鎮守府の日常   作:弥識

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どうも皆さん、筆者です。
今回は赤城さんが頑張る回。

ちょっと齧った程度のざっくりした弓道の知識で書きましたので、ご了承ください。

それと、とある艦娘が割りと酷い目に遭います。ファンの方、申し訳ありません。
それもコレも、彼女の良い感じに『かませ』っぽい性格と筆者の趣味嗜好と引きの悪さ(建造ドロップ的な意味で)が悪いんです。

因みに、神林艦隊(精鋭)の掲げるスローガンは

『練度を上げて技術も上げる。足りない分は(提督への)想いでカバー』

でございます。


では、どうぞ。


その身に抱くは『激情』

―――演習(一騎打ち)では無く、『弓の腕』で勝負しましょう。

 

再戦を望む瑞鶴に対し、赤城はそう返した。

 

 

此処は鎮守府―――軍事施設だ。艦娘同士の私闘はご法度である。

 

同じ艦隊内ならば、ある程は度提督の采配によって融通が利くこともある。

しかし、今回の様に違う艦隊同士ではほぼ不可能だ。

 

では艦隊戦演習ではどうか、と言うとこれも難しい。

 

演習の回数は日によって決まっていて、対戦相手も決まっており、スケジュールに空きはない。

場合によってはねじ込むことも可能だが、今回はその『場合』に適用される理由はなく。

 

そうなると、いつか来るかもしれない神林艦隊と瑞鶴所属艦隊の演習を待つことになる。

 

 

そんな『いつか』を待つくらいなら、『鍛錬』の名目で使用申請が通り易い射場で勝負しよう、となったのだ。

 

赤城・瑞鶴共に艤装として和弓を使う。互いの優劣を示すに足りるはずだ、と。

 

赤城の提案はすんなり通り、その日の内に鎮守府内の射場にて勝負する事となった。

 

 

○舞鶴鎮守府内:射場

 

 

「さぁ、始めましょう!」

「……そうですね、そうしましょう……はぁ……」

 

戦意を漲らせ声を張る瑞鶴に対し、赤城は明らかに意気消沈していた。

淀んだ瞳で、ギャラリーに目を向ける。

そこに居るのは、神林艦隊の龍驤、飛龍、加賀。それと瑞鶴所属艦隊の何人か。

翔鶴は用事があった為、此処には居ない。

 

まぁ、其処は良い。元より降って湧いた勝負。ギャラリーの予定は度外視だ。

(※と言うかぶっちゃけた話、赤城としては翔鶴が居ようが居まいがどっちでも……とか言ったら彼女は泣くだろうか?)

 

さて、もう一度、ギャラリーの面子を見てみよう。

 

神林艦隊の『龍驤』『飛龍』『加賀』の三人(あと瑞鶴所属艦隊の何人か)。

 

 

 

―――そう、提督(神林)が居なかった。

 

神林が応援席に居ない。赤城のやる気を下げるには十分である。

 

なぜ提督が居ないのか。

……普通に執務である。

 

今日は平日。時間は昼過ぎ。オマケに秘書艦は扶桑である。

 

こんな事案(他の女のご機嫌取り)で、扶桑が神林を放り出す訳が無かった。

まぁ単に忙しいから無理、というのも在ったが。

 

 

「また判り易くサガっとんなぁ」

「今日やろう、直ぐやろう、なんて勢いで段取り組むから……」

 

呆れたように呟く龍驤と飛龍に対し、首だけ動かして赤城が応える。

 

「……ズルズルといくのも拗れそうだったので」

「本音は?」

「面倒を早めに片付けたかったんです」

「本音漏れすぎじゃない?」

「だって冷静になってみると何で勝負受けちゃったのかなって」

「いやそこからかい」

「確かに向上心のある子は好きですよ?

 でも今回は『向上心』の一言で済まして良い物なのかと」

「まぁ、確かに蛇足感はあるよね」

「でも此処で今更言うてもしゃぁないやろ」

「ですよね……まぁ良いです。後で提督に褒めて貰いますから」

 

 

ため息を吐きつつ位置に付く赤城を見て、龍驤が肩を竦める。

 

「既に勝った後の事考えとるで、アイツ」

「慢心……じゃないね、余裕ってやつ?」

「せやな、問題ないやろ……不安なん?」

 

そう言って、隣を見る。

其処には、そわそわと落ち着かない加賀がいた。

 

「あの五航戦は実力は恐らく本物です。……万が一も」

「ないやろ」

 

そう言い切る龍驤に対し、非難の目を向ける加賀。

しかしそんな目を物ともせず、苦笑しながら龍驤が応えた。

 

「心配せぇへんでも、神林艦隊空母組(うちら)の最強は赤城や。アレ相手なら……まず負けへんやろ」

 

なぁ、と飛龍に同意を求めると、彼女も苦笑しながら同意した。

 

「だねぇ。確かにあの瑞鶴は強そうだなぁとは思うけどさ」

 

改めて相手の瑞鶴を見る。

成る程、確かに実力者なのだろう。練度も自分達より高いに違いない。

 

演習、若しくは今回のような勝負をしたとしたら。

龍驤・飛龍(自分たち)だったら絶対に苦戦する。というか、多分負ける。

 

しかし。だがしかし。

 

相手は『あの赤城』なのだ。

 

「でも『赤城に勝てそう』とは、思えないんだよね、どうにも」

「あの瑞鶴がウチの赤城に勝つ画は、ちょっと想像できへんな」

 

自分たちは知っている。赤城の強さを。

 

「それにねー、今回はある意味提督も絡んでるもんねー」

「せやなー、勝って褒めてもらう気満々やもんなー」

 

あっはっはっは、二人して乾いた笑いを浮かべる。

 

自分たちは知っている。

『提督』が絡んだときの、『ちょっと突き抜けた』赤城の強さを。

 

 

―――多分、色々と酷い事になるんだろうな。

 

 

今回の勝負の行く末を幻視しつつ、少し瑞鶴に同情する龍驤達であった。

 

 

 

和弓、弓道の的当て(便宜上こう表記する)に措いて、基本的に得点、という概念はあまり使われない。

的には当たれば良いのであって、的の『何処に当たるか』は重要ではない。

 

それよりも射るまで、そして射った後の所作に重点を置いているのだ。

 

今回の勝負では互いに三本ずつ矢を放ち、どちらがより多く当てるかを競う事にした。

一応『五番勝負』とはしたが、『決着が付くまで』は続ける事にした。

 

この時は、『これは持久戦になるな』と瑞鶴は思っていた。

どれだけ集中力を維持できるか、それこそが重要だと思っていた。

だが例え百番勝負になったとしても、気持ちは負けない、と思っていた。

 

そんな思考を抱いた事を、数分後の瑞鶴は途轍もなく後悔する事になる。

 

 

先手は、瑞鶴となった。

 

 

 

瑞鶴は、とても充実していた。

気力・集中力共に十分。所作にも問題は無く、射った矢も全て的中した。

 

どうだ、と言わんばかりに赤城に目を向け、その姿に目を奪われた。

 

 

 

その姿は、美しかった。

 

 

 

姿勢は揺ぎ無く、所作は無駄無く、滑らかで―――有り体に言って『格』が違った。

 

弓を引き絞る。その身に纏う『覇気』を感じ―――即座に否定する。

 

 

―――いや、違う。これは……もっとあからさまで、荒々しくて、始末に負えない類の、『激情』だ。

一体、何が起きているのだろう。

目の前の対戦相手は、一体何者なのか。

只の艦娘(である筈)のその身に、何を抱いているというのか。

 

 

 

放たれる。ごう、と音を立てて奔る矢は、的の中心に『ずどん』と音を立てて突き刺さった。

 

続くニ射目、同じく美しい所作で放たれた矢は―――

 

『バキン!』

 

と音を立てて一射目の矢の筈に突き刺さり、竹製の箆(矢の棒部分)割り裂き、そのまま的に突き刺さった。

 

 

 

うわぁ……とか、和弓でワンホールとかないわ……という誰かのドン引きの声も、唖然とする瑞鶴には届かない。

 

 

続く三射目も同じ軌跡を辿り、特に浮かれる事も無く『上々ね』と小さく呟いた赤城が此方を向く。無意識に、肩が跳ね上がった。

 

「さて……共に三本的中でしたね。続けましょうか」

「と、当然よ!」

 

○二順目

瑞鶴が放つ。

三本全て的中。しかし、先程より大きく乱れていた。

 

赤城が放つ。

 

―――ずどん、バキン、バキン

 

「ふむ……共に三本的中。流石ですね。さぁ続けましょう」

「も……勿論です!」

 

○三順目

瑞鶴が放つ。

辛うじて三本的中。しかし、三射目は的の外枠ギリギリだった。

 

赤城が放つ。

―――ずどん、バキン、バキン

 

 

赤城の放つ矢の音と共に。

瑞鶴の中にあった『何か』が圧し折れる音がした。

 

 

「さて……続けますか?」

「……………あ」

 

 

 

 

 

結局五番と経たず、瑞鶴は降参した。

 

 

 

―――うわぁこれは酷い。

―――流石に同情するわ。

 

勝負を見届けた某艦娘達が、後にそう語った。

 

 

 

 

「……どうしてこうなったんでしょう」

 

諸々の後片付けを済ませ、射場を後にした赤城は、来た時よりも更に肩を落としていた。

今では軽い頭痛すら感じている。

 

今回の勝負で、圧倒的な実力差を見せ付けた結果―――

 

 

『私……赤城先輩に追いつける様に、頑張ります!!』

 

 

―――なんかやたら瑞鶴に懐かれた。

 

その目は憧れの感情でキラッキラと輝き。

というか若干艶やかさを帯びて潤んでいたような気がする。

頬も何だか妙な感情で朱に染まっていた気がするが、きっと気のせいだと信じたい。

赤城はあくまでノーマルなのだ。

 

あれか、色々と圧し折ったせいで『新しい世界への扉』でも開いてしまったのか。

 

正直ちょっとやり過ぎたかな……とも思う。

しかし、中途半端にあしらって付きまとわれても困るので全力で突き放しにいったら逆に懐かれるとはコレいかに。

同僚の、

 

『愛弟子誕生だねおめでとー』

『やらかしたんやからしっかり責任とりやー』

 

という言葉が恨めしい。くそう他人事だと思って。いや他人事だけれども。

翔鶴が居てくれたらまだこんな事には……

 

いや、最近あの子の自分を見る眼差しに『憧れ』とは若干違うベクトルを感じている身としてはあの場に居ない方が正解か。

全く、姉妹艦だからってそんな所ばかり似なくても。

 

コレで神林艦隊に瑞鶴が配属されたらどうなる事やら。

いや、提督に意識が向くよりはマシ?いやいや。

 

 

此方は扶桑と想いの鞘当でそれどころではないというのに。

 

 

 

ともあれ、勝負は終わったのだ。今一番しっかり対処すべきは―――

 

 

「……赤城さんの強さの理由、理解できた気がします」

 

なんだか真面目な顔で呟く彼女に、眉根を寄せる。

 

―――ふむ……『理解』ですか。

 

これは多分、違う。と直感を抱く。

 

少なくとも、赤城が抱いているソレ。

 

彼女の言う、『赤城が強い理由』は。

 

 

 

『理解』などと言う、『理性的』に語れるものでは、ない。

 

 

 

「……一応聞きますけど、私の事をどう思っています?」

「……大切な方、です」

「提督の事は?」

「……信頼できる方かと」

「そうですか……じゃぁ

 

 

 

 貴女以外の『加賀』の事は、どう思っています?」

「私以外の私……ですか?」

「あー、やっぱり意識してなかったですよね……」

「……どういう事ですか?」

 

 

やはり、と言うか、なんというか……

 

今一番しっかり対処すべきは目の前の彼女。

 

決定的に『勘違い』している加賀(あいかた)のフォローかな、と思った。

 




瑞鶴さん、新しい扉を開ける。
好敵手(ライバル)と思いきや、赤城さんのくっそ高い技術で色々圧し折られました。

それもこれも、『赤城さん総受け』なんて怪電波を受信してしまったからなんです!コレは酷い。
尤も、今回以降のそういう描写は考えてませんけどね。

でも個人的に、綺麗なお姉さん同士が仲良くしてる画を見てるとテンションが上がる筆者です。いや、書かないと思うよ、多分、恐らく、きっと。

あ、あと赤城さん、というか今回の話のオチというか、ある意味ネタばらしなんですが……


アカギ・ダン○ルドア『愛じゃよ、カガー……愛じゃ』
カガー・ポ○ター『アカギ……(トゥンク…』


みたいな綺麗(?)な落とし所にする気は、無いです。
感想で予想してくださった方、申し訳ありません。


ウチの赤城さんは、扶桑さんとは『違うベクトル』で拗らせてます。
色々とアレな感じにぶっ飛んだ個性になってしまいました。
でも公式の台詞を聞いて色々と(ちょっと曲解しつつ)考えると、割と不自然でも無いというか……不思議!

ではでは、恐らくこれが今年最後の更新となると思いますので。

皆様、良いお年を。

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