鎮守府の日常   作:弥識

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皆さんお元気ですか、筆者です。

最近、リアルがヤバいです。

家族が増え。
仕事が増え。
付き合いが増え。
やる事も増え。

でも収入は据え置き。

自身の精神衛生上、月に一回は更新したいんですが、ギリギリです。
でも多分、月一更新出来なくなったら筆者の何かが折れます。根元から。
何とか折り合いをつけていきますので。


さて、今回で本当に『舞鶴査察編』が終了です。
今回も冴香さんが頑張ります。

筆頭秘書艦ってなんだっけ!?どうする扶桑!


英雄(ヒーロー)の条件:後編

結論から言うと、扶桑は冴香の事を別に嫌っているわけでは無い。

 

少なくとも提督としては有能であるし、やるべき事は最低限以上に熟している。

 

初対面こそ『一悶着』あったが、それはまぁ『それなりの思惑』も絡んでいたので、今となっては目を瞑ろう。

 

何より、彼女は強い。

『艦娘』である扶桑にとって『強い』と言うのは、それだけである程度の敬意を抱くものなのだ。

 

知略の面は勿論、冴香自身『腕っぷし』もある。

先日の勝負も、正直言ってあそこまで圧倒されるとは思っていなかった。

 

そして何より、『同じ男を慕う』と言うある種の『共感(シンパシー)』もあった。

 

 

勿論、思う所がない訳ではない。

 

冴香は、扶桑の知らない『神林貴仁』を知っている。

そう思うと、心が少しざらついた。

 

何とも分かり易い『嫉妬』だなと思う。

尤も、それを穿り返しても過去に起きたことがひっくり返る訳でもないので、折り合いを扶桑の中でつけるしかないと思っていた。

 

 

もう一度言う。

 

扶桑は冴香の事を別に嫌っているわけでは無いのだ。

 

 

 

 

「まぁだからと言って応援する気は欠片もありませんし応援してくれなんて恥知らずな事も言いませんけども

 と言うか確かに『貴女に任せる』とは言いましたよでも別れ際に頬に手を添えてからの首に抱き着きとかちょっとばかし攻めすぎなんじゃないでしょうか

 私だって抱き着いたことないのにあっ駆逐艦娘の中にはいるのかしら羨ましいはなしですよねって二人の顔が近い近い近い近い」

「ヘーイ扶桑?冴香提督が何やっても騒がない様にって言ったの貴女デスヨー」

 

 

 

 

―――別に、嫌ってるわけでは、無いのだ。

 

 

○扶桑のアレがアレな事になる数分前―――

 

 

諸々の準備をすべて終えた冴香達は、神林達の見送りの下、舞鶴を去ろうとしていた。

 

「この辺で良いよ。短い間だったけど、色々ありがとね」

「……俺は特に何もしていないよ」

 

鞄を片手にそういう冴香に、神林が肩を竦めて応える。

そんな彼の様子に、苦笑を一つ。

 

「そうそう、雪風の事なんだけど、そっちに送るのは多分来月以降になると思う」

「……了解した」

 

摩耶と共に迎えの車に荷物を載せている雪風を横目に見つつ、そう応える。

 

結局、雪風を舞鶴鎮守府で預かる事となった。

冴香と雪風の間でどんなやり取りがあったのかは分からないが、どうやら雪風もそれに肯定的だったようだ。

流石にそのまま舞鶴に置いていく訳にはいかないので、一度横須賀に戻り、諸々の手続きを経てから、となる。

 

「色々君に任せるとは言ったけどさ、気負い過ぎないでね?

 どんな結果になっても、君を責めたりはしないから」

「任された以上、最善を尽くすさ」

「そう?じゃ、期待しとく」

 

そう言って、小さく笑う。

 

「…………」

「…………」

 

暫く、無言の時が流れた。

 

先に折れたのは神林だった。

 

「………どうした?」

「気付いてないと思った?」

「何の話―――!?」

 

気付けば、神林の目の前に冴香が立っていて、頬に手を添えていた。

 

「驚いた?タカ君の動きを真似してみたんだけど……やっぱ上手く行かないや」

「…………」

「今、君が私に気付けなかったのは……こんなお粗末な動きで不意を突かれる位、君が『参ってた』からだよ。

 ―――神城さんの夢でも見た?」

 

冴香の言葉に、神林が目を見開く。

 

御見通しだよ、と小さく笑って、神林の目の下を親指でなぞる。

 

「薄くて気付き難いけど、隈になってる。只の寝不足で君が此処までになる事は無い。夢見が悪かったんだよね?

 で、ひっじょーに不本意だけど、『紗妃』の夢を見て君がこんな風になる事は無いからさ」

 

だから、消去法。そう言って、彼を見つめる。

神林が何かを言う前に、冴香が続けた。

 

「分かってるよ。君の過去は君だけの物だ。でも、私の過去は私だけの物だよ。

 神城さんとは、私も『色々』あったんだから」

 

そしてまた、暫くの沈黙。

今回も、先に折れたのは神林だった。

 

「……今でも、不安になる」

「うん?」

「俺は、あの人の望んだ未来の先に立てて居るのか?」

「未来云々は解らないけど、少なくとも、神城さんにとってタカ君は自慢の息子だったと思うよ?

 実際、そんな風な事言ってたし」

「と……神城さんが、そんな事を?」

「うん、随分前の話だけどね」

 

信じられない、と顔に書いてある神林を見て、何度目かの苦笑を一つ。

 

「君は自分の評価が低すぎるんだよ。もっと自分の成し遂げて来た事に自信持ちな?」

「しかし、俺は」

「伊達や酔狂で『桜花』貰えると思ってんの?過程や周りの思惑はどうあれ、アレは君の『頑張った証』だよ」

 

それでも納得出来ない。そんな顔の彼に業を煮やした冴香は、此処でもう一歩、踏み出すことにした。

具体的には、彼の首に抱き着いた。

身長差の関係で若干神林が前に倒れ込む形になり、冴香と神林の頭の距離がほぼゼロになる。

 

 

視界の端で、某航空戦艦の目のハイライトが無くなっていたが、無視する。

一応『許可』は取ってあるのだ。特に問題あるまい。

 

 

そうやって、二人にしか聞こえないような声で囁いた。

 

 

「英雄(ヒーロー)の証って、何だと思う?」

「英雄の……証?」

「そう。証明、条件と言っても良い」

「それは……偉大な事をした、とかじゃないか?」

「偉大な事って?」

「だから、周りに賞賛される様な」

「そう。『英雄の証』ってのはさ、『自分で示す』物じゃないんだよ」

 

 

―――例えば、誰かが『悪の親玉をぶっ倒す』みたいな、『偉大な事』をしたとして。

 

その倒した誰かが、『自分は英雄だ!』と言うだろうか?

違うだろう?

其れを見た周囲が、『あの人は英雄だ!』と言うのだ。

 

 

―――例えば何故、誰もが幼い頃に『ヒーローになりたい』と言う想いを抱くのか?

 

それは『あの人はヒーローだ』と『思える』存在を知ったからだ。

 

 

 

 

「君は『自分は英雄じゃない』って言うけどさ、其処に『誰かの評価』は入ってない。

 そして『誰かの評価』っていうのは、『君が決める』事じゃないだろう?」

 

 

ある人が『あの人は英雄だ』と思ったとして。

 

其処に明確な『基準』は存在しない。

 

その人が『そうだ』と思ってしまえば『そう』なのだから。

 

 

 

極端な話。

 

傷ついた少年の肩に上着を掛け、『世界の終わりじゃない』と励ました存在がいたとして。

 

その存在は、きっと少年にとって『英雄(ヒーロー)』だから。

 

 

 

 

「タカ君だってなれるよ。きっと」

 

 

そう言って、小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――私ね、この世界が嫌いだったんだ。

 

 

『異常者』である自分にとって、この世界は窮屈で退屈だった。

かと言ってこの世界を壊そうと思うほど狂う事も出来ず。

 

やっと見つけた『同類(りかいしゃ)』は、何とも呆気なくこの世を去ってしまった。

 

 

―――でも、君に逢えた。

―――この世界も捨てたもんじゃないって、思えた。

―――私にとって、それは『奇跡』みたいなもので。

―――そんな奇跡を起こしてくれた君は、私にとって『英雄(ヒーロー)』なんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

○神林提督執務室

 

「本当に、嵐の様な方でしたね」

「……そうだな」

 

冴香を見送った後、諸々の衝撃から再起動した扶桑と共に神林は執務室に戻っていた。

扶桑の言葉に、相槌を打つ。

 

そんな神林の様子に、扶桑は胸に痞えていたある疑問をぶつけてみる事にした。

 

「結局、どういった方なんでしょうか」

「……どう、とは?」

「提督にとって、あの方……宮林冴香提督はどう言った方なのでしょうか?」

 

要するに、こういう事だ。

 

―――貴方は、冴香さんをどう思っているのですか?

 

扶桑の言葉に、珍しく虚を突かれたような顔をした後、「フム……」と言って目を閉じて腕を組む。

 

 

「どう、か……説明が難しいな」

 

首を捻り、頭に浮かぶ単語を整理しつつ、言葉を並べる。

 

「外見……は悪くないが、性格に難が有り過ぎる。

 突然嵐の様にやって来たかと思えば、決まって厄介事を持ち込んでくるのも参るな」

 

だが―――と続ける。

 

「何故かは解らないが、舞鶴に居る提督の誰よりも信頼出来るし、している。

 これまでは、それで十分だった」

 

そう言って、窓を見る。

 

「好きかどうかは解らない。別に嫌いではないのは間違いないんだが。

 あぁ、でも―――」

 

 

 

「取り敢えず終わったな、冴香」

「そーだねー」

 

帰りの車の中で、摩耶の呟きにおざなりに返す。

 

視線は窓の外。何を見るでなく、ただ流れる景色を眺めていた。

 

隣でうつらうつらと船を漕ぐ雪風を横目に見つつ、摩耶は「そういえば」と気が付く。

 

「で、結局どう思ってんだ?」

「どう、って……何が?」

「あの人の事をどう思ってるのかって話だよ。

 何だかんだで、アンタの口から直接聞いてなかっただろ?」

 

そうだっけ、と返す冴香に、そうだよと返す。

 

「ぶっちゃけた話、めんどくさい人だと思うよー」

 

窓の外に視線を向けたまま、気だるげに呟く。

 

「確かに外見は良いけどさ、性格がめんどくさいよね。めっちゃくちゃ頑固だし。

 私の言い分素直に聞いた例がないもん。結婚したら絶対苦労するよね」

 

なーんであんなのに目ぇ着けちゃったかなーと呟く。

 

「勿論、好きか嫌いかで言ったら大好きだよ?私より強いし。

 この世界のどの男よりも信頼してるし、何かあった時には真っ先に『味方に引き入れよう』って思ってる。

 でも、どっかで『勝負してみたい』って思っちゃっても、いるんだよねぇ」

 

困ったもんだ、と笑う。

 

「要するに、言葉では説明しきれないんだよ実際。

 まぁでも―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし、冴香(タカ君)に二度と逢えなくなったら……俺(私)は身を裂かれる様な痛みを感じるんだろうな(ね)」




一先ず『舞鶴査察編』終了です。いやー長かった。

長かった話ですが、結局書きたかったのは最期の『英雄(ヒーロー)の証』の行だったり。
『傷付いた少年に~』って部分は、とある映画でとあるヒーローが言っていたセリフです。

ここまでやっといて何で二人をくっつけないのか、と思っている方もいるとは思いますが、これが仕様です。

何となく、くっ付いたら話が終わっちゃう気がするんですよね。私の中で。


さて、これから暫くぶつ切りな日常編に戻ります。
何時ぞやに書いていた、特定の艦娘にスポットを当てたものも書くと思います。

お楽しみに。


追伸:以前書きましたが、感想受付を『非ログインでも可能』に変更しました。何か思う事がある方は、どうぞ。

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