幻想明星伝(幻水Ⅱ×TOV)   作:桃てん

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今回会話文ばかりです。
長い上によくわかりません。ストーリーも進んでおりません、すみません…!
変わらずの駄文ですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
お目通しありがとうございました!
今回はリタちゃんとフレンのお話。


先行きの二星

 

「さあ構えろ!精々俺を楽しませてみせるのだな!!」

 

いくら集中してみたところで、やはり言い表せないほどの気迫と殺気に圧され、内臓までもが潰されそうだった。だが臆することなく目の前の男を見据えるとフレンは剣を構える。慣れ親しんだ、手に馴染んだもの。

傷は癒えたもののやはり血が足りずまだ目眩がする。足元もふらつく。リタの普段聞き慣れないような悲鳴に近い声が聞こえる。それでも。

 

「僕たちを待つ仲間のために…負けるわけにはいかない!」

 

先に動いたのはどちらだったのだろう。

空気を裂くような風が2人の間を、それを見守る者たちの中を、リタの頬を撫ぜていく。

カンッ、という小気味の良い音を立て地に落ちた剣は、誰のものだったのか。

 

 

 

 

 

××××

 

 

フレンが牢で目覚めたのはほんの数分前のことである。

随分と体が軽かった。どうやらいつも着込んでいる鎧も、剣も盾も奪われてしまっているようだ。ゆっくり起き上がろうとし、腹部や頭部に鋭い痛みを覚える。よくよく見てみれば、簡易な処置はされているもののまだ巻かれた包帯には血が滲み、止血さえまともにされていない様であった。

それもそのはず。フレンはここに来るべき人間ではなかった。

あの祠で、リタをこの場所へ拐おうとする男たちと対峙した。しかし彼らは見たこともないような術を使い、更には化身と呼ばれる魔物のような生き物を大量に生み出したのだ。化身は倒しても再び復活をする。加えて男たちからも攻撃をされるため、フレンが倒れるのは目に見えた結果だった。

そのうちに動かなくなったフレンを死んだものと見誤ってくれたおかげで、男たちがリタを連れて光るオブジェに吸い込まれようとした際に残った力で何とかそれに追い縋ることが出来たわけだが。

辿り着いた先で余計なものがくっついてきていると男たちが知り、処理に困って今はとりあえず牢に入れられている状態か。フレンはここにいる人間にとって、知らなくても良いことを知ってしまった厄介者なのだ。近いうちに消してしまおうと、したがって傷の手当てなどは大して必要もないと、そういうことだろう。

この簡易な手当てでこそ、リタが進言してくれたおかげだろうが。と、そこまで考えてフレンは思考を停止する。

かつ、かつ、とこちらへ近付く足音がする。注意深くそちらを見れば、歩いて来るのは良く見知った顔だった。しかしその表情は彼女らしくなく酷く暗い。

 

「……リタ?」

 

思わず声をかける。するとリタは弾かれたように顔を上げ、こちらに走り寄ってきた。その勢いのままガシャンと牢の鉄格子に掴みかかる。

そうして驚くフレンには構わずその姿を上から下までまじまじと観察し、ぎゅっと眉を寄せた。

 

「なんなのよコレ!こんなの手当てのうちに入らないじゃない!あんたもあんたよ!何で付いてくるの!?殺されかけといて、そんな怪我で、ほんと、バカっぽい…」

 

一気にまくし立てるリタの言葉を目を瞬かせて聞いていたフレンだったが、俯いてしまった肩が小刻みに震えているのに気付き小さく笑いを漏らす。それにリタが震える声で「何笑ってんのよ」と返すと、フレンは少々思案した後にその下を向く頭に軽く手を乗せた。よく親友が小さな子供にしていたような、この少女にしてしまえば激怒されかねないため、どこかぎこちなさは残るものの。

案の定、力なくではあるが「子ども扱いしないで」とリタに言われてしまう。しかしフレンは止めることなく優しくぽんぽんと撫でてやる。

 

「ありがとう。心配してくれているんだね」

 

「…別に。あたしが勝手に行動して、巻き込んだんだから、それで…」

 

「僕が勝手に巻き込まれたんだ。それに、あの祠でもう少し僕に力があれば、止めることだって出来たはずだった。すまない、及ばなくて」

 

フレンの言葉にぶんぶんと首を左右に振るリタ。そうしてごしごしと目元を服の袖で擦ると、ゆっくり顔を上げた。その表情は先ほどと同じく酷く暗いものであった。何か伝えなければならないことがあるが、どう言葉にして良いのかわからない。そういった様子で口ごもる。

フレンには大体の予想がついていた。おそらく自身の処遇だろうと。この様子からするとあまり良くない決断がなされたのだろうと肩を竦める。

そうであるならば、早急にとりあえず装備の在所だけでも突き止めなければなるまいとため息をついた。

 

「あまり、脱獄は得意じゃないんだけど」

 

ぽつりと呟いたフレンの言葉にリタがぎょっとする。まさかこの真面目が服を着て歩いているような生き物から「脱獄」などというワードが出てくるとは思わなかったのだ。しかしよくよく考えてみればあのユーリの親友と自他とも認める男である。そう思い直してみれば、何も躊躇うことなどなかったのだと。リタは吹っ切れたように自身の両頬をぱんぱんと叩いた。

 

「あんたがその気なら助かったわ。法に反することはしたくないーなんて言われたらどうしようかと思ってたから」

 

「したくはないよ。何も罪を犯してはいないが、牢に入れられた時点でそれを破って脱するということ自体が罪とみなされるから、本来は裁判をした上で無実を…」

 

「あーもうわかったから!あんまり時間がないの。あんたの装備のある場所は確認してるわ。そうね、まず…」

 

そう言ってキョロキョロと辺りを見回していたリタだったが痺れを切らしたように頭をわしゃわしゃと掻くと、普段そうしているように魔術の詠唱を始めた。

フレンはそれに慌てて回避出来る場所を探す。狭い牢屋である。当たるか当たらないかの距離しかないが、もう隅に寄る他なかった。脱獄とはもう少し静かにやるものではなかっただろうか、これでは逃げます!と主張しているようなものではないのか。そうこうしている内に詠唱を完了させたリタは、頭の中で大いに混乱しているフレンには目もくれず、

 

「時間がないっつってんでしょ!ファイアーボール!!」

 

しかしきっちり口にしていない問いに答えてくれた。

ドオオン!と案の定けたたましい音を響かせて鉄格子が吹き飛び大きな穴が開く。星喰みを消すため、戦いを重ね力をつけてきたリタの魔術である。ファイアーボールだからと侮るなかれ、だ。

命の危機をこれまでになく感じていたフレンも何とか無事である。鉄格子側に向けていた耳がキーンとしてやや聞き取りづらいような気はするが大した問題ではない。痛む傷を気にしないようにしながら、素早く立ち上がる。そうして鉄格子に開いた穴から抜け出すと、すでにリタは牢獄から廊下へ続く階段の上にいた。

未だ誰もここへ来る気配がない。なんたる警備の薄さだろう、と騎士団所属の身としては少し心配になる。階段を駆け上がると、リタが外の様子を伺いながら言った。

 

「あたしたちが今居るのは、皇都ルルノイエの中にあるブライト王家の宮殿。ここ、ハイランドって国を統治してる王族らしいわ」

 

「宮殿?そのわりには警備が薄いな」

 

「今は公開訓練中なのよ。皇子が直接軍隊率いてるってんで、王様も見に行ってるみたいね。つまりそっちに警備重視させ過ぎてんのよ」

 

「……………詳しいね」

 

次々に出てくる内部情報にフレンが感心したように言えばリタはにんまりと笑みを浮かべる。他国から招待された研究者だと話せば皆全面的に信頼し、何でも教えてくれたそうだ。

フレンはリタに付いていきながら、宮殿内の様子も観察する。リタに対する兵士の態度といい、雰囲気といい、人を拐ってこなければならない物騒な事情がある国だとは思えなかった。では一部で何かしらの企みが行われているのだろうか、と思案したところでリタに手招きをされる。

周りを見回し誰もいないことを確認するとリタの入っていった部屋へと素早く入室する。すると直ぐ様リタが扉を閉めて鍵もきっちり掛けた。

この部屋はどうやら倉庫のようで、あまり掃除もされておらずホコリっぽい。フレンがあからさまに顔をしかめつつ見て回ると、見覚えのありすぎる自身の鎧や剣など装備一式が無造作に放置されていた。

リタが扉に寄り添うようにして警戒をしてくれている間に格好を整える。肩に重みがのし掛かり、傷にダメージを与えているのがありありと分かったが、どうしてか先程よりも精神が落ち着いていた。

リタのいる扉まで戻ると、人差し指を口許に当ててこちらを振り返る。どうやらようやく脱獄に気付いたらしい兵士たちが、牢屋の惨状を見て慌てて捜索にあたっているようであった。

 

「そういえば、リタは自由に城内を歩き回れていたんだね」

 

兵士たちの横行が一段落するまで身を潜めようと倉庫で状況を伺っている中、思い出したようにフレンが尋ねる。それにリタは呆れたように溜め息をつくと、ほんと今更ね、と呟いてから話し出した。

 

「城内でくらい自由にさせなきゃ協力しないって言ってやったのよ。あたしが拐われた理由は、この国が新しく開発する兵器を量産するためだった。まぁ、それはあたしくらいの頭脳がなきゃ不可能なことだから?条件出したら簡単に呑んでくれたわよ。…あんたの処遇以外はね」

 

「さすがアスピオの天才魔導士だ。…いや、ちょっと待ってくれ」

 

にこやかにリタの話を聞いていたフレンだったが、ふとした疑問を感じ視線を扉からリタへと向ける。

 

「僕はハイランドという地名も、ブライトという王族の名前も聞いたことがない。ここは、テルカ・リュミレースの一部じゃ…」

 

「ないわ。非科学的なことはあたしも信じたくはないけど、異世界よ。あんたが寝てる時書庫へも行ったけど、知らない本に知らない文字ばかりだった。話をする分には、言葉は通じるみたいだけど。」

 

異世界。そう言われても実感が湧かないのが事実である。幼い頃にユーリと共に読んで憧れていたどこか遠い国のすごい英雄の話。しかしそれはいわゆるファンタジーで、自分たちの住む世界とは違う、作り物の世界の話なのだと教えられた。そう信じ、存在しないのが真実なのだと決め込んでいた。

しかし異世界というものが本当に存在していたというのか。確かにあの祠で男たちが使った術も、生み出した魔物も、オブジェから発せられた光に包まれた感覚も、今までに経験した何とも違っていた。

 

「…本当に異世界だとして。それならここにもエアルが存在しているのかい?君がさっき魔術を使ったのも、ここで開発している兵器というのもリタが呼ばれるくらいだ、おそらく魔導器だろうけど、エアルが無ければ使い道は…」

 

「ここにエアルはない。けど…あたしもあんたも、今まで通り魔導器を使える。この理由はわからないの。兵器に関しては確かに魔導器だったわ。詳しくは見ていないけど、エアルでは動いていなかったと思う。何か他の方法で…」

 

「僕たちの世界から異世界に兵器として魔導器が持ち込まれたということか」

 

これは由々しき事態である、とフレンは拳を強く握る。この世界がテルカ・リュミレースとまるで違うというのであれば、今まで魔導器という存在には触れてこなかったわけで、そもそもそのようなものが存在していることすら知らないのだ。

今、ユーリたちと自分はその魔導器を動かすための魔核を精霊に変換し、要は魔導器をなくすことで今の理を改変し星喰みという災厄から世界を救うために戦っている。

エアルの存在しないこの世界では星喰みの驚異はないのかもしれないが、今後どのような弊害が出てくるかわからない。それが自分たちの世界から知らず知らずに持ち込まれたもののせいだとすれば、居たたまれなかった。

 

「きっと、あたしを連れてくるよう命じたやつが黒幕よ。そいつがテルカ・リュミレースの人間で、この世界への入り口を見つけたことで魔導器を持ち込んで、新兵器だとか言って売り込んでバカ儲けしようとしてんでしょ。くだんないわ…魔導器が可哀想よ」

 

どちらにしろ、今は抜け出してユーリたちの元へ戻るのが先決である。とリタは再び意識を扉の向こうへ集中させる。調査したいのは山々だが、こちらには地の利もない、見知らぬ場所である。皆と合流してから安全に進めても問題はないだろうと、カロルの制止を振り切り街を単身で出ていってしまった人物と同一だとは到底思えない発言をするリタに、フレンは思わず噴き出してしまう。

それにむっとしながらも小さく「これでも反省してんのよ」と呟いたリタは、それにフレンが何か言葉を返す前に鍵を外し扉の隙間を開けて廊下の様子を見る。そして誰もいないことを確認すると完全に扉を開ききった。リタの後に続いてフレンも外へ出る。

 

「まず裏に回るわよ。そこに馬がいたから拝借しましょ。それでそいつに乗って門を突っ切る。いい?」

 

「…脱獄の次は窃盗か…」

 

憂鬱そうに呟くフレンをリタがギッと睨む。それを笑顔で受け流し、先を急ごうと促す。何かを言いたげにしばらく睨んでいたが鼻をふんっと鳴らしずんずんと進みだしたリタの後を、敵との遭遇を警戒しつつ付いていく。この先はフレンも武器を持っているため戦闘になっても問題はないのだが、出来る限りそれは避けたいと考えていた。おそらく公開訓練に行っているという警備の兵士たちにも連絡は入っているはずなのである。訓練自体はそう遠くで行っているわけではないだろうから、増援が来るのも時間の問題だった。

 

リタが事前に歩き回り経路を確認しておいてくれたおかげでスムーズに広大な宮殿内を目的地へ向けて進むことができていた。途中、何度か兵士に遭遇したが騒ぐ前にフレンに鞘を着けたままの剣で殴り倒されていた。処置不足だった傷も、途中魔導器が返ってきたことで定期的にキュアを重ねがけしており、大分痛みもなくなっていた。しかし流れてしまった血が戻るわけではないため、足元が覚束なくなってくるが頬を強く張って意識を戻す。その様子にリタは表情を険しくするが、本人が先を促すため歩みを止めることはない。

そうして、馬小屋のある裏口から宮殿の外へ出た時であった。ガチャガチャと鎧同士がぶつかり合う金属音が四方から聞こえたかと思うと、待ち伏せをされていたのだろう。剣や弓を構えた兵士たちが50人は越えているだろうか。リタたちを取り囲むように陣形を組んでいた。

 

「見逃してもらえそうにないわね…いける?」

 

「やってみせるさ。ここに留まるわけにはいかないんだ」

 

2人は背中合わせに兵士たちと対峙する。どれくらいそうしていただろう、長い沈黙の後フレンの正面にいた隊長らしき兵士が痺れを切らして手を高々と上げる。そしてそれを勢いよく振り下ろし号令を下した瞬間を合図に戦闘の幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 




続きます。
お読み頂きありがとうございました!

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