今回も趣味全開で行きたいと思います。
出てくる単語、用語は割とノリ(若しくは適当)で組んでいるので、矛盾があるかもしれませんが、ご了承ください。
※この作品はフィクションです。登場する企業、団体名は実在のものとは関係ありません。
「調子はどうだ?」
「お蔭さまでね。一晩寝たら大分楽になったよ」
以前『悪巧み』をした、バーの個室。
冴香と神林は、再び其処で杯を交わしていた。
冴香の頭には、包帯。鎮守府内では製帽に隠れて目立たないが、それでも少々痛々しい。
「もう、私の自業自得なんだからそんな顔しないの」
「……顔に出ていたか?」
「君が思っている以上に、君は顔に感情が出やすいんだよ」
気にしないで、と冴香は手を振る。
「と言うか、どっちかって言うと『拍子抜け』かな?」
「拍子抜け?どういう事だ」
なんだか腑に落ちない、そんな顔をしている冴香に、続きを促す。
「いや、君の艦娘達からさ、何の『お咎め』も無いのが気になって」
先日の『騒ぎ』から一夜明け。
そんなに簡単に諸々の『痕』が消える筈もなく、こうして冴香は包帯を巻いている訳だが。
それを見た艦娘達が、何も聞いてこないのだ。
冴香の艦隊に所属している『摩耶』と『雪風』は兎も角として、
神林の所属艦隊の面々が何も聞いてこない、と言うのは不自然を通り越して薄気味悪さすら感じていた。
意外と『気遣い』の扶桑や金剛、長門はともかく、青葉まで何も聞いてこない、と言うのは最早『異常』だ。
何だろうか、『いい歳して、酔って転んでああなったから、ソッとしといてあげて』とでも回っているのだろうか。
「あぁ、その事か。響が上手くやってくれたらしい。感謝しろ」
「えっと、其処でどうして響ちゃんの事が出てくるのかな?」
首を傾げる冴香に、事情を説明する。
「あの日、摩耶に俺を呼ぶよう頼んだろ」
「うん、そうだね」
「それを受けたのが雪風だったんだが……丁度偶然、響もその場にいたんだよ」
その時の摩耶の尋常でない剣幕から何かを察したのか、響はこう言った。
『なんだか良く分からないけど、緊急事態みたいだね。こっちは響が何とかしておくよ』
その『何とかしておく』が、『何とかなった』のだろう。
「成程、そういう事ね」
「そう言えば此処に来る時に、響から伝言を頼まれていたんだ」
「響ちゃんから伝言?私に?」
訝しがる冴香に頷いて、『伝言』を伝える。
『貸し一つ、だよ。摩耶と雪風に免じて、今回は特別に【軽め】にしといてあげるよ。今回は……ね』
「だそうだ」
「……うわぁ」
響の『伝言』に、顔が引き攣る冴香。
「なんて言うかさぁ、最大のライバルはあの子な気がしてきたよ。
ていうかあの子ホントに駆逐艦?」
「駆逐艦以外の何に見えるというんだ」
「駆逐艦の皮を被った『異能生存体』かな」
何を馬鹿な事を、と返す神林をじっと見つめる。
『類友』とも言うし、ぶっちゃけ彼の方が。
いや、いやいや。確かに彼は傍から見れば引く位しぶといけども。
どう考えても『普通は3回位死んでるだろ』って思うけども。
いや、『そう考えた方』がまだ色々と説得力があるのか。
え、ちょっと待って。もしかして私、いらん事に気付いちゃった?
「……むせる」
「一体何の話だ」
「ごめん。気にしないで。世界が壊れかねない」
「無駄に壮大だな」
兎も角、この話は此処で終わらせることにした。
○
軽く酒で舌を濡らし、思考を切り替えた所で、『本題』に入る。
「摩耶経由で伝えたと思うけどさ、この間襲ってきた奴らの雇い主が割れた」
コレを見て。と資料を渡す。
「『S商会』……舞鶴で有名な企業だな。確か……質屋や高利貸しにも手を出していた筈だ」
「其れなりに大きい企業で、『そういう事』に手を出しているから、『裏』との付き合いもあるんでしょ」
「成程、実に説得力のある話だ」
「因みに、『M重工グループ』のグループ傘下企業でもある。
知ってると思うけど、バリバリの軍事企業だよ」
「……やはり、軍部の重鎮が黒幕か?」
軍事産業と軍の上層部が(色々な意味で)繋がっているのはあえて問い質すモノではないだろう。
「んー、それにしては手管がお粗末だったからさ、もうちょっと踏み込んでみたんだ。
主に『お家柄』の方面でね」
冴香の『宮林家』の他にも、軍属の旧家は幾つか存在している。
そういった旧家は、軍需産業とも『付き合い』が有った。
「ぶっちゃけ『宮林家(ウチ)』は『M重工』とあんまり付き合い無いんだよね。
で、『M重工』と仲良しなのは、『護原(もりはら)家』だ」
そう言って、一枚の資料を取り出す。
「護原の現当主は『護原英康(もりはら ひでやす)』……呉で大将をやってる。確か、元『水雷屋』だよ。
『呉に護原あり』って言われてる有名人だけど、『艦娘肯定派』で有名でね。
ちょっと前に軽巡の『神通』とケッコンカッコカリした『本物』だから、この人は多分シロだ。問題は……」
そう言ってもう一枚、資料を放る。
その資料には神林も知っている顔が写っていた。
「……前に見た顔だな」
「『護原定康(もりはら さだやす)』……護原家の三男。
所属は横須賀。階級は少将。
『どっかの誰かさん』に痛い目食らったデブで、私の『前任者』でもある」
そう、以前舞鶴へ査察に来た少将である。※詳しくは『陸奥の場合』参照。
「こいつが黒幕か」
「『今回』に限っては多分、ね。動機も十分だし」
「動機?俺に対しては分かるが、お前にも在るのか?」
「君の件で色々と『引っ掻き回して』さ。査察官を下ろさせたんだ」
「何でそんなマネを」
「今回の査察、私一人で来たかったんだよ。
余計な『横槍』入れられても困るし」
まぁ、たまの逢瀬の邪魔をされたくなかった……とは言わないでおく。恥ずかしいし。
「それで……具体的に、どうする?」
「黒幕については……どうにもならないかな、今は。
襲撃者から割れたのは『S商会』までだし、それも奴等の証言のみ。
そっから先は状況証拠だけだ。鎮守府の将校を本気で突くには『足りない』ね」
「S商会に対しては?」
「その辺は古賀さんに任せるつもり。
『先ずは脱税容疑で叩く』って言ってたよ。『芋づる式』で他も釣れたら御の字、かな」
冴香の言葉に頷く。古賀なら『上手くやる』だろう。
尤も、向こうも下手な証拠は残していないだろうし、過度な期待は出来ないが。
少なくとも、『此方に手を出すリスク』を分からせてやれば良い。
○
「襲撃者の件はこんなもんかな。お次は君へのプレゼントのお話」
そう言って、冴香は脇に置いていたアタッシュケースをテーブルの上に置いた。
「あ、一応渡す前に聞いておくけどさ、タカ君って『刃物以外はからっきし』って事は無いよね?」
ケース内をゴソゴソとあさりつつ、此方に目を向ける事無く問う。
「まぁ、一応な。どれもこれも『同僚』に教わったものばかりだが」
「それだけ聞ければ十分だよ。君の『古巣』の凄まじさは知ってるし」
そう言って、冴香は黒いケースに入った棒状のものを取り出した。
「先ずは、スタン警棒。全長40cm、持ち手は10cmちょっと。
メインフレームはチタンとカーボンファイバー製で、よっぽど強くぶっ叩かない限り壊れない。
あ、頑丈優先で伸縮機能は無くしたから。ちょっと嵩張るけど我慢して。
電圧は90万V。電流は5mA以下に抑えてあるから。因みに充電式」
スタンガンの威力は、基本的に『電流×電圧』だ。
そして、人体に強い影響を与えるのは『電流』である。
これが一定値を越えると後に後遺症が出たり、最悪の場合、命に関わったりする。
一般的に、人体に与えるダメージのセーフラインが5mAだ。
手渡された警棒を、軽く振ってみる。
「……思ったより軽いな」
「その為のチタンとカーボンだからね。その方が手加減しやすいだろ?」
「……別にナイフでも手加減は出来るが」
「えっと、『無闇に鎮守府を血で汚すな』って意味で言ったんだけどな」
「昨日あそこまで『散らかした』お前が言うか」
「私は鎮守府を汚してないもーん」
開き直りも此処まで来るといっそ清々しい。
まぁ神林としても、変に切れないナイフを渡されるよりはよっぽどマシなのだが。
「最初は逆刃のナイフとか考えてたんだけどねー。『ミチュルギスタイル!!』みたいな?」
「俺に天を飛べと?」
「君にこのネタが通じた事に冴香さんビックリ」
「『元同僚』に似たような事が出来たヤツが居た」
「マジで!?」
「剣術の達人だったよ。動機が『師匠のカッコよさに憧れた』でなければ、もう少し尊敬できたんだが」
「うわぁ……」
因みに彼曰く『九頭は無理だけど、五頭位ならイケる』だそうだ。閑話休題。
「……君も使えたりするの?」
「いや、俺はアイツとは折り合いが……というより、一方的に嫌われていたな。
『お前は剣術使いの敵』とまで言われたよ。だから教わってない」
「剣術使いの敵、ね。まぁ分からない事も無いけど」
神林の言葉に、肩を竦める冴香。
一応剣術使いの端くれとして、顔も知らぬ『彼』の言い分は何と無く理解できた。
神林の修めた『神城式斬術』は剣道・剣術とは全く別のものだ。
剣術は『剣・刀を扱う術』であるのに対し、斬術は『刃物で斬る術』を極めたもの。
要するに、『刃物の扱い方が異様に上手い』だけなのだ。
其処に、剣術等のセオリーは存在しない。
剣・刀の道を行く者にとって、相容れない存在だろう。
そして神林の恐ろしさは『神城式斬術』だけではない。
真に警戒すべきは、『間合いを盗む』事を可能とした『視線誘導術』と『特殊な歩法』なのだ。
僅かな間合いの誤差が生死を分ける近接格闘において、神林の『間合いを盗む』技術は切り札どころか鬼札だ。
「ま、鎮守府内で無駄な殺傷をしない為の備えだから。
君ならスタン機能なくても十分だとは思うけど。一応、ね。
さて、お次は飛び道具だよ」
「投げナイフで「却下」」
だから刃物から離れなさい、と窘められた。
「スタンダードに拳銃だ。勿論撃った事あるよね?」
数年前まで現役の陸軍特殊部隊だったのだから当然では在るが。
「まぁ、それなりにな」
「……君の『それなり』は信用できない」
さっきの事もあるしーと呟く。
「訓練でのスコアとか覚えてない?」
「スコアが残るような『格式ばった』訓練をした事は……そういえば、以前部隊でやった事があったな」
「何を?」
「『50m pistol 60M』……だったか?」
「公式のオリンピック種目じゃねぇかこんにゃろう」
簡単に言うと、50m離れた的をピストルで撃つ競技で、『10点×60発(10発×6セット)』で600点が満点だ。
確か、日本記録が『576点』で世界記録が『581点』だったはず。と冴香は記憶を掘り起こす。
「……で、君のスコアは?」
「確か……五百……何点だったかな」
「本当に気持ち悪いな君は」
「失礼な。590越えの奴も居たんだぞ」
「本っ当に気持ち悪いな君の『古巣』!」
「銃なんて、ある程度の性能があったら『狙えば当たる』だろ」
「君の常識を他所に持ち込まない!」
「……兎も角、拳銃だよ。で、最優先すべきは『不殺』なのはわかるよね。
というか、鎮守府内で実弾撃つのは普通にマズイ。
と言うわけで、こんな物を用意した」
そう言って、一発の銃弾を取り出す。
「特殊樹脂製の『鎮圧用弾頭』だよ。
当ったら砕けちゃうけど、衝撃はキッチリ伝わるから相手を昏倒させるには十分。
一応実験では『殺傷力ゼロ』って結果が出てる。まぁ、当たり所が悪けりゃ骨とか軽く折れるだろうけど。死な安死な安。
有効射程は……流石に実弾よりは短いけど、そこは仕方ないよね。因みに、45口径だよ」
「『9mmパラ』じゃないのか?」
「それでも良かったんだけど、『不殺』優先とは言えある程度の威力は欲しかったから。
まぁ、これ以上弾をでかくしても携帯性悪くなるし。常にショットガン抱えてるわけにもいかないだろ?」
で、拳銃はコイツ。と冴香は一丁の拳銃を取り出す。
「ドイツのSIG SAUER社製 『P250 FULLSIZE』がベース。
ショートリコイルのダブルアクション。重量は約830g。装弾数は10+1発。
で、インナーシャーシ(機関部)を『特殊樹脂弾』用に改造したものを用意させたよ。
そうそう、この改造で実弾は撃てなくなってる。無理に撃とうとするとジャム(動作不良)るから注意ね」
「……M1911系じゃないんだな」
取り出された銃を見つつ、神林は意外そうに呟く。
45口径の自動拳銃と言われれば、やはり有名なのは『M1911(通称コルトガバメント)』だ。
かなり旧式の銃だが、現在も愛好家が多くコルト社のパテント(特許)が失効した現在、世界中の企業でバリエーションが生み出されている。
と言うか、SIG SAUER社にもガバメントのバリエーション(SIG SAUER GSR)があった筈だが。
「ぶっちゃけ手配した人の『趣味』かな。メリケン臭い銃は嫌いなんだって。
あと、P250の方がGSRより軽いし、構造的に内部のカスタムがし易かった、ってのもある。
鎮守府にもドイツ出身の艦娘が居るから、都合が良いんじゃない?」
「そう考えると寧ろ自然、か」
「そういう事。ところでタカ君のとこにはドイツっ子って居るの?」
「先日、『レーべ(Z1)』と『マックス(Z3)』が配属されたな」
「そっかそっか。ウチにも居るよー。ビス子とかプリケじゃなかったプリンツとか。
ドイツっ子は真面目な子が多いから楽しいよ。リアクションが」
※因みにビスマルクの最初の渾名は『ビス丸(冴香命名)』だったのだが、ビス丸の強い抗議の結果『ビス子』に落ち着いた。
閑話休題。
「あ、警棒は未だしも、拳銃は目立つところに置かないでね。
分かってると思うけどさ」
「と言うか、正直警棒も仕舞って置く心算だったんだが」
「いや、一応『護身用』だからね?」
「変に装備を嵩張らせて警戒されるのも困る。咄嗟に逃げるなら素手で十分だ」
「…………」
「どうした」
「いや、『袖にナイフを~』とか言い出すと思ってたから」
「刃物の発想から離れろ言ったのはお前だろうに」
「君のその思考の切り替えの速さは何なんだろうね?」
「さてな、訓練の賜物だろ。……大体、こんなところか?」
話は終わり、とすっかり温くなってしまったグラスに手を伸ばそうとして、その手が止まる。
「……まだ何かあるのか?」
「いや、無い……ことはないのか、うん」
珍しく、歯切れの悪い冴香を見て、眉を顰める。
「悪い報せか」
「いや、君に伝えていない事が二つあってね。
……ただ、今ココで伝えるべきなのかなって」
この場の空気を壊したくない、と言外に漏らす冴香。
恐らく、神林や艦娘に関わる『何か』なのだろう、と思う。
「構わないぞ」
「え?」
改めて、椅子に深く座りなおす。
一見どんなスタンスを取ったのか分からなかったのか、冴香が不安そうな顔をする。
「好きにしろ、と言ったんだ。
無理やり聞き出す気もないし、耳を塞ぐ心算もない。言いたくないなら、それもいい。だが」
冴香をまっすぐに見つめる。
「一人で溜め込むな。俺に関わる事なら、尚更な。
いまさら『背負うもの』が増えたところで、大差ない」
神林の言葉に、冴香が目を見開く。
そして、何かを言おうとして、口を噤み、下を向く。
「……それを、君が言う訳?」
「そうだな、俺だから言える」
「傲慢にも程があるだろ」
「そうだな、自覚してる」
「……これ以上背負ったら、本当に壊れちゃうかも知れないんだよ?」
「だとしても、それが俺の咎で有る限り、俺が背負う。知ってしまったからと言って、お前が背負う事は」
「っ!だからそうやって……」
怒鳴りつけようと顔を上げて、冴香の言葉が止まる。
神林の顔には、明らかな『謝罪』の色があった。
「すまない、冴香。これは俺の『我儘』だ」
「……狡いよ。そんな顔されたら、何も言えなくなるじゃないか」
滅多に見る事の無い、明らかな『自己の非』の認識。
此方の意を酌みつつ、それでも折れぬ、と言う我侭。
ある意味、冴香を『特別』と思った上での行動だった。
「……ねぇ、私ってそんなに頼りない?」
「冴香、俺は」
「分かってる。其れが君の『我儘』って言うんなら、これは私の『八つ当たり』だ。
君は、黙って聞いてくれれば良い」
「……」
「君がそうやって『咎』だの『罪』だのを異様にハッキリさせたがるのってさ。
その人が背負う必要の無いものを背負う事を許さないからだ、ってのは分かってる。
いらない苦痛を背負わせたくないってのも、分かってるさ。
でもさ、『大切な人』の抱えてるものを一緒に背負う事を、何でその人の『苦痛』だって決め付けるのさ」
「…………」
「頼れよ。甘えろよ。
君を『大切』だって思ってる人たちが、君をどんな想いで見てるのか、いい加減気付けよ」
駄目だ。零れるな。
目頭が熱くなるのを、耐える。
此処で零れたら、また、彼の背負うものが増える。
言ったじゃないか。これは、私の身勝手な『八つ当たり』だ。
『罪悪感』なんて欠片も抱かせるな。
『背負うべき咎』をハッキリさせるってんなら、此処で宣言しよう。
これは、私の、宮林冴香の『咎』だ。
彼に、私の大切な人に、『欠片』も背負わせて堪るもんか。
前々から言っておきたい事があったんだ。
事後承諾になるし、成り行きとは言え『彼女達』も巻き込んじゃったけど。
改めて、『宣戦布告』してやる。
「『伝えてない事』の一個目。『あの子』の事、『彼女達』に話したから」
「……何だと?」
瞬間、険悪な空気が流れるが構わず続ける。
「彼女達が知りたがってたからね。別に口止めされてるわけでもなかったし」
「だが、だからと言って他人の過去をベラベラと喋るのは感心しないな」
『……やっぱり、キミは『彼女』の事になると饒舌に、感情的になるよね』
内心の苛立ちは表に出さない。
此処までのやり取りは何時もやってきた事だ。
彼の『我侭』は、『理屈』じゃどうにもならない。
だから、こっちも『屁理屈』で『八つ当たり』する。
「……前から言おうと思ってたんだけどさ、『あの子』との思い出を独り占めしないでくれる?」
「独り占め?」
「君の理屈は分かった。……まぁ、完全に同意は出来ないけど、其処は脇に置こう。
君が背負うべき咎ってのも取り合えずどうでもいい。
でもさ、『あの子』と繋がってたのが『君だけ』だって考え方は納得できないな」
「そんなつもりは」
「してるさ。『あの子』との思い出を『全部一人』で背負おうとしてる。
『独り占め』すんなよ。姉貴分の私にもちょっと寄越せ」
「どんな理屈だ」
「理屈でも屁理屈でも通せば『道理』さ。
……『あの子』の事、私がなんとも想ってないって思ってんの?
確かに、最後は君に譲ったさ。でも、全部は駄目だ。
私だって、あの子の事が大好きだったんだから」
そう言って、神林の胸倉を掴んで引き寄せる。
ごち、と額がぶつかった。……地味に痛い。
構わず、彼に告げる。
「あの子を……『紗妃(さき)』を救えなかったのは私の咎でもある。
だから私も背負う。私にも頂戴。ていうか、私にも寄越しなさい」
「……俺は」
「あぁ良いよ了承は要らない。勝手に背負う。勝手に持ってく。
君だって、私の了承無しに背負ってるんだし」
「……まるで追い剥ぎだな」
神林の呆れた様子に、小さく笑う。
「欲張りすると周りに『取り過ぎだ』って怒られる……簡単なことだよ」
「……好きにしろ」
「最初からそのつもりさ♪」
久しぶりに、彼に勝てた、と思った。
○
「さて、もう一つの『伝えていない事』な訳だけども。さっきの話に関わってくることでもある」
「……扶桑達『艦娘』を巻き込む、と言う意味か?」
「遠からず近からず、ってトコだね。
幾ら私でも、伊達や酔狂でやらかしてる訳じゃないんだよ?」
「……そうだったとして、何故彼女達が出てくる」
「私だって、よっぽどの事が無い限り『君に任せとけば大丈夫』って思ってたさ。
……でも、状況が変わった。『一線を越えた』馬鹿が出てきたせいでね。
事態はもう君だけじゃ……『人間』だけじゃ収拾が付かなくなってる」
「どういう事だ?」
「言葉の通りさ。君は『対人』最強かも知れない。
でも、君にだって『斃せない存在』は居るだろ?」
冴香の言葉に、神林の脳裏に一つの『可能性』が過ぎる。
「まさか……深海棲艦と手を組んだ、とでも言うつもりか?」
神林の言葉に、冴香は肩を竦める。
「残念、『そっち』じゃないよ。と言うか、そっちだったらまだ良かった。
改めて『艦娘』達と一致団結。ついでに『裏切り者』を吊し上げて一石二鳥……だったんだけどね」
そう言って、一枚の写真をテーブルに置いた。
「この写真は横須賀で諜報活動をしている知り合いに貰ったものだよ。
因みに、その知り合いの部下でもある『撮影者』は先日遺体で見つかった。
死因は『強い衝撃』を受けた事に因るショック死。原型留めてなかったらしい」
「……少し写りが悪いな。何の現場だ?」
「艦娘の不正取引の現場。早い話が、艦娘の『人身売買』だね」
「成る程な」
「あれ、思ったより反応薄いね。もしかして知ってた?」
「いや、そういうわけじゃない。
だが『何時か』はそういう事も起きるだろうなと思っていた」
「『経験者は語る』ってやつ?」
「あぁ。『人の悪意』に対しては其れなりに見てきたからな」
艦娘たちは皆容姿が優れている。
それに、多少の例外は在れど、彼女達は我々に対して従順だ。
陸に揚げて、艤装を外せば、其処に残るのは『従順な美女・美少女』だ。
『邪な』考えを思いつく輩も居るだろう。
そういう思考を導き出せる程度には神林も冴香も『人の悪意』を理解していた。
尤も、神林にとっては『敵として認識する理由が増えた』程度の事であるが。
「で、問題は其処じゃない。こうやって『証拠』が挙がった以上、そっからは憲兵の出番だ。
実際、其処に居た奴等は逮捕されたし、『売り』に出されてた艦娘も無事に保護できた。
でも問題は、そいつ等を『護衛』していた存在が居たって事」
そう言って、もう一枚写真を取り出す。
其処に写っていた『モノ』を見て、神林の顔から表情が消えた。
「……どういうことだ?」
「写ってる通り。逮捕時にも小競り合いがあって、憲兵側にも負傷者が出た」
艦娘の不正売買の実行犯と思われる者達が写っている写真。
恐らく港なのだろう。コンクリートの岸と、水面が見える。
そして、そんな彼らを護るように『海面に浮かぶ』存在。
画像こそ荒いが、『艤装』を見慣れている神林が見間違う筈が無い。
「説明しろ。何故……彼女達が『向こう側』にいる」
その写真には、間違いなく『艦娘』が写っていた。
『提督側』では神林さんと冴香さんがどうしても目立つので、シリアス方向に傾きますねぇ。
コメディも嫌いではないんですが、ストーリー上どうしても重く、硬くなっちゃいますね。
短編、番外編ではもうちょっとほのぼの書けると思うんですが。
さて、『プレゼント』云々は結構私の趣味が入ってます。
どんなものか、は画像検索していただければ分かると思います。
特に『P250』はwikiにも記事がありますよ。
そして漸く出せました『彼女』の名前。コレから出番も増えるでしょう。
暫く真面目な話が続きます。あと、2~3話位でしょうか。
其処からはまたほのぼの系、艦娘メインの話になっていくと思います。
※お知らせ
近いうちに、構想中の短編、番外編のリストを活動報告辺りに載せようと思っています。
勿論、特定の艦娘がメインですよ。
一応そのリストに載せた話は必ず文章化しますので、お楽しみに。