鎮守府の日常   作:弥識

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皆さん、お久しぶりです。
このGWはまるっと出張でございました。

それでは、後編でございます!……と行きたかったんですが……

話の5割近くが某艦娘の回想になってしまったので、ちょっとおっさんの雑談も付け足しつつ、『閑話』として切り離すことにいたしました。
『艦娘のターン!』を期待した皆さん、申し訳ありません。ご了承ください。

そういえば、前話の感想にて『執務室の面子に天龍型の眼帯の方がいない』みたいな指摘がありました。
ネタバレすると、彼女は諸般の事情でお出掛け中です。
あの子があの場に居ると、冴香さんがヤイヤイ言う前に『事を起こし』ちゃいそうな感じがしたので。
ちゃんと出番は有りますので、お楽しみに。


誰が為の牙:閑話

○古賀提督執務室

 

「それで……今回はどんな『厄介事』を持ち込まれたんですか?」

 

冴香が部屋を後にして早々の神林の言葉に、古賀の眉がぴくりと動く。

 

「……気付いていたか?」

「確信はなかったですよ。正直、『かま掛け』のつもりでした」

 

神林の返答に、古賀が苦笑する。

 

「相変わらず、『アイツ』の件に関しては勘が良いな」

「……えぇ、全く嬉しくないですがね」

 

馴れとは恐ろしいものです、と肩を竦める。

 

「流石は『元婚約者』だな」

「今更その話を蒸し返すのですか?と言うか、仲人は貴方だったとお聞きしましたが……」

「……誰から聞いた?」

「確認はたった今本人から取れました。まぁ、冴香からもそれとなく聞いていましたよ」

「……お前、最近アイツに似てきたなぁ」

「本当ですか?貴重な情報ありがとうございます。早速矯正しなければ」

「そういう諧謔味の使い方が特にな」

「……以後気をつけます」

 

神林の言葉に苦笑しつつ、改めて二人でソファに腰掛ける。

古賀は階級章を外していた。つまり、『堅苦しい話は無し』という事だろう。神林もそれに倣う。

秘書艦を呼び、コーヒーを用意するよう声を掛ける。

 

「そういえば、古賀さんは誰を秘書艦に任命しているのですか?」

「ん?逢ったことがなかったか?」

「えぇ、以前来たときには不在でしたし」

「まぁ常に待機させておく程でもないからな……丁度良い、紹介しよう」

 

暫くして、件の艦娘がコーヒーを持ってくる。

その姿を見た神林は大きく目を見開き、古賀に向かって小さく呟いた。

 

「コレは……また、随分と規格外な」

「驚いたか?いい機会だ、『君達』、自己紹介を」

 

古賀の言葉に、秘書艦『達』が頷く。

 

「始めまして。大和型戦艦一番艦、大和です。どうぞお見知りおきを」

「君が神林君か?大和型戦艦二番艦、武蔵だ。長崎生まれだ。よろしく頼むぞ」

 

其処には嘗ての、いや、今でもそうであろう『日本海軍の切り札姉妹』がいた。

 

 

「……それで、先程の質問の件だが」

 

秘書艦が淹れたコーヒーを飲んでいると、古賀が思い出したように呟く。

因みに何故『秘書艦が二人居たのか』という疑問だが、『普段は交代で就いているのだが偶々二人とも居たので呼んだ』だけらしい。

 

「確かに、ある『案件』を持ち込まれている。だが……今は『まだ』お前には話せない」

「機密をそう易々と聞けるとは思っていませんよ」

「いや、そう言う意味ではなくてだな……」

 

言いよどむ古賀と、先程の冴香の言葉。

其処まで考えて、神林の脳裏に、一つの可能性が浮かぶ。

 

「……その『案件』は、『彼女達』も関係してくる訳ですね?」

「全く、お前の聡さには時折寒気を覚えるよ」

 

神林の問いに、古賀が苦笑する。

 

「時が来たら話す。……まぁ今夜辺り冴香が話してくれるんじゃないか?」

「アイツを食事に誘えとでも?」

「別に知らん仲でもないだろうに。積もる話もあるだろう」

 

古賀の言葉に、「まぁ考えておきます」と返した。

 

「さて、此方の話はほぼ終わったわけだが……『向こう』はどんな按排か」

「またアイツの悪い癖が出てるんですか?」

 

古賀の言葉に、眉を顰める。

 

「そう言うな。アイツも悪気があってやってる訳じゃない」

「真意を掴ませずにやるから顰蹙を買うんですよ……ウチの奴等が暴発しなければ良いんですが」

 

冴香は、自分が気に入った存在を何かと『試そう』とする。

基本的に悪意を持ってやるわけではないのだが、同時に真意すら見せないものだからやられる方は良い迷惑だ。

 

「……お前が思った通りの事が起こっているとして、誰が一番最初に『動く』と思う?」

「そうですね……『北上』か、『響』辺りでしょうか?『扶桑』や『長門』は勿論、『金剛』や『青葉』も意外と冷静ですから」

 

因みに、『天龍』は遠征中だ。もうそろそろ戻ってくるだろう。

別に『狙った』訳ではないが、今回はタイミングが良かった。

真っ直ぐな性格をしたあいつの事だ。下手をすれば問答無用で『動き』かねない。

 

「どうする?執務室に戻るか?」

 

古賀の探るような目を受け、コーヒーを飲みつつ応える。

 

「いえ、暫らく此処に」

「……良いのか?」

「下手に動いて、アイツの造った『場』に呑まれる方が問題です」

 

目の前に居る古賀も大概だが、冴香の話術及び戦術眼はそれを遥かに凌駕する。

伊達にあの若さで将官に成っている訳ではない。

まるで『未来が視えている』様な『先見の明』に、気付いたら彼女の掌の上に乗っていた、なんて事も在りうる。

此処で執務室に向かっても、場を変えれるとは思えない。下手をすれば、神林の口から『いらぬ事』を喋らざるを得ない情況になりかねない。

 

それならば、下手に構わずに彼女の目の届かない場で『浮いた駒』としていた方が良い。

 

「どの道、『事が済んだ』ら此方に連絡が来るのでしょう?」

「まぁ、そうだが……」

「あちらがどう転ぼうが、俺の答えは変わりません。出来る事はやりますよ。貴方には恩も在りますから」

「……お前の立場が益々難しくなるかも知れんぞ?」

 

古賀の言葉に、小さく笑う。

 

「其処まで、自身の立ち位置を気にした事は在りませんよ。ですが、虐められるのは厭ですね」

「お前は大人しく虐められる様な事は無いだろう?」

「勿論です。『悪意には悪意を』『敵意には敵意を』と教わりましたから」

「そうだったな……お前はそう言う奴だったよ」

 

神林の言葉に、古賀も小さく笑う。

 

「自身が敵と判断したものを斃す……其処には慈悲など存在しない」

「慈悲……ですか。『そんなもの憶える必要はない』と教えられたのは憶えています」

「全く……大した奴だよ、お前は」

 

平然とした顔でそう応える神林を見て、古賀は恐ろしくも頼もしい―――そんな感情を抱きつつ、小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――私は、あの時、決めたんだ。

 

 

あれは、大井っちが大破してドックに担ぎ込まれ、それまで溜まっていた物を『あの人』に吐き出した時。

ふと思うことがあったので『これもついでだ』と思って『あの人』に聞いてみることにした。

 

「……ねぇ、提督?」

「何だ?」

「もし、もしだよ?艦娘用の『アレ』が開発されたら…どうする?私達に装備させる?」

「安心しろ。絶対に装備はさせない」

 

あの人の即答に私は少し安堵する。

だが、正直この返答はある程度予測していた。大事なのはこの先だ。

 

「じゃぁ、もし、提督より偉い人…それこそ、『元帥』とかが『コレを装備させろ』って、言ったら?」

「……在り得ないと思うが?」

「だから『もし』の話だよ。『アレ』装備させるのが『海軍』の総意になったとしたら…どうする?」

 

聞いておいてなんだが、私は答えを聞くのが怖かった。

軍において、上の命令は絶対だ。提督とて例外ではない。そもそも彼の階級は『中佐』だ。彼より上の将校は沢山いる。

ちょっと意地悪な質問だったかな…とも思ったが、あの人の返答は私の予想を遥かに超えたものだった。

 

「そうだな、もしそんな事になったら……俺は『海軍』を潰すよ」

「…………へ?」

 

予想外の発言に、私は驚いた。

 

「いやいや…滅茶苦茶でしょ」

「『もし』の話なんだろう?」

「確かにそう言ったけどさぁ」

「何だ、『上の命令には逆らえない、苦渋の決断だが装備させる』とでも言った方が良かったか?」

「そうじゃないけど……」

 

私は困ったように呟く。

 

「そんな事したら、鎮守府に居られなくなっちゃうよ?」

「どちらにせよ、そんなことが罷り通る組織に居るつもりは無いよ」

「海軍を潰す海兵なんて聞いたことないよ……」

「あくまで『もし』の話だろう。それに、俺は元陸軍だからな。其処まで海軍自体に対する想い入れも無い」

 

私は返す言葉が見当たらなかった。

以前から、自身の司令官が『変わり者』だとは思っていた。

だが、それにしたって限度があると言うものだ。

そんな私の動揺を尻目に、彼は遠くを見るような目で一人呟く。

 

「『勝つ為には、如何なる非道も肯定される』…そんな言葉、上に立つものの詭弁でしかない」

「提督……?」

「俺が昔居た部隊の話を聞いたことは?」

「え?無いけど……」

 

彼の言葉に、私は意外そうに顔を上げる。

彼の過去には謎が多い。海軍に入る以前、彼が何をしていたのかを知っている艦娘は皆無と言っていい。

何故なら本人が、自身の過去をコレまで殆ど口にしてこなかったからだ。

 

「俺は以前…陸軍のとある部隊に居た。其処は所謂『勝つ為に非道を肯定した』部隊でな」

「え……?」

 

彼の言葉に、私は絶句する。

 

「色々な事をした……敵兵も、随分斃した」

 

そういえば、以前『貴方は何人の敵を斃したのか』と聞かれたこともあった。

あの時は確か、『30人を超えた辺りで数えるのを止めた』と答えた気がする。

自分の『職業』は確かに『軍人』だったが、やっていたことは『殺し屋』と大して変わらなかった。

 

「結果的に戦いには勝利した…だが、俺に残ったのは虚しさだけだった」

 

軍人の仕事は国土を護り、国民を護る事だ。

だが自分のしてきたことは、只々我武者羅に、目の前の敵を斃してきただけ。

結果的には国を、民を護ってきたのかも知れないが、少なくとも『あの時』の自分にはそうは思えなかった。

 

 

「それじゃあ……なんで此処にいるの?」

「ん?」

「だって、戦うのが虚しくなっちゃったんでしょ?何で、こんなトコにいるのさ」

「……これ以上、俺のような存在を創らせないためだ」

「提督のような?」

「そうだ。俺はとある将校にこの鎮守府に来ないかと言われたんだが…その時、とある条件を付けた」

「条件?」

「あぁ。『今後、必要以上に非人道的な事を自分にやらせない』とな。もし、それに準ずる行いを強要した場合……」

「した場合?」

「その場合『あらゆる手段を使って、その組織に牙を剥く』そう言う条件をつけた。そして俺は此処に居る」

 

 

改めて、私は彼の顔を見る。その目には、揺ぎ無い意思があった。

この人は本気なのだ。

この人は、自分達が非人道的な行いを強要されたとき、躊躇うことなく牙を剥くのだろう。

自分達『艦娘』を護る為に―――

 

「だから、心配するな」

 

そう言って、彼は私の頭の上に手を置く。

 

「もうお前には……お前達には『あんな物』を使わせはしない。約束だ」

「提督……うん、わかった」

 

私の言葉に、小さく、本当に小さく笑うと、彼は手元の時計を見る。

 

「さて、俺はそろそろ戻るが……北上はどうする?」

「……私はもうちょっと大井っちについてる」

「そうか……今日はもう上がっていい。お前も少し休め」

「りょーかい」

 

 

では、と彼がドックを後にする。

暫らくして、外で何やら姦しい声が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。

 

「…………」

 

私は椅子に座りながら、自身の頭に手を置く。

先程まで、彼の手が在った所だ。

軍人らしいゴツゴツした手だったが、温かかった。未だに、其処には熱が残っている。

……いや、違うか。

 

私の顔が熱いんだ。

 

 

「やっぱ、敵わないなぁ」

 

 

あの動作に、何となく子供扱いされている気がしなくも無いが、それを差し引いても心から温かい気持ちがあふれてくる。

そういえば、さっき肩を抱いて支えられた時も不思議と安心したな、とも思った。

 

 

「あの人の『幸運』……になるってのも、悪くないかなぁ」

 

そんな事を一人呟く。『の女神』と付け足すのは恥かしかったので止めておいた。

 

 

ともかく、何れ自分が手に入れる高い運を『大井』だけではなく、『あの人』を護る為にも使おうかな、と心に決めた。

 

 

 

 

―――そう、だから気に入らない。

 

何が?目の前のコイツが、『あの人』の事を何のかんのと言っているのが。

それに反論していない自分が。

相手は『あの人』より立場が上?

それがどうした、だからなんだ。

私は何時から、そんな事を気にするほど『賢しく』なった?

思ったことは言うんだ。『あの人』に掴み掛かった時みたいに。

 

―――そう、私はあの時に決めたんじゃないか!

 

 

 

○神林提督執務室―――

 

 

「んーと、『ソレ』はどういう意図での行動なのかな?―――『北上』?」

 

そう言って、穏やかに笑う目の前の女―――『宮林冴香』に対し、はき捨てる様に言う。

 

「ムカつくんだよね、あの人のことを悪く言われると」

「悪く?心外だなぁ、私は事実を言ってるだけだよ?」

 

北上の言葉に、冴香は肩を竦ませながら応える。

 

「確かにあの人は変わってるかも知れない。でも、アンタみたいな人にどうこう言われる筋合いは無いから」

「……北上の言う通りだよ」

「響?」

 

艤装を構えた北上の隣に、響が立つ。

 

「宮林司令」

「うん?何かな響ちゃん」

「私達は『神林艦隊』所属の艦娘だよ。当然、神林司令官の事を大切に思ってる」

「うん、だから?」

 

冴香の問いに、怒りの感情を隠さずに、響は叩きつけるように言う。

 

「だから……司令に対するこれ以上の侮辱は、我が艦隊への敵対行為と見なすから」

「……へぇ、言うじゃねぇか」

 

『敵対行為』という言葉に、それまで冴香の後ろに控えていた摩耶が反応する。

 

「でもその言い分だとよ、お前等もこっちに喧嘩売ってねぇか?」

「先に仕掛けてきたのは其方だろう。今更何を言ってるんだい?」

「はっ、上等だ」

 

響の言葉に、獰猛な笑みを浮かべた摩耶が前に出ようとした時。

 

 

―――コンコンッ!!

 

 

不意に、執務室の扉がノックされ、険悪な空気に水を差した。

 

 

 

『おーい、提督ー。いるかー?居なくても入るぞー』

 

 

 

そんな言葉と共に、一人の艦娘が入ってくる。

 

 

「作戦完了で艦隊帰投だ。ちゃっちゃと……って、何やってんだお前ら?」




古賀さんの秘書艦はまさかの大和型姉妹でした!


……いや、こうでもしないと二人をいつ出せるか判らなかったので……

大型建造ですか?総資源の8割をぶっこんで、『金剛伊勢扶桑、時々長門、割と最上、たまにまるゆ』となって、心が折れました。
……もがみん何であんなに出るのさ……せめて他の姉妹が来ても良いじゃない?くまりんことか。

さて、後半は北上さんの回想でした。
話的には『遺される』の最後に書きたかったんですが、あの場では『蛇足』になってしまう気がしまして。
最後は球磨型姉妹のオチを考えてましたし。

この部分は北上が神林に惹かれるエピソードだったので、お蔵入りにならなくてよかったです。

さぁ、次回こそ『艦娘のターン!!』です。

最後に入ってきた艦娘……一体、ドコの眼帯さんなんでしょうか!?お楽しみに!!

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