幻想明星伝(幻水Ⅱ×TOV)   作:桃てん

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私はルカ様が大好きです。
フレンさんも大好きです。
大好きな二人を書かせて頂いたお話ですが、
衝撃的なほどに二人がださいです。特にフレンさんが。
もっとうまく書けるようになりたいです。
今回もお目通し頂きありがとうございます!
リタちゃん、フレンさんサイドです(*´∇`*)


対峙する狂皇子と馬小屋の救世主

 

「秋沙雨!っさせるか、魔神、連牙斬ッ!」

 

自身を囲む兵士たちを連撃で伏し、続けざまに振るった剣から斬撃が詠唱を続けるリタを狙うため弓をつがえる兵士に向けていくつも放たれる。それを避ける間もなく弓兵たちが倒れると、息をつかせる間もなくリタの詠唱が完了した。

 

「これで終わりよ!タイダルウェイブ!!」

 

リタたちを取り囲む陣形をそのまま襲う形で流水が激しく渦を巻く。そうして容赦のない魔術が消え去った後には、あれだけいた兵士たちが残らず倒れ伏すというまさに地獄絵図が完成していたのだった。

 

「ふんっ、よく相手を知りもしないで楯突くからこんな目に合うのよ!」

 

あたしに勝とうなんざ百年早いわ、と倒れた兵士たちを見下し大袈裟に笑うリタの姿はもはや誰が悪者なのかわからなくなるという錯覚現象をフレンの脳内に引き起こしていた。それを振り払うかのようにぶんぶんと首を振り、兵士たちが目覚めないうちにと馬小屋から一番丈夫そうな馬を拝借する。よく鍛えられている体躯に、大切にされている馬なのだろうと罪悪感が押し寄せる。首を優しく撫でてやり、協力してくれるか、と問えば馬は小さく鼻を鳴らし顔をフレンに擦り寄せた。

 

「リタ!この馬が乗せてくれるみたいだ。増援が来ないとも限らない、早く…」

 

未だ兵士たちの傍で気分良さげに佇むリタに顔を向け、声をかけたまさにその瞬間であった。

今まで何故気配を感じることが出来なかったのかというほど、すぐ背後。伸ばされた剣先が首に突きつけられて初めてそこに敵が迫っていたのだと気付いた自分の失態にフレンは彼らしくなく舌打ちをする。そうして気付いてから唐突に感じ始めた、恐ろしいほどの殺気、闘気、これまでに向き合ったことのない圧倒される気迫。表に見せないよう隠しているつもりではあるが、剣を握った手が恐怖に震えていた。

 

「…背後から気配を消して近寄るなんて、少し卑怯じゃないのかい?」

 

「フハハハ!人の馬を堂々と盗もうとしていた脱獄囚に、まさか卑怯者呼ばわりされるとはな」

 

フレンは言葉に詰まる。確かにその通りである。何も言い返せない。言い返せないが、この状況は何とかしなければならない。リタを見ると彼女も足は見るからに恐怖に震えていた。しかしその目はきつくフレンの背後にいる敵を見据えており、決して諦めてはいない。ただそのリタの背後も、再び新たな兵士らが退路を断つため取り囲みつつあった。

一歩でも動けば真っ二つにされてしまいそうな背後の殺気に、どうするかと中々回らない頭で考えを巡らせていると、その当の敵から痺れを切らしたのか話を進め始めた。

 

「フン、向こうのガキはそもそもハイランドが迎え入れた研究者だ。生かしておけば役に立つ。が、貴様は違う。本日中には処刑される予定の囚人だ。いいだろうこの際、有り難く思うがいい!」

 

そう高らかに言い放つと同時に首元から剣が退かれる。それに弾かれたようにフレンはリタの元に駆け寄り、改めて敵と正面から対峙した。

白銀のシンプルながらに高貴な鎧、業物だろう刃こぼれひとつ無い美しい剣、そして深く狂気を宿した瞳。ぞくりと背に悪寒が走る。これは武者震いだと自身に言い聞かせるものの、どうしようもない恐怖が全身にまで巡った。見失わないよう、ぐっと強く剣を握る。

 

「今ここで、俺が直々に手を下してやろう!名誉なことだ、このハイランド皇子、ルカ・ブライトが手を汚してやるのだからな!フハハハハハハハ!!」

 

ハイランド皇子。後ろでリタが息をのむ。この狂おしいほどの憎悪に満ちた目をした男が王座に就くべく産まれた皇子だというのか、とフレンは表情を強張らせる。何が彼をこうしてしまったのかはわからない、いつからなのか、幼い時分からなのか。本当の彼までもが憎悪に隠されてしまっているのか、そうではないのか。一件平和で穏やかな日々が流れていると思われたハイランドという国の抱えた闇が、この皇子の背に全てのし掛かっているのかもしれない。フレンは長く息を吐く。そうして手の震えを止めた。いくら敵が強大であろうと、成さなければならないことがあるのだ。

 

「それは…有り難いな。けど、黙ってやられるつもりはないよ」

 

「あんた…か、勝てる、の…?」

 

背後からリタの控えめな問いかけが聞こえる。正直に言えば自信はなかった。しかし自身に言い聞かせるように「勝たないといけないんだ」と強く返す。それにリタはぐっと言葉を詰まらせ、小さく頷いた。

そのやり取りを聞いていたルカが豪快に肩を揺らして笑うと、他の兵士たちより一歩前に進み出る。そしてフレンへ剣を向けて言った。

 

「俺と勝負しろ。貴様が勝てばそこのガキ共々見逃してやろう。貴様が負ければ、刑が予定通り執行される。ただ、それだけだがな。」

 

フレンも一歩前へ進みだし、胸の前で祈るように剣を掲げてからその刃先をルカへと向ける。

 

「わかった。その約束を必ず守ると言うのなら、僕も全力で抗おう」

 

フレンのその言葉を聞いたルカは「俺は約束は違えん」とはっきり言いきった後に先程までよりも殺気を色濃く滲ませ、ゆっくりと剣を構える。それにフレンは恐怖からか受け止めるだけで息が上がりそうになる。しかし呼吸を落ち着け、ルカの剣先をしっかりと目に映すことで集中を保とうと意識を一点から外さない。

 

「さあ構えろ!精々俺を楽しませてみせるのだな!!」

 

いくら集中してみたところで、やはり言い表せないほどの気迫と殺気に圧され、内臓までもが潰されそうだった。だが臆することなく目の前の男を見据えるとフレンは剣を構える。慣れ親しんだ、手に馴染んだもの。

傷は癒えたもののやはり血が足りずまだ目眩がする。足元もふらつく。リタの普段聞き慣れないような悲鳴に近い声が聞こえる。それでも。

 

「僕たちを待つ仲間のために…負けるわけにはいかない!」

 

先に動いたのはフレンだった。コンマの差でルカも間合いを詰める。ぎりぎりまで相手を引き付け、大ダメージとはいかないだろうが、持てる全ての気を叩き込む技を繰り出す。

 

「獅子戦吼ッ!」

 

「ぐっ…」

 

至近距離からの攻撃にルカは吹き飛びはしないものの、受け止めた剣圧に押されて後退する。その隙に足に力を入れ跳躍したフレンは宙で構えを整えた。

 

「当たってくれ…飛天翔駆!」

 

勢いをつけ眼下のルカ目掛け急降下する。これ程の力量の男である。避けられてしまう可能性もあった。

しかしフレンは、剣がルカを捉えようとする一瞬に気付いてしまった。彼が敢えて攻撃を受けようとしており、その顔に恐ろしいまでの勝ち誇った笑みを浮かべているのを。

何か策があるのだろうか。しまった、と思ったが身を翻す暇もない。無理矢理に身体の重心をずらし直前で軌道を外す。ルカの鎧を掠り着地したそのままの流れで剣を振り上げようとし、目を見開く。

違ったのだと。

これこそが狙いだったのだ。

ルカの攻撃範囲に、技を外した一瞬にどうしても出来る無防備な状態で侵入してしまう。避けてしまえばまた間合いを詰めなければならない上に敵に体勢を立て直されてしまうが、至近距離で自主的に外させてしまえば。

現にルカはもう。

 

「きゃああああ!」

 

リタの悲鳴が響き渡る。

身体の、肉の焼ける臭いか、血の焦げ付く臭いだろうか。

炎を帯びたルカの剣に背から貫かれ、深く刃で切り裂かれながらその状態のまま力任せに地へと放られた。叩きつけられた衝撃で手からは盾も剣も離れ飛ばされる。

カンッと小気味の良い音をたて、剣がリタの足元へと転がった。

倒れて、しかし立ち上がろうとするものの力の入らないフレンの元へリタが駆け寄ろうとするがそれは背後から突きつけられた兵士の剣によって阻まれる。

それに代わり、その顔に実につまらないといった心情をありありと滲ませているルカが足元へと立つ。まだ終わってはいないと、身体を起こそうと懸命に腕に力を入れるフレンの腹部に、躊躇いなくルカの剣が振り下ろされる。

 

「っぐ、ぁあ…!」

 

「フン…大口を叩いておいて所詮この程度か。つまらん。命乞いをするしか芸の無いブタ共を刻むのにも飽きていたところだ、期待していたが…」

 

とんだ見かけ倒しだったようだ、と嘲るように吐き捨てる。そうして突き立てていた剣を抜き去ると、さして興味もないといった表情のまま、大きくそれを振り上げた。

 

「無様なものよ…傷も痛むだろう。すぐに楽にしてくれる」

 

勢いよく振り下ろされる。

何故だかそれがフレンにはゆっくりと、徐々に迫ってくるように見えた。ぼんやりとしか聞こえはしないが、リタが何事かを叫んでいる。

このまま終わってしまうのか。生まれた場所ではなく、どことも知らぬ、異界の地で。

自分がいなくなれば、再建半ばの騎士団はどうなってしまうのだろう。部下たちは。支えて行くべきヨーデルは。仲間は、ユーりは。

無意識に詠唱を口走る。まだ終わるわけにはいかなかった。待っている仲間がいる、そのために負けるわけにはいかないと言ったではないか。

血が通わず、抜けていた力を無理に入れる。最後の反撃かもしれない、この一撃でルカを倒せるとは思わない。

それでも良かった。それでも、終わる気はなかった。終われるはずがなかった。

 

「ブタは死ねェェ!」

 

狂気に満ちた目を見上げる。もうゆっくりと動いてはいない、時間を取り戻した視界で。

剣先が自分の心臓に迫る、それと同時に術式を展開する。そして、

 

「終わらせない…!ディバイン、ストリーク!」

 

「な、にィ…っ」

 

ルカの剣が速いか、術の発動か。しかし照射される光に圧された次の瞬間にはルカの身体は宙を舞っていた。目立つ傷も付けられていなかった鎧に、焼け焦げた痕を残して。

地に叩きつけられ咳き込みながらもルカはすぐ片膝を立て身体を起こす。その間にフレンも距離を取りながら、何とか立ち上がっていた。しかし武器を取るため足を動かすことも、再び剣を握ったとして技を繰り出すことも出来る状態ではないと誰が見てもわかる有り様だった。

 

「無駄なことを…まだ生に縋りつくか」

 

ルカの言葉にフレンはその顔をきつく睨む。縋る他ないんだ、と小さく呟くと肩を大きく上下させ苦しげに繰り返していた呼吸も正さずそのままに、叩き付けるように叫んだ。

 

「僕にはまだ!やるべきことがある!!こんなところで、死んでいる暇はない!!」

 

その言葉が終わるが早いかルカが剣を構え凄まじい勢いで迫り来る。対するフレンも気力を振り絞り術を発動させようと詠唱を開始した。耐えかねたリタが突きつけられた剣を振り払い、背を狙う刃を気に留めずフレンの元へ走り出そうとする。

 

その時だった。

 

「よく言った若人よ。感動ついでに、おっさん助太刀しちゃおうかね」

 

空気に合わぬ茶化したような声。同時に、周りを囲む兵士たちとルカを目掛け空から大量の矢が降り注いだ。

それを避ける暇もなく陣形を崩しながらバタバタと倒れていくバリケードの兵士たちと、防戦のためフレンから距離をとるルカ。弓を弾きながら忌々しげに、リタの背後にあるもうひとつの馬小屋、その屋根を睨み付ける彼の視線の先にいたのは。

 

「はぁ!?おっ、おっさん!?」

 

「レイ、ヴンさん…!?どうしてここに…」

 

見慣れた紫色の服、ボサボサの結わえられた髪。いつの間にか誰にも気付かれることなくそこにいたレイヴンは絶えず弓に矢をつがえて集中的にルカへ放ち、またその周りの兵士たちへも攻撃を加えながら、驚くリタやフレンに余裕たっぷりにウインクを飛ばして見せる。

それが合図だった。驚きから呆然としていたリタは、レイヴンのウインクではっと我に返る。混乱する兵士たちの中、素早く詠唱を完了させると経路確保のため道を塞ぐ敵の殲滅にかかった。

 

「そこ、どきなさい!メテオスウォーム!!」

 

リタの呼び掛けに応え、空から降り注いだ大量の星に逃げ惑う兵士。その隙をついて、レイヴンがいる背後とは逆、向かい側の馬小屋まで走った。フレンが拝借しようと入り口まで引っ張り出していたおそらくルカのものであろう馬に駆け寄る。これだけ鍛え上げられた馬ならば長距離を走らせても大丈夫だろうと手綱を引き飛び乗ろうとする背後。

レイヴンの矢を難なく弾きながら、リタの姿を確認し一気に距離を詰めるルカが。

しかし。

 

「ホーリィランス!」

 

そのルカの足元に無数の光の槍が突き刺さる。剣を再び手にしたフレンが発動したものだった。忌々しげに睨むルカの視線を一身に受け、動かすのも億劫な足を気合いで一歩踏み出す。

 

「まだ、倒れていないよ」

 

「小賢しい…死に損ないがァア!」

 

怒りを露に斬りかかるルカの重い一撃一撃を剣で受け止めるだけでも精一杯である。膝から崩れそうになる。しかし勝負を放棄するつもりのないフレンはそれでも懸命に耐え、反撃の隙を伺う。

そのうちにあらかた周りの兵士を掃討したレイヴンが駆けつける増援の足音を聞き付ける。これだけの騒ぎを起こしているのだ、倍以上の兵士たちが雪崩れ込む可能性も十分にあり得る。

馬小屋の屋根から飛び降り大声でリタに叫んだ。

 

「リタっち時間切れ!敵の少ない今のうちに逃げるわよ!」

 

「大丈夫!なんとかこの子も言うこと聞いてくれそう…!おっさん早くアイツを!」

 

リタの言葉に頷くとレイヴンは自身が今まで屋根にいた馬小屋から適当な馬を引っ張り出し跨がる。そうしてルカと剣を交わすフレンの元へ走る。

フレンの背後、至近距離からルカに向かい矢の束を放つ。それを後ろへ飛ぶことで回避したルカの隙をついて驚くフレンを素早く多少無理に抱えた。

 

「いっ…!れ、レイヴンさん!まだ勝負がついていないし、約束も…」

 

「生きてりゃいつかまた再戦できんでしょーが!とりあえず今回んとこはこれにて退散よ!リタっち頼むわ」

 

自身の馬を横付けするとレイヴンは抱えたままだったフレンをリタの乗った馬の背に放る。それを確認して直ぐ様、リタは慣れない手綱捌きで馬を門へ向かい走らせ始める。その直ぐ後に続いてレイヴンも馬を走らせながら、迫り来る追っ手に矢を浴びせかける。

ルカは追っては来なかった。フレンと戦っていたその場に佇んだまま。去り際にレイヴンが見た表情、目だけで敵を射殺さんばかりの鋭い視線を向けるのではなくただただ不気味な笑みを浮かべ。まだ存分に敵意を剥き出しにされた方が良かった。おっそろしい御仁だわー、と呟きながら矢を放つ手は止めない。フレンには生きていれば再戦出来ると言ったものの、もう二度と出会わなくて済むよう切に願うのだった。

 

「ああ、もう!どうやったら…えええいどきなさぁぁぁい!何があっても今のあたしは止まれないわよ!」

 

フレンは生きた心地がしなかった。

とは言っても自分が何か出来る状態ではないだけに口出しができない。振り落とされないようしがみつくので精一杯だ。不慣れゆえに、強烈な手綱捌きを繰り広げるリタに初めは大人しく耐えていた馬も暴走気味である。元々鍛え抜かれていた馬だ。怒りに任せた疾走はそれは驚異的に速いもので後ろのレイヴンをどんどん引き離していくが、如何せん荒い。そしてリタもどう扱えばいいのか苦戦しているため、逃亡を止めようと前へ出てきた兵士たちは例外なく蹴り飛ばされるか踏み潰されていた。

広い皇都を駆け回り、ようやく眼前に出口である門が見えてくる。すると最後の手段とばかりに巨大な門の扉を兵士たちが閉じて行く。しかし馬は速度も緩めず足も止めなかった。そしてリタも、

 

「そんな扉、あたしの魔術の前では無意味よ!いっけえ!ファイアーボォォォル!」

 

躊躇なく発動したファイアーボールを門へ何弾もぶつける。兵士たちの頑張りも虚しく扉には音をたてて大きな風穴が開き、丁度追っ手を振り切ったレイヴンも追い付いたことで全ての逃亡者を堂々正面から外界へと解き放つこととなった。

 

しばらくは追っ手の危険性を考慮し、ひたすら休まず走り続けることにする。明るかった空が暗く染まり、星が瞬き始めても。無我夢中で遠くへ遠くへと道を走り抜けた。

そして、フレンが自身の回復術により何とかリタの後ろに座って乗ることが出来るようになった頃。暗かった空からは僅かに光が溢れている。そろそろ夜が明けるのだろう。一行は、旅の者だと言うと快く通してくれた関所を越え、そこから少し進んだところにある大木の下で休息をとっていた。

 

「…ま、ここいらまで来りゃ流石に大丈夫でしょ。こっからどうしますかね」

 

レイヴンの疲れを滲ませた声音に座り込んだ馬も同調したように、ブルブルと小さく鳴く。それにフレンが口を開く。

 

「この地に飛ばされてきているのは、レイヴンさんだけですか?」

 

「うんにゃ。ユーりの旦那も他の皆も来てるはずなんだけど。俺様は1人で気が付いたらあの馬小屋の屋根にいたから、他もバラバラに各地に飛ばされちまってんのかもねぇ…」

 

レイヴンは、リタとフレンを追いかけて訪れたあの祠で光に包まれた後次に気が付いたら例の馬小屋の上に寝そべっていたのだという。しかしどういうことだと混乱する間もなく、下から大声がするので覗き見ればフレンが血だらけで叫んでいる姿が見えたと。そこからは訳はわからないながらも、とりあえず本能的に逃げるべきだと感じたその意識に従い行動を起こしたまでで、事情はよくわかっていないのだと話した。

それを黙って聞き、ひとつ息を吐いた後フレンは深々と頭を下げる。

 

「すみません、ご迷惑を…。ありがとうございました。レイヴンさんが来て下さらなければ、どうなっていたか」

 

いいのよ、とレイヴンがそれにひらひらと軽く手を振る。すると今まで木に凭れ、疲れはてたようにぼんやりしていたリタが、ふんと小さく鼻を鳴らし顔をそっぽに向けたままで呟いた。

 

「ま、まぁ…助かったのは事実だし、…あたしからも礼を言うわ。その、あ、あ、あり、がと」

 

辿々しい、彼女の精一杯のお礼である。レイヴンは肩を揺らし笑いながらリタの頭をぽんぽんと撫でた。

 

ここからの道のりは、近くの街で情報を集めながら、どこか腰を落ち着けて調べものができる場所に行きたいというリタの希望もあり、通りすがりの旅人の情報から資料も豊富にあるだろう学園都市であるグリンヒルを目指すこととなった。そこを拠点とし、バラバラになった仲間たちの所在、帰るための方法、この世界についてなどを各々が調査することになる。

再び3人が腰を上げて、二頭の馬と共に歩き出したのはすでに日も高く上がりきった頃だった。

ここに3つの明星が、想像もしない戦乱の入り口に足を踏み入れる。そして今、別の場所でも大きく星が動こうとしていた。

 

 




疎い文、失礼いたしました。
お読み頂きありがとうございました!
続きます。

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