鎮守府の日常   作:弥識

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先日、『大型建造』で三隈さんが、続けて『沖ノ島EX海域』ボスS勝利で熊野さんがやってきました。
……明日あたり、僕は死ぬのかもしれません。

さて、今回は説明回。ちょっと短めです。
少しキャラの設定を盛りました。そのうち纏めますので。
では、どうぞ。


死神たる理由

○舞鶴鎮守府:武道場―――

 

冴香の『なぁ、決闘しようや』発言から数刻後、彼らは武道場に集まっていた。

理由は勿論、『神林貴仁と宮林冴香の決闘』を見届ける為である。

 

「……どうしてこうなったんでしょうか?」

 

艦隊の秘書艦である扶桑が頭を抱えつつ一人呟く。いや、大体の原因は分かっているのだが、それでも言わずにはいられない。

 

「それは勿論、私が許可を出したからだな」

 

後ろから聞こえてきた声に目を向ける。

そこに居たのは、古賀聡史(こが さとし)大将……舞鶴鎮守府幹部の一人であり、つい先程神林と冴香の決闘を『面白い、やりたまえ』の一言でまとめてしまった張本人である。

 

まぁ早い話、『大体この人のせい』なのだ。

 

そんな古賀の言い様に、後ろに控えていた二人の艦娘が小言を零す。

 

「からだな、じゃないですよ提督……」

「あぁ、全くだ……すまんな、扶桑。うちの提督が無茶を言って」

 

二人の名前は『大和』と『武蔵』……大和型戦艦姉妹である。どうやら、古賀大将の秘書艦のようだ。

武蔵の言葉に、苦笑いしながらも返す。

 

「まぁ、あくまで古賀大将は許可を出しただけですし……」

 

そう、古賀はGOサインを出しただけ(それが問題なのだが)であり、元を正せば―――

 

「タカ君と決闘♪タカ君と決闘ー♪」

 

武道場の中心で、何だか良く分からない盛り上がり方をしている残念な美女、『宮林冴香』のせいである。

取り敢えず、物凄く楽しそうだが、正直意味がわからない。

 

「……これも、宮林司令が言っていた『案件』の一つなのですか?」

「まぁ、そう思ってくれてて構わん」

 

青葉の問いに、古賀が頷く。

これまでの情報を纏めつつ、青葉は一つの仮説を立てた。

 

―――早い話、これは『腕試し』なんでしょうね。

 

冴香のもたらした情報はこうだ。

 

・海軍上層部できな臭い動きがある

・詳細な内容は分からないが、私達『艦娘』に関わる『厄ネタ』らしい

・そして『事が起きた場合』神林提督は間違いなく『動く』―――私達を護る為に

 

要するに、『動く』時に、彼の軍人としての『牙』がどれ程のものなのか知りたいのだろう。

 

「でも実際、どうなんだろうねー」

「北上……どう、とは?」

 

冴香の様子を見つつ呟く北上に、長門が首を傾げる。

 

「いや、提督が強いってのは知ってるけどさ、アイツはどうなのかなーって」

 

北上の言葉にふむ、と長門は考える。

 

この艦体内に於いて、神林提督の『強さ』は周知の事実だ。

『天龍の件』もあるし、長門はあくまで又聞きでしかないのだが『猿渡提督との一件』もある。

聞けば、『剣道の有段者を打突で瞬殺した』らしい。

猿渡の件は古賀大将の耳にも届いている筈。であるならば冴香も知っているだろう。

それを踏まえて『決闘』を持ちかけて来るのだから、少なくとも『それなりに』腕は立つのではないだろうか。

 

「あの人は強いよ。多分、だけど」

 

ふと後ろから聞こえた声に目を向ける。そこに立っていたのは駆逐艦『島風』だ。

いつもの様に『連装砲ちゃん』なる謎生物を抱きかかえたその目は、油断なく冴香に向けられている。

 

「どうしてそう思うんだい?島風」

「私、さっきあの人に捕まったじゃない」

 

響の問いに、島風が若干顔を赤らめながら呟く。

あぁそういえば、と彼女達は記憶をめぐらす。あの時は『色々衝撃的』で意識から外していたが。

 

「あの時私、『本気で』逃げてたんだけど……逃げれなかった」

「Oh、本当デスカ……」

 

島風の悔しそうな言葉に、金剛が驚く。

駆逐艦娘『島風』は艦隊の中でも屈指の『速さ』を持っている。

その彼女ですら『逃げ切れない』身体能力。場所が『海上』ではなかったとは言え、驚異的としか言いようが無い。

 

「そういえば、『お前達では相手にならない』とか言ってたよね、提督」

「あぁ、そういえばそんな事を言っていたな」

 

北上の言葉に、先程の神林の言葉を思い出す。

 

 

―――と言うか、『あいつ』の相手はお前達では無理だ

 

 

「アイツは強いぞ。相当にな」

 

彼女達の疑問に答えたのは、古賀であった。

 

「提督、ご存知なのですか?」

 

大和の問いに、古賀が頷く。

 

「あぁ、アイツの高い艦隊指揮能力も有名だが、個人の『武力』も相当だぞ。猛者の集まる『横須賀』で少将で居るのは伊達じゃない」

「ほう、それはそれは……」

 

古賀の言葉に、武蔵も好戦的な目を冴香に向ける。

これは既に引退した人間の話なんだが、と古賀が続ける。

 

「宮林『元』大将……冴香の実父で、『軍隊式鋭剣術にその人あり』と謳われた猛者だったんだが……」

「だが?」

「冴香はそれすら凌ぐ達人らしい。そもそも、『宮林』は軍属の名家だからな」

「提督よ、『らしい』というのはどういうことだ?」

「あいつの『本気』を、誰も見たことが無いのさ……無論、私もな」

 

古賀の言葉に、扶桑達は戦慄する。冴香もまた、『爪を隠した鷹』だったのだ。

 

「まぁ、それを言えば神林も大概だが」

「提督が?」

「何だ、知らなかったのか?」

 

扶桑達の反応に、「しまった」という表情をする古賀。どうやら、神林は話していなかったらしい。

しかしここまで言った手前、誤魔化す事は難しい……が、どの道もう直ぐその『片鱗』が見えるのだから良いか、と思い直す。

というか、『ここまで慕われておいて黙っていた神林が悪い』と開き直る事にした。

 

「神林が修めた技術の名は知っているか?」

 

古賀の問いに、記憶を探りながら天龍が応える。

 

「あぁ、確か……『斬術(ざんじゅつ)』とか言ってたな」

「そうだ。正式には『神城式斬術(かみしろしき ざんじゅつ)』と呼ばれている」

「神城式斬術……ですか」

 

扶桑の言葉に古賀が頷く。

 

「そうだ。かつてある男が編出した『人を斬り殺す』為の技術だ」

 

斬り殺す、その単語に、扶桑達は返す言葉がない。

そして続けられた言葉に、彼女達はさらに驚愕することになる。

 

「その男は『決して語られる事のない最凶』と謳われているが……他でもない、神林の『父親』だ」

「な……!?」

「神林提督の父親、だと……!?」

「でも、それじゃぁ名前が……」

「正確には神林は奴の『育預(はぐくみ)』……まぁ相続権を持たない養子のようなものだがな」

 

そう、だから神林はその男から『神』の文字を貰った。

 

「そ、その方は今何処に……!?」

「随分前に死んだよ。『戦場で生き、戦場で逝く』が口癖だった」

「戦場で……」

「その男が生前、神林についてこう言っていたよ。『あいつは俺の一番の拾物で、俺の最高傑作だ』とな」

 

古賀の言葉に、彼女たちが顔を顰める。

恐らく、『最高傑作』という、まるで『物扱い』な言葉に引っ掛ったのだろう。

だが、間違いなく、『神林貴仁』という『兵士』は『彼』に『創られた』のだ。

 

 

―――語る事すら赦されぬ、伝説の『死神』として。

 

 

「……古賀提督は、二人を高く評価しているのですね」

 

扶桑の言葉に、小さく頷く。

 

「あぁ、出来る限り、彼等には私の『味方側』であって欲しいよ」

 

其れこそ、どんな手を使ってでも。

万が一敵に回った場合、あらゆる手を使って真っ先に排除しようと思うほどに―――とは、言わないでおいた。

 

「ともかく、お互いの力量は未知数。正直、どちらが勝つかは……私にもわからん」

「……随分楽しそうですね、提督」

 

大和の言葉に、小さく笑いながら応える。

 

「楽しいかだと?楽しいさ、私は生粋の軍人だからな」

 

そう、古賀聡史は将校であり、軍人であり、男だ。

その肩書きに、共通するものが一つ。

 

 

―――英雄に、強い者に、強く強く憬れるという事。

 

 

目の前には、『普通』を遥かに逸脱した『強者』が二人。

それが『どちらがより強いのか』を競うというのだ。しかも、自分の目の前で。

 

「あぁ、楽しみだな。実に楽しみだ」

 

これが、楽しみと言わず、何と言おう。

 

 

 

「ふーん……ま、提督やあの人が凄い強い、ってのはわかったよ」

「あぁ、やはり、私の目に狂いはなかった、という事だな」

 

そういって、北上が頭の後ろで手を組みつつ準備をしている二人を眺め、長門が腕を組みながらうんうんと頷く。

 

「貴女達、あまり驚かないのね?」

「ん?……まぁ、提督がすげぇ強いってのは前から知ってたしなぁ」

「正直、強さの理由が判った、ってだけですもんねぇ」

 

大和の意外そうな問いに、天龍と青葉が苦笑しながら応える。

 

そう、神林の強さは周知の事実だったのだ。今回の古賀の話は、その根源を知ったに過ぎない。

彼女達にとって、『高熱の原因は風邪でした』と言われたようなものなのだ。

 

「しかし、相手もかなりの使い手のようだが……?」

「そうみたいだね。でも、提督は負けないもん!」

 

武蔵の探るような言葉に、きっぱりと返したのは島風だ。

そんな島風の言葉に、苦笑する古賀。

 

「ははは、随分な自信だな、島風?」

「……?可笑しな事を言うね、古賀司令」

「うん?何がだい、響」

 

古賀の言葉に、心底不思議そうに首を傾げる響。

 

「いや……彼が響の司令官である……勝利を信じるのに、それ以外の理由がいるのかい?」

「お、良い事言うじゃねぇか響」

「うぁ、ちょ、天龍!?」

 

天龍が感心したように響の頭をわしゃわしゃとなでる。

そんな様子を、扶桑や金剛が穏やかな笑顔で見つめる。

 

「あら、先に言われちゃったわね」

「でも、提督の勝利は確実デース!なんたって、私と言う『勝利のヴィーナス』がついてマスからネ!!」

 

得意げな顔でそう宣言する金剛。

 

 

 

 

 

しかし、それを聞いて黙っている『彼女達』ではない。

 

「いや、お前『女神の加護』とか言えるほど『運』が高くないだろう?この『幸運のビックセブン』たる私がだな」

「いやなにスロットの台みたいな事いってるんですか!?運の高さならこの青葉だって!」

「はっ、近代化改造も満足に終えてないお前が何を言う!」

「もうすぐなりますぅ!あとちょっとで改造できますぅ!」

「そういう事なら私だって、改二になれば……」

「うぅ~~……速さなら私だって負けないのにぃ……」

 

「…………不幸だわ」

「不味イデス!扶桑が『不幸モード』になってマス!」

「何だよその怖いモード!?ちょ、そう気を落とすなよ、な?扶桑」

「そ、そうだよ。響達もそんなに変わらないし……」

 

 

「……改造で運が下がる天龍はともかく、貴女達は改二で運が上がるわよね……響、金剛?」

 

 

「えっ」

「あっ」

「shit!バレましたカ!」

 

 

「ええい、こうなったら改装で一気に引き離してくれる!」

「上等です(だよ)!」

「「「まるゆだ!ありったけのまるゆを持って来い(来て)!!!」」」

 

 

「いや君ら大概酷いな!?」

「まるゆちゃん逃げて、今すぐ逃げて!」

 

彼女達のあまりにもあんまりな発言に、思わず『ストップ』をかける天下の大和型姉妹。

 

 

「「「何、まるゆが足りない!?宜しい、ならば大型建造だ!!」」」

 

「「やめてあげて!!」」

 

 

 

 

「……舞鶴は今日も平和だなぁ」

「「古賀提督、現実逃避してないで止めて下さいよ!?」」

 

 

 

 

神林貴仁と宮林冴香の決闘まで、あと少し。




ごめんなさい。シリアスだけで終われませんでした。
でも、やっぱりこういう雰囲気って必要だと思うんですよ。この作品には。

次回は冴香と神林の掛け合いを書こうと思ってます。お楽しみに。

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