鎮守府の日常   作:弥識

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お久しぶりです、筆者です。

何とか今月中に更新できました。
不定期更新を何とかしたいのですが……ままなりませんね。

さて前回の予告通り、嘗て『死神』と呼ばれたあの子のお話です。
あと、もう一人の『死神』の内面もちょっと前に出したいと思います。

色々とアレな内容ですので、ご了承ください。


死神と呼ばれて

宮林冴香の舞鶴査察も、あと数日を残すのみとなったある日。

 

神林艦隊所属、駆逐艦『響』は、執務室に向かっていた。

手には資料の束。北方海域『キス島撤退作戦』に関わるものだ。

 

この作戦は、駆逐艦のみの編成で行われる事となっている。響は艦隊旗艦に任命されていた。

随伴艦の選定もほぼ纏まり、後は細かい打ち合わせをするのみだ。

 

執務室に着いた響は扉をノックした。が、返事が無い。

 

―――おや、と響は首を傾げる。

 

この時間帯は、何時も執務室に居るはずだ。

秘書艦の『扶桑』は、例の如く『鎮守府近海』で再び湧き出した敵潜水艦の制圧作戦に出撃したと響は聞いている。

 

だからこそ、執務室を空ける、と言うのは考えられないのだが……急用でもあったのか?

 

しかし、部屋の中から神林の気配はしている。

艦隊の古株である響の『神林限定電探』の精度は伊達ではない。

うたた寝でもしているのか、とも思いドアノブに手をかける。鍵は掛かっていなかった。

 

 

「失礼するよ。司令官、今度の作戦のことなんだけ―――」

 

 

ど、ちょっと良いかな。と言おうとして、響の言葉と思考が、目の前の光景を見て止まる。

目を見開いて、一瞬見せた驚きの感情は、次の瞬間絶対零度の『憤怒』に変わった。

 

ざわり、と自身の銀髪が逆立つのを自覚しつつ、それでも努めて冷静に、言葉を紡ぐ。

 

 

「―――さて、『其れ』はどう言う心算なのかな……雪風?」

「…………」

 

 

 

 

其処には、ソファに座る神林に『12.7cm連装砲』を突き付けた雪風が居た。

 

 

 

 

 

―――遡る事十数分前。

 

 

何時ものように執務をしていた神林のもとに、一人の艦娘が尋ねてきた。

 

宮林艦隊所属の駆逐艦、『雪風』だ。

 

「一人で、とは珍しい。冴香はどうしたんだ?」

「しれぇは、摩耶さんと一緒に出かけています。雪風は、お留守番ですね」

 

雪風の言う『お出かけ』に多少なり心当たりがあった神林は「そうか」と返し、改めて用事を問う。

 

「一度、神林司令官とお話したいと思ってたんです。……『死神』と呼ばれていた、貴方と」

「……座りなさい」

 

雪風の言葉に、只ならぬ雰囲気を感じた神林は、執務机から立ち上がる。

そして雪風に応接用ソファに座るよう促してから、自身も対面に腰を下ろした。

 

「何か飲むか?適当に用意させるが」

「いいえ、お気になさらず」

「そうか。さて、それで……私の何が聞きたい?」

 

神林の言葉に、小さく深呼吸していた雪風は、真っ直ぐ神林を見つめながら問う。

 

「貴方は何故……この鎮守府に来られたんですか?」

「私を此処に引き込んだのは古賀大将だ。何故呼んだのかは……私には分かりかねるな」

「すみません、質問を変えます。貴方は何故此処に……『戦場』に戻ろうと思ったんですか?」

 

雪風の質問に、神林の表情が固まる。

そんな神林を見つつ、雪風は続ける。

 

「宮林司令官から、貴方のお話を聞きました。雪風と同じ、『死神』と呼ばれていた事も、です」

「……最近良くその名を聞くようになったよ。……随分前に捨てた心算だったんだが」

 

そう言って苦笑する神林を、雪風は沈んだ表情になる。

 

「……どうして、笑えるんですか」

「それが、相応だと思っているからだ。……そう言われても仕方が無いことをして来た自覚もある」

「……雪風は、その呼ばれ方は嫌いでした」

「……そうか」

 

搾り出すような声に、神林は続きを促す。

 

「確かに、雪風は沈みませんでした。『奇跡の幸運艦』だと言って下さった方もいます。

 でも、『周りの幸運を吸い取る死神』と言っていた人もいて……

 雪風が随伴艦になるのを嫌がった、という話も聞きます。……雪風の、せいじゃ無いのに」

 

其処まで言って、雪風は顔を上げた。

 

「それでも、雪風は艦娘です。艦娘は、戦う為に居ます。

 だから、雪風は良いんです。でも、貴方は違う」

 

そう言って雪風はソファから立ち上がる。その目には、縋る様な色があった。

 

「神林司令官は人間です。艦娘じゃない。ドックに入渠しても傷はすぐには治らないし―――」

 

チャキン

 

「―――これで撃たれれば、呆気なく死んでしまう……脆い人間なんです」

 

雪風の手にしている砲口は、ぶれる事無く神林の眉間に照準を合わせている。

 

その動きは酷く自然なもので、一切の躊躇が無い様に見えた。

引き金を引けば、間違いなく神林の首から上は吹き飛ばされる。

だと言うのに、神林の表情は穏やかだった。

雪風の行動に驚く事無く、『それがどうした?』と言わんばかりに雪風を見ている。

 

 

暫く、沈黙。

 

 

そんな中響いたのは、扉をノックする音だった。

 

 

「失礼するよ。司令官、今度の作戦のことなんだけ―――」

 

 

ドアのむこうに居たのは響だった。

手に持つ紙束(恐らくキス島辺りの資料だろう)から目線を上げつつ室内の光景を見た響の目が、大きく見開かれる。

が、その目は次の瞬間にはスッと細められ、続いて絶対零度の色を帯びたものに変わった。

 

響が後ろ手でドアを閉めて、鍵をかける。―――要らぬ邪魔が入らぬように。

 

そして努めて冷静に、声を掛けた。

 

「―――さて、『其れ』はどう言う心算なのかな……雪風?」

 

言外に、『返答によっては容赦しない』という意味を持たせて、雪風に問う。

だが、雪風は無言のまま、答えない。

 

次の行動に移ろうとした響だったが、それに『待った』を掛けたのは他ならぬ彼女の司令官だった。

 

「響、大丈夫だ」

「っ!でも司令官!」

「心配要らない。落ち着いて、此方に来なさい」

 

神林の言葉に、渋々…といった様子で構えを解く。

目だけは確りと雪風に向けたまま、ソファに近付いて―――

 

「待て、何故私の膝の上に乗ろうとする?」

「此処が世界で一番安全だからだよ。それに、いざとなったら響を楯にすれば良い」

「だから大丈夫だと……隣にしなさい」

「……むぅ」

 

渋々隣に座る響。不機嫌の理由が若干変わっているような気もするが、気にしない。

ご機嫌斜めな響に苦笑しつつ、頭をポンポンと叩く神林。

 

そんな彼の様子が、雪風を苛立たせた。

 

 

「……怖く、無いんですか?」

「と、言われてもなぁ」

 

 

雪風の言葉に、神林は醒めた表情で答える。

そして、雪風の構える連装砲を示して、こう言った。

 

 

「そんな『空っぽ』の砲で、何を撃つ?」

 

 

神林の放った『空っぽ』の言葉に、雪風の肩がびくりと跳ね上がる。

それを見た響が隣の神林に尋ねた。

 

「司令官、空っぽってどういう事?」

「言葉の通りだよ。彼女の連装砲には、何も篭っていない。撃とうという意思も……砲弾すらもな」

「砲弾も……『空砲』って事かい?」

「いや、それすらも込められていない。

 今此処で引き金を引いても、精々カチリと音がする程度、かな」

「……気付いてたんですか」

 

神林の言葉に、ため息をつきながら構えた砲を下ろす雪風。

 

「……何時から気付いてました?」

「最初からだよ。君達艦娘の艤装は一通り弄っているからね」

 

そんな神林の言葉に、呆れた様子で響が尋ねた。

 

「……司令官、そんな事してたのかい」

「昔から機械弄りは嫌いじゃない。

 銃砲と言うものは砲弾が装填されていないと、構えたときの音が若干変わる。覚えておくといい」

「……その知識、どこで使うのさ」

「少なくとも、今此処で役に経ったな。……まぁ、損は無い程度に思っておけばいい」

 

そう言いつつ、改めて雪風をソファに座らせる。

 

「さて……何故私が鎮守府に……『戦場』に戻って来たか、だったね」

 

ちらりと、響を見る。対する響が首を傾げた。

 

「響が居ると話し辛い?」

「いや、構わないよ。何時かは言う日が来ると思っていた。隣に誰が居る時かは、分からなかったが」

「そう」

 

神林の言葉に、響は小さく笑いながら隣に座る神林との距離を詰めた。

 

「なぜ『戦場』に戻って来たか。……私には、其れしか無かったからだよ。雪風。

 それ以外の生き方を知らない。それ以外の生き方が分からない。

 だから私はここに、戦場に戻ってきた。」

「……それ以外の生き方を探す、という思いは無かったんですか?

 こんな格好をしている雪風が言うのも変ですけど、貴方は若い。

 艦娘でも無いんですから、他の選択肢なんて幾らでもあるはずです。

 それこそ、小さい頃に描いた夢を追うことだって……」

「……私が初めて人を殺したのは、五歳の時だった」

「「え……?」」

 

神林の言葉に、絶句する響と雪風。

 

「孤児院に居た時だ。其処は、とある『組織』が人身売買の拠点にしていてね。

 『仕入れた』孤児に色々と『仕込んで』から『出荷』していた訳だな。今思えば上手い手だ。

 ……其処で私は少し歳の離れた女の子と仲良くなった。

 私には兄弟が居なかったが、彼女は私を弟の様に扱ってくれた」

 

昔を懐かしむように、目を細める神林。

しかし、その目には何の感情も宿っていないように見えた。

 

「暫くして、彼女が『出荷』される時が来た。

 彼女はそれなりに容姿が良かったから、『引く手』は多かったんだと思う。

 『そういう事』も仕込まれていたようだった。……まぁ、あの時の私には良く分からなかったが。

 私は彼女を取られたくなかった。初めて出来た『大切なもの』だったから。

 彼女を護ろうとした。だが大人の暴力には敵わなくてね。酷く殴られた。

 目の前の男が振り上げた棍棒を見て、『あぁ、此処で死ぬんだな』と思った。ところがだ」

 

其処から先に在るのは、神林の最初の咎。

自分の無力によって、喪った大切なもの。

 

「気付けば、彼女が目の前で倒れていた。顔が酷く腫れていて、私を庇って棍棒を受けたんだと判った。

 奴等は酷く怒っていた。傷が付いた『商品』は買い手が付かない。『付加価値』が無くなるから。

 そこで、一人の男がこう言った。

 『どうせ変わりが利くような雌餓鬼だ。売りに出さないで、俺らで愉しもう』

 そう言って、一人は私を痛めつける続きを、他の奴等は彼女を連れて奥の部屋に入っていった

 暫くして……彼女の悲鳴が聞こえた」

 

ふと気が付くと、自分の拳の上に、小さな掌が乗せられていた。

小さく震えた其れは、自身の隣に居る駆逐艦娘の手であった。

 

「ありがとう、響。大丈夫だ」

「……本当に?」

「あぁ、もう全てが終わってしまった事だ。だが聞きたくないのなら……」

「響は、此処から動かないよ。此処が、響の居るべき、いや、居たい場所だ」

「……そうか」

 

響の顔は見なかった。

 

「私は殴られて薄れていく意識の中、奴等の下卑た声と彼女の悲鳴を聞きながら、ずっと考えていた。

 なんで、こんな目に遭うんだと。

 なんで、あの子がこんな目に遭わなければならないのかと。

 何度目かの自問自答と、目の前の男の暴力が重なったとき、私は閃いた。

 『そうか、私が弱いせいか』と」

 

 

自分に目の前のやつらを『どうにかできる』位に強かったら。

自分に彼女を『護れるくらい』の力が在ったら。

 

理不尽を覆す、圧倒的な『暴力』を持っていたならば―――!!!!

 

 

「その時、私の中で何かが壊れた。

 気が付いたときには、そこらに転がっていた酒瓶で目の前の男を殴り殺していた。

 顔がほぼ潰れたそいつを見ても、特に何も感じなかった。

 此方の音が聞こえたのか、奥から奴等が戻ってきた。何かを言っていたが、覚えていない。

 私の体は間違いなく限界を超えていたが、不思議と体は軽かった。

 さて続きを、と思ったが、此処で更に乱入が入った。

 見た事も無い服装の人間が飛び込んできて、瞬く間に奴等を無力化していった。

 奥の部屋に残っていた奴等も片付けたその人は、彼女を抱えて部屋から出てきた」

 

 

彼女は既に息絶えていた。棍棒で殴られた頭の傷が致命傷だった。

神林のせいで、彼女は死んだ。

 

 

「奴等を片付けたその人は、私を保護すると言った。

 仲間が他の悪い奴等をやっつけているから、もう心配ないとも言った。

 最後に、『お前は如何したい』と聞いてきた。

 其処で『死んで楽になりたい』と言ったら、恐らくそうしたんだろう」

 

 

だが、神林は違った。自分で選んだ。自分で、一歩を踏み出した。

 

 

「私は『貴方の仲間で一番強い人は誰だ』と聞いた。

 彼は『自分がそうだ』と応えた。

 私は彼の前に跪き、頭を床に擦り付けて、懇願した」

 

 

―――おねがいします。おれに、『ひとのころしかた』をおしえてください。

―――そんな物を知ってどうする。なぜそんな物を知りたい。

―――つよく、なりたいからです。

―――なぜ、強くなりたい。お前は何のために強さを望む。

 

 

 

―――もう、だれも、なにも、『とられたくない』から。つよさが、ほしいです。

 

 

 

其処まで言うと、彼は小さく笑って、こう言った。

 

 

―――おい坊主。お前、名前は。

―――わかりません。でも『このコ』は、おれを『タカ』ってよんでました。

―――そうか……なぁ、タカ。

―――はい。

―――後戻りは、できねぇぞ?

―――もどれなくていいです。もう、『かえりたいばしょ』はないから。

 

―――そうか。……良いだろう。

 

 

 

―――お前に、俺の『とっておき』を教えてやる。

 

 

 

「……私の始まりは、其処だ。あの日から、私は平穏を捨てた。

 長い時間を掛けて自分を鍛え、夥しい数の敵を斃してきた。勿論、後悔は無い」

 

話を一旦やめ、神林はソファに背を預けた。

しばしの沈黙。

いや、絶句だった。

響も、雪風も、返す言葉が直ぐには見つからなかった。

 

ただ、ただ、壮絶。

文字通り、常人なら壊れている。

いや、彼も壊れているのだろう。

それで居て、こうして『普通』を保っているように見えるのだから、異常としか言いようが無い。

 

しかも、これは彼の『始まり』に過ぎない。

 

一体、どれ程戦ってきたのだろか。

 

言葉の無い彼女達に、苦笑しながら神林が話を続ける。

 

「……勿論、掛替えの無いものを得た事もあった。

 生き方を教えてくれた師。共に戦った戦友。それに―――」

 

とある人の顔が浮かび、言葉が止まった。

 

「……どうしたの、司令官」

「いや、何でもない」

「誰か、特別な人でも思い浮かべてた?」

「……どうだろうな、案外『要らぬ心労ばかり掛けてくる傍迷惑な奴』かもしれんぞ?」

「……それって、もしかしなくてもウチのしれぇの事ですよね?」

 

雪風の言葉に、小さく笑う。

 

「なんだ、所属艦娘の認識でもそうなっているのか?」

「あー、うー、まぁ、色々です」

 

神林の問いに明後日の方向を向きつつ、引きつった笑いを浮かべる雪風。

この様子だと、向こうでもアイツは色々とやらかしているらしい。

 

「苦労を掛けるな」

「そう思うんなら、神林さんが『アレ』貰ってくださいよぅ」

 

神林の言葉に、ジト目で提案してくる雪風。

自身の司令官を『アレ』呼ばわりする彼女に苦笑する。

 

「実際、神林さんがしれぇの手綱を握ってくれたら、全部が解決すると思うんですよ」

「いや、否定はしないが……」

「しれぇの何がいけないんですか?滅多に居ない美人ですよ?」

「見た目以外の全ての『奇行』に目を瞑ればそうだろうがなぁ……」

「婚約者さんだったんですよね?なら責任取ってください」

「いや、『元』が付くからな?」

「もういっそ、神林さんが横須賀にき『其処までだよ』……て?」

 

さっさとくっ付いて雪風達の心労を減らしてほしい、と進んでいた思考が、執務室に響く声で中断される。

 

 

―――やばい、色々と言い過ぎました。

 

 

日頃の鬱憤をちょっぴり出してしまった事を若干後悔しつつ、雪風は声の主に目を向ける。

其処に居たのは、穏やかに微笑んでいる響だった。

 

 

「ちょっと、言葉が、過ぎるんじゃないかな。ねぇ、雪風」

「あ、あはははははは……『あ、これ駄目なやつです』」

 

 

何が駄目って、何より、目が笑ってない。

おこである。響さんが激おこである。

具体的に言うと、さっき神林に砲口を突き付けて居た時より怒っている。

さっきのが激おこだとすると、これが『カム着火インフェルノォォォォオオウ』か。

いや、下手すると『激おこスティックファイナリア……なんでしたっけ?まぁいいや。

ともかく、駄目なやつである。

 

 

「じ、冗談ですよ、響さん」

「あぁ、分かっているよ、分かっているとも。

 司令官は舞鶴に必要な人材だ。万が一にも無いってのは、判っているよ。

 でもね、億が一、兆が一、そんな話が本当に上がった場合、響達は横須賀に『それなりの』対応をするからね?」

「わ、わかってますって、あははははは」

 

 

響の言葉に笑顔で応じつつ、雪風の背中は冷や汗ダラダラであった。

 

うん。この人は本気だ。

 

ここ数日間の査察で、神林に対して特別な感情を持っている艦娘がたくさん居る事を知っている。

そして、響もその一人(しかもかなり強烈なレベルで)である事を知っている。

 

極端な話、横須賀が『更地』にされかねない。

少なくとも、雪風に今の響を抑えれる自身は無い。

練度云々の話ではない。もっと圧倒的な何かの差があった。

 

「その辺にしておきなさい」

 

神林が、響の頭をポンと叩く。

それだけで、響の体からにじみ出ていた『ナニカ』が霧散していった。

 

「……わかった」

「そんなに固執する事じゃないだろう?」

「響たちにとっては死活問題だよ?」

「心配しなくても、舞鶴を離れる気は無いよ」

「……その言い方だと、アレが舞鶴に来れば問題ない、って聞こえるけど」

「……言い方を変えよう。まだ身を固める気は無いから、他所をあたってくれ」

 

仕舞いには響まで『アレ』呼ばわりし始めた事に苦笑しつつ、話を戻す。

 

「此処に来た事に後悔は無い。こうして……」

 

そう言って、響の頭に手を置く。

 

「こうして、大事なものを『護る』為に戦える……迷いは無いさ」

 

思えば、今までは『奪って奪われて』の戦いだった。

もう、失わない。失わせない。絶対に、護ってみせる。

 

「……そう、ですか」

 

まだ、どこか納得しかねる、と言った様子の雪風だったが、神林としてもこれ以上言う事はない。

まぁ後は彼女の中で完結してもらうしか無いだろう。

そう思っていた、その時。

 

 

 

 

 

ピリリリリリリリ!!

 

 

 

 

 

突然の電子音に、響が首を傾げる。

 

「司令官、何の音かな?」

 

少なくとも、執務室に置いてある通信機の音ではない。

響が持っている通信機でもなかった。

 

「あ、雪風のです、すみません」

 

そう言って、雪風がどこかと連絡を取り始めた。

 

「あ、摩耶さんですか、一体どうし……え、神林司令官ですか?」

「私か?」

 

どうやら、相手は摩耶のようだ。

しかし、会話の中で聞こえた名前に、神林が眉を顰める。

 

「えぇ、まぁ近くには居ますけど……ちょ、ちょっと待って下さい、いきなり代われってひゃ!」

 

其れまで通信機に耳を当てていた雪風が驚いたように耳を離す。

どうやら、向こうが大声で怒鳴ったようだ。

遮る物が無くなった為に、神林達の下にも摩耶の声が届く。

 

『だから!其処に居んならさっさと代われって言ってんだよ!冴香がやばいんだ!

 おい、神林さん!聞こえてっか!?力を貸してくれ!頼む!!』

 

通信機のスピーカーから聞こえてくる声に、神林はため息をつく。

 

何と無く、状況を察したからだ。

 

 

「……まったく、『アレ』は何処に行っても『要らぬ心労』を掛けてくるな」

 

 

これでは結局手綱を握っているのと大差ないのでは?とも思う。

 

兎も角、愚痴るのは後だ。今は行動を。

 

 

神林は、ソファから立ち上がった。




はい、今回も難産でしたよ。
今回も、下書きを三つほど書いて、色々あーだこーだして、こうなりました。
どうも文章の差が激しいですねぇ。素人芸ではこれが限界かもしれません。

さて、次回はバトル会です。お楽しみに。

追伸:タグに『不定期更新』を付けようか検討中です。

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