鎮守府の日常   作:弥識

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皆さんどうも、筆者です。
予告通り、観艦式は飛ばして後日談です。

ちょっと修羅場です。

で、とある艦娘が割と酷い目に遭います。とばっちりで。

では、どうぞ。


問い:一番気の毒なのは?

○舞鶴鎮守府:古賀提督執務室

 

戦艦娘『大和』は自分の不運を呪いたくなった。具体的に言うと、今日自身が『秘書艦』である事を、だ。

というか今からでも妹の『武蔵』と秘書艦を代わりたかった。ていうかお願い代わってお姉ちゃん何でもするから。

 

別に、秘書艦の仕事に遣り甲斐は感じている。

 

どこぞの某艦娘達のように古賀提督を特別慕っている訳ではないが、それでも信頼できる司令官だとは思っている。

彼のもとで仕事をする、というのが苦痛な訳ではない。

 

だが、今回に至ってはそれとこれとは話が別だった。

 

 

 

「……此方からの拒否は出来ないんでしょうね」

「あぁ、申し訳ないが、現時点では無理だ」

 

改めて、目の前のやり取りに目を向ける。執務室内の空気はひたすら重かった。

 

室内の応接用ソファに座っているのは二人の男。

 

一人は、この部屋の主である古賀聡史大将。

 

そしてもう一人は、神林貴仁……最近大佐になった将校である。

大和はそこまで神林と親しい訳ではなく、あくまで古賀から又聞きで彼の人柄を知る程度である。

 

二人はテーブルを挟んで座っており、そのテーブルの上にはとある『案件』が書かれた書類が乗っていた。

 

 

「……まぁ、今回については自分が蒔いた種でもあります。

 抑々、先方の誘いを受けたのは自分です。……まぁ、まさかこうなるとは思いませんでしたが。

 それにこれに関しては『約束』の外ですから、古賀さんに文句も言えませんし」

 

そう言って、神林はソファの背もたれに体重を預ける。

 

「では、受けてくれるか」

「先程も言いましたが、自分に拒否権は無いんですよね?在るのであれば今すぐに使います」

 

見るからに嫌そうな神林の様子に、古賀が苦笑する。

此処まで彼が負の感情を表に出すのは割と珍しい。

 

「其処まで邪険にすることもないだろうに。お前にとっても、悪い話ではないだろう?」

「今まさに深海棲艦と戦争中で無く、尚且つ自分が軍人ではなかったとしたら、確かにそうなんでしょうね。

 こういう話が、今までに無かった訳ではないですし」

 

―――ざわり

 

大和の視界の端で何かが動いた気がしたが、無視する。

 

「……あぁ、そういえば冴香と」

「アイツ以外にも、何度か。まぁ普通に破談しましたが」

 

―――ざわり

 

大和の視界の端にある何かの気配が膨らんだ気がしたが、気にしない。

 

「そうか……場合によっては、お前も身を固めていたのだろうなぁ」

「どうでしょうね、自分には想像が付きません」

 

―――ざわ―――ざわ―――

 

さっきから気配が大きくなったり小さくなったりしてるけど、大和は何も見てません。

 

「実際、どうなんだ?まだ若いと言ってもお前もいい歳だ……

 充てはあるのか?」

 

―――うふふ

 

あ、幻聴が聞こえてきた。これもう駄目なやつです。

 

 

とうとう大和は『現実逃避』を諦め、ソファに座る神林の『後ろにいる彼女』に目を向けた。

 

 

「……大和さん、どうかされましたか?」

「あ、いえ、別に」

 

 

目線を下げる。駄目だ。無理だ。コレやばい奴だ。

大和はどうかしていない。『どうかされている』のは貴女の方である。

 

すんごい笑顔だった。女の自分でも、ある意味見惚れるくらいだった。

 

でも、目が笑ってなかった。

 

それ以前に、彼女から溢れ出ている雰囲気がやばかった。

 

何をどうすれば、『ル級とタ級を足してレ級をかけた』様な威圧感が出せるのだろうか。貴女まだ改二にすらなっていない航空戦艦でしょうに。

 

 

「……扶桑、何かあったか?」

「はい、提督。なにも問題ありません」

 

 

『いや問題しかないでしょう!?』

 

 

反射的に口から出そうになった言葉を大和は必死に抑える。正直、『いy』位は喉から漏れた。凄く頑張った私。

何で気が付かないんですか神林提督。

あぁ、扶桑さんが上手く隠しているんですねわかります。

 

『というか古賀提督!貴方絶対に楽しんでますよね!?何で一々扶桑さんの逆鱗を逆撫でするような発言するんですか!』

 

古賀と神林はテーブルを挟んでソファに座っている。

そして、そのソファの後ろに、大和と扶桑は立っている訳で。

 

つまり、どう頑張っても『凄いことになっている扶桑さん』が大和の視界に入るのである。

 

大和も一人の女性として、扶桑の気持ちも分からないでもない。

 

この手の件は非常にデリケートな問題だ。

慕っている殿方が関わってくるとなれば尚の事である。

しかし、だがしかし。

 

 

『関係ないですよね?今回の件、大和は全く関係ないですよね!?何でこっちを睨んでくるんですか!?』

 

 

 

一体何がいけなかったのだろうか。日頃の行いが悪いのか?

アレか?この間武蔵に黙って、『長崎カステラ』をこっそり取り寄せて一人で全部食べたからか?

いやしかし、そもそもそれは大和の自腹である訳で、それに後日改めて取り寄せて二人で楽しんだから、その件は手打ちになっている筈―――

 

晒されているストレスで大分思考がおかしくなっている大和だが、それを咎めるのは酷というものだろう。

 

実際、大和に非など無いのだから。

あえて何が悪かったのかと言うのであれば、単に『間が悪かった』というだけである。

 

 

 

実のところ、扶桑は大和を睨んでなどいない。というか、眼中にない。

 

ぱっと見『えらいこと』になっている扶桑だが、案外今回の件をそれなりに冷静に受け止めていた。

一部始終を知っている、というのもあるし、『結果が分かり切っている』というものある。

 

確かに思うところはあるし、それなりに不愉快でもある。

かといって不機嫌丸出しで古賀提督にガン飛ばしても仕方ないので、荒ぶる内心を抑えつつ虚空を見つめているだけである。

 

まぁその視線の先にいる大和にとっては大問題であるし、傍から見れば『荒ぶる内心』がだだ漏れなので、結局同じなのだが。

 

 

―――うぅ……おなかいたい。もうかえりたい。たすけてむさし。おねえちゃんなきそう。

 

 

戦闘でもそうそうお目に掛かれないプレッシャーに晒され、大和は心が折れかけていた。

 

 

「それで……どうなんだ、お前としては」

「随分と其処にこだわりますね」

 

やけに食い下がる古賀に、神林は眉を顰める。

その言葉に、古賀は米神を掻きながら答えた。

 

「曲がりなりにも、私はお前の後見人みたいなものだからな。

 ……神城にも『お前を頼む』と言われていた」

 

育ての親の名を聞いて、神林の肩がピクリと跳ねる。

内心の動揺を抑えつつ、いつの間にか前のめりになっていた体をソファに預けつつ、小さく呟いた。

 

「……確かに、あの人は俺が『家庭』を持つことを望んでました。

 遺言、と捉えても良いんでしょうね。随分と耳に残ってます」

 

生い立ちが生い立ちなだけに、穏やかな未来を望んでいたのだと思う。

尤も、『家族、家庭』の記憶が碌にない神林にとってそれを望む、というのは今一つ現実味のない話であったが。

 

「兎も角、予定を調整しておきます。これ以上駄々をこねでも仕方ないですから」

 

そう言って、神林は目の前の書類を手に取りつつソファから立ち上がる。

 

「すまんな、宜しく頼む」

 

古賀の何度目かの謝罪に、神林は何度目かのため息で返す。

 

「舞鶴鎮守府の顔を潰さないように、上手くやっておきます」

 

そう応えつつ、執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、大佐程度では我儘も言えないな」

 

廊下を歩きつつ、神林は隣にいる扶桑に小さく愚痴る。

 

「……と言うか、提督が独身で居られる限り、ずっとついて回る問題だと思いますよ?」

 

そんな神林に苦笑しつつ、扶桑はやんわりと応えた。

そうかもなと返しつつ、手元の書類に目を向ける。

 

「……面倒だな」

「艦隊への説明もする必要がありますね」

「あぁ、それもあったな。全く……」

 

愚痴を零しつつ、重い足取りで執務室に向かう。

 

 

 

 

―――いやだいやだ、すごくいやだ。自分が『白馬の王子様』になるなんて、冗談じゃない。

 

 

 

 

神林の手元にあるのは、着物を着た若い女性の写真。

 

 

詰まる所、見合いの釣書であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、後日『大和が胃痛で寝込んだ』と聞いて、流石に申し訳なく思った扶桑がお詫びに『間宮&伊良湖謹製甘味詰合せ』を贈った……との事。




大和さん災難。の話でした。
正直、大和型姉妹のどちらでも問題はなかったんですが、姉の方が書きやすかったのでこちらに。
要するに、筆者の趣味ですね!

そんなわけで、フラグ通りに神林さんお見合いです。詳しい説明は次回にて。

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