鎮守府の日常   作:弥識

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秋のイベント始まりましたね。

サンマ祭りは何扱いなんでしょうか?
私は育成と浦風掘りも兼ねて、1-5を周回してました。
木曾っち(Lv48)の一戦目・開幕大破率がやばかったです。君ってそんなに運&回避低かったっけ?
時雨ちゃん(Lv50)は兎も角、不幸妹さん(Lv66)やヒャッハーさん(Lv51)ですらそこそこ避けるのに。
あ、仕様ですかそうですか。

因みに夏イベはE2丙クリア止まりでしたが、雲龍、瑞鶴、瑞鳳と空母勢をキッチリ引けたので割と満足です。
今回はどこまで行けますかね。

さて、後編です。
例の如く独自解釈のオンパレードですが、一応違和感が無い程度には纏めた心算です。
と言うか、ゲーム内の設定もフワフワしたトコばっかりなんですよね。公式小説やアニメでも解釈が微妙に分かれてますし。
納得できない方もいるかとは思いますが、ご了承ください。


そして内側に:後編

扶桑は緊張していた。

 

出撃からの帰還中、神林から連絡があったのだ。

 

 

曰く、『重要な話があるので、執務室に【一人で】来るように』と。

 

 

……いや、うん。まぁ、『そういう話』では無いとは思う。

 

コレはあくまで勘だが、何と無く、横須賀のあんちくしょうが絡んだ何かしらの何かだと思う。

あまりにも言葉が少なかったので、情報も何も無いが。

 

だが、しかし。それでも。

 

……ちょっと位は期待しても、バチは当たらないんじゃなかろうか。

 

扶桑だって、神林への感情をそれなりに理解しているのだ。

横須賀のあんちくしょうの発破が切っ掛けだというのは癪だが、そこは目を瞑る。

 

といっても、あまりに期待しすぎると、多分上手くいかない気がする。

自分の運の無さは自覚している。希望的観測は、良くない。

 

でも、あぁしかし。でもでも。

 

 

そんな風に頭の中で『でも』と『しかし』がグルグル回って、若干ゲシュタルト崩壊しかけてきたその時。

何だか妙なスイッチが入ったらしい扶桑の脳裏に、ヒゲ面の妖精が浮かんできた。

 

 

 

―――ナニ扶桑?

―――神林提督ノ話ガドンナ内容カ分カラナクテ不安?

―――扶桑、ソレハ

―――話ノ内容ニ拘リ過ギテイルカラダヨ

 

―――逆ニ考エルンダ

 

―――「内容ナンカドウデモイイヤ」

 

―――ト考エルンダ

 

 

 

そう言って、ヒゲ面の妖精は何処かへ消えていった。

 

 

 

『……何でしょうか今の』

 

 

まぁ良い。

いやよくないし色々思う所はあるが、とりあえず『疲れているんだな』と思う事にする。

後で間宮さんの所に行こう。

 

彼に呼ばれている以上、扶桑が執務室に行かない理由はないし、どんな内容の話だって聞く心算だ。

そう、話の『内容などどうでも良い』のである。

大事なのは扶桑に『しか』話せない、それだけだ。

 

つまり、それだけ自分は信頼されているという事。

 

何と無く、扶桑の脳裏に『完全勝利』のBGMが流れた。勿論自分がMVPである。

 

執務室の扉の前に立つ。さぁ、後は戦果報告を聞くだけだ。

ノックをして、扉を開ける。そして―――

 

 

「やぁ!」

「……ですよね(・谷・)

 それで、今度は何ですか?」

「出会い頭にご挨拶だなぁ君は!?」

 

冴香の顔を見て、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

「うん、やっぱり扶桑の淹れるお茶は美味しいねぇ」

「……筆頭秘書艦ですから」

「まじでか。筆頭秘書艦すげぇな」

 

 

 

一先ず話のさわりのみ聞き、扶桑はお茶を用意することにした。

その際、『あ、君入れて四人分お願いね』と冴香に言われたので、その通りにする。

 

用意したところでソファに促されたので、冴香・摩耶と向き合うように、神林と共に座った。

 

「……それで、話と言うのは?

 先日の雪風の件、というのはお聞きしましたが」

 

冴香の世辞をやんわりと受け流し、話を促した。

 

「ま、そうなんだけどね。

 因みに扶桑は、今回の件の一部始終を知っている、と思っていいのかな?」

「えぇ、そう思っていただいて差し支えありません」

 

冴香の問いに頷く。

 

現場には居なかったものの、事の次第はその場に居た響から報告を受けている。

 

雪風の監視、という名目で神林艦隊の艦娘を充てる以上、秘書艦である扶桑の耳には入れておく必要があったからだ。

扶桑としても雪風に思う事はあったが、他でもない神林が不問、及び緘口令を敷いている以上、扶桑に異議はない。

 

「そっか。

 んじゃ、その雪風が『訳ありの初期化個体』ってのも知識として追加しといてね?」

 

冴香の言葉に、扶桑の眉が僅かに動く。

 

『初期化個体』そのものは別に珍しいものではない。

実際、神林艦隊にも何人かは存在するし、扶桑も把握している。

『訳ありの』という単語に多少引っかかったが、どの道それに付いても冴香から説明があるだろう。

 

冴香と交流する内に、彼女が『何かともったいぶる言い方をする』のは理解している。

それが本当に話すべき事で有る限り、待っていればその内話す、とも。

 

「そうでしたか。了解しました」

「随分と淡白な反応だね。もしかして気付いてた?

 それとも、何か思う事でも?」

「私は舞鶴神林艦隊所属艦娘です。横須賀の宮林提督がどんな艦隊運用をしようと、私に意見する権利はありませんので」

「そりゃまぁご尤も」

「彼女は『訳あり』。今の私にはそれで十分です。

 ……それについても、此処で話していただけるのでしょう?」

「成る程ね。ま、ちゃんと説明するから安心してよ」

 

冴香が楽しそうに笑った。

一口お茶を啜り、舌を湿らせた所で、口を開く。

 

「さて、ウチの雪風の『訳あり』の部分を話す前に……扶桑に一個確認しときたい事があるんだ」

「私に?……なんでしょうか?」

 

冴香の言葉に、扶桑が首を傾げる。

 

「扶桑は『同型艦』……あ、姉妹艦の山城の事じゃないよ?

 君と同じ……早い話、他所の艦隊に居る『扶桑』の事を、どう思ってる?」

「私以外の『扶桑』について、ですか?」

 

冴香の問いに、ふむ、と考える。

『扶桑型一番艦・戦艦娘扶桑』は、彼女一人では無い。

 

元々希少価値(所謂レア度)が低い事も相まって、扶桑は自分以外の『艦娘扶桑』をよく見る。

神林艦隊の中でも『建造』や『海域ドロップ』で『ダブる』のだ。機会は多い。

 

さて、それに対してどう思うのか……と考えてみて、一つの結論に至った。

 

―――割と、どうでも良い。

 

そう、思っていた以上に、思うところが無かった。

 

実際、手に入る全ての艦娘を囲っていたら、あっという間に艦隊はパンクする。

 

神林もその辺りはドライな物で、『ダブった』艦娘は割とさくさく改装素材にまわされている。

まぁ、艦隊の『上限』が有る以上、割り切ってドライにならざるを得ない、というのもあるのだが。

 

寧ろ、妹の山城の方が気に掛かる。

他所の艦隊で、酷い目に遭っていないだろうか、と。

 

其処まで考えて、扶桑は結論を冴香に告げた。

 

 

「限りなく自分と同じな『赤の他人』……と言った所でしょうか」

 

その答えを聞いた冴香は、小さく頷きながら笑った。

 

「うん、その言い方は言い得て妙だね。

 そう、君達にとって、自分と同じ艦娘は他人扱いなんだ。

 私は査察官として、色んな艦隊を回って、色んな艦娘を見てきた。

 沢山の資料を読んで、色んな『個性』の艦娘を見てきた。

 ……そう、艦娘には『個性』が在る。おんなじ艦でも、全然違う。

 例えば、私の艦隊にいる島風は私を家族のように慕わないし、

 タカ君のところの摩耶は、君に『メキィ』したりしないよね。」

 

そう言って、摩耶の方を見る。気まずそうにそっぽを向く摩耶をいとおしそうに見つめた後、『ね?』と言った。

 

「私は最初、艦娘の事は所謂『一卵性双生児』みたいなモンだと思っていたんだよ。

 で、後天的に『個体差』が生まれ、『個性』になる……って思ってた」

 

でも違ったんだよね。と冴香は続ける。

 

「とある鎮守府に、金剛しか居ない艦隊がある。

 『金剛型』じゃないよ?文字通り、『艦娘金剛』しかいない艦隊だ。

 最初見たとき、目を疑ったね!マジで金剛しか居ないの。正直引いたわ!

 さて、さっきの私の仮説を考えてみよう。

 そう、『後天的に個体差が生まれる』だね。

 このケースでは、後天的環境はある意味同じだと言っていい。

 だって、『5人目の金剛』と『6人目の金剛』の環境に、どれ程の差があるのさ。

 それを踏まえると、みーんな似たような『金剛』になってるって思った。

 でもね、其処に居た金剛達は、皆個性が合った。同じ子は、一人も居なかった。

 それこそ、外様の私から見ても違いが分かるくらいにね。つまり―――」

 

 

―――艦娘の個性は、後天的なもの『だけ』では無い。

 

 

「勿論、環境によって変わる事もある。でもね、それだけじゃなかったんだ。

 艦娘として生まれた瞬間に、彼女達には『個体差』がある。同じ艦でもね。

 つまり、タカ君の所の島風は他よりちょっと家族愛に敏感で、

 ウチの摩耶は他所の子よりちょっと暴りょkゲフンゲフン情熱的って事だね」

 

提督に手を上げるのを『情熱的』と言うのかはさておき。

 

「艦娘には先天的な『個体差』がある。勿論、その差は微々たる物だよ。

 ……でもね、たまーに、その『個体差』が他より大きい子が出て来るんだ」

「それが、あの『雪風』だと?」

 

神林の言葉に、冴香が頷いた。

 

「その通り。勿論、『突然変異』って程じゃない。

 他所の雪風よりってレベルだけどね」

「……具体的に、何が違うのでしょうか?」

 

扶桑の問いに、冴香が自身の米神をコツコツと突きながら応える。

 

「記憶だよ」

「記憶、ですか?」

「そう。あの『駆逐艦娘:雪風』は、『駆逐艦:雪風』だった頃の記憶が他の個体より多く残ってる。

 軍艦……つまり『物』に記憶が宿るのか?ってトコだけど、此処は八百万の神が生きる日本。

 『付喪神(つくもがみ)』なんて考え方もある、実際に覚えてた訳だしねぇ」

「……彼女の『先天的個体差』がソレだったとして。結果どんな『個性』になったんだ?」

 

神林の言葉に、腕を組みながら応える。

 

「一番目立つのは、やっぱり『死神』の言葉に拘る所……かな。

 多分、残ってる記憶に『偏り』があるんだと思う。ネガティブな記憶が多いんだろうね。

 心当たり、あるだろ?」

 

冴香の言葉に、頷き、続きを促す。

 

「それに、彼女の能力値その物も高い。何しろ、『奇跡の不沈艦』の記憶だ。

 ソレが彼女の能力に『上方修正』をかけてる。戦場の記憶が多い分、『鉄火場』にも強いしね。

 実際、『前の』鎮守府では所謂『エース』だったみたいだよ」

 

冴香の言った『前の』の単語に、神林がある事に気付く。

 

「おい、冴香。確か彼女の前任地は」

「うん、ブラ鎮だったね。雪風も、それなりに『後ろ暗い事』をやらされてたみたいだ。

 機密情報だから詳しく話せないけど、限りなくブラックに近いグレーな事もあったみたい」

「……胸の悪くなる話ですね」

 

ブラ鎮(ブラック鎮守府)と聞いて、扶桑の顔が強張る。

先ほど冴香に言ったように、艦娘である扶桑には他所の鎮守府の艦隊運営へ物申す権利は無い。

自分にはどうする事も出来ないとわかっていても、気分が良い物ではない。

 

「艦娘は、提督も鎮守府も選べない。それは変えようのない事実だ。

 辛い目に遭っている艦娘が沢山居るってのもまた事実。

 でも、そんな子達を一人でも減らすのが、『査察官(私)』の仕事さ。

 雪風が所属していたブラ鎮は、私がキッチリ潰しといたよ。

 ……まぁ、それで雪風が救われたのか、っていうのはまた別の話だけどね」

 

そう言って、冴香は温くなって渋味の増したお茶を啜る。

代わりを用意しようと腰を上げる扶桑を手で制す。気分の問題だ。

ソファに腰を下ろした扶桑が、怪訝な顔を浮かべる。

 

「雪風は、『初期化個体』になった筈です。

 全て、『覚えていない』のではないですか?」

「あぁ、覚えてないよ。前の鎮守府であった事は彼女の記憶から全部消した。

 ……でもね、『無くなった』訳じゃないんだよ。

 その鎮守府で沢山の艦娘が沈んだ事も、雪風がやった色々な事も。全部『記録』として残ってる。

 雪風は覚えてない。でも、そういう事があった事を覚えてる人はいる。……いや、忘れちゃ駄目なんだ。

 ……雪風も、ソレを望んでた」

 

冴香の最後の言葉に、神林が眉根を寄せる。

 

「雪風が……?どういうことだ」

「鎮守府を潰した時にね。彼女達に今後どうするかを聞いたんだ。

 早い話、解体されるか初期化されるか、ってやつ。

 ブラ鎮だったし、皆解体……艦娘をやめるのを選ぶって思ってた。

 実際九割九分の子達が解体を望んでた。でも」

「……雪風は、違った」

「そう。あの子は初期化を望んだ。

 最初は、ソレすら拒んで『全部覚えたまま何処かの鎮守府に行く』って言ってた」

「それは……」

「あぁ、原則不可能だ。問題しかない。

 そう言ったら、せめて艦娘として居させてくれってね。

 私の前で頭下げてさ。なんて言ったと思う?」

 

 

―――お願いします。雪風を雪風(しにがみ)のままで居させてください。

―――雪風(しにがみ)は、居なくなっちゃいけないんです。

―――沈んだ子達の分まで、戦わなくちゃいけないんです。

―――雪風は雪風(しにがみ)だから、沈んだ子達の分まで沈めなきゃいけないんです。

―――雪風は……沈む訳には行かないんです。

 

 

「……もう、あの子は色々ぐちゃぐちゃになってた。

 あそこまで『壊れた』子を見たのは久しぶりだったよ。

 ああいう子こそ、本当は『終わらせて』あげなきゃいけないのに。

 何より、あの子がソレを嫌がった。

 ……君になら、わかるだろ?」

「……あぁ、そうかもな」

 

 

そうだな、わかるよ。嫌と言うほどに。

 

 

―――この身に纏わり付く亡霊が、安らかな『終り』を赦さない。

 

 

 

「兎も角『初期化』は成功した。彼女は忘れてる。

 少なくとも、『古巣』であった事はね」

「古巣……つまり、それ以前のは」

「その通り。所謂『産れる前』の記憶はそのまんまだ。どういう訳かね。

 だから、こんな事になってる訳だけれども」

「……雪風の事情は理解した。

 それで、彼女を育てていない理由はなんだ?」

 

神林が、今回の本題に触れる。

 

「……有り体に言えばね、育てられないんだよ。……怖くてさ」

「育てられない……?どういう事だ」

「雪風を艦隊に迎え入れて、初めての出撃でね。

 彼女……『フラッシュバック』を起こしたんだ」

「何だと?」

 

 

【フラッシュバック】

強いトラウマ体験(心的外傷)を受けた場合に、後になって突然且つ非常に鮮明に思い出されたりする現象。

心的外傷後ストレス障害(所謂PTSD)や急性ストレス障害の特徴的な症状の内の一つである。

 

 

 

「そんな……!彼女の記憶は、消されたのでしょう!?」

「あぁ、そうだよ。雪風の記憶は間違いなく消した。転属前の検査にも異常は無かったさ。

 で、フラッシュバック起こした原因は『不明』ときたもんだ」

 

扶桑の問いに、「お手上げだわー」と半ば自棄に呟く。

 

「本人は何と?」

「当事者も良く分からないみたいなんだよ。前後の記憶もあやふやみたいだし」

「記憶……まさか彼女の『特性』が?」

 

腕を組んで考えていた神林が、一つの可能性を上げる。

そう、彼女の『他の個体より記憶が残る』という個性。

 

「一番考えられるのは其処ではあるよ。でも艦娘として生まれた『後』まで適用されるもんかな?」

「……あくまで、一つの可能性、か」

「と言うか、突き止めようがないんだよ。もし本当に記憶が残っているなら、ヘタに穿ると全部『戻り』兼ねない。

 もう一回『戻った』りしたら……今度こそ、雪風は壊れちゃう」

「だから、育てられない、か」

「情けないよね。拾い上げるって決めたのに、こんな扱いしか出来ないなんて」

 

願ったのは雪風だが、それを汲んだのは自分だ。

そんな自分が、彼女の事を壊れ物を扱うようにしか接する事が出来ない。

何となく、分かっては居るのだ。

 

―――自分には、雪風を救う事は出来ないのだ、と。

 

だが。それでも。思わずにはいられない。

 

本当に、どうにもならないのか?

冴香には無理だ。それは理解している。

 

では、もう手は無いのか?

 

 

 

「……ねぇ、今までの事を踏まえてさ、ちょっと提案があるんだけど」

「おい、冴香。まさかお前」

 

摩耶の制止する声が聞こえるが、今は無視する。

 

 

 

 

「タカ君……ウチの雪風を、預かってみない?」

「……一応、理由を聞こうか」

 

冴香の提案に、神林が眉間に皺を寄せながら応える。

 

「政治的な思惑で言うと、私の『息の掛かった子』を舞鶴に置いときたいってのが一つ」

「また随分と明け透けだな」

「今回の件で、相手方が割と手段を択ばないってのが解ったからね。

 舞鶴と……っていうか、君との間で『盗み聞き』されないラインを作りたいんだよ。

 こないだの件、間違いなく相手方にバレてるしね。警戒は必要だ」

 

こないだの件、と言うのは、先日遭った襲撃の事だろう。実行犯は排除したが、黒幕は未だ不明瞭だ。

 

「それと雪風の……まぁ、覚えてないだろうけど、彼女の『願い』を汲むには彼女を運用する必要があるんだけど、私には無理だから」

「……自分に出来なかった事を神林提督に押し付けると?」

 

険の混じる扶桑の言葉に、不快感を出すことなく応える。

 

「まぁ、そう捉われても仕方ないよ。自分の無能を棚上げしてる自覚はあるし」

「言い分は解った。だが……なぜ俺なんだ?地位や立場を踏まえると、古賀大将の方が適任なんじゃないか?」

「……雪風を迎え入れてからそれなりに経つんだけどさ。彼女って、どっか一線引いてたんだよね。

 私に対しても余所余所しかったし。でも、一人だけ、例外が居るよね?」

 

そう言って、神林を指差す。

 

「雪風は、君に銃を向けた。誰に対しても一線引いていたあの子が、君にだけは感情を向けた。

 これはあくまで私の勘なんだけど……多分、君なら雪風と『向き合える』と思うんだ」

 

 

そう、自分(冴香)には無理だ。

だが、彼なら。

彼女(雪風)と同じように、かつて『死神』と呼ばれた彼なら―――

 

 

 

「……お願い、出来ないかな?」

「……提督………」

「……………」

 

 

冴香や扶桑の言葉に、目を瞑って思考する。

 

ハッキリ言って、厄介事だと思う。断るのもアリだ。

雪風を抱える事で起こりうるトラブルのリスクはある。しかしリターンがない訳でもない。

 

冴香の言い分も判らなくもないのだ。

神林は政(まつりごと)が苦手だし、政争なども専門外だ。

『古巣』に居た頃の様に、只々ナイフを振り回していれば何とかなるような問題ではない。

しかし、今後そう言った話は確実に廻ってくる。そういう面に於いて、冴香は神林より何枚も上手だ。

 

先日の襲撃の件だって、自分がした事は襲撃者を蹴散らしただけである。

 

彼女が此方のフォローに付いてくれるとなると、神林としては古賀よりも頼もしいし、信頼できる。

 

だがそんな事より。何よりも浮かぶ事。

 

そう、雪風の事だ。

 

冴香と雪風に纏わる事情は理解した。

しかし、雪風の才能を感じて『惜しい』と思ったのもまた事実。

 

そして先日の執務室での件。

彼女の目を見て。想いの一端だけでも知った。

其れを踏まえて、このまま雪風を横須賀に戻し『腐らせる』のはどうにも気が引けた。

 

それが、偽善的な考えなのか、もっと別な『何か』なのかは、判断できなかったが。

 

 

 

「……分かった、預かろう」

「え?」

「預かると言ったんだ。問題あるか?」

「っ!問題なんかないよ!ありがとう!!」

 

恐らく断られると思っていたのだろう。冴香は一瞬唖然とした後、目を潤ませながら礼を言った。

 

「それで、雪風を預かるとして、どう言う名目でこちらに残すんだ?」

 

神林の問いに、「そうだねぇ……」と腕を組む。

 

「人材交流を目的……とかが一番無難かなぁ。あ、『教導』って事で君に預けるのはどうだろ?

 一応『やらかしてる』訳だし、理由には十分かも」

「その辺りに落ち着くか……まぁ、その辺りの手続きは任せる。あぁそれと」

「雪風の意志も尊重、だろ?分かってるよ。この後、彼女に話す心算。

 もし、彼女が嫌がったら……まぁこの話はいっか」

 

尤も、『兆候』はそれとなく感じていたのだが。

 

話が纏まった事もあって、冴香が腰を上げる。

 

「さて、そろそろお暇するよ。雪風の件ももっと詰めたいし。

 数日中に、改めて連絡するよ。扶桑、お茶ごちそうさま」

 

摩耶を連れて執務室の扉の前に立ったところで、冴香が「そういえば」と声を掛ける。

 

「時にタカ君。今回の件について、君は何処まで……っていうか、『誰まで』此方側だと思ってる?」

「……然程多くないのは確かだろうな」

 

冴香の問いに、神林はそう応えた後、こう続ける。

 

「だが、少なくともお前と……『彼女達』が居るのなら、負ける気はしないさ」

「提督……」

「あー、そういう事をサクッと言っちゃうからズルいんだよなぁ……

 まぁそうやって認識してくれてるだけでもいっか」

 

神林の言葉に、若干二名ほど頬を赤らめていたが、話を続ける。

 

「分かってると思うけど、横須賀も、それに舞鶴も一枚岩じゃない。そこは他所も一緒だね。

 だから君も気を付けて。今回の件、思ったよりも厄介だから」

「少なくとも、古賀さんは『此方側』だろう?」

「大局的に見れば、ね。彼は艦娘肯定派だから。

 でも、どうやらあの人にはあの人なりの『絵図面』が在るみたいだから、丸投げは不味いかも。

 あぁそれと、ジューソー君の事なんだけど」

「……戸塚がどうかしたのか?」

 

最近知り合った同僚の名前が出て、神林の眉根が上がる。

 

「いや、彼なんだけどさー……ちょっと気を付けた方が良いかも」

「……どういう事でしょうか?」

 

冴香の発言に、扶桑が首を傾げる。

 

以前、冴香から聞いた話では『味方ではないにせよ、放置安定』と言う評価だったはずだ。

 

「うん、その筈だったんだけどねー。ちょっと事情が変わったのさ。

 まぁ、所謂一つの『想定外』ってやつ?」

「想定外?」

 

神林の言葉に、軽く振り返りつつ応える。

 

「そう、想定外。周りの動きも鑑みてだけど……多分、彼はこっちに引き込めない」

「……向こう側につく、と?」

「いや、完全に今回の事から外れる……って訳ではないけど、彼は独自で動く。

 で、私達は其れを止められないし、把握出来ない」

「動くのは分かっているのに、把握できないのですか?」

「彼がどこまで『やらかすか』読めないんだよ。厄介な事にね。

 ……確証はないし、聞き流す程度に思っといて。

 ジューソー……戸塚提督の言動の根底にあるのは――――

 

 

 

 

 ――――――復讐だ」

 

 

 

○神林提督執務室

 

「…………扶桑」

「はい、何でしょうか」

 

冴香達が去った後、暫く無言で執務を行なっていた神林達だったが、不意に神林が声を上げる。

 

「何も、聞かないのか?」

「……何か、とは?」

「今回の件総てに於いてだよ。言いたい事の一つや二つ、あるだろう?」

 

多少の質問はあったものの、扶桑は神林の決断(雪風の件等)に対して、何も言わなかった。

冴香達の手前、何も言わなかったと神林は思っていたのだ。

 

「いえ?特に何も」

「そ、うなのか?」

「はい」

 

だが扶桑から返ってきた言葉は、何とも簡単なもの。思わず神林の返答も間抜けなモノとなってしまった。

 

「……提督はもっと強気であるべきです」

「強気?」

「はい。そうです。

 ここは貴方の艦隊です。貴方が道を示して下さるのであれば、私達はそれに従います。

 ……まぁ、明らかに間違っていた場合は、その限りではありませんが」

「では、今回は」

「はい。少なくとも今回は、提督のご判断に異論はありません。

 そもそも、今回の宮林提督の仰った事は多くが推論。不確定な事が多すぎます。

 雪風の件も、戸塚提督の件も、どうなるのかは分からないのですから」

 

冴香が色々と『やらかす』日々の中で、扶桑は一つの境地に至っていた。

 

「来る時は来るのです。その時に、『受けて立て』ば良いのですから」

 

そう、何も難しい事は無いのだ。

 

「貴方の采配に、私達は従います」

 

『貴方』を『慕う』のなら、それは『仲間』で。

『貴方』に『牙を剥く』のならば、それは『敵』で。

 

誰であれ、何であれ、敵ならば、斃す。

 

『此処』は『そういう場所』だ。

 

少なくとも扶桑は、『舞鶴鎮守府の為』ではなく、『神林貴仁個人の為』に此処にいるのだから。

 

 

 

 

「……いい加減、きっちりと『宣戦布告』すべきですね」

「何か言ったか?」

「いえ、なんでもありません。あ、お茶、用意いたしますね」

 

 

胸に一つの決意を秘め、扶桑は給湯室に向かうのであった。




はい、そんなわけで雪風加入(?)です。
ちょっと無理矢理すぎますかね?

最近、あまり執筆の時間がまとめて取れないので大変です。全部ぶつ切り。
それでもこんなに長くなりました。平均文字数の倍近いです。

文才って、どっかに売ってませんかね?

さて、次回、彼女が『勝負』に出ます。
ちょっと恋愛描写が入るかも。お楽しみに。

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