鎮守府の日常   作:弥識

24 / 72
今回も色々とフラグをちりばめてみました。

……今後、全部回収できるといいなぁ(遠い目)

では、どうぞ。


死神を思う嵐

皆さん、こんにちわ。

 

私、『陽炎型駆逐艦 8番艦』名前を『雪風』と申します。

横須賀鎮守府の『宮林艦隊』に所属しています。

 

私こと雪風は、現在『舞鶴鎮守府』にお邪魔しています。

え?『何で横須賀の艦娘が舞鶴に居るのか』ですって?

 

えーと、今までの流れを簡単に説明しますとですね。

 

・我が艦隊の指令官が、舞鶴に査察に行くことに。

・指令<何人か護衛で連れてくから!

・雪風も護衛のメンバーに選ばれて舞鶴に←今ココ。

 

こんな感じですか。

 

何でも、この舞鶴にお知り合いがいるんだとか。どんな方なんでしょう?

 

 

それで……です。横須賀からこうして舞鶴に来たわけですが、えー、現在、

 

 

『彼方此方からべっぴんさんの匂いがする……!こうしちゃいられねぇ!皆、A・BA・YO!!』

 

 

と言って走り去って逝った、我らが司令官を探している真っ最中です。

 

 

 

……ホント、どうしてこうなったんでしょうか。

なんていうかもう、色々と残念です。

間違いなく有能な司令官さんなんですが、あの方と一緒に居ると時折『酷くがっかり』します。間違いなく有能なのに。

 

 

 

因みに、私と一緒に来ていた第一秘書艦の『摩耶』さんは、

 

 

『……よし、あの痴女を速やかに捕縛して、憲兵に引き渡そう。もしくは●そう』

 

 

と、それはそれは冷たい笑顔で仰っていました。

 

ともかく、急いで司令官を見つけないといけません。

憲兵さんのお世話になるならまだしも(いや、それも本来は十分不味いんですが)流石に●されるのはいけません。

多分こっちの方に走って行ったと思うんですが……おや、声が聞こえてきました。

 

 

『まったく、駆逐艦は最高だz『そこまでだこの変態女』ってあっぶね!!』

 

 

この声は……間違いなく司令です。聞こえてきた残念なセリフと言い、間違いありませんね!

と言うか、若干手遅れな気もしますが、ともかく見つかってよか……って?

 

そう思いながら向けた視線の先に居た男性。

 

一目見た瞬間、背筋に走る戦慄にも似た衝撃……雪風は確信しました。

 

 

 

 

―――この人が、以前司令が言っていた『死神』なんだと。

 

 

 

 

「……つまり、その『婚約』はもう破棄されている訳ですね」

「…まぁ、そういうわけだ」

 

先程の『婚約者』発言の説明を求める艦娘達に、神林が冴香と共に一通りの説明をする事となった。

 

 

 

当時、所謂『後備役』扱いとなった神林は、半ば隠居状態の生活を送っていた。

そのまま余生を送ろうと思っていた矢先、現れたのが彼女、『宮林冴香』である。

 

彼女は中身こそアレだが、『宮林家』と言えばそこそこ名の通った軍属の名家であり、親・兄弟共に何らかの形で軍に関わっている。

そして、神林の居た『部隊』の隊長と冴香の父親が懇意の仲だったらしく、このような縁談が持ち掛けられたのだ。

 

尤も、諸々の理由で早いうちに破談になったのだが。

 

 

「そ、だから『元』婚約者なのさ」

 

流石の冴香も、これ以上事態をややこしくする心算は無いらしく、余計な茶々は入れなかった。

 

「タカ君の上官さんと私の父親が仲良くてね。所謂『政略結婚』みたいな事になってたのさ。前時代的だよねー」

 

そう言って、冴香は肩を竦める。

因みに、先に縁談を断ってきたのは他ならぬ冴香の方からである。

理由は神林にも良く聞かされていないが、元々彼も受ける気はなかったので、深くは考えなかった。

 

「……理解してくれたか?」

「え、えぇ……まぁ」

「まー敢えて言いふらすようなモンでもないしねー、提督が黙ってたのも仕方ないかなぁ…とは思うよ」

 

やがて説明を受けた艦娘達も、一応納得はしてくれたようだ。…皆一様に複雑そうな顔をしていたが。

 

 

 

「み、見つけましたよ司令!もう、随分探したんですから!」

 

そんな時、聞きなれない声が響く。

ふと目をやると、見慣れない艤装をした艦娘が、腰に手を当ててむくれていた。

 

「あー、見つかっちゃったか。時間切れだねー」

 

そう言って、冴香が苦笑しつつ件の艦娘に近づく。成程、彼女が連れてきた艦娘だったのか。

 

「もー!摩耶さん凄く怒ってましたよ!ちゃんと謝ってくださいね?」

「げ、マジ?あの子怒ると本気で怖いんだ……どうしよ」

「どうしようも何も、素直に謝るしかないんじゃないですか?」

「や、それはそうだけども……ねぇ雪風ぇ、一緒に謝ってくれない?」

「嫌ですよ…私だって摩耶さん怖いんですから…」

「うぇぇ…どうしよ……」

 

自分の胸の高さほどの身長しかない艦娘相手にしょぼくれる冴香。

何と言うか、非常にしょっぱい光景である。

 

『しかし……『雪風』か。道理で見慣れないわけだ』

 

神林は目の前の駆逐艦を見つつ、感慨に耽る。

すると、それまで神林の後ろで様子を伺っていた『島風』が面白くなさそうに呟いた。

 

「提督…そんなにあの子が気になる?」

「ん?……まぁ、ウチに居ない艦娘だからな。普通に珍しい」

「ホントにそれだけ?」

「……寒そうだよなあの格好」

 

寒冷地の任務の時とかどうするんだろうか。

尤も、似たように寒そうな格好をしている艦娘がすぐ傍に居る訳で、案外平気なのかもしれない。

 

 

「まぁ過ぎたことはしょうがない!本来の目的をこなそう!と、いう訳で、タカ君!」

 

そういって、冴香が神林に一通の書状を渡す。

 

「……コレは?」

「コレ?今回私が来た目的の一つ。ま、読んでみて」

 

そう言われ、神林は書状の内容を確認する。

 

「コレは……辞令か?」

「そういう事。昇進だね、神林貴仁『大佐』?」

 

おめでとー、ぱちぱち、と冴香が手を叩く。

 

「で、だ。それに伴ってちょっと古賀さんに用があるんだけど……タカ君、案内してくれる?」

「あぁ、構わない」

「ありがと。時間が惜しいし、直ぐにいこっか。あ、雪風は『みーつーけーたーぜー』……ハイ?」

 

神林が頷いて冴香を案内しようとしたその時、まるで地の底から這い上がるような声が辺りに響く。

何事か、と思って冴香を見ると、引き攣った顔でダラダラと冷や汗をかいている。

……あぁ、要するに、コイツの『保護者』か。

 

「ど……何処から……!其処か!」

 

冴香が気配で見当をつけた方角を見る。しかし―――

 

「残念、ハズレだ」

「ひゃい!」

 

次の瞬間、後ろから頭を鷲掴みされる。よく見れば、冴香の体が若干浮いていた。

 

「こんな所に居たのか冴香。探したぜぇ?」

「し、知らないウチに腕を上げましたね摩耶さん。私が此処まで接近を許すとは…!」

「おう、所謂『怒り補正』って奴だ」

「あ、やめて、頭が!頭が!メキメキ言ってる!」

「おいおい、前にも言っただろ?……メキメキやってんだよ」

「いやだから其処でそういう肯定するのはおかしいんじゃないかなぁ!?」

「で?『べっぴんさん』は見つかったか?」

「そりゃぁもう!いやー、やっぱ艦娘ってレベル高いよねー……って、あ」

「……そっか、よかったな(ニコ)」

「あ、あの、摩耶さん、いや、角度的に顔見えないけど、絶対笑ってないよね!?」

「いや、お前の趣味をとやかく言うつもりはねぇよ?でもよ……」

「……はい?」

「他所様に迷惑をかけるってのは、ちょーっとよろしくねぇんじゃねぇかなぁ?」

「…………」

「さて、覚悟は良いか?」

「…や、やさしくしてね?」

「却下♪」

「いや即答て、ちょ、まっ、や、にゃ、ッアーーーーー!!」

 

 

 

舞鶴鎮守府に、残念美人の断末魔が響いたのであった。

 

 

 

 

「……終わったか?」

「流石ブレないねタカ君!周りが出来ない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!!」

「反省しろこの痴女が!(ゴスッ!)」

「へぶしっ!?ありがとうございます!!」

 

 

 

「……ねぇ、扶桑」

「……どうしたの、北上?」

「いや、『配属された艦隊が此処で良かったなぁ』って改めて思ってさ」

「私は常日頃思ってるわよ?」

「……前々から思ってましたケド、扶桑のそのブレなさっぷりは正直尊敬モノデース」

「そう?……提督に似たのかしら?」

「Oh……まぁ、貴女がそう思ってるんなら良いデスケド」

「いやいやいや、皆さん会話が色々おかしくないですか?」

「……現実逃避だよ青葉。察してやれ」

「いや長門さん、そうは言っても……どう収拾つけるんですかこの状況」

「それは、まぁ……提督に任せる」

「まぁ、そうなるね……あ、其処の君、確か……雪風だったかな?」

「は、はい!」

「これから司令官達は用事が在るみたいだし、一緒に執務室で待ってるかい?」

「は、はい…ありがとうございます。えっと、響……さん?」

「響で良いよ。同じ駆逐艦だからね」

 

 

 

色々と考えるのが疲れた艦娘達は、現実逃避も兼ねて一先ず自身の司令官達の『茶番』を脇に退けるのであった。

 

 

 

 

 

 

「で、アレはどういう事だ?」

 

先程の茶番を終え、古賀の部屋に案内する途中で神林は隣の冴香に問う。

 

「ん?アレって?」

 

そう言って首を傾げる姿が、妙に様になっていた。……妙な言動をしなければかなりの美人なのだが。

 

「惚けるな、『手紙』の事だ」

「あぁ、アレか!いやー、心当たりが多すぎてさ!」

 

そう言ってポン、と手を叩く冴香に、本日何度目かのため息を一つ。

 

「で、君が聞きたいのは、手紙の内容?それとも、『ワザと』出す日にちを遅らせた事?それとも―――」

 

 

 

―――あの『香り』を手紙に使った事かな?

 

 

 

冴香の問いに、神林の眉がひくりと動く。

 

「全部だ……何故あんな真似を?」

「ま、隠す理由も無いからね、順番に答えるよ」

 

コツコツとブーツを鳴らしつつ、冴香が前に出る。神林は黙ってその背中を見つめた。

 

「内容は、その方が面白いと思ったから。日にちを遅らせたのは……そうでもしないと君は逃げるだろ?」

 

古賀さんから聞いてるよ、と呟く。

 

「で、『香り』の件は……『今の君の状態』を見極めたかったから、かな」

「俺の状態?」

 

冴香の言葉に眉を顰める。

 

「そ、結局『あの日』以来会ってなかったからね」

「回りくどい真似を…直接聞けば良いだろうが」

 

若干の不快感を滲ませながら呟いた。

それに対し、くるりと向きを変えて此方を見る。

 

「それじゃぁ意味が無いよ。ああして君の感情を表に出さないと、君の『本心』が判らないじゃないか」

「口先じゃ信用ならないか?」

「そう言うわけじゃないけど、今回は別。君ってさ、『嘘を吐く』のは下手な癖に、『想いを隠すのは』上手いから」

 

身に覚えがあるだろ?と言われては、反論のしようがなかった。

やはり色々な意味で冴香は神林より上手で、そして誰よりも神林を理解しているのだろう。

 

「……それで?俺の本心とやらは掴めたのか?」

 

居心地の悪さを誤魔化す様に神林が問う。

それを見て、冴香は笑いながら答えた。

 

「それはもう。最初に会ったときに大体ね」

「それは良かった。大したものだ」

「棒読みの褒め言葉どうも。嬉しくて涙が出るよ」

 

神林の拗ねたような返答に、苦笑しながら冴香が応える。

因みに先程から冴香は此方を見たままだ。

カツカツと、後ろ向きで歩く冴香のブーツの音が廊下に響く。

 

「ま、私が思ってたよりは良かったよ。いつの間にか『ソレ』も着けてるし。……どう言う心境の変化?」

 

そう言って、冴香は神林の服を指差す。

冴香の指が指し示すその先には、『陸軍野戦桜花勲章』の略章があった。

 

「…とある艦娘に『つけろ』とせがまれてな」

「ふ~ん?以前私が言ったときには聞く耳持たなかったのに?」

「言っていたか?」

「割と逢って最初の頃にね。……ねぇ、その『とある艦娘』ってさ、さっき居たコの中に居るの?」

「あぁ、居たかもな」

「成程、あそこに居たコじゃないと」

「…………」

「言ったろ?『君は嘘を吐くのが下手だ』って。そんなに拗ねるなよ」

「……別に拗ねてなどいない」

 

まぁ、そう言うことにしとこうか、と冴香は微笑んだ。

 

「でも、良い傾向だと思うよ。『思い出』と闘っても勝ち目はないし、何より不毛だ」

「……では、忘れろと?」

 

神林の問い掛けに、冴香は苦笑しながら応える。

 

「そうやって、物事を『白・黒』の二色に分けたがるのは君の悪い癖だ。……まぁ、そう言う世界にいたから仕方ないとは思うけどさ、疲れない?」

 

楽に行こうよ、と冴香は笑う。

 

「難しく考えるなよ。『憶えている=不幸』でも『忘れる=幸せ』でも無いんだからさ」

「……曖昧だな」

「要は『囚われすぎるな』って事。そう言う曖昧さを許容できるくらいには、この世界は優しく出来てるんだよ?」

「……憶えておくよ」

「お、やけに素直じゃないか。そうそう、年長者のアドバイスは聞くものだ」

「そんなに変わらないだろうが」

「それでも君より年上…って、女性の口から歳の事を言わせんなよ恥ずかしい」

 

そう言って、冴香は頬を膨らませる。

その様子を見て、ある事を思いついた神林は小さく笑う。

 

―――先程の例に、少し反撃してやるか。

 

「やはり歳の話はお前でも気になるか?」

「あ、その言い方は気に入らないな。そんなに男っぽい?」

 

冴香の言葉に、「まさか」と応える。

 

「間違いなく、俺が今まで逢って来た中で一番の『美人』だよ、お前は」

「うぇ!?」

 

神林の言葉に、冴香が目に見えて狼狽する。その顔は良く見なくても紅い。

 

「な、なに?行き成りのデレなの!?私の周りの子って皆そう言うの唐突だからびっくりするよ!」

「何の話だ」

「だってタカ君のデレだよ!?どうしよ、急に深海棲艦が舞鶴に攻めてきたりしないよね!?」

「どういう意味だこの野郎」

 

 

 

その後、古賀の部屋を訪れた二人だが、古賀の『体調でも悪いのか』との問いに紅い顔を片手で覆いながら『なんでもない』と応える冴香の姿があったとか。

 

 

 

 

「さて、昇進に関わる諸々の手続きはこれで終わりなんだが……」

 

と、机の上の書類を纏めていた古賀が冴香の方をチラリと見る。

その視線の意味を察した冴香が小さく頷いた。

 

「えっと、それは私が居ない方が良かったりする話なのかな?」

「……すまんな、冴香」

「気にしないで下さいよ、私と古賀さんの仲じゃないですか。……という事でタカ君!」

「何だ?」

「君達の話が終わるまで、君の執務室で待ってても良いかな?」

「……まぁ、別に構わないが」

「ありがと。じゃ、二人とも、ごゆっくり~~」

 

そう言って、冴香は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……上手く抜けれたね。古賀さんに感謝…って、まぁ私がそう頼んでたんだけど」

 

ドアを閉めた後、冴香は一人呟く。

 

「タカ君の方は古賀さんに任せるとして……私は『あの子達』の所に行かないとね」

 

今回の鎮守府査察には幾つかの目的があるが、これから冴香が行なう事は、ある意味『最重要事項』である。

 

「タカ君の方は多分『問題無い』と思うけど、『君達』はどうなのかな?」

 

そう呟いて、小さく嗤う。

現在、諸々の『思惑』が至る所で働きだしている。

『結果』によっては、今後の身の振り方も変わって来るだろう。

 

『さて……あんまり私を失望させないでほしいなぁ』

 

そんな事を考えながら、誰もが見蕩れる艶のある顔で、冴香は一人嗤った。




今回は提督二人がメインでした。
二人の会話に隠れた伏線もいつかは回収したいです(希望)

次回は『女の闘い』的なものを書こうと思ってますので。


あ、冴香の護衛は『摩耶』と『雪風』の二人です。
最初は他にも何人か連れて行かせようかと思ったんですが、収拾つかなくなるんで。
でも話の流れによっては…追加もあるかも?まさにノープラン!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。