鎮守府の日常   作:弥識

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どうも皆さん、筆者です。
最近いい感じに改二艦が増えてきて楽しい限りです。
個人的には、『そろそろ天龍田姉妹の改二実装とか来ないかな』って思ってるんですが、どうなんですかね?

今回、ちょっとしたフラグを回収します。

最近シリアス方向に傾いてばっかだったので、ほんわかコメディを意識していきます。

では、どうぞ。


積まれるフラグは折りたいフラグ

○舞鶴鎮守府:埠頭

 

基本的に、出撃でもない限り此処は人気がそれほど多くない。工廠や入渠用のドッグ等から離れれは尚のことだ。

 

そんな場所に、彼女は居た。

 

「…………ふぅ」

 

埠頭の端に腰を下ろし、彼女―――戦艦娘の『扶桑』は海を眺めていた。

今日は出撃もなく、秘書艦担当でもない。所謂、非番である。

 

「…………はぁ」

 

こうやって海を静かに眺めるのは、扶桑の細やかな趣味だ。

直に座ると髪も服も汚れてしまうため、座り心地の良いシートも完備である。

手元には冷えたラムネの瓶。完全に『くつろぎタイム』である。

 

「あぁ……空はこんなに青いのに……」

 

だというのに、扶桑の心は荒んでいた。

此処にいるのも、気晴らしに何処かへ行く気さえ起きなかったからである。

無意識なのだろう。足をブラブラさせながら、体も若干揺れている。

 

有体に言って、あまり良い精神状態とは言えなかった。

 

「……何か用?今日は非番なのだけれど」

 

視線を動かさずに、そう呟く。視界の端で、とある艦娘が苦笑した。

 

「艤装も着けてないのによくわかるもんだね」

「筆頭秘書艦ですから」

「それ言えば何でも許されると思ってない?まぁ確かにすごいとは思うけどさ」

 

近づいてきたのは『北上』だった。

彼女もオフなのだろう。艤装を付けていなかった。

 

『となり良い?』と聞かれたので扶桑は無言で横にずれる。

それなりの大きさのシートだし、互いに艤装を付けていないので問題なく座れるだろう。

ありがと、と礼を言いつつ北上が隣に座り、暫く無言で海を眺めた。

 

「……で?何をそんなに黄昏てるのさ。……まぁ提督絡みだとは思うけどさ」

 

視線を前に向けながら、北上がそう尋ねてくる。

 

「……どうしてそう思うのかしら?」

 

同じく、視線を動かさずに応えた扶桑に、北上が小さく笑う。

 

「此処に山城が居ないってのが一つ。あとは、何となくかな」

 

北上の言葉に、扶桑は苦笑する。

『女の推量は男の確信より確かである』とはよく言ったものだ。

実際、この事を山城に話す気にはなれなかった。

 

「あー、別に言いたくないのなら」

「いいえ、そういうわけではないの。そういうわけではないのだけれど……」

 

そう言う北上に対して、扶桑はどう話したものか逡巡する。

 

別に機密にかかわる事を抱えている訳ではない。

提督絡み、とは言っても近からず遠からずで。

 

そもそも、扶桑は別に悩み事を抱えている訳ではないのだ。

 

とある事柄について思う事があっただけで、それを誰かに口にする気にもならなかっただけ。

 

 

 

要するに、割としょうもないことが発端なのだ。

 

 

 

「……まぁ、北上になら、話してもいいかしら」

 

そう言うと、北上が頬を引きつらせた。

 

「うわ何かやな予感するんだけど」

「……ふふ、どうかしら?」

 

その様子を見て小さく笑う。

 

 

―――こうなったら北上(あなた)も道連れよ。一緒に微妙な気持ちになりましょう?

 

 

まぁまず間違いなく、碌な精神状態ではなかった。

 

 

 

北上は酷く後悔していた。

 

非番だったのでのんびり鎮守府を散歩していると、何となく背中が煤けている様に見えた我が艦隊の筆頭秘書艦を見つけたのが数十分前。

何となく気になったのでそのまま扶桑に話しかけ、『悩みがあるなら聞くよ』的な事を言ったのが十数分前。

 

 

そして、扶桑の口から『くっそどうでもいいこと』を聞かされて、現在に至る。

 

 

思いつきで首突っ込むんじゃなかったなーとか思いつつ、『件の話』を口にする。

 

 

 

「宮林提督が見合い、ねぇ……」

 

 

 

要するに、そういう事である。

 

先日舞鶴にやってきて、ついこの間、横須賀に帰ったあんちくしょうの話である。

 

どうも、見合い話が鬱陶しくて、扶桑に愚痴って来たんだとか。知らんがな。

 

 

「ていうか何であの人の愚痴が扶桑に来るわけ?」

 

こういうのは人間関係的に神林に行くのではないのだろうか。いや、それはそれで面白くは無いのだが。

 

「……冴香さんが横須賀に帰る前に、お互いの連絡先を交換したのよ」

「何でまたあんなんと」

「言わないで。今は若干後悔してるわ……」

 

正確に言うとそれほど気楽な話ではないのだが、流石に其処を他人に言いふらす訳にはいかなかった。

 

「そう言えばいつの間にやら名前呼びなんだね」

「……まぁ、色々あったのよ」

「そっか、まぁ扶桑はあの人に宣戦布告したんだし、名前呼びになっててもおかしくないよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇちょっと待って?」

 

 

北上の発言に、扶桑が待ったをかける。

 

「何でそのことを知っていらっしゃりやがるのかしら?」

「うん、だいぶ余裕ないね扶桑」

 

目からハイライトの消えた扶桑を『どうどう』と抑えつつ、続ける。

 

「結構回ってるよその話。まぁ、一部の艦娘の間限定だけど」

「……出所は?」

「武道場・大声・青葉……って言えば分かる?」

「……………」

 

無言で顔を覆う。そして天を仰いだ。指越しの日差しが目に沁みるわねくそう。

 

確かに、武道場で人払いを徹底しなかった。

最後の方は何だか気分が昂って、随分大きな声で色々と言っていた気がする。

 

でも、選りに選って青葉って。青葉って!!

 

「まぁ提督の目や耳には入ってないみたいだけど」

「でしょうね」

 

北上のフォローに、顔を抑えたまま応える。

『例の件』からすでに数日経っている。もちろん、その間に扶桑は何度か秘書艦業務についていた。

提督がこの件を把握していたとは思えない。というか、思いたくない。

 

もし万が一、神林がそれを把握していたとして、いつもと変わらぬ対応をしていたのだと考えたらもう暫く執務室にいけないというか秘書艦ちょっとの間お休みしたい。

 

そうなって居ないのも、恐らく青葉の配慮だろう。礼を言うべきか微妙なところだが。

 

「北上は」

「ん?」

「北上はどう思っているの?」

 

何とか復帰した扶桑が、今回の件について問う。

北上の提督―――神林貴仁への想いは、知っている。

 

その問いに一瞬目を丸くした後、「そーだねー」と頬をかきつつ海を眺める。

 

「やるだろうな、とは思ってたよ?ぶっちゃけ、私も似たようなことはしてたし」

 

そう、北上は以前冴香に噛みついている。それは扶桑も知っている。というか、その場に居合わせていた。

 

結局すべては冴香の『煽り』で、乗せられた感はあるのだが、それでも北上ははっきり言っていた。

 

『あの人の事をアンタみたいなのにどうこう言われる筋合いはない』と。

 

「もしあの人が横須賀に帰る前に扶桑が『それらしいこと』をしてなかったら、私か誰かが似たような事してただろうね」

 

だからこそ、『扶桑が冴香に宣戦布告した』という話は迅速に一部の艦娘へと伝わったのだ。

武道場の件も、別に『都合よく』青葉がいたわけではく、ある意味扶桑を『張っていた』と言っても過言ではない。

 

冴香との別れ際の件も、『冴香が神林に何をしても騒ぐな』という扶桑の言葉に黙って従ったのも、扶桑の宣戦布告を知っていたからだ。

 

―――逆に言えば、扶桑が『先に動いていた』からこそ、冴香が仕出かしても黙っていただけに過ぎない。

 

「まぁもし万が一、扶桑が『動いてなかった』としたら……『筆頭秘書艦』名乗るの辞めさせてたけど。『私達』が力づくで」

 

その言葉に、扶桑は北上を見る。

北上の目は、本気だった。

 

「筆頭秘書艦の名前は伊達じゃない。

 あそこまでされて黙って見ているようなら……『筆頭』名乗る資格はないよね?」

「……そうね……そうだったわ」

 

いつの間にやら『試されていたのか』と苦笑する。今の立ち位置に随分と慢心して居た様だ。

 

そう、『神林艦隊筆頭秘書艦』は伊達ではない。

 

確かに冴香に対して扶桑は宣戦布告したのかもしれない。

しかし、『艦娘同士』の牽制は、ずっと前から行われてきたのだ。

 

 

「ねぇ、北上」

「なに?扶桑」

「以前にも行ったかもしれないけど……譲る気はないわよ?」

「私も前に言ってなかったっけ?負ける気はないから」

「……うふふ」

「……あはは」

「「…………はぁ」」

 

改めてお互いの関係を認識した後、揃ってため息を一つ。

 

お互いに遠い目で空を見上げる。

 

 

 

何だかんだで、扶桑は先程の精神状態に戻っていた。今では北上も巻き込んで。

 

 

 

「……しっかし見合いかぁ……見合いねぇ」

 

 

北上が何気なく呟く。そこには、様々な想いが入り乱れていた。

 

 

ぶっちゃけ、冴香の見合いの話はどうでもいい。というか、結果が分かり切っている。

他に想い人(神林)が居る時点で、冴香の見合いが上手く行く筈がないのだ。

 

……にしても、『弱い男には興味ないからルーデルさんかヘイヘさんか舩坂さんに生まれ変わって出直してきやがれ下さい』と言う断り文句は中々凄いな、と思う。

 

兎も角、見合いは破談で終わるだろう。それは分かる。

 

……だが、どこかでその見合い話が上手く行って欲しいとも思っていた。

 

見合い話が上手く纏る。

それはつまり、冴香が『神林とは別の男(ひと)を選んだ』という事だ。

そして、北上達の恋敵が減る事を意味する。

 

そんな形で恋敵が脱落するのも面白い話ではないが、目下一番の強敵は他ならぬ冴香であるのもまた事実。

 

 

なんともままならないものだ、考えつつも、北上の思考の大半を占めていたのは別の事で。

 

 

「……提督には、そういう話って来てないよね?」

「えぇ、今のところ聞いていないわ」

「今のところ……か」

 

扶桑の曖昧な返答に、北上は空を見上げてため息を一つ。

 

我らが慕う神林提督は29歳、独身である。まぁ、有体に言って『してもおかしくない歳』だ。

 

尤も、冴香と比べて神林が『優良物件』かどうか、と言われると微妙なところではある。

 

確かに見た目は良いだろうが、『政略』を絡めた見合いに於いて、其処は然程プラスではない。

 

出自も知れぬ孤児。更に得体の知れない陸軍特殊部隊出身というのは、大きなマイナスだろう。

軍閥名家の一つである『宮林家』の知己であると言っても、一番親しいのは家督を継がぬ末娘である冴香だ。旨みは薄い。

 

そして本人の階級も大佐止まり、と傍から見れば『一山いくら』の有象無象に見えるだろう。

 

……何だか遠回しに自身の提督が『魅力がない』と言われているようで地味に面白くないが、そんな政治的な『良さ』は北上にとって全く関係ないので良しとする。

 

『そもそも、提督はその辺どう思ってるんだろう』

 

何時ぞや『結婚云々』の話が出た際に、彼は『舞鶴を離れる気は無いし、まだ身を固める心算もない』と言っていたらしい。ソースは響。

 

しかし、見合いとなると話は別だ。

神林にその気が無くとも、いきなり降って湧く事だってあり得る。

 

更にそれが所謂『上から』の話だった場合、恐らく神林はそれを拒否できない。

 

以前、彼は『必要以上に非人道的な事を自分にやらせない事を条件に海軍に入った』と言っていた。

 

……多分見合い云々は『非人道的な事』にはカテゴライズされないんじゃないだろうか。いや北上にとっては十分『そっち側』に入る行為なのだが。

 

まぁ見合い後の彼是は神林(と相手)の気持ちもあるので、ナシにするのは簡単だろう。

 

 

だがしかし。そもそもの話。

 

 

『そういう問題じゃないんだよなぁ』

 

 

北上が、自身の髪を弄りながらため息を吐く。

 

詰まる話、懸想の相手が見合いに行く時点で、北上にとって面白くないのである。

 

 

 

只、『来るかもしれない事』に一々目くじらを立てるのも疲れる話。

現時点では神林に対してそれ程の価値や注目は―――と考えた所で、一つの懸念が浮かんできた。

 

 

「……そう言えば今度の観艦式って、提督も出るんだよね」

「えぇ、その予定ね」

 

これまで、観艦式などの式典に、提督は意欲的な参加はしていなかった。

元々中佐(鎮守府内では下っ端)だったのもあるが、本人が『政(まつりごと)は嫌い』と言っていたせいでもある。

 

「適当に流すってのは、無理そう?」

「どうかしら、今回は古賀大将の肝煎り、という話も出ているから、御座なりには出来ないわね」

「なに、あの人が絡んでんの?」

 

何だかよくわからない笑みを浮かべた舞鶴の大将の顔を思い浮かべつつ、北上が眉を顰める。

 

今回の事もそうだし、冴香の件も古賀が絡んでいると聞いている。

『碌なことしないなあのおっさん』と思ったが、確か神林を此処に引き込んだのも古賀と聞いている。その辺はいい仕事したなあのおっさん。

 

兎も角これから先、神林は色々と『表舞台』に出るのだろう。

それ自体は所属艦娘として非常に喜ばしいことなのだが、不安がよぎる。

 

『百聞は一見にしかず』という言葉がある。

 

これまで『噂程度』でしか耳に入っていなかった神林の評価が、実際に会うことで変化する可能性が高い。

何より今、彼の胸には『野戦桜花』の勲章(略章)がある。

勲章というのはそれだけで一つの『ブランド』だ。そして『野戦桜花』はその中でも最上級の部類である。

 

否応なしに、注目は集まるだろう。

 

「……観艦式に御召艦で提督に付き添うのって、扶桑だったよね?」

「えぇ、その予定よ。言っておくけど―――」

「あー大丈夫、代わってとかは言わないから。そういうのめんどくさいし」

 

提督と二人で一つのイベントに臨む、というのは中々魅力的な話だが、今回は提督一人に構っていられるわけではないので却下である。

他の提督への礼儀正しいご挨拶とか、面倒に過ぎる。

 

「ちゃんと提督見張っといてね?変な『虫』が付かないように」

「北上が心配するようなことは無いと思うけれど……」

「いやいや、提督がどこで無自覚にオトすか分かったもんじゃないからね」

「それは……否定できないわね、確かに」

 

我らが提督は、稀に無自覚に物凄い発言をやらかすので、正直気が気でないのだ。

 

「……そういえば、冴香さんも観艦式に参加すると言っていたわ」

「あー、確かに少将?中将だっけ?まぁそこそこの地位にいる人だし、出るだろうね」

「……今回は共同戦線を張ろうかしら」

「それもアリかもねー。向こうには摩耶もいるから変なことはしないだろうし」

 

そう言って、扶桑と北上は他愛のない話を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に扶桑はこう語る。

 

 

―――もっと北上の話を聞いて、真摯に考えておくべきだった。あの時の自分を殴り飛ばしたい―――と。




はい、今回は扶桑さんと北上さんのお話でした。

因みに『筆頭』云々の話ですが、序列は結構変動的だったりします。
基本的に、『練度』『着任期間』『提督への信頼度』等々の要素で独自に序列を作っています。艦娘が独自に(ココ重要)
勿論秘書艦筆頭は『扶桑』ですが、二位以下は所謂ダンゴ状態です。北上や響とか。

彼女達には独自のネットワークがあり、日々変動していく序列や提督の動向などの情報を共有しています。
なので扶桑の『宣戦布告』はダダ漏れでした。仕方ないね。

さて、次回はちょっとしたアレです。修羅場です。

あ、観艦式の話は所謂『キンクリ』しますので。さくっと済ませます。

では、お楽しみに。

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