鎮守府の日常   作:弥識

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どうも皆さん、筆者です。
タイトル通り、『彼+α』の評価です。
今回も独自解釈……と言うか考え方、みたいな感じになりました。

因みに今回も横須賀が舞台です。
『彼等』を第三者の目で見るとなると、横須賀の面々が都合良いんで。
え、古賀さん?……おっさんのモノローグ書いても楽しくないんです。以前やって思いました。


では、どうぞ。


要するに、彼らの評価。

○横須賀鎮守府:宮林艦隊執務室

 

「それで、今回の査察はどうだったの?

 ……まぁ、サエカの事だから十分以上の結果を出したとは思うけれど」

 

そう言ってソファに腰掛けながらビスマルクが冴香に問う。

 

「まぁ、八割弱……てとこかな」

「あら、珍しい」

 

肩を竦めながら応える冴香に、ビスマルクが意外、といった表情を見せる。

 

「んー、最低ラインは越せたよ。でも、『私事』で熟し切れなかった事も多くてさぁ」

「要するに?」

「メインクエストはクリアしたけど、趣味全開のサブクエはコンプ出来なかった感じ」

「成程、把握したわ」

 

「いや今ので解かんのかよ」

「順調に染められてきとんなぁ」

 

外野に『煩いわよ』と釘を刺しつつ、続きを冴香に促す。

 

「取り敢えず、トップの意見は纏められた。

 近いうちに『英霊(スピリッツ)』は勿論『高揚剤(アッパー)』にもそれなりの規制が入る。

 先走って妨害仕掛けてきた馬鹿の尻尾も掴めたし、ストレス発散も出来たし、その辺りは上々」

「…………」

 

『ストレス発散』の現場に居合わせはしなかったものの、関係者である摩耶、そして冴香の抱える『事情』を少なからず知る龍驤と大淀が眉を顰める。

そんな摩耶達の様子に、此処に来てから日の浅いビスマルクが首を傾げるが、冴香の発言の方が気になったので今は突かない事にした。

 

「……掴めたのは尻尾だけ?」

「そう、其処が不完全燃焼その一。首根っこ抑えたかったんだけどねー。

 多分『尻尾切り』で終わりだね。胴体の影を見つけれたら御の字って感じ?」

「流石に『芋蔓式』って訳にはいかない訳か」

「まぁ尻尾にせよ蔓にせよ、『次』のが生えてくるには時間が掛かるだろうから、暫くは大人しいだろうさ」

「……掴んだ尻尾がヒドラじゃなきゃ良いけど」

「それって怪物の方?それとも秘密結社?」

「どっちもよ」

「ビス子にとっちゃ、どっちも因縁あるしねぇ」

 

話が在らぬ方向へ逸れそうだったので、ふと思い出した事を口にする。

 

「……そういえばサエカ、逢いたがってた『彼』には逢えたの?」

 

 

 

 

 

 

瞬間、執務室の空気が止まった。

 

 

 

 

 

 

「あ、あら?」

 

執務室内の空気の急変に、ビスマルクが目を白黒させる。

 

「あー聞くかー、ここで聞いてまうかー、本人の熱りが冷めるまで暫く放置安定や思てた事をー」

 

やっちまった、と額を叩く龍驤に、ビスマルクがきょろきょろと周りを見やる。

 

「え、え?」

 

 

ふと、ナニカの圧力を感じて、振り向くと―――

 

 

「……ふひひ♪」

「気持ち悪!?」

 

なんだか良く分からない笑みを浮かべた冴香がいた。

 

 

「ビス子ちゃん、聞きたい?タカ君の事、聞きたい?」

「あ、いや、別にそこまででは」

「も~、しょうがないなぁビス子ちゃんは~」

 

 

―――どうしよう、会話にならない。

 

 

「具体的にウザいわねコレ」

 

つい思考が口から洩れた。

いけない、一応こんなんでも提督なのだ。こんなんでも。

 

「まぁ将来近からぬ仲になるかもしれないし?教えてあげようじゃないか」

「いま割と望み薄な未来像を違和感なく浮かべたで。メンタルほんまチタンやな」

「諦めましょう、これは聞かないと話が進まない感じです」

 

何やらごそごそと書類を取り出す冴香を横目に、ビス子達はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、という訳で此処に彼の事を纏めた資料が在る訳だけども」

「……いやコレって査察の報告書類よね?機密書類なんじゃ」

「コレは私が別口でタカ君の事を『個人的に纏めた』物だから上への提出義務はないよん」

 

そう言ってぽすぽすと書類を叩く冴香。

だが、個人の情報を纏めたモノにしては、少々量が多い気がする。

 

「個人的……それにこの量……これってストーk」

「ビス子、アカンで。それ以上は放置安定や」

「ほ、ほうち?」

「速い話が『見なかった事にしよう』やな」

「え、でもこれは流石に」

「え、え、な?」

「J、Ja(ヤー)!」

 

 

 

 

気を取り直して、最初の何枚かを斜め読みしつつ、ビスマルクが呟く。

 

「神林貴仁……階級は大佐……いち提督として見た感じは『普通』の将校よね」

「南西諸島海域を少ない被害で突破したとありますが……」

 

場の流れで一緒に見ていた大淀が呟くが、同じく一緒に見ていた龍驤が肩を竦める。

 

「あっこ……特にカムランとバシーの羅針盤は基本運まかせや。

 提督がどう、ってモンやない。たまたまやろ」

「艦載機運用艦が編成されていると羅針盤の取り方に違いがあるって報告も出てるけどねー」

「でもそれって水母や軽空母にも適用されるやつだろ?

 索敵や制空の重要性知ってたら意図的に編成から抜くって事は無いだろうから、結果オーライって感じか?」

 

冴香と摩耶も混じり、議論は続く。

 

「水母や軽空母なら比較的少ない資材で建造できますからね。早い段階での加入も可能です。……まぁ建造の引きや運もありますが」

「彼の引き運?多分良い方だと思うよ。早い段階で『加古』と『北上』作れてるから」

「……何故彼の建造履歴を知っているのかしら?」

「彼の艦隊の子達を新しい順にソートかけただけだけど?」

「いや、そういう事ではなくてね?」

「アカンでビス子。そこも『見なかった事にしよう』や。『そっとしておこう』でもええ」

 

 

……付いて行く司令官間違えたかしら、とビスマルクは思った。

 

でも良く考えてみたら、結構頻繁に似たような事を考えているような気がした。

 

じゃあもうきっと手遅れなんだろうな、と思った。……不思議と悲壮感はなかった。

 

 

―――順調に、此処の空気に順応し(毒され)ていくビスマルクであった。

 

 

 

 

 

「索敵装備を重視……撤退のタイミング……

 情報重視の現実主義者(リアリスト)タイプでしょうか」

 

ぽそりと呟いた大淀の言葉に、冴香の口角が上がる。

 

「大体合ってると思う。彼の性格もあると思うけどね。

 良く言えば慎重……悪く言えば臆病なとこあるから」

「成程……だからこのタイミングの撤退ですか」

 

大淀の言葉に、龍驤が首を傾げる。

 

「撤退のタイミング……?あー、大体中破艦が出たら撤退しとんなぁ」

「ちょっと消極的な気もするけど……まぁ沈むまで進める様な提督よりはマシね。

 でもなんで『現実主義(リアリスト)』って評価が出るのかしら?」

 

今一つ話の読めないビスマルクに、冴香が『例えばさ』と資料を指差す。

 

「其処にタカ君の艦隊に所属している子達のリストが在るでしょ?」

「そうね、そこそこ練度の高い艦も居るわね」

「んで、その中にいる『赤城改』と『北上改』の二隻が、ビス子と艦隊戦したとするじゃん」

 

改めてその二人の情報を見る。

艦隊内でも高い練度を誇る二隻。間違いなく、神林艦隊の『主力』である。

 

そして、今の冴香の言い方であるならば、恐らく……

 

「二対一での艦隊戦……?それは苦戦しそうね」

「其処で苦戦で済ますビス子は流石だと思うよ。でもさ―――

 その二隻が二隻とも『中破』状態だったとしたら?あ、勿論ビス子は無傷で」

 

冴香の言葉に、ビスマルクが眉を顰める。

 

赤城は正規空母。中破で砲撃戦における航空攻撃が不可能になる。

北上改は雷巡。同じく中破で雷撃戦が不可能になる。

そもそも中破では攻撃力が低下する。

北上改の開幕雷撃にも影響か出るだろう。

 

「……まぁ、幾らかは良いの貰うかもしれないけど……負ける気はしないわね」

 

制空権と開幕雷撃が多少怖いが、それさえ凌げれば良いし、それが出来ないとも思わない。

例え其処で自分が『中破』になったとしても、砲撃戦で戦艦の自分が雷巡の北上に『撃ち合いで負ける』事は無いだろう。

航空攻撃をしてこない赤城は正直どうとでもなる。

 

「……と、まぁこのように『中破進撃』は場合に依っちゃぁ『詰み』になる訳だね」

「でも、回避に徹して夜戦まで持ち込めば、中破しとってもワンチャンあるやろ?」

 

龍驤の反論に、冴香は肩を竦める。

 

「其処はまぁ、彼の性格だね。彼は戦場での過剰なプラス思考を求めない。

『上手く行けば』『火事場の何とやらで』『奇跡が起きる』……彼はそんな思考を嫌うんだ」

「また随分と後ろ向きね」

「程度の問題だと思うけどね。『実現困難なプラス思考』は『ただの妄想』と大差ないし。

 勿論常にマイナス思考……という訳じゃないよ。そんな思考は手も足も止める。

 只々、手元にある札を見て、其処からあらゆる事態を想定し、常に『最悪』に備える」

「口で言うのは簡単だけど……」

「まぁ実際、かなりキッツいと思うよ。私だったら絶対しないもん」

 

冴香の言葉に、ビスマルクが眉を顰める。

 

『貴女の『千里眼』も大したものだと思うけど』

 

とは言わないでおいた。

 

 

「それと、艦娘達へのケアも兼ねてると思うよ?」

「艦娘達の……ケア?」

 

冴香の言葉に、ビスマルクが首を傾げる。

 

「まぁ単純に『気分の問題』って話なんだけどね。

 ねぇビス子。勝ち戦して帰る時と、負け戦して帰る時。どっちが気分が軽い?」

「それはまぁ勝てた時よね」

「勝っても負けても、結局資源は喰う訳さ。中破で進めば、純粋に『競り負ける』可能性も上がる。

 無理して進んで負けて、挙句資材も多く使うって……気分悪いじゃん?」

「まぁ……確かに」

「周りの面子もさ、勝ち戦で帰るんなら純粋に中破した子を心配するでしょ。

 でも其処で進めてもし負けてみ?先に中破してた子は明確に『自分が足を引っ張った』て分かっちゃうじゃない。

 普通に戦って負けたんならまだしもさ」

「……そう言う考え方もあるわね」

「ナイーブな子も多いからね。内側にため込む子も少なくない。

 どこぞの龍姉妹の片割れみたいに、真っ直ぐ馬鹿な子ばっかなら楽なんだけどねぇ」

 

書類を捲りつつ、どこかの誰かを思い浮かべたのか冴香がけらけら笑う。

 

「まぁ負けて帰るっていうある意味『負け癖』みたいなのを避けるって意味でも、悪くは無いよ。

 実際、トータルの出撃時の勝率は高水準だしね。その辺低いと、海域攻略に影響出たりするから」

「……色々考えている方なんですねぇ」

「器用に不器用にね。全く、要領が良いんだか悪いんだか」

「……と言うか、まるで私達を人間みたいに扱うのね」

 

ビスマルクの呟きに、冴香は肩を竦める。

 

「そりゃまぁ、それしか知らないからねぇ。そっち寄りの思考になるさ」

「それしか、知らない?」

「いっそ戦争を知らない『素人』だったら、艦娘に対して『そういうもんだ』って割り切れたかもしれないけどね」

「彼は元から軍関係者なの?」

 

冴香の言葉に、ビスマルクたちが首を傾げる。

 

「彼は叩き上げの軍人だよ。詳しい事は知らないけど、陸軍で色々やって来たみたいだから」

「……サエカの情報網でも詳しく調べられないの?」

「単純に、情報を持ってる人間が少ないんだよ。

 ……知ってる事と言えば、『陸軍の特殊部隊出身』で『非合法的な事もやってた』らしい、って位かな。

 ついでに言うと、彼の『古巣』はもう解体されてるし、ぶっちゃけ生き残ってる『元同僚』もほぼ居ないから」

「中々ハードな経歴やな」

「人間は君達艦娘よりずっと『脆い』からね。そこはどうにもならない。

 彼は上司、同僚、部下……沢山の『戦友』を失った。

 だから、これ以上失いたくないんだよ、君達『艦娘(せんゆう)』をね」

「艦娘が戦友、ね」

「共通の敵を団結して倒してるんだ。間違いなく戦友さ」

「……その『甘さ』が、致命的な事態を生む、とは考えられませんか?」

 

ぽつりと呟かれた大淀の言葉に、苦笑しながら応える。

 

「さっきも言ったけど、彼は常に『最悪』を頭のどこかで想定してる。

 時には、『犠牲』が必要な場面もあるってことはわかってるさ。

 いま彼がそうしないのは……単純に『そういう戦局じゃない』って思ってるからさ」

 

彼は多くの戦場・戦局を知っている。

彼女たちを引かせているのは、単純に『そういう戦局だから』と思っているだけ。

 

冴香も軍人である以上、『やむを得ない犠牲(コラテラル・ダメージ)』と言う考え方も理解している。

しかし、それも時と場合によりけりだ。

 

少なくとも、現在の海域……鎮守府近海や南西諸島『ごとき』で『やむを得ない犠牲(そんなもの)』を出してしまうような男だったら。

 

きっと冴香は神林貴仁に惹かれなどしなかったし、恐らく彼女達もそうだったに違いない。

 

 

 

「で、そういうスタンスをとっているからかな……あそこの艦隊の艦娘、士気がくっそ高いの」

「まぁ正直な話、『沈ませず』に『勝たせてくれる』提督について行けるのは艦娘として幸運よね」

 

ビスマルクの言葉に、冴香は甘いと指を振る。

 

「いやいや、そんなもんじゃないよ。確かにビス子みたいな理由で慕ってる子もいたけど―――

 ここで言ってるのはもうちょっと『少数派』で『過激派』な方。あの子達は……ヤバい」

「ヤ、ヤバいって」

「ぶっちゃけドン引いたもん。この私が」

「そ、それは相当ですね」

「……大淀、今の発言若干気になるんだけど拾った方が良い?」

「あ、お気になさらず。続きをどうぞ」

「……まぁいいや。とにかく、あの子達の彼への感情の向け方は凄い、と言うか、酷い。

 本当に―――全身全霊の、全力投球なんだよ」

 

 

 

―――ただ、ただ、私達の全ては、あの方の為。

―――他でもない、あの方の為。この身を捧ぐ、あの方の為。

―――私達を導いて下さる、あの方の為に!私達の出来得る限りの、全てを!

 

 

 

改めて思い出して、ぶるりと震える。

 

感嘆も呆れも遥かに通り越して、薄ら寒さすら覚えた、その狂気染みた彼への忠誠心。

 

何より『自分達の全ては彼―――神林貴仁の為に在る』と、彼女達の魂が、決め付けてしまっていた。

 

 

 

「たまに居るんだよねぇ……強烈に艦娘を惹き付ける、妙な『カリスマ』みたいなの持ってる人。

 ああいう所に居る艦娘って、皆目がマジなんだもん。

 んで、そういう艦娘が決まって高練度なもんだからホント怖い」

「あぁ、アレは凄かったな」

「摩耶もそう思うでしょ?いやー正直、あの時煽り方間違えたらえらい事になってたわー」

「解ってて煽ってきたんか?」

 

呆れる龍驤に、苦笑で応える。

 

「んー最初は彼への忠誠心をちょっと探っとこう位にしか思ってなかったんだけどね。

 奥に居た戦艦組がまだ冷静だったから良かったね。あの子達はそれなりに察して静観する気だったみたいだから」

 

というか、『あの時』居た戦艦組(特に扶桑)が動いてたら、正直摩耶と雪風だけじゃどうにもならなかった。

あれで更に空母の『彼女』が居たかもしれないと思うと……もう、本当に運が良かった。

今になって思えば、あの時乱入してきたのが『天龍』でホント助かった。彼女には今後足を向けて眠れない。……舞鶴の方向どっちだっけ?

 

「あ、アフターケアはしてきたから苦情はこっちには来ないよ。

 それに中々熱い『ホットライン』も作れたしね」

 

そう言って、何やらゴツめな端末を取り出す冴香。

 

「……それは?」

「宮林家御用達、特別製の通信端末。勿論、盗聴等の対策済み」

「またけったいなモン用意したなぁ」

「因みに中に入ってる連絡先は一個。相手は舞鶴鎮守府に居ます」

「完っ全に固定回線だな」

「持ち運び可能で盗み聞きもされにくい、ね」

「で?誰に持たせたんですか?神林提督……じゃぁないですよね」

「有り体に言えば……恋敵?」

「うわ、あいつに渡したのか……」

「ていうか多分タカ君コレのコト知らないよ?下手したら機密ダダ漏れだし」

「……いいの、それ?」

「だから、極秘回線なんだって。ね、ホットでしょ?」

「ホット過ぎてウチらに飛び火しそうなんやけど?」

 

頬が引き攣っているビスマルクと龍驤を手で制す。

 

「実際に使うことはそうないと思うよ。

 それに、『彼女』がタカ君の不利益になる様な事するとは思えないし」

「ホンマに大丈夫なんか?いらん揉め事は堪忍やで」

「だからだいじょーぶだって。まぁ、龍驤達はあの子に会ってないから不安だとは思うけど……摩耶はどう思う?」

 

冴香の振りに、肩を竦めて応える。

 

「……まぁ、アイツなら大丈夫だろ。アタシが保証する」

 

アイツ―――扶桑が冴香に対して良い感情『だけ』を持っているとは言えないが、こと『神林貴仁』が絡んだ扶桑の行動は信用に値する。

 

『というかむしろ、こっちが変な話振らないように気を付けねぇとな』

 

まず無いと思うが、冴香が神林の『不利益』になるような事を振った場合、『どうなるか』は想像に難くない。

 

恐らく、扶桑はその件をあっさり神林に話すだろう。自身が受けるであろう処罰を理解して。

最悪、『同志』を引き連れて横須賀に『お話』をしにくる可能性すらある。

 

尤も、冴香自身も神林に不利益になるようなことをするとは思えないので、杞憂だろうが。

 

 

「摩耶がそういうんなら、大丈夫か」

「摩耶さんがそう仰るのなら……」

「マヤがそういうんなら、問題ない、か」

 

 

 

 

「ねぇねぇ君たち、私と摩耶での対応、随分違くね?」

「「「だって冴香(冴香さん)(サエカ)だし」」」

「……私だって、傷付くことは、あるんやで?」

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します、冴香さんはいますか?」

「潮ちゃんか。居るから入っといでー」

 

 

諸々の話を終えて雑談していると、潮が大きめな箱を持って執務室に入ってくる。

 

「えっと、ここ数日で届いている信書……の中でも『優先度が低い』と分けられた物になります」

 

そういって箱を机の上に置く潮。

因みに仕分けたのは大淀で、『優先度の高い』ものは先日の徹夜で処理済みである。

 

「ありがとねー。

 えっとまずは……『観艦式』の日程に式次に……大淀ー、これ私って出席にしてたっけ?」

「えぇ、出席にしてあったかと」

「うへぇーめんどくさいなぁ。適当に理由付けてぶっちしない?」

「政(まつりごと)には出来るだけ参加するんじゃなかったか?」

「つい最近まででっかい政してたじゃんかー。だれか知り合いがくるってんならまだしもさー」

 

書類を捲りつつ渋る冴香に、大淀が『そういえば』とつぶやく。

 

「神林さんは、出席なさるんでしょうか」

 

神林、の単語に冴香がピクリと動く。

 

「……多分来ないんじゃない?タカ君って政治染みた事嫌いだから」

「しかし、大佐になられたんですよね?

 さらに古賀大将の部下……となると、連れ出される可能性も高いのでは?」

「新進気鋭の大佐……まぁ、顔を出す理由にはなるな」

 

大淀と摩耶の言葉に、冴香が無言で通信を繋ぐ。

 

「……あ、もしもし扶桑?あのさ、タカ君って今度の観艦式って出席するの?する?ん、ありがとー」

 

通信を切り、大淀に告げる。

 

「よし、ちゃんと出席しよう。今から準備しないと」

「待て。ちょっと待て。色々言いたい事が」

「……摩耶、これも『そっとしておこう』案件にしとこ?」

「というか、観艦式って来月ですよね?」

「それも『そっとしておこう』やな」

 

 

 

「んで、次はー……またか」

 

そう言って顔を顰めた冴香が手に持つ紙を放り投げる。

 

「これは……見合いの釣書、やな」

「まぁ、冴香さん外見『は』良いですからねぇ。宮林家の息女でもありますから」

 

ついでに言うと既に兄が宮林家の家督を継いでいて、冴香は末の妹である。

そう考えると、それなりに魅力的な物件なのだろう。

 

「あらサエカ、お見合いしたりするの?」

「ちょっと前までは家の付き合いもあるし、何回かは出てたんだけどねー」

 

ビスマルクの問いに答える冴香の表情はひたすら苦い。

 

「ぶっちゃけ私に『その気』がないし、相手の鼻息が荒すぎて更に萎える」

「あー、そんな感じだったな」

 

以前護衛として同席した摩耶がその風景を思い出して苦笑する。

政略結婚を意識している相手が、冴香の様な若い美女、とくればそれはテンションも上がるだろう。

 

「いや、私の立場は分かってるんだよ?

 でもさー、なんかさー、あれはない」

 

何より冴香の『個性』は強烈に過ぎる。

はっきり言って『普通』の家庭を築けるとは思えないのだ。

 

「まー今回も無難に『弱い男には興味ないからルーデルさんかヘイヘさんか舩坂さんに生まれ変わって出直してきやがれ下さい』って断っといて」

「それ無難か?」

「まぁ軍人としてはある意味分かりやすい指標ですよね」

「しかし冴香より強い男っていうとそれこそ神林……あ」

 

再び湧いた『神林』の単語に、冴香が反応する。

 

「……タカ君がどうかした?摩耶」

「い、いや、別になんでも」

「……言おっか?」

 

ぬるりと漏れる威圧に、冷汗を流しつつ摩耶が答える。

 

「か、神林提督には……見合いの話とか、来てねぇのかな、って」

「……タカ君が……お見合い?」

 

そう言って、再び通信機に手を伸ばす冴香。

 

「あ、もしもし扶桑、たびたびごめんね?

 あのさ、タカ君に見合いの話って……あ、来てない、うん、あ、はい、はい、すんませんしつれいしまーす」

 

通信機を置く冴香。若干部屋の温度が下がった気がしたが気がするだけだろう。

通信機からナニかよくわからないナニかが漏れ出していた気もしたが、きっと気のせいだと信じたい。

 

「……よし。次」

「……龍驤」

「まぁ、これもアレやな、案件や」

「案件が増えるばかりですね」

 

 

 

「んで、最後は……あ、兄さんからだ」

「兄……って確か」

「うん、今は佐世保で査察官やってるんだけど……」

「もしかして、重要な案件でした?」

「いや、ちょっとした近況報告。近々また転勤するかもだって」

「最初が呉で……次が大湊、佐世保の順だったか?多いなぁ」

「まぁ優秀な人だからね。何処の鎮守府や泊地でも引っ張りだこなんでしょ。

 尤も、此処まで多いのは異例だろうけどね」

「基本的に異動は無いですもんね」

「所属艦隊も移すからねぇ。まぁ、兄さんは査察官一本で身軽だし……ん?」

 

手紙を読み進めていた冴香の目が、とある一点で止まる。

 

「冴香、どうかしたか?」

「ん?いやー、なんか、面白いことになるかもしれない。

 というか、事の運びによっては面白いことに出来るかもしれない」

「……どういう事や?」

「兄さんの転勤が本決まりしたら、ちょっとある子を預かることになるかもしれない」

「ある子?」

 

 

首を傾げる摩耶達に、小さく笑う。

 

 

 

「そう、可愛い可愛い―――――恋敵を、ね」

 

 

 

○おまけ

 

「そう言えば元ネタドイツだっけ?秘密結社の方」

「あのシリーズってドイツの風当たり強いのよね」

「……まぁ、元がアメリカだからねぇ」

「居ないことは無いのよ?ドイツ出身のヒーロー」

「え、いたっけ?そんなん」

「ナイトクロウラーっていうの。知ってる?」

「あーいたいた!あの……何か……黒いの!X2に出てたよね、そこそこ重要な役で」

「そういえばサエカの好みってやっぱり社長よりキャップなの?素で強いし」

「あー、まぁ、どっちかっていうと、って感じ?」

「なんや、社長かっこええやろ」

「え……龍驤、社長の方が好みなの?」

「あの『作って戦う』って感じがええな。ウチも艤装や装備使うし」

「……今の言い方で言うと、『エンジニア気質』の方が好み、とも取れますね」

「あれ、そういえば最近、龍驤って工廠に良く出入りして……ほう?」

「な、なんや?」

「いや、もしかして工廠に龍驤の『社長』がいるんじゃないかなーって」

「な、なにいうて」

「ねー大淀ー。龍驤の担当エンジニア君の名前って調べられる?」

「ちょぉ!?」

「ハイビンゴ」

「あ………」

「さて、皆も龍驤の恋バナ聞きたいよねー?」

「か、堪忍y」

「まぁまぁそう言わずに!よーし今夜は寝かせないぞ!さぁ酒だ!酒を持ってこい!」

「駄目ですよ冴香さん」

「お、大淀……!信じてたで!」

「まだ定時前です。終わり次第、間宮さんに用意していただきますので」

「四面楚歌やった!?あ、アカン、ちょっちピンチ過ぎや!」




今回は(も)会話ばっかで解りにくかったですかね?
何とか喋り方でキャラを立てようと思ったんですが……難しいものです。

そんな訳で又色々と伏線を立ててしまいましたね。
まぁ元々のプロットにあった事ですので、きちんと回収いたします。

因みに筆者もキャップより社長が好きです。まぁ仕事がエンジニアってのもありますが。
なお、おまけの会話も今後書く予定の龍驤メインの短編に繋がりますので、お楽しみに。

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