鎮守府の日常   作:弥識

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本編はちょっと一休みです。
『提督サイドもいいけど艦娘の日常はよ』というリクエストもありましたし。

いい機会なので、『千代田改二』改造記念の一本を。
例の如く、時系列は『サザエさん方式』でお願いします。

では、どうぞ。


【千代田改二】妹達の憂鬱:前編【改造記念】

皆さん、始めまして。

私は『千代田』、舞鶴鎮守府:神林艦隊所属の『千歳型軽空母』の二番艦です。

先日、無事に『改二』への近代化改造も終わり、名実共にトップクラスの実力を持つ軽空母になりました。

最近は大きな進攻戦もないし、近隣海域は穏やか。

 

所謂、『世は事もなし』てやつなんでしょうね。

……えぇ、やつなんでしょうけど。

 

「……むぅ」

 

現在、絶賛不機嫌中です。

 

いえ、さっき言ったとおり、現状に不満は無いのよ?

出撃では絶好調だし、艦載機の皆も頑張ってくれてるし。

同型艦の千歳お姉との仲も良好、なのだけど……

 

だけど、今の私の不機嫌の理由も千歳お姉が関わっているわけで。

 

 

あぁ、もう、本当に―――

 

『提督と一緒だと、コンビニのお弁当でも素敵です。うふっ、気持ちいい♪』

 

「……ふんっ」

 

―――面白く、ない。

 

 

 

 

○舞鶴鎮守府:防波堤

 

「…………」

「なんや、ま~た一人でスネとんのかいな?」

 

千代田が一人、夕日が沈む海を眺めていると、後ろから声が掛かる。

 

「龍驤……」

「隣、座るで?」

 

そこに居たのは、『龍驤型軽空母』のネームシップ、『龍驤』だ。

龍驤はそのまま千代田の隣に座る。

 

「……座っていいなんて言ってないし。ていうか、拗ねてなんか、ないし」

「……相変わらずやなぁ」

 

千代田が言外に『一人にしてくれ』という意思を見せても、龍驤は苦笑しつつも動く様子はない。

 

因みに、千代田も龍驤も、『神林艦隊』の古株だ。付き合いも長い。

龍驤も『改二』への改装こそされていないが、それでも艦隊内でも指折りの実力を持つ軽空母だ。

千代田の姉妹艦である『千歳』が艦隊に所属されたのが偶々遅かった事もあり、神林艦隊においては、千歳よりも龍驤の方が、千代田との付き合いが長かったりする。

そんな龍驤にとって、千代田の反応はある意味『いつもの事』なので、成れたものだ。

 

「それで?今日は何があったん」

「……」

 

龍驤の問いに、沈黙で返す千代田。

しかしこれも龍驤にとっては『いつもの事』なので、じっと待つ。

 

「…………」

「…………」

 

暫らく、お互いに無言の時間が続く。

そして『いつものように』先に沈黙を破ったのは千代田であった。

 

「……千歳お姉が」

「うんうん」

 

ポツポツと話し出す千代田に、相槌を返す龍驤。

 

※此処で決して『そら千歳ネタやろなとは思ったけども』とは言ってはいけない。話が拗れるから(以前経験アリ)だ。

 

「提督と、朝から一緒に居て」

「あぁ、そういえば今日の秘書艦、千歳やったなぁ」

 

千代田の言葉に、龍驤が記憶を探りつつ頷く。

 

神林艦隊の第一秘書艦は『扶桑』だが、今日の様に他の艦娘が秘書艦をすることも珍しくない。

『扶桑』が諸々の理由(長期入渠等)で秘書艦に就けない際の代役もあるが、最近では『それ以外の理由』も出てきた。

 

どうも、『開発』において同じ量の資材を投入しても、秘書艦の『艦種』によって出来る『装備』の傾向が変わってくるらしいのだ。

例えば戦艦が秘書艦になると『主砲』が出来やすく、空母では『艦載機』が出来やすいと言った具合に。

 

『開発申請する秘書艦の艦種で、妖精たちが無意識に【気をつかう】のでは?』と噂されているが、ともかく。

 

まぁそんなわけで龍驤が秘書艦をすることもあるし、千代田だってそうなのだ。

そして、今日は偶々千歳だったのだが……

 

「お昼も、提督と二人きりで食べてたらしくて」

「……ほうほう」

 

『千歳、随分と攻めたなぁ』と龍驤は内心思う。※勿論、口には出さない。話が(以下略)

 

艦隊の司令官である『神林貴仁』提督を慕う艦娘は多い。

何時しか『神林LOVE勢』と呼ばれるようになった彼女達は、上は戦艦から、下は駆逐艦まで居る。

積極的にアプローチしている艦娘こそ多くはない。だが潜在的な、所謂『LOVE勢予備軍』は沢山居る事だろう。

 

実際の所、龍驤も神林のことはそれなりに慕ってはいる。何だかんだで頼りになるし、されているし。

 

ここで問題なのが、他でもない千歳が『LOVE勢』である、という事。

千代田が拗ねるのは大体このせいなのだ。

 

「……っていうか、何で『二人で食べてた』って知ってるん?」

 

ふと疑問に思い、龍驤が問う。

流石に二人をストーkゲフンゲフン付き纏うことは無い……と思いたい。いやしかし、千代田なら……いやいや。

 

「……ねぇ龍驤、貴女何か失礼な事考えてない?」

「ん?気のせいやて」

「……まぁいいけど」

「で、何で知ってたん?」

「私も、千歳お姉とお昼を食べようと思って」

「ふむふむ」

 

何となく、今回の話が見えてきた気がする。

 

「執務室に行ったら、二人とも居なくて」

「ふむふむ」

「それで、お昼過ぎに千歳お姉が提督に……」

「提督に?」

 

『たまには母港の見える丘でお弁当、って言うのも、良いものですね♪』

『提督と一緒だと、コンビニのお弁当でも素敵です♪』

 

「―――って」

「……お、おう」

 

 

―――いや、普通にデートやん。仕事せぇや。(※とは口が裂けても言えない。話が(以下略))

しっかし、昼食がコンビニ弁当って色気も何もないなぁ……千歳って、料理苦手やったっけ?

あー、急の秘書艦やったから準備が出来へんかったんかな。『手作り弁当で女子力アピール!』は鉄板やし。

それにしても、あの千歳が最早只の『恋する乙女』や。恐るべし『提督補正』やな。

コンビニ弁当が『素敵なランチ』やで?スゴイな、『恋する乙女』。

 

いや、コンビニ弁当が悪い訳やないんよ?最近のコンビニ弁当はクオリティ高いし。

個人的にはロー○ンがお勧めやなー。あ、チョイスに深い意味はないで?

家の直ぐ近くにたまたまあるから、筆者が良く利用するって言う―――何の話やっけ?

 

 

取り敢えず思考を中断し、千代田の話に耳を傾ける。

 

「それで、その後千歳お姉に声を掛けられたんだけど、逃げてきちゃって……」

「そんで、ココで黄昏てた……と」

「……うん」

「成るほどなぁ」

「…………」

 

一頻り喋り終えてまた夕日に目を向けた千代田を横目に、龍驤一人考える。

 

逃げてきた千代田の気持ちも分からなくはない。というか、自分でも逃げる。

というかそんな甘ったるい空間に一緒に居たら、間違いなく糖尿になる。

 

しかしまぁ、今回の話は大体見えた。

要するに、千代田は『のけ者にされた』様な気がしたのだろう。

話の流れからして、姉妹で事前に約束をしていたとかでもなさそうだが、『そう言う問題』ではない。

 

「仲良し『過ぎる』姉妹ってのも、考えモンやなぁ」

 

何気無く呟いた一言に、千代田が噛み付く。

 

「……龍驤には分からないわよ」

「せやな、ウチにはわからへん。姉妹とかおらへんからなぁ」

「あ……」

 

無意識に呟いてしまった己の失言を悔いる。彼女は私の話を聞いてくれたのに。

 

「……ごめん」

「今更やで?気にしてへんよ、ウチは。無い物ねだりしてもしゃぁないやん」

「それでも……ごめん。デリカシーが無かった」

「ホント千代田は『気にしい』やなぁ」

 

沈み込む千代田に、龍驤は本日何度目かの苦笑を一つ。

どうもマイナス思考の流れになってしまっているようだ。

 

―――まぁ、乗りかかった船だ。最後まで付き合おう。

 

「貸し一つな」

「え?」

「まぁ、夕食一回で見逃してやらん事もないで?」

「……なにそれ?」

 

龍驤の提案に、千代田が小さく笑う。

 

「こういう時はな、美味しいもんでも食べてスッキリすればいいんや!というわけで、行くで!」

「え、行くって……何処に!?」

 

突然立ち上がり手を引く龍驤に、千代田が慌てて問う。

 

「何処て、決まってるやん。晩ご飯食べに行くんよ。千代田、今何時やと思ってんの?」

「え?」

 

呆れたような龍驤の言葉に、千代田は改めて周りに目を向ける。

 

「……えっと、今何時?」

「そうね大体ねー……って古いか?まぁええわ。もうすぐヒトキュウマルマル(19:00)やで」

 

気付けば、夕日はすっかり沈み、海からは冷たい風が吹き始めている。

 

「海の夜風は冷たいしな。早いとこ行こう?こっからなら……鳳翔さんとこの店にしよか」

「……うん、そうだね。行こっか」

 

そのまま龍驤に手を引かれながら、千代田は防波堤を後にした。

 

 

 

○小料理屋『鳳翔』:入口

 

「さてと、着いたで」

「すっかり夜になっちゃったわね」

「まぁ、日が落ちたら早いもんやな」

 

途中雑談しつつも店に着くと、辺りはすっかり暗くなっていた。

基本的に『夜戦任務』は『お呼びでない』彼女達軽空母娘は、他の艦種の艦娘達と比べて、夜は自由な時間が多い。

 

鳳翔型軽空母『鳳翔』も例外ではなく、そんな彼女が切り盛りしている『小料理屋鳳翔』は艦娘達の憩いの場として有名だ。

 

因みに、『渦中の人』である『千歳と提督』が彼女のお店に居ない(と言うか執務室で仕事中)なのは既に(こっそりと龍驤が)偵察済みだ。

流石『彩雲』、『我ニ追イツク敵機無シ』とはよく言ったもので、大した偵察能力である。

 

え、そんなしょうもない事に『彩雲』を使うな?馬鹿を言ってはいけない。

もし、お店で『鉢合わせ』でもしたら、龍驤の胃が大破してしまう。主にストレスで。

 

「もしかしたら、先客がおるかもなぁ」

「そうね、最近は大きな作戦もないし、時間に余裕のある娘も多いかも」

「まぁ、大方ヒャッハ……やなかった、隼鷹あたりが飲んだくれてるだけやと思うけどなー」

 

そんな事言いつつ、龍驤はお店の戸を開ける。そして目に入ったのは―――

 

「ぐすっ……不幸だわ……姉さまぁ~~」

「ちょ、ちょっと山城、もうそれくらいにしときなよ……って、あ」

 

カウンターでグラス片手に突っ伏している『山城』と、それを宥めている『伊勢』が居た。

 

 

伊勢は龍驤を見るなり『援軍が来た!』目を輝かせるが、彼女が何かを口にする前に龍驤は『ぴしゃり』と扉を閉め、穏やかな笑顔で隣の千代田に話しかける。

 

「……よし千代田、他のお店いこか!間宮さんのお店ってまだ開いて……」

 

龍驤は確信していた。『このまま素直に入店したら、絶対に面倒な事になる』と。

 

―――しかし、そうは問屋と航空戦艦が許さない。

 

ガララ!と扉が勢いよく開かれる。そこには、満面の笑みを張り付けた伊勢が。

 

 

「やぁやぁ龍驤に千代田奇遇だねこれも何かの縁だよ良かったら一緒にご飯食ようようんそれが良いご飯って皆で食べた方が美味しいし二人より四人の方が絶対楽しいからさっていうかこれ以上この空間で二人きりとかホント勘弁してくださいお願い見捨てないで!」

「……伊勢、もうちょっと本音隠そ?」

 

物凄い勢いで捲し立ててるうちに若干涙目になってきた伊勢に、龍驤は本日何度目かの苦笑を一つ。

 

 

―――これも、『乗りかかった船』……なんかなぁ?

 

 

『艦娘なのに船に乗るとかこれいかに』などと明後日の方向に思考を飛ばしつつ、龍驤達は一先ず店に入るのであった。




千代田さんは我が艦隊二人目の『改二艦娘』です。一人目は北上さんね。
因みに今回の相方が龍驤さんだったのは筆者の趣味です。千代田さんの次に育ってる軽空母だったりします。(と言うかLv25以上の軽空母はこの二人のみ)

最近なんかのスイッチが入ったのか、筆が進む気がします。スイッチOFFになった時が怖いですね!
後編もなるべくスムーズに更新したいと思ってますので、お楽しみに。

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