんなナナミの致命的な欠点が、料理である。彼女の調理風景を初めて目にした日、ユーりは親友であるフレンと味覚の似通った部分があるのだろうかと感じていたが、実際はその倍以上であった。

フレンはどちらかと言えば単に味覚が独特なため、いらない調味料を加え個性的な刺激を求める傾向にあるのみで、レシピを正確に用いれば素晴らしい料理を完成させられる。腕が悪いわけではないのだ。

しかしナナミにいたっては、腕は悪くないのだろうが、レシピを使用しても何故か失敗をしてしまう。また自由に作らせれば、味見をせず、これを入れれば美味しいかもしれないと、おおよそ食材として使用しないであろうものまでぶち込んでくることがある。そのため見た目から明らかに危ないものと、そうでない時の波が激しい。そして見た目が普通な時であろうと味の方はフレンよろしく凄まじいため、全くもって油断ならないのである。しかしナナミ自身の味覚は不可解で、手作りの料理も美味いと言って完食し、ユーりの作った普通の料理も美味いと言って完食する。フレンのように「もう少しパンチをきかせて」などと言ったふざけた注文が全く無いのだ。これは今まで相対したことのない部類の味音痴だと、ユーりもカロルも脳内で警報を鳴らしたものである。

 

そして現在。足に縋りつくカロルを見やり、ゆっくり鍋の中身に目をやるユーり。今回は、香り自体は良いものの見た目に関しては明らかに危ない部類のものだった。何の足だろうか、あまり見かけない生物の足がスープの中から突き出しており、加えて独特な模様のキノコが大きく刻まれて入っている。煮込み始めてから時間も経っているため、よくエキスが染み出しているだろう。味を整えるためには現在の味付けを知らねばならない。つまり味見をしなければならないのだが、ユーりにはその勇気がなかった。流石にこれをカロルに毒味させるのも可哀想である。しかしこのままでは今日の夕食はこれだ。今までユーりは、ナナミが料理当番の日だけは「仕事が長引いた」と嘘をついては散歩をして時間を潰していたのだった。しかしそれももう限界、ナナミが不審に思い始めている。彼女のいない間に作り替えてしまおうかとも思ったが、そうすれば気付いたナナミが激怒するだろうことは容易に想像がついた。

腕を組むユーり、考えに考えて出した結論は。

 

「これ入れときゃ何とかなんだろ」

 

そう言ってひとつ、アイテムを取りだし躊躇いなく鍋へとその中身全てをバシャッと乱雑に入れた。

カロルはそれを黙って見ていたが、アイテムが何なのか気付いた瞬間戸惑いの声をあげる。

 

「ライフボトル…えっ?ライフボトル?えっ?ユーり今ライフボトル鍋に入れたの?」

 

「これで食っても生き返る。万事解決だろ。オレやっぱ、外出てくるわ。鍋のこと頼むぜカロル先生」

 

「えっ、ちょっ!ユ…」

 

言うが早いか、ユーりはカロルの返答も聞かずスタスタと素早く開け放たれたままだった戸口へと向かい、外に出ようと足を踏み出す。

ユーりに見捨てられた、とカロルは勢いをつけて絶叫しようとそちらに目を向けたが、しかし一歩踏み出した状態で彼はそこから進もうとはしない。不審に思っていたのも束の間、その答えとしてよく通る少女の声が響いた。

 

「ユーり!お鍋見といてってお願いしたのにサボったらだめでしょ!それにまた外出?だめだからね!今日という今日は絶っっっ対にだめ!お姉ちゃん許さないんだから!!」

 

お姉ちゃん、と言ってはいるが実際ユーりの方がだいぶ年上である。

戸口の先で待ち構えていたのは、ナナミであった。腰に手を当て目を光らせる姿は、年相応可愛らしい少女のそれではあるものの、どこか背筋を凍らせるほどの気を滲ませてもいた。

 

結局ユーりはその日外に出ることは叶わず、ナナミの強烈な手料理をカロルと一緒に食し、ライフボトルの効果で戦闘不能は免れたものの原因不明な手足の痺れと一晩中格闘することとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

闇に上がる火の手。虚しくも転がる少年たちの身体。そのどれもがすでに冷たく微動だにしない、しかし先程まで笑い合っていたユニコーン隊の友たちで。

休戦協定を破った都市同盟が攻めてきた、そう言った隊長の言葉を信じていたがしかしそれは部下である自分達を欺くための嘘だった。

真実は、血に濡れた剣を握る自国の兵士たち、そして不気味な笑みを浮かべ友たちの屍を見下ろすハイランドの皇子の姿にあった。

国が僕らを裏切った。

 

「もし僕らが生き延びて、でも離ればなれになってしまったら…。その時は、ここに戻ってくることにしよう。そして…ここで再会しよう。約束だ、リオウ」

 

亜麻色の長髪をひとつに結わえ、風に揺らした少年が腰から短剣を抜き近くの岩壁に傷をつける。

それをじっと見ていた、リオウと呼ばれた頭に金の輪をはめた少年が小さく頷いて前に進み出る。

 

「わかった」

 

そう短く応えて、彼もまた短剣を抜き、先に付けられた傷に交差するようにそこへ痕をつけた。

背後から二人の少年を亡き者にせんとガチャガチャと鎧の音を立てながら自国の兵士たちが近付く。

二人には待っている人がいる。帰らねばならない理由があった。ここで散るわけにはいかなかった。

並んで崖の上に立つ。だから、逃げ場はもうここしかなかったのだ。

 

「いくぞ、リオウ!」

 

「うん!」

 

二人は急流へとその身を投げ出した。剣を手に兵士たちが駆けつけた時には、もう誰の姿もそこには残っていなかった。

 

こうして星は動いていく。混沌とした戦乱の中へ、その光を歪ませていきながら。

 

 

 

 




続きます。
お読み頂きありがとうございました!

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