鎮守府の日常   作:弥識

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今回はほのぼのとシリアスが半々くらい。
で、前々から出したいなと思っていた新キャラのお披露目です。


舞鶴の双龍カッコカリ

○舞鶴鎮守府武道場

 

「行くぜ提督!!」

 

威勢の良い声で飛び掛かったのは、天龍型軽巡の『天龍』。

その手には何時身に着けいている剣とは違い、木刀が握られている。

 

「………」

 

迎え撃つのは彼女の所属している艦隊の司令官、神林だ。

彼の手には、何時ぞやの勝負で使われた切り詰めた木刀。あの時と同じ、両の手にそれぞれ一本ずつ握られている。

 

「おりゃ!」

 

裂帛の気合と共に繰り出される天龍の一撃を、神林は軽く軸をずらす事で躱す。

 

「ちっ……まだまだぁ!!」

 

そのまま怒涛の攻撃を続ける天龍。しかし、そのすべてを神林は躱す、もしくはいなしていく。

 

『ったく、マジで当たんねぇな……化けモンかコイツ!?』

 

危なげなく自身の剣戟を捌いていく神林に、天龍は呆れ交じりの賞賛を送る。

 

自分達は『艦娘』だ。彼女達の本分は海上での砲雷撃戦。それは天龍も理解している。

しかし、天龍は伊達や酔狂で腰に剣を提げている心算はなかった。

実際、剣で深海棲艦を仕留めたのも、一度や二度の話ではない。それは、姉妹艦の龍田も同じ事だ。

 

『しかし、こうまで当んねぇと、流石に自信無く「考え事とは余裕だな」っ!?』

 

自信無くしそう、と考えていた所で、それまで攻撃を捌いていた神林が前に出る。

咄嗟に攻撃を繰り出すが、左の木刀で受け止められる。

はて、それまでかわす、もしくはいなしていた攻撃を何故受け止めたのか?という天龍の疑問は、次の神林の行動で氷解した。

おもむろに、神林は天龍の腕を右手で掴む。右手にあった木刀は何時の間にやら腰のベルトに差し込まれていた。

急に腕を掴まれた事で、反射的に天龍の体が強張る。次の瞬間、天龍の体が『宙に浮いた』

 

「……へ?」

 

天龍の視界がクルリと回り、続けて腰に走る衝撃に、漸く自分が投げ飛ばされたのだと理解する。

神林に腕を掴まれた事で生まれた『力み』を、そのまま投げに利用されたのだ。

そういえば、何時だったかこうやって投げ飛ばされた事があったっけ、などと思いつつ、武道場の床を転がる天龍。

 

「次は私よ~?」

 

そんな声と共に、床に転がる天龍を飛び越え神林に迫る影。姉妹艦の龍田だ。

彼女の手には『なぎなた(木製)』が握られている。

最初は天龍も木刀を推していたのだが、『似たようなのを何時も使ってるから』という理由で龍田はなぎなたを選んでいた。

 

「行きますよ~提督~」

 

笑顔でそう言いつつ、なぎなたで突きを繰り出す龍田。細かく突き出されるそれを、神林は確実に捌いていく。

 

『流石に強いわね……でも、天龍ちゃんとは違うのよ~?』

 

一瞬、神林の体制が崩れた。フェイントを交えた龍田の突きを、咄嗟に木刀で受け止めたからだ。

 

それを『好機』と捉えた龍田は、一気に踏み込んでなぎなたを振り上げる。

 

ところが神林は、龍田渾身の一撃を木刀で受け流す事で、一気になぎなたの内側に潜り込んだ。

 

『!?もしかして、誘われた!?』

 

小刻みな攻撃と違い、大振りなそれは『戻り』も遅い。

神林は『待っていた』のだ。体勢を崩したのも、龍田を誘うためのブラフ。

もしかしたら、天龍の『真っ直ぐな攻撃』に対して受け身だったのも、龍田に『フェイントが有効』と思わせるための誘導だったのかも知れない。

 

肉薄した神林と龍田の目が合う。神林の瞳の奥にある『何か』を感じた瞬間、龍田の背筋に走る『悪寒』。

 

「っ!!」

 

咄嗟になぎなたを胸の前で構え、後ろに下がった。次の瞬間、龍田に走る衝撃。神林の突きを食らったのだ。

 

「くぅっ!?」

「龍田!?」

 

投げの衝撃から回復した天龍の声が響く。咄嗟になぎなたで受け止めたので怪我は無い。しかし衝撃までは殺せず、天龍の近くまで転がされた。

何とか受身を取って立ち上がる。幸い、なぎなたは無事だが、両の腕が痺れていた。

 

改めて前を見ると、特に追撃を加えることなく『彼』は立っている。

首を左右に曲げつつ、肩をまわす。明らかに、二人を『煽って』いた。

 

「……どうした、もう終わりか?」

「……ハッ、冗談だろ?」

「その割には、息が上がっているようだが」

「まだまだ、これからですよ~」

 

神林の言葉に、各々の武器を構えなおす。

 

「いっその事、二人で来たらどうだ?」

「オイオイ、幾らなんでも舐めすぎじゃねぇか?」

 

神林の物言いに、天龍の目つきが更に険しいものとなる。

 

「『神城式斬術』は一対多数の戦闘も念頭に置かれている。問題は無い。そもそも、『本気』の俺と手合せしたいんだろう?」

 

―――それなら、そこまで俺を追い込んでみせろ。

 

言外にそう示唆しつつ不敵に笑う神林を見て、『カチリ(若しくはプッツン)』と言う音と共に、天龍のスイッチが入る。

 

「……上等だ。行くぞ、龍田ァ!」

「ちょ、天龍ちゃん!?……もう、仕方ないわね~~」

 

突っ込む天龍に、龍田が苦笑しながら続く。

 

先程の神林の発言は明らかにこちらを『煽って』いた。

そして結果はご覧の通り。自慢の姉妹艦は前(に居る神林)しか見えていないようだ。

 

もう少し大人しい思考(戦術的な意味で)であって欲しいとも思うが、まぁこうなった彼女は冷えるまで言葉も届かないだろう。

後は此方が上手くフォローすれば済む話だ。……それが一番骨でもあるのだが。

 

「おらおらぁ!!」

「…………」

 

二人の怒涛の攻撃に、それでも両の手に持った木刀で捌いていく神林。

『防戦一方』と言えば聞こえは良いが、龍田には神林がまだ『余裕』を残している気がした。

 

―――何かを、待っている?でもこの状況で、一体何を?

 

龍田がそんな事を考えていた時、状況に焦れた天龍が声を上げる。

 

「埒があかねぇ!龍田、挟むぞ!」

 

そう言って、パッと左にそれる天龍。龍田もそれに倣い、右にそれる。

二人で一気に挟む、そう思って踏み込んだ瞬間―――

 

 

神林の口元が、小さく『笑った』気がした。

 

 

 

「っ!天龍ちゃん、下がって!!」

 

瞬時に神林の狙いを理解した龍田が声を上げるが、時既に遅し。

 

天龍の渾身の一撃を、サラリと受け流す神林。そして逸らされた一撃の先には―――中途半端に硬直した姉妹艦(龍田)が。

 

「っ!?やべっ!」

「きゃ!?」

 

咄嗟にそらそうとするも、一度付いた勢いはそうそう消せるわけも無く。

天龍は半ばぶつかる様な形で龍田に受け止められる。

 

「わ、悪い、龍…「もう少し、冷静に周りを見たほうが良い」…田?」

 

謝罪の声を上げる天龍に被せる様に、神林の声が響く。

 

彼の右の木刀は天龍の、左の木刀は龍田の首筋にそれぞれ添えられていた。

 

「あ……」

「……くっそ」

「勝負あり、だな」

 

 

 

 

 

「あー、マジで強ぇなアンタ。……もうアンタ一人で良いんじゃねぇか?」

 

武道場で大の字になりながら、天龍が呟く。

床にだらしなく寝転がる其の様はあまり行儀の良い画ではないが、取り敢えず放置。

因みに龍田はそんな天龍の隣に正座していた。

 

「ホント、深海棲艦にも勝てそうよね~~」

 

寝転がったままそんな事を言う彼女達に、そんなわけ無いだろうと呆れる。

 

「深海棲艦退治はお前達の艤装在っての事だ。お前達の領分だろうに」

 

艦娘の艤装が無ければ、深海棲艦は倒せない。そして、神林は艦娘達の艤装を装備できない。

つまり、神林には奴等を倒せないのだ。

 

「いや、逸れは確かにそうなんだけどよ……」

「提督なら、海の上だって浮かべそうな気がするから~~」

「お前達は俺を何だと思っているんだ……」

「「……人外?」」

「……知ってるか?俺だって人並みに傷付く」

「「えー……人並みぃ?」」

 

なぜ其処で無駄に息が合う。そんな所で姉妹艦の絆じみた物を見せなくて宜しい。

 

「……それで、どうしていきなりこんな事を?」

 

神林が、天龍に尋ねる。

 

 

 

それは今朝の事だ。

執務室にて業務を始めようとしていた神林の下に、天龍達が執務室に来るなり『訓練に付き合ってほしい』と言って来たのである。

てっきり演習の様子でも見てほしいのか、と思ったが、二人に連れて来られたのは武道場。

 

そのまま何時ぞやに使った木刀を投げ渡され、『自分達と本気で勝負して欲しい』と言われて、冒頭に至る。

 

「お前達の本領は海上での砲雷撃戦だろう。艤装を使わない格闘訓練に、意味があるのか?」

 

現在天龍達は最低限の艤装しかつけていなかった。

砲は勿論、足腰の推進器(?)も付けていない。

残っている物といえば、それぞれの頭に付いているアレぐらいなものだ。

……いや、天龍の場合、眼帯も艤装なのか?兎も角。

 

 

「…………」

 

気まずそうに口ごもる天龍。龍田が黙っているところを見ると、今回の発起人は天龍か。

そのまま暫く待っていると、観念したのか天龍が口を開く。

 

「……最近よ、どうも『頭打ち』なんだ」

「頭打ち?」

「あぁ。以前ほど、『伸びてる』感じがしねぇ。限界……つうのかな。それに近い感じがすんだよ」

 

抽象的に過ぎる天龍の言葉だが、神林には何となく理解できた。

 

艦娘の性能は、ある程度『数値化』されている。そして、全ての艦娘には『数値的な限界』が存在した。

恐らく、天龍はその『限界』に近づいているのだろう。

 

彼女達は神林の艦隊の中でも古株だ。海域攻略にせよ遠征・演習にせよ、多くの経験をつんでいる。

『近代化改造』や『改修』でも性能の底上げできるが、それにだって限りがあった。

 

天龍が現在感じている『限界』を超える手段も『無い事はない』のだが、残念ながら彼女は其処まで『至って』いない。

 

「俺達『艦娘』がどういうモンだ、ってのは知ってる。自分の状況だって、解ってる心算だ」

 

でも、理解できても納得はできねぇんだよ。そう続けた天龍の顔を、何ともいえない表情で見つめる龍田。

彼女にも、天龍の思いは理解できるのだろう。

 

其処まで言って、天龍は上体を起こして神林を見つめる。

 

「で、アンタと勝負したら、何か見えてくんじゃねぇかな、と思ったんだよ。

 アンタは強い。俺達『艦娘』とは違う『強さ』を持ってる。

 それを肌で感じたら……何か掴めるかも知れねぇ、ってな」

 

でもこのザマだ。そう言って、再び横になる。そのまま、右腕で顔を隠した。

 

「あー、くそ。強くなりてぇな……」

「天龍ちゃん……」

 

天龍の搾り出す様な声に、龍田も掛ける言葉が見つからない。自分も、似たような物なのだから。

 

其処まで、天龍の話を黙って聞いていた神林だったが、徐に天龍の隣に座り込む。

 

「……なんだよ」

 

顔を見られたくないのか、天龍が背を向ける。そんな様子に構うことなく、神林が口を開いた。

 

「太刀筋自体は、悪くない。相手を前にして物怖じしない胆力も大した物だ」

「……提督?」

「だが、良くも悪くもお前は直情的だ。だから動きを読まれ易い。落ち着いて、視野を広げろ。それだけで、選択肢は違ってくる」

 

其処まで言って、一度言葉を切る。いつの間にか、天龍は体を起こして姿勢を正していた。

 

「常に二手、三手先を考えるんだ。冷静に、強かに。

 確かに数値は覆せない。だが、個の性能差が勝敗の絶対的要因ではないんだ。

 コレはとある奴の受け売りなんだがな……

 

 

 スペックで勝てないなら、頭使ってナンボ、だそうだ」

 

「提督……」

「さて……次に龍田」

「は、はい!」

 

神林の言葉に、龍田が姿勢を正す。

 

「お前は常に冷静だ。先程も、俺の意図に気付いて動いていた。周囲の把握も巧い」

「……はい」

「だが相手を前にすると、無意識に『防御』へ走る癖がある。折角色々考えていても、それでは少々勿体無いな」

「そう、ですね……」

「恐れるな、とは言わない。恐れを捨てることは冷静さを捨てることに等しい。それでは意味が無い。

 だが、相手に悟られるな。どんな勝負でも、基本的に怖気づいた奴の負けだ。

 薄皮一枚でもいい。隠せ」

 

 

此処まで言って、『さて、』と続ける。

 

「此れまでの事を踏まえると、どうもお前達はお互いにお互いの足りない所を持っているようだ」

 

天龍には、龍田にない胆力が。

龍田には、天龍にない冷静さが。

 

「お互いが補える。お互いに学べる。いいコンビだよ、お前達は」

 

神林がそう締めくくると同時に、武道場に来訪者が。

 

「神林大佐、此方においででしたか」

「君は……大和?」

 

其処にいたのは、古賀の秘書艦、大和だ。

 

「古賀大将がお呼びです。ご足労願えますでしょうか」

「古賀さんが……?了解です。しかし、良く自分が此処に居ると判りましたね」

 

神林の言葉に、大和が苦笑する。

 

「始めは執務室へお伺いしたんですが……」

「ですが?」

「其処に居られた秘書艦さんが、随分不機嫌でしたよ。ちゃんと連絡、してました?」

「あー、そうでしたか……」

 

そういえば、天龍達が来た時、扶桑は丁度不在だった。

確かに『天龍達の訓練に立ち会ってくる』という旨の書置きはしたものの、『何処へ行く』とは書いていなかった。

というか、神林本人も知らなかった。

 

「『訓練に立ち会うとの事ですが、演習場等の使用申請は出されていませんし、天龍の事ですから恐らく武道場辺りかと』と言われたんですが……流石ですね」

 

大和の言葉に、若干引き攣った笑いを浮かべる神林達。

さすが我が艦隊の筆頭秘書艦。艦隊のメンツの行動など把握しきっているのだろう。

というか、先程の大和の言葉、恐らく扶桑の真似をしたのだろうが、抑揚の無い口調も真似していたとすると、あまり宜しくない。

 

まぁ、早い話、我等が筆頭秘書艦殿は、『結構怒っていらっしゃる』様だ。

 

『お前達も同罪な』という意味を込めて天龍達を見る。

 

「「……フイッ」」

 

仲良く視線を逸らされた。全く仲の良い姉妹である。

しかし、そうは問屋と航空戦艦が卸さない。

 

「あ、そうそう、天龍?」

「ビクッ!?な、何だよ?」

 

大和の言葉に、分かりやすく驚く天龍。

 

「扶桑から伝言よ。『ちょっと手伝ってほしい事が有るから、事が済んだら速やかに執務室に来るように』だそうよ」

「……了解」

「頑張ってね~天龍ちゃん「龍田も一緒にね」……了解です」

 

大和の言葉に、そろって引き攣った笑いをしつつ応える二人。こんなところまで揃うとは、仲がいい姉妹である。

『手伝ってほしい事』とは恐らく神林をこっちに引っ張り込んだことで滞っている執務行であろう。

神林も直ぐに戻りたいのは山々だが、あいにく古賀の呼び出しを受けている以上、仕方がない。

 

そう、仕方がない事なのだ。

別に『今の執務室に戻るの結構勇気がいる事だよな』とか思っていない。

先程『手伝ってほしい事』と書いて『OHANASHI』と聞こえた気がしたがきっと気のせいなのだ。

 

 

兎も角、古賀を待たせるのも悪いので、後を天龍達に任せて武道場を出る。

その際『あぁそうだ』と思い出し、天龍に声を掛ける。

 

「言い忘れていた。天龍!」

「ん?なんだよ提督」

 

片づけを行ないつつ此方に応えた天龍に、背を向けたまま続ける。

 

「焦る必要はない。俺にはお前達の力が必要だ。頼りにしているぞ?」

「……!お、おう!」

 

天龍の声音に満足し、そのまま武道場を後にした。

 

 

 

 

「……気付かれてたみたいね~」

「あぁ、だな。……全く、かなわねぇよなぁ」

「やっぱり、うれしい?」

「そりゃ……まぁな」

「うふふ……」

「な、何だよ」

「別に~?ちょっと、妬けちゃうなぁって」

「なんだそりゃ」

「私だって天龍ちゃんに頼りにされたいもーん」

「はぁ?いまさら何言ってんだ。お前に頼らねぇで誰に頼んだよ」

「…………もう」

「どうした?」

「今の、反則。ずるい」

「……わけわかんねぇ」

 

武道場の片づけをしつつ、先程の会話を思い出す。

 

『お前達の力が必要だ』

『頼りにしているぞ』

 

あぁ、もう。

先程の龍田の言葉を借りるのであれば、ズルい。反則だ。

 

天龍は焦っていた。自身の現状に。

 

天龍型は、言ってしまえば『旧型』だ。性能も、他の軽巡と比べると如何しても見劣りしてしまう。

巷で話題の『改二』になれば多少は違うだろうが、生憎その音沙汰はなし。

 

海域の難易度はどんどん高くなっていく。必然的に、高性能の艦娘が必要となってくる。

先日、『北上』に続いて『五十鈴』が改二となった。『球磨型』の『大井』や『木曾』、『川内型』の連中も育成中だ。

 

自分達の取り柄と言えば、燃費の良さ位。

 

―――置いて行かれる。

 

前線で戦う事を望む天龍にとって、それは拷問に等しい。

 

『何時か、自分たちはこの艦隊から必要とされなくなるんじゃないだろうか』

 

そんな事を、考えずにはいられない―――だが。

 

 

あの人が。他でもないあの人が。自分達の『力』を必要だと言ってくれる。

あぁ、なんて―――

 

「最っ高だなぁ、オイ」

「……」

「指揮官がああ言ってんだ。期待には、応えねぇとなぁ」

「天龍ちゃん」

「判ってるよ、もう焦ってねぇ。でも、此処で留まってちゃダメなんだよ」

「……そうだね」

 

不敵に嗤いつつ、隣の姉妹艦に向けて拳を掲げる。

 

「強くなんぞ。龍田。……頼りにしてんぜ?」

「うんっ!」

 

二人で、拳をコツンと突き合わせる。

改めて、心に誓う。

 

 

只々、勝利を、栄光を。自分が担ぐと決めた男の為に。

 

 

後に、『舞鶴の双龍』と言われる二人の、始まりであった。

 

 

 

 

 

「でも先ずは、扶桑の所に行かないとね~~」

「…………だな」

 

 

 

……俺、生きて帰れるかな……?

 

 

 

誓いが、ちょっと揺らいだ。

 

 

 

「慕われて居られるんですね」

「だと良いんですがね」

 

古賀の執務室に向かう途中、大和にそう言われ、誤魔化すように応える。

 

「所で、敬語でなくとも良いんですよ?」

「直属の上司の秘書艦ですからね。古賀さんにはお世話になってますし」

「それでも、私は只の艦娘ですよ?」

 

えぇ、『伝説』の大和型の、ですね、とは言わないでおいた。

因みに、階級こそ存在しないものの、大将の秘書艦である彼女達には『将官相当』の権限を持っている。

連合艦隊を率いることもあるのだから、妥当だろう。

 

「まぁ、癖のようなものと思っていただければ」

「そうします」

 

そんな雑談を交わしつつ、執務室にたどり着く。

 

「失礼します、提督、神林大佐をお連れしました」

 

小さくノックをした後、大和が告げる。「あぁ、入ってくれ」との言葉に、神林が入室する。

中を見ると、古賀がソファで書類を読んでいた。

 

「失礼します。神林、出頭いたしました」

「ご苦労、急にすまんな、楽にしてくれ」

 

そして促されるまま、古賀の対面に腰掛ける。

見ると、古賀の階級章が外されていない。つまり、今回は『公(おおやけ)』の話のようだ。

 

「……今日は、お前に会わせたい奴がいてな。少々急だったが、こうして呼ばせてもらった」

「会わせたい……?この鎮守府内の士官ですか?」

 

突然の話に首を傾げる。

この鎮守府に所属してそれなりに立つが、このような理由で招集を受けたのは初めてだ。

 

「あぁ。ついこの間、面白い男を見つけてね。提督として、こちらに引き込んだ」

「……自分の様に、『他所者』を引き込んだので?」

「まぁ、そうなるな。もっとも、『奴』は軍人ですらないが」

 

軍人ですらない、と言う言葉に、神林は眉を顰める。

先日、冴香と鎮守府の現状を聞いていたこともあり、あまりいい印象を抱けない。

 

そんな神林の様子に、古賀は苦笑いを一つ。

 

「そう邪険にするな。能力は保証する」

「……だと良いのですが」

「少なくとも、肩書きばかりのぼんぼんよりは『上手く』艦娘を動かすぞ。結果も出している」

「……古賀さんがそう言うのであれば、まぁそうなんでしょうが。それで、自分に何をしろと?」

「今は特にどう、とは考えていない。しいていうなれば、お前と『気が合いそう』だから合わせてみよう、とな」

 

古賀の言葉に、『見合い話じゃあるまいし』と思ったが、古賀のこういう所は意外と侮れない。

事実、冴香と知り合った遠因も古賀にあるのだから。

 

「……所で、その『お相手』は今何処に?」

「武蔵が呼びに行っている。もうすぐ来るはずだが『コンコンッ』お、来たな。いいぞ、入ってくれ」

 

古賀の応えに、扉が開く。そこに居たのはやはり『武蔵』だった。

 

「失礼する。提督、戸塚少佐を連れてきたぞ。ほら、入れ」

 

武蔵の言葉に、一人の男が入ってくる。

 

 

 

無精髭の細面。

短めの黒髪はポンパドールもどきに纏められ。

服装は若干着崩している。コレは『ファッション』と言うより、単に『だらしない』だけであろう。

身長は神林と大差なく。恐らく、年齢も近いように見える。

 

 

 

「失礼します。戸塚、出頭いたしました」

 

そう言うなり、男がこちらに気付く。暫く神林を見た後、小さく笑った。

 

「ははぁ、アンタが伝説の死神さんか?俺は戸塚。どうぞよろしく」

 

そう言って、男は不敵に笑うのであった。




今回も難産でした。もうちょっとペースを上げたいんですけどね。

天龍型って、早い段階で『詰まる』キャラだと思うんです。特に龍田は序盤の任務で入手できますからね。
遠征では優秀な彼女達ですが、やっぱり思う所があるんだろうな、と。
彼女達の改二は何時になるんでしょうね。楽しみです。

『舞鶴の双龍』は思いつきです。
でも良く考えてみたら、龍の付く娘って多いんですよね。
飛龍・蒼龍「解せぬ」みたいな。
あ、龍驤はともかく、雲龍や龍鳳はうちにはいませんのでスルーです。

さて、新キャラです。結構前から温めてたキャラです。
ぶっちゃけ、彼が主人公のプロットもありました。御蔵になりましたが。

なお、戸塚さんの秘書艦はもう決まってます。次回には出しますので、お楽しみに。

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