幻想明星伝(幻水Ⅱ×TOV)   作:桃てん

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光を纏う明星と異界への門

 

辿り着いたのは話の通り、本当に小さな祠であった。その周りをくんくんと鼻をひくつかせ丹念に調べるラピードであったが、やはりリタとフレンの匂いはこの祠で一切途切れているようである、と。つまりはまだ此処から出てきてはいないのだ。そう通訳するユーリの言葉にカロルは息を詰まらせた。

祠の入り口部分はラピードでこそ難なく通れはするが、パティやカロルほどになると少し窮屈に感じる。

ずっと地下へと長く階段が続いており、ユーリたちは各々身を屈めながら慎重に下りていく。

最後に腰が痛いだとなんだのと文句を言いながら屈んだレイヴンが入り口を潜り、階段を下り始める。そうして全員が、外からの光を受け付けない深部まで降り立った頃。誰に知られることもなくその小さな入り口は外界を完全に遮り、音もなく消え去るのだった。

 

 

階段を下ったその先は、狭くはないものの足場の悪いごつごつとした岩で出来た通路であった。その中でもまだ安全であろう道をラピードが選び、それを先頭にユーリ、エステル、カロル、パティ、ジュディス、レイヴンと続く。

外からの光が差し込むわけもなく、内部はそれは暗いものだったが、何故だかほんのりと足場が見える程度には明るくもあった。

 

「単に目が慣れただけかの」

 

「そうなのかなぁ…そうだとしても、何だか不思議な場所だね」

 

足元を見ながらパティとカロルが言う。そうね、とそれに同調しながらもジュディスは警戒を怠らなかった。確かにただ暗闇に目が慣れてきただけかもしれないというパティの考えの通りかもしれないが、それにしては不自然な明るさでもあったのだ。どこかで何らかの力が使われているのかもしれないと、妙な不安を覚えていた。

それはレイヴンも同じようで、両腕を擦りながら周りに目を配る。

 

「ちょっとちょっと青年、これ何処まで続くのよー…。おっさんうすら寒いんだけどこの空気」

 

「きっともうすぐですよ、そこにリタもフレンもいるはずで………」

 

「ワンッ!ワンッ!」

 

 

レイヴンの声にエステルが穏やかに返している時であった。唐突にラピードが鋭く吠えたかと思えば一目散に駆け出してしまう。慌ててその後を追うユーリと一行。

ラピードが向かったのは恐らく最深部であろう広い空間であった。周りは岩壁に囲まれ、中心には門のような形をしたオブジェが飾られており、外からの光ではなく何か宙に浮く球体のようなものがその場を明るく、幻想的に照らしていた。

その光景に見とれている間もなく、ラピードがオブジェの裏側あたりで再び吠える。それは言葉のわかるユーリでない者が聞いても緊迫した声色であった。

ユーリ、エステル、カロルがラピードのいる所へと回る。すると彼の足元には、おびただしい量の血痕が見てとれた。それにユーリはハッとした様子で近づき屈み込む。

 

「ワン…!」

 

「やっぱりか…クソ、こっからどこ行きやがったんだアイツ…!」

 

「ユーリどうしたんです?その血は、…まさか…!」

 

ユーリの表情が険しいものとなるのをエステルは見ていた。それに言い知れぬ不安と、頭の中にそうであってほしくはない仮定が生まれる。

しかしその仮定は、覆しようのない現実となってユーリの口から紡がれた。

 

「フレンのもんだ。…こんな怪我じゃ、まともに歩けもしねぇだろうな。ここ、見ろよ」

 

力が抜け、座り込んでしまったエステルとぎゅっと服を握り締めて俯くカロル。それを痛ましげに見やり小さく舌打ちをしたレイヴンがユーリに近付く。

 

「どこよ」

 

「これだ。このオブジェみたいなもんに掴みかかって、そんで…」

 

「途切れているわね。本人が自力で何処かへ向かったなら、血痕が続いていそうなものだけれど」

 

見るとオブジェの台座の辺りにユーリの言うように掴んだような血痕が残っていた。しかしそこから先、この空間内にはどこにもその痕が残っていない。もし回復術などで止血出来ていたとしても、あの足場の悪さである。出血量から見る怪我の程度では、歩くことすらままならないはずなのだ。

 

「誰かに運ばれたのかの。それならここから移動することも難しくはないはずなのじゃ」

 

「それだと、この祠からどこか違う場所にフレンちゃんの匂いが続いてるはずでしょ?それはワンコが確認済みで、こっから出てないって話だったんだから」

 

パティの言葉にレイヴンが腕を組み唸りながら返す。

ラピードの鼻が確かであればリタもフレンもここからは出ていない。それが大前提である。しかしこの空間に至るまで道は一本であり、暗いながらも他の通路はなかったようにユーリは確認していた。そもそも他の道があったならば、2人の匂いを辿っているラピードが反応しないはずがないのだ。

一行に沈黙が訪れる。皆残された痕を見つめ、あるだけの可能性を引き出してこようと考えてはみるがどこかで否定をされてしまう。そうしているうちにラピードが小さく鳴き、ユーリの足元に擦り寄った。それに少しだけ表情を和らげると全員を見回してユーリが声をあげる。

 

「ここにこれ以上の手掛かりがないなら時間の無駄だ。とりあえず、もっかい入り口まで戻ってみようぜ。見落としがあるかもしれねぇしな」

 

重くなった空気を振り払うようにそう言って先頭をきって歩き出す。それに皆顔をあげ、各々後へ続こうと足を踏み出す。エステルもどうにか立ち上がり、まだ傍らで俯いているカロルの背に優しく手を添えた。

 

「カロル、行きましょう?ここでじっとしていても、リタやフレンは見つかりませんから」

 

そう言って少しその背を押してもカロルは動こうとはしない。それにエステルは小さく息を吐いて、彼の両肩へ手を置きその顔を覗き込む。そうして言葉をかけようとした、そこで、エステルの表情はぎゅっと、悲しげに歪められた。

カロルはずっと泣いていたのだ。責任の念から泣くものかと我慢をしてきてはいたが、フレンのものだという血痕を目の当たりにして。自分が時間をかけたからだと、もっと早く来ていれば、あのときリタと共に話を聞いておけば、と。後悔しても何かが帰ってくるわけではない。しかしそれがわかっているからこそ、カロルは涙を止めることができなかった。

エステルは言葉につまり、ただ肩に置く手に力を少し込める。

そうすると微かに、カロルは視線をエステルにやる。そうして小さな声で言った。

 

「ボクのせいだ」

 

エステルはそれに首を振る。仕方がなかったことなのだと、その場で出来る最善を尽くした結果だと、そう返すがカロルは頷こうとはしない。

 

「ボクがしっかりしてなかったから、だから、リタとフレンは」

 

「それで?諦めんのか?」

 

いつの間に戻ってきていたのか、エステルの背後にはユーリ、その後ろに仲間たちが控え、皆カロルを見つめていた。

ユーリの厳しさを含んだ声音に、しかし泣き腫らした目元を隠すことなくゆっくり顔を上げたカロルは、ぶんぶんと左右に首を振った。そして今度はしっかりとユーリ、目の前で心配そうに見つめるエステル、ラピード、パティ、ジュディス、レイヴンを順に見つめ返し強く言った。

 

「ボクはしっかりしてない。今回みたいに…こうやって何かあればみんなに迷惑かけちゃうんだ。けど、…けどその分は、ボク自身で取り返したい!ボクのせいだから、自分が頑張って、リタとフレンを助けたい!だから、だから、みんな…!」

 

握りしめた拳を震わせながら声を絞り出そうとするカロルに、最後まで言わせまいとするかのようにユーリがその頭にポン、と軽く手を置いた。言われなくてもそうする、と呟いた声は先程とは違い優しさを帯びたものになっている。それに目を瞬かせてカロルが見上げると、ユーリだけではない。仲間皆がその表情に笑みを浮かべていた。

 

「あなたに協力します、わたしたちは仲間ですから!」

 

「ギルドはひとりのために、ひとりはギルドのために、でしょう?手を貸さないのは義に反するもの」

 

「のじゃ!今更改まって何を言うかと思えば。仲間に遠慮はいらんのじゃ。」

 

「ワンッ!ワォォン!」

 

「なぁによ、いっちょまえに宣言しちゃって。…らしくなったじゃない?少年」

 

レイヴンに背を優しく叩かれ、皆の言葉に後押しされ、カロルの目からは再び涙が溢れだした。しかしそれをごしごしと擦すると、真っ赤に目を腫らして不格好ながらも晴れやかな笑顔を満面に浮かべた。

 

「みんな、みんなありがとう!絶対2人を助けようね!」

 

そういつもの調子に戻ったカロルが元気に言うと、ユーリがにっと笑って再び歩き出そうと背を向ける。

先までとは空気の違う、絶望に満ちたような沈んだ雰囲気は何処にも見てとれなかった。あのリタだ、あのフレンだ、絶対に無事なのだと皆気持ちにも明るさを取り戻していた。

そうして、傍らに立ったエステルに再び手を添えられカロルは大きく頷く。今度は足踏みすることなくユーリたちの後を歩き始めた。

 

その時だった。

中心にあった門の形をしたオブジェがパッと光を放ち始める。それに驚いた最後尾のエステルとカロルが足を止め、先を歩いていたユーリたちも振り返り慌てて2人の元へと駆け寄る。そして各々が武器を手に戦闘態勢に入った。

すると光の中から霧のようなものが現れ、それが徐々に形を成していく。そうするうちに全ての霧は消え失せ、少しばかり柔らかくなった光の中から白いローブを羽織り、黒い髪を靡かせた女性の姿が現れた。しかしそれは光と共に儚くゆらゆらと揺れており、彼女自身は実体ではなくまるで幻影のようであった。

光に包まれた女性に殺意はない。こちらへ向ける気も敵のそれとは違う。そう感じ取ったユーリたちは構えていた武器を下ろす。それと同時にカロルが前へ進み出て女性へと声をあげた。

 

「リタとフレン…ボクの仲間が、どこにいるか知ってるの!?」

 

それは疑問形であるものの、確信しているに近い問いであった。ユーリは驚いたようにカロルを見やる。確かにここにずっと居たのであれば何らかの事情は知っているだろうが、そこではない。臆病なカロルが、何者かも確定出来ない相手に強く発言したことに驚愕していたのだ。

そんなカロルに女性は穏やかな表情を浮かべたまま、しかしどこか悲しげに口を開いた。その声は直接、頭の中へ響くかのようであった。

 

「ふたつの星…彼らはすでに戦乱の中心にいます。その身に光を取り戻した明星よ、世界を…人々を、救って下さい。あなた方は、108の星…天魁の星の元へ」

 

女性がそう言い終わると同時に床一面に見たこともない紋様が広がる。それらの周りから光が溢れだし、女性に言葉の真意を尋ねる間もないままにユーリたちの視界は見渡す限りの輝かしい白に奪われてしまった。

 

 

 

 

 

光の収まった空間に女性の姿はなく、そればかりではない。ユーリたち一行の姿も、影や形もなく、まるで初めから誰もいなかったかのように忽然と消え去っていたのだった。

 

 

 




詰め込みすぎ、良くない(´・ω・`)
どうにかトリップまで行きたくて詰め込みすぎました。
その結果、グダグダ・よくわからない・読みにくい、の
コンボ攻撃。散々な文章で申し訳ありません…!
読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
次からはまた、細々区切ります。

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