鎮守府の日常   作:弥識

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皆さんどうも、筆者です。
今回も赤城さんが突っ走る回。

それと、とある『システム』に独自解釈が入ります。苦手な方は注意です。

しかし今更ながら、赤城さん……扶桑さん達とは違うベクトルでぶっ飛んだ性格に仕上がってしまいました。
赤城ファンの皆さん。すみません。

北上さんと言い、扶桑さんと言い、冴香(オリキャラ)と言い……どうして筆者の書く女性はこんな感じになってしまうのか。

筆者の性格が悪いんでしょうね、知ってます。でも後悔はしてません。

では、どうぞ。


私『が』唯一

誰かが言った。

 

 

『艦娘が沈み、その怨念が深海棲艦を生み出した』

 

 

そんな、何一つ根拠のない、眉唾物の、与太話。

 

本来なら鼻で笑う様な、酒の席でも冗談にもならない話。

 

けれど、『私』は何処かで納得していた。

 

 

 

 

―――あぁ、確かにそうなのかもしれない。

―――だって。もし、私が『そうなった』としたら。

 

―――私には『それ』が絶対に許せない。耐えられない。認められない。

―――心から、そう思うから。

 

 

 

「私も、ようやく理解できた気がします」

「あの、加賀さん?」

「思えば、当然だったのかもしれませんね」

「いやあの、加賀?聞いてる?」

「身近な具体例がすぐ目の前にあるというのに……気付けませんでした」

「まずは私の話を聞かなきゃって事に気づきましょう?」

「ケッコンカッコカリ……話には聞いています」

「あ、はい分かりました。もう最後まで聞きますんで続けてください」

「限界を超えることで、更なる高みへ昇る。

 もし其処までの領域に『練度』が足らないのであれば、『他』で補えば良い。

 ……貴方は、その領域まで至ったんですね。

 その……提督への『想い』で」

「いえ、違いますけど」

「だから……はい?」

「いや、だから違いますけど」

「…………え、でも、………え?」

「確かに、私は提督の事を慕っています。

 加賀が考えている様な『理由』も、まぁ見当違いでは在りません」

 

そう、赤城は神林の事を慕っている。

有り体に言えば、扶桑と北上と響と青葉と冴香と―――要するに幾人かの艦娘(冴香は人だが)を『恋敵(ライバル)』と認識する程度には。

もっと言えば、『ケッコンカッコカリ』の後ろ部分を無くした関係になれたらそれはもう―――思考を戻す。

 

「ですが、今の私が貴女の言う『領域』に至れている理由は、そんな『綺麗な物』じゃないんですよ」

 

愛の力とか、想いの力とか、そんな『綺麗な言葉』で表せるようなものじゃない。

 

もっと重く、もっとどす黒く、もっと始末に終えない。

 

そんな『理由』が、今の赤城を『空母最凶(誤字に非ず)』足らしめているのだ。

 

「……此処で話す事では無いですね。場所を変えましょう」

 

 

 

 

○舞鶴鎮守府:埠頭

 

「……この辺りで良いでしょう。正直、あまり他人に話したくない事ですから」

 

日が少し傾いた埠頭は、少しばかり風が強い。

風に揺れる黒髪を片手で抑えつつ、赤城が呟いた。

 

赤城の言葉どおり、周囲には彼女達以外の気配は無い。

何も影でコソコソする様な話ではないが、それでも往来の激しい場で話す事でもなかったのだろう。

 

「ねぇ、加賀。『ケッコンカッコカリ』について、貴女はどう思ってる?」

 

あえて『さんづけ』をしない呼び方に若干の新鮮さを感じつつ、加賀は頭をひねる。

 

ケッコンカッコカリ―――能力値が上限に達した艦娘を、更に『上の領域』へと至らせる、文字通りの『限界突破』。

加賀は勿論、赤城を始め神林艦隊に所属しているどの艦娘も未だ至っていない境地。

 

正直、加賀には然程思うところは無い。

何しろ、加賀の提督(神林)に対する評価が『可もなく不可もなく』な為、ケッコンなる物に対する思いもその程度だ。

まぁ純粋に『より強くなる為の手段』と思えば、興味が無くもないのだが。

 

そのように答えると、赤城が苦笑しながら頷いた。

 

「……まぁ、貴女はそうでしょうね」

 

ある意味模範的な、文字通り面白みの無い答え。

 

この温度差については、仕方が無い。

人の好みはそれぞれだし、其処を突いても意味が無い。

少なくとも押し付ける類の『考え方』では無いのだし。

 

本当に単純に『前提が違う』だけなので、其処は『そんなものだ』と流した。

 

本当に大事なのは、此処からだ。

 

「そう、『ケッコンカッコカリ』は確かに艦娘の限界を突破させます。

 では何故、それで『限界を超える』事が出来るのでしょうか」

 

改めて赤城に問われ、それは……と応えようとして言葉に詰まる。

 

そう、『ケッコンカッコカリ』は艦娘の性能の上限を超えるもの。

 

だがそれはあくまで『結果』であって、『過程』でもなければ『理由』でもない。

 

そもそも、『限界を超える』とはそう簡単に出来るものではない。

 

これ以上伸びないから、越えられないから『限界』なのだ。

それを無理に超えようとすれば、それだけの負荷がかかるしリスクもある。

 

それを練度等を含めたコストこそ掛かるものの、ほぼノーリスクで可能にする。

 

冷静に考えれば、なかなか異常な事である。

 

言葉に詰まる加賀を見つつ、赤城は「これはあくまで私見ですけど」と前置きして続ける。

 

「『ケッコンカッコカリ』と言うのは、『提督とより深く繋がる』という事だと思うんです」

「深く繋がる、ですか?」

 

加賀の問いに、頷いて自分なりの考えを説明した。

 

 

 

思うに、『艦娘』と『提督』の間にはある種の『契約』というか『絆』の様なものがある。

これは建造・もしくは海域にて保護(所謂ドロップ)されてから、別の『提督・艦隊』に配置換えにならない事からも推測できる。

 

そしてより深く提督と繋がることで、より強い『契約』或いは『絆』によって、艦娘の『伸びしろ』が増えるのではないか。

 

『限界を超えた』のではなく、『伸びしろが増えた』だけで『そもそも限界はまだ先にある』のだとしたら、リスクが低いのもうなずける。

 

それを可能とするのが『ケッコンカッコカリ』であり、『練度』が一つの目安なのではないか。

 

 

 

「……成程、確かに一理あると思います」

「まぁ実際に経験した訳ではないですし、あくまで又聞きした情報をまとめて、其処から推察しただけなので確証はないですよ。

 そういうものなのかな、程度に思っていただければ。

 ……実際、此処まで話しておいてなんですけど、私の『強さの理由』には然程関係ないですし」

「……え?関係ないんですか?」

 

まさかの発言に加賀が目を丸くする。

 

「いやさっき言ったじゃないですか、私は『ケッコ……字面が長いんでもう『(仮)』にしますね、『(仮)』の領域にはまだ至ってないって」

「ではなぜその話を……」

「一つの実例と示したに過ぎません。大事なのは

『艦娘の限界はまだ測れない領域にある』という事と、

『性能の伸びしろを外的要因で伸ばすことが出来る』という事ですね」

 

そう言いながら、指を二本立てる赤城に白い目を向けつつ、「そういえば」と思い出したことを口にする。

 

「先程、『私以外の加賀の事を、どう思っているか』と言っていましたが……」

「あぁ、その事ですか」

「正直な話、私は私以外の『加賀』に対して、特にどうと思っていることはありません。

 赤城さんはどうなんですか?

 貴女以外の『赤城』を……どう思っているんですか?」

 

そう問いかける加賀に対し、特に何でもないように、赤城が答えた。

 

 

 

「嫌いですよ」

 

 

 

瞬間、空気が凍った気がした。

 

 

「……え?」

 

 

加賀の顔が引き攣る。ふと、さっきから『……え?』しか言っていないな自分、などと現実逃避しつつ、改めて赤城を見た。

 

「あぁ、すみません、言葉が足りませんでしたね。

 私が嫌いなのは『神林艦隊に所属している私以外の赤城』であって、よそ様の『赤城』に対しては加賀さんと同じ思いですよ?」

「いえ、ですが……」

 

赤城の注釈に、それでも戸惑いを隠せない。

 

加賀は知っている。他でもない一航戦の片割れ、自身の嘗ての相棒の事だ。

 

 

この艦隊に、彼女以外の『赤城』はいない。

 

 

過去の記録を探った訳ではないが、恐らく結果は変わらない。『赤城』は建造やドロップで入手しにくい所謂『レア艦娘』だ。

目の前の彼女以外に、『赤城』が建造された記録は無いだろうし、ドロップの記録もないだろう。

 

存在しないものが嫌い、とはどういう事か。

 

戸惑う加賀に対し、海を眺めながら、赤城は訥々と語る。

 

「……私は、確かに現時点で『艦隊最強の空母』です」

 

それはまぁ、そうなのだろう。

軽空母も含めた『空母組』において、赤城は頭抜けて練度が高い。

 

先程行った、他艦隊所属の瑞鶴との勝負を見て、『自分の方が……』と思うものは居ない筈だ。

 

「ですが……私(赤城)では『艦隊最強の艦娘』にはなれません」

 

それは、と否定しようとして、他でもない赤城に遮られた。

 

「『勝てない相手』『斃せない敵』が居る時点で、『艦隊最強』を名乗る資格はない。

 ……少なくとも、私はそう思っていますから」

 

それも確かに事実である。

 

赤城や加賀をはじめとした『正規空母型』は、『潜水艦型』の相手に対して攻撃手段を持たない。

 

演習でも、『正規空母』対『潜水艦』では正規空母側が『負け確で詰み』である。

 

 

例えば、『扶桑』のように『装備次第でどんな相手とも柔軟に戦える』のであれば良かった。

例えば、『北上』のように『一点特化だが、装備次第では対応も可能』であれば良かった。

例えば、『響』のように『夜戦で格上食い(ジャイアントキル)を狙う等、戦術で何とかなる』のであれば良かった。

 

 

これは装備や練度、戦術ではない『システム的な不利』であり、赤城個人ではどうにもならない事だ。

 

※尤も、先に上げた『彼女達』が『艦隊最強』の座に興味があるかは疑問だが。少なくとも、『提督』は興味がないだろうし。

 

 

 

「先日の扶桑さんとの勝負も……薄氷の上を歩く様なギリギリの勝利です。次も必ず勝てる、とは思えません」

 

恐らく、もう少し扶桑が『対空寄り』の装備をしていたら、赤城は攻めきれなかった。

装備によっては扶桑の馬火力も多少は落ちていただろうが、それでも戦艦との殴り合いはリスクが高い。

それこそ夜戦まで凌がれてしまったら、赤城にはどうすることも出来なかっただろう。

 

勿論、他の艦娘にも言えることだ。

北上の魚雷はある意味天敵みたいなものだし、響だって夜戦まで逃げ回られたら厳しい。

 

そう、『基本的に有利』ではあるが、だからと言って『常に安定して勝てる』訳ではないのだ。

 

 

「そもそも、勝負に『必ず』『絶対』はありません。

 私だって、何かの拍子で沈むこともある……例えば、慢心で」

 

そう言って海を見る赤城の目は遠い。

嘗て、『艦船』だった頃の事を思い出しているのだろうか。

 

「そして提督はそれを誰よりも知っています。

 ……提督はどこかで考えているはずです。私達の誰かが、沈むかもしれない事を」

 

これは艦娘に対する不信・不義ではない。

ただ純然たる事実として、艦娘が『沈む』こともある事を受け止めている。

ただ『最悪の事態』として、心のどこかで想定している。

 

「提督は『誰かが戦線離脱することで艦隊が崩れる』事を危惧しています。

 加賀や翔鶴を含めた艦隊全体の練度上げも、それに対しての事でしょう」

 

沈んだ艦娘は決して戻らない。其処に出来る、明確なマイナス。必ず生まれる、穴。

 

その『穴』が艦隊にとって『致命的』な場合。文字通り艦隊は瓦解する。

 

そんな瓦解を許容できるほど、現在の戦況は明るくない。

 

 

「バックアップを用意するのは、戦術的にも、戦略的にも重要です。

 加賀達にも、純粋に頑張ってもらいたいと思っています。

 ……正直な所、『艦隊最強空母』という座も、然程拘りが在る訳ではありません」

 

加賀はきっと強くなる。

蒼龍や飛龍、翔鶴も改ニが控えているし、更に鍛えれば、間違いなく『一線級』になるだろう。

赤城との差も、直に埋まるはずだ。

 

 

―――だが、だからこそ。

 

 

「でも、私以外の『赤城(わたし)』が此処に居るのは―――認められない」

 

 

ざわり、と赤城の周りの空気が歪む。

 

 

「神林艦隊では、同じ艦娘が来たとき(ダブりが出た時)は艦種を問わずに近代化改装素材や資材へ回していますが……

 それを最初にそうするように提督に進言したのは……私なの」

「赤城さん、が?」

 

加賀の言葉に、沈黙で返す。

その視線は、相変わらず海へと向けたままだ。

 

「勿論、艦娘の最大保有数の圧迫を防ぐ為だとか、同じ艦娘を同じ艦隊に編成できないからとか、理由は色々在りました。

 でも一番の理由は……」

「貴女とは別の『赤城』が来たときに、違和感無く『排除』出来るように、ですか」

「えぇ、そうなりますね」

 

特に何でもない様に肯定する赤城を見て、加賀の背中に冷たい何かが走る。

 

……それは、極論に過ぎるのでは、と思う。

と言うか、赤城が一つの艦隊に二人以上?そうそうお目に掛かる事は無いと思う。

 

元々『赤城』は希少な艦娘だ。例え空母重視の建造を繰り返したとしても、そうぽこじゃが出来る者では―――まさか。

 

「この艦隊で空母狙いの建造が少ないのは……」

「いえいえ、流石に建造の云々に口出しできるほど影響は無いですよ。

 ……まぁ『今の資材状況でこれ以上の空母運用は厳しいのでは?』と進言した事はありますけど。

 実際、私達のせいで資材(ボーキサイト)は不足しがちですからね」

 

 

あ、少し前に『最上型ねらい』の『大型建造』で資材沢山使ってましたね。暫くは節約しないと。などと苦笑する赤城に対し、

 

『いえそれはもう確信犯じゃないですか?』などと言える加賀ではなかった。

 

 

「どうして、其処まで……」

 

と呟く加賀に対し、赤城は首を傾げる。

 

「どうしてって……さっき言ったじゃないですか。

 私以外の『赤城(わたし)』がいることが、許せないんです」

 

水平線を眺めながら、小さく笑う。

 

「提督は……あの方はとても臆病な人です」

 

最初に見たときは、そのやり方に少なからず呆れていた。

『自分たちは信用されていないのか』とすら思った。

 

「でもだからこそ、あの人は絶対に慢心も過信もしない」

 

臆病だからこそ、常に最悪の事態を想定する。

臆病だからこそ、『負の現象(敗北・轟沈)』から目を逸らさない。

 

「だから、私達に対しても、『できる事以上の事』を求めない」

 

『自分』と『他人』を。

『成功』と『失敗』を。

『可能』と『不可能』を。

 

そして『起こり得るあらゆる現象』を。彼は違和感なく、同じ目線で捉えている。

 

そんな人として明らかに何かを欠落させた、異常な感性。

 

そんな彼に、自分は何時しか強く惹かれていた。

 

どこか『狂気的』な、それでいて心が震えるような、そんな魅力。

 

彼は過信をしない。失望もしない。

 

唯々真っ直ぐに、自分たちの出来ることを見極め、向き合ってくれる。

こんな、『意思の宿った兵器』という、歪な存在(わたしたち)を。

 

 

「だから私は……そんな提督の『特別』になりたいんです」

 

水平線を眺めながら、赤城は呟く。

 

「でも、私では『艦隊最強』にはなれない」

 

それはまぁ、しょうがない。

 

「戦術的にも戦略的にも、バックアップ……つまり『代わり』は必要です」

 

それもまぁ、仕方ない。

 

 

「だから、『正規空母最強(わたし)』の代わりがいるのは、良いんです。でも」

 

 

ざわり、と再び赤城の周りに『見えない何か』が漂い、空気が震える。それまで聞こえていた、音が消えた気がした。

 

 

 

 

「でも、『赤城(わたし)』の『赤城(かわり)』なんて、つくらせない。そんなもの必要ない」

 

 

 

 

そう言って、目を瞑る。瞼の奥に写るのは、一つの景色。ありえる可能性。

 

例えば、轟沈や解体……理由は何でも良い。兎に角、赤城がこの艦隊から居なくなったとして。

提督はきっと、その穴を埋めようとするだろう。

『感傷』等という理由で、提督が行動を決めるとは思えない。きっと、背負って、切り替える。

周りに居る艦娘達も、きっとそれを止めないし、止められない。

 

そうして、『次の赤城』が艦隊に配属される日が、来るのだろう。

 

今の自分のように、提督の隣で、共に戦い、共に笑うのだろう。私と、同じ様に。

 

 

 

 

―――あぁ、冗談じゃない。

 

 

 

 

ぎり、と聞こえた音は、何処からだったか。

握りしめた拳か、食い縛った奥歯か。

 

それとも、胸の奥に秘めた『激情』か。

 

 

例え自分の空想・妄想だろうと。

例え未来の可能性の一つでしか過ぎない景色だろうと。

 

 

―――きっと許せない。

―――絶対に耐えられない。

―――どうしても認められない。

 

 

―――その姿で、その笑顔で。

―――私以外の赤城(わたし)が、提督(あの人)の隣に立つな!!

 

 

 

 

「だから『赤城(わたし)』は『替えが利かない』と提督に示し続ける。

 それが、私が強い……いえ、強くあり続ける理由です」

 

 

最も分かり易く、具体的に自身の有用性を示し続けるにはどうすれば良いか。

一番手っ取り早いのは『敵を蹴散らす』ことだ。

 

その為には、強さが必要だ。

 

今は戦争中だ。『比類なき強さ』は希少価値である。

 

 

提督が『倒せ』と示した敵を、『はい喜んで』と蹴散そう。

 

 

 

全ては、貴方の為に。

この身を捧ぐ、貴方の為に。

 

由来も生まれも不確かで、何もかもが歪な私達に『意味』を与えて下さった、貴方の為に。

 

私達を導いて下さる、貴方の為に!私達の出来得る限りの、全てを!

 

 

 

呪文の様に、うわ言の様に、呪いの様に。私は、私達はこれからも叫び続けるのだろう。

 

 

 

 

 

そろそろ私は戻りますね、と言って去る赤城の背を見送りつつ、加賀は小さくため息を吐いた。

先程までの会話を思い出す。

 

有り体に言えば、圧倒された。言葉が出なかった。

そして同時に、納得もしていた。

 

―――あぁ、強い訳だ、と。

 

具体的に『熱量』が違った。解り易く『全身全霊』だった。

兎にも角にも『提督の為に全部掛け』だった。

 

そりゃぁ、強い。そりゃぁ、勝てない。

 

少なくとも、今の加賀に其処までの『気概』は無い。

彼我の差も、ある意味納得できる。

 

それと同時に、こうも思った。

 

 

―――自分には、理解できない領域である、と。

 

 

素直に、そう思った。

 

赤城の様子が、何と言うかこう『あからさま』過ぎて、一周回って冷静に彼女の様子を見ることが出来た。

 

正直、アレは無い、と思う。……身も蓋もない話だが。

 

はっきり言って、加賀は神林に対して『そういう想い』を抱いていない。

多分、これからもその辺りの心境の変化は無いだろう。

 

優秀な司令官だなとは思う。頼りになるとも思う。

『職場の上司』、或いは『戦場における上官』としては、確かに好感を持てる。

だが、其処までだ。

 

改めて『異性として』と見ると、どうも惹かれない。

此処までの露骨な違いは何だろうか、と首を傾げるも『何と無く』としか言い様が無い。

これが赤城の言っていた『前提が違う』という事だろうか。

 

恐らく、龍驤や飛龍、それに翔鶴も同じ気持ちではないだろうか。

 

勿論、『此方(加賀)側』で、である。

 

先程の瑞鶴との勝負でも、赤城の様子に半ば呆れ、と言うか諦めの感情を示していたし。

 

因みに、自身の感情については赤城に話している。

 

別に隠す物でも無いだろうし、逆に『其方(赤城)側』に共感を求められても困るからだ。

 

そんな加賀に対し、赤城は特に不快に思うでもなく笑っていた。

 

向こうとしても、別に共感を求めていた訳でも無く。

そもそも、加賀が『そうでない』のは見れば分かる、との事。

 

そんなに面に出していたか、と思ったがそうではなく、

逆に『此方(赤城)側』だったら直ぐ分かるから、という事らしい。

そんなものなのか、と『具体例(扶桑や北上や響)』を思い浮かべて『そんなものなんだろうな』と納得した。

 

 

結局、赤城が加賀に伝えたかった事は

 

『艦娘の限界はまだ測れない領域にある』

『性能の伸びしろを外的要因で伸ばすことが出来る』

 

の二つ。

 

要するに、赤城は見つけているのだ。

 

自身の伸びしろを伸ばせる『理由』を。

 

そして、それは赤城に限った話ではなく。

 

 

『加賀さんも、見つけてください。強くなれる、理由を』

 

 

それは『義憤』かもしれない。『妄執』かもしれない。『矜持』かもしれない。

 

誰かと同じ理由なのかもしれない。自分にしか無い理由なのかもしれない。

 

大切なのは、『それ』を自分で見つけること。

 

『そうすれば、貴女もきっともっと強くなれる』

 

そう言って、赤城は微笑んだ。

 

『だから、待ってます。加賀がそうなれる日を』

『強くなって、私の隣に立つ日を』

『やっぱり、一航戦(私の相棒)の座は、貴女にしか任せられませんから』

 

 

 

「なんとも、難しい問題ね」

 

 

海を見つめて、小さく呟く。

 

嘗ての相棒が。今では遥か前を歩いているその人が。

 

『同じ高みまで来い』と、言っている。

 

自分を、待っている。

 

そう思うと、胸の中の『何か』に『熱』が宿った気がした。

 

 

「あまり感情を表現するのは苦手なのだけれど……」

 

 

今、自分はどんな顔をしているのだろうか。

 

 

「気分が高揚する、というのはこういうことなのかしら」

 

 

胸に手を当て、小さく誓う。

 

 

―――いつか、いつか必ず。貴女の隣に。

 

 

先ずは探す事から始めよう。

そう思い、埠頭を後にする。

 

しっかりと先を見据え、歩くその顔は。

 

 

 

 

小さく、笑っていた。




漸く書けた、『彼女』の本音。
結構前から暖めてました。自分の筆の遅さが恨めしい。

何て言うかですね、書いてて思いました。

赤城さんの性格なんでこうなってしまったんやろ、って。

若干病んでね?とも思いますが、周囲(神林さん含む)に迷惑をかけていないのでセーフ!

ヤンデレってのはホラ、どこぞの蛇姫さまとかママンとかだから。バーサーカーだから。
え、弓持ってる奴(アーチャー)にもヤンデレはいる?女神様(特にギリシャ)は皆あんな感じがデフォだから。普通普通。
そうやって考えると、あのゲームの主人公すげぇな。

話が他所のゲームにそれましたね、すみません。

さて、次回はちょっと考え中です。
閑話(以前活動報告で予告した物)を書くか、フラグを増やすか、いっそ新キャラぶっこむか……

あ、全体的に割と真面目なストーリーになりそうです。

ではでは。

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