鎮守府の日常   作:弥識

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はいどうも。
今回からは暫く『サザエさん方式』で進みます。
ぶっちゃけ時系列とか、こまけぇこたぁ(ry

先日、我が艦隊で初の改二艦娘が出来ましたので、その娘を題材にしたものを一つ。
今回はほのぼの成分が薄めです。シリアス一本でもないけどね。

追記:小説あらすじの方にも書きましたが、『活動報告』に作品内での時系列を纏めました。また、艦娘以外のオリキャラの設定も、近日中に纏める予定です。


遺す痛み・遺される痛み:前編

これはとある型の姉妹艦の記録。

 

1919.7.14 一番艦進水

1920.2.10 二番艦進水

1920.7.3 三番艦進水

1920.7.15 四番艦進水

1920.12.14 五番艦進水

 

 

1941.12.8 太平洋戦争勃発

 

 

1944.1.11 マラッカ海峡にて、一番艦戦没

1944.7.19 南シナ海にて、四番艦戦没

1944.10.25 ルソン島北西海域にて、二番艦戦没

1944.11.13 マニラ湾にて、五番艦戦没

 

 

1945.8.5  終戦

 

 

三番艦、復員輸送支援の工作船として、約半年従事

 

 

 

1946.7.XX 長崎の工廠にて、三番艦解体

 

 

 

戦争で沈まなかった『彼女』を、『運が良い』と言った人が居た。

だが『彼女』は自分の事を『運が良い』とは思わなかった。

『自分だけ取り残された』としか思えなかった。

解体された時、『これで皆の所に逝ける』とさえ思っていた。

 

 

 

 

 

そして――――現在、舞鶴鎮守府にて――――彼女達が再び集う。

 

 

 

 

 

「北上さーーーーーーーん!!」

 

舞鶴鎮守府に、一際大きな声が響く。

名前を呼ばれた艦娘は、足を止めて、声の聞こえたほうに目を向けた。

 

「んー?あ、大井っっち。どしたの?」

 

声を掛けたのは『球磨型軽巡艦』四番艦の『大井』、掛けられた方は同じく『球磨型軽巡艦』三番艦の『北上』である。

 

「ついさっき、私の近代化改造が終わったの!どう?似合う?」

 

そういって、大井は北上の前でクルリと回る。

彼女の体には、真新しい魚雷発射管がいくつも装備されていた。

それを見た北上が目を輝かせる。

 

「おぉ!いいねぇ、シビれるねぇ!大井っちもコレで重雷装艦の仲間入りだね!」

 

『北上』も『大井』も、、近代化改造する事によって、雷撃能力に特化した『重雷装艦』になることが出来る。

この鎮守府でも古株の部類に入る北上は随分前に重雷装艦への改造を終えていたが、最近配属された大井もようやく改造が出来たのだ。

 

「うふふ、一番に北上さんに見せたくて」

「そうなんだ、ありがとね♪」

 

そう言ってはにかむ大井を見て、北上もつられて笑う。

しかし、急に深刻そうな顔になり、ねぇ北上さん、と切り出す。

 

「その…改造早々、工廠でこんな物を渡されたんだけど……」

「ん……?あぁコレ?大井っちもやっぱり貰ったんだー」

「『も』って事は、北上さんも?」

「うん、そう。私も改造終わって直ぐだったかなー」

 

大井が差し出した『装備』を見て、懐かしそうに北上が呟く。

 

「でも、コレって…北上さん、何とも思わないの?」

「へ?何ともって…超便利じゃん?どしたの?」

「え、でも……」

「ん?んー?」

 

大井の様子に、北上が首を傾げる。

どうも、大井と自分の中で若干の認識のズレがあるようだ。

 

「大井っちって、潜水艦嫌いだっけ?」

「え…?いや、確かに苦手ではあるけれど…それがどうかした?」

「いや、どうかしたって…あ、そうか!そう言うこと!」

 

大井の言動の意味をようやく理解した北上がぽん、と手を叩く。

 

「そっかそっか、大井っち、多分勘違いしてるよ」

「え、私が?勘違い?」

「うん。ねぇ、大井っち、『コレ』何に見える?」

 

そう言って、大井の持つ『装備』を改めて指差す。

 

「何って…アレでしょ?魚雷の…」

「ううん、違うよ。コレ、潜水艦なんだ」

「……え?本当?」

「うん。コレ、『甲標的』って言うの。確か『特殊潜航艇』だったかな?」

「こう…ひょうてき?」

「そう。……もう、提督ってば、説明省いたな…」

 

恐らく大井が言っている『アレ』とは、『艦船』だった頃の北上が搭載していた『特攻兵器』の事だろう。

魚雷好きの彼女が唯一『二度と積みたくない』と思っているものだ。

 

対して『甲標的』とは、魚雷を搭載した『特殊潜航艇』である。

たしか、史実で搭載していたのは『千歳』や『千代田』達『水上機母艦』だったはず。

まず大井は積んだ事はないだろう。

 

「まー確かにそう見えなくも無いけどねー。提督から説明受けてなきゃ、私も勘違いしてたかも」

 

確かに、『アレ』を連想させるものではある。コイツも中で操縦するし。

そして何より、『カテゴリアイコンが魚雷扱い』で『実際装備すると雷装値が凄く上がる』ってのもいけないのだろう。

北上は昔の事もあり、渡す前に神林提督が説明してくれたが、忘れていたのか?

 

「ねぇ大井っち、提督は何て言ってた?」

「え、提督?会ってないけど?」

「……はい?」

 

大井の発言に耳を疑う北上。

 

「え、あれ?提督に会ってないの?」

「さっき言ったじゃない。『北上さんに一番に見せたかった』って。提督の所にはこれから行くわ」

「おぅふ……そう言うことか」

 

さて、ちょっと思い浮かべてみよう。

 

此処で北上が説明を省き、大井が勘違いしたまま執務室に殴りこむ。

で、怒った大井が執務室で色々とぶっ放して……!

 

「なんて簡単に思い浮かぶ未来なんだろ!不思議!!よかった~先に説明できて!」

 

大井の気持ちも判らなくもない。

北上も、『あんなもの』は大嫌いだ。

それ(実際には違うが)を渡されて、しかも北上もそれを持たされていたとしたら……

普段は割と穏やかな性格の大井だが、北上の事となると少々感情的になるのだ。

北上としては『親友に大切にされている』というのは悪い気はしないのだが、それでも『時と場合』である。

 

「ま、未遂で終わったしいいか…で、大井っちはこれから提督の所に?」

「えぇ、流石に報告に行かないわけにはいかないでしょ?」

 

いやまずは最初に行こうよ、というか、その前に立ち会いなよ提督、と思ったが、心の中に留めておく。

 

「そっか、折角だし私もついて行こっかな。この後予定もないし。大井っちはどう?」

「私は問題ないわよ」

 

大井の了承をえた北上は、一緒に提督執務室に向かうことにした。

 

 

 

 

「お、改造が無事終わったか」

 

執務室の机で作業をしていた神林が二人の報告に顔を上げる。

室内に居たのは神林一人だ。秘書艦の扶桑が率いる第一艦隊は現在出撃中である。

 

「大井、装備の不具合はないか?」

「はい、大丈夫です。暫くは戸惑うかもしれませんが、すぐに慣れて見せます」

 

大井の頼もしい言葉に、「それは重畳」と神林が笑う。彼の口癖である。

これは余談だが、北上をはじめとした古株の艦娘達は、この『口癖』のイントネーションで彼の機嫌が判ったりする。

因みに今回のは機嫌が良い時に聞けるタイプだ。それを聞いて北上も笑う。

 

「どうした、北上」

「いえー、何でもありませーん」

「そうか……?まぁ良い。さて大井、この後の予定は?」

「この後ですか?特にありませんが……」

 

神林の問いに、執務室に掛けられた時計を見ながら大井が応える。

 

「いや、お前がその気なら、これから出撃をと思ってな。お前も早く『開幕雷撃』を試したいだろ?」

「かいまく…らいげき?」

 

神林の口から出た聞きなれない単語に、大井が首を傾げる。

 

「ん?何だ北上、まだ説明してなかったのか?」

「え!?私の仕事なのソレ!?」

 

神林の言葉に北上が驚く。

 

「いや、一緒に来たものだから、てっきり『甲標的』についてお前が説明したものだと…」

「北上さん、どういう事?」

 

大井の問いに、「結局私が説明すんのかー」と頭を掻きつつ応える。

 

「ねぇ大井っち。さっきさ、甲標的の事『超便利』て言ってたじゃん?」

「そういえば…そんな事言ってたわね」

 

確か『甲標的』を見せた時だ。

あの時は『違うもの』だと思っていたので、流れてしまっていたが…

 

「そうそう、あのさ、普通『雷撃戦』って、『砲撃戦』の後じゃん?」

「えぇ、そうね」

 

※基本的な戦闘の流れは大まかに言うと以下の通りである。

 

○部隊展開

  ↓

○偵察機による索敵

  ↓

○航空戦

  ↓

○砲撃戦

  ↓

○雷撃戦

  ↓

○夜戦(※追撃を行なった時のみ)

 

 

「でもね、その『甲標的』を装備してると……『砲撃戦』の『前にも』一回魚雷撃てんの」

「……はい?」

 

 

だが『甲標的』を装備した艦娘(及び経験を積んだ潜水艦)は『航空戦』の後、即ち『砲撃戦』の前に魚雷を撃つことが出来る。

これが『開幕雷撃』と呼ばれるものだ。

 

 

―――なにそれステキ。

 

「何それ素敵!」

 

思わず口に出ていた。

 

「しかも雷撃戦は普通に出来る!つまり一回の戦闘で二回撃てる!威力も二倍!」

「何それ素敵!でも、それだけ弾薬も消費するんでしょう?」

「ところがどっこい弾薬の消費は一緒!不思議!」

「何それ不思議!でも素敵!」

「……随分楽しそうだなお前ら」

 

北上の力説に目を輝かせる大井。

完全に蚊帳の外な神林は苦笑している。そういえば、彼女は『独特な価値観』を持っているんだった。

 

「冷たくて素敵な魚雷を、一度の戦闘で二回も撃てるなんて……!」

「ふっふっふ……それが重雷装艦の魅力ってやつなのさ」

「素晴らしいわ!重雷装艦!」

「あー、それで、どうする?」

 

すっかり盛り上がってしまった二人に神林が声を掛ける。気持ちは判らなくもないが、時間は有限だ。

 

「出撃しましょう!今行きましょう!直ぐ行きましょう!」

「お、おう……」

 

目を輝かせながら詰め寄る大井に少々気圧されながらも、手元の書類に目を向ける。

 

「そうだな…『製油所地帯沿岸』でどうだ」

「問題ありません」

 

出撃任務、と聞いて、大井の顔が引き締まる。

 

「わかった。詳しい事は追って連絡する。準備しておけ」

「了解しました!」

 

 

 

暫らくして、『製油所地帯沿岸』に出撃する艦隊の準備が整った。

 

「此方神林。青葉、聞こえるか?」

『はい、感度良好です司令!』

 

通信機から、艦隊旗艦である重巡『青葉』が応える。

 

「重巡や雷巡が出てくる。…此方が力負けする事はないと思うが、十分に気をつけろ」

『了解しました!』

 

随伴艦は重雷装艦の『大井』以外にも軽巡『天龍』『龍田』に重巡『最上』、軽空母『千代田航』が編成されている。

純粋な火力で押し負けることはないだろう。

 

「それと…大井、聞こえるか?」

『何でしょうか、提督?』

 

神林の声に、大井が応える。

 

「大井、お前は重雷装艦としては初陣だ」

『…はい、そうですね』

「北上から聞いているかも知れないが、『重雷装艦装備』は扱いが難しい。無理はするな」

『了解しました』

 

大井の言葉に満足し、通信機を机に置く。

窓の前に立ち、外を眺めると艦隊が出撃するのが見えた。

 

「さて、何事もなければ良いが……」

 

艦隊を見つめながらそう呟く。

先程『青葉』話していた通り、編成的にこちらが地力で押し負けることはないだろう。

だが戦闘とは謂わば水物である。不安が消えることはない。

 

『それなりに戦闘の指揮をとってきたつもりだが……慣れんものだな』

 

尤も、神林は『戦闘の不安』に慣れるつもりなど毛頭なかった。

戦闘に対しての『慣れ』は思考の停滞を生み、そして何時しか『慢心』に変わっていく。

『慢心』を抱いた者たちは、決して勝てない。それは『歴史』が証明している。

恐怖を忘れてはならない。だがしかし、表には出さない。

此処に来る前から、ずっと続けてきたことだ。

神林は心の中に、泡のように漂う『恐れ』を、掬い取って玩ぶ。

その行為の中で、彼は何処か『楽しさ』の様なものを感じていた。

 

『恐怖に慣れない事に慣れる…嗤えるな』

 

改めて、自分が『異質』であることを自覚する。

戦いは恐ろしい。でも楽しい。

つまるところ、自分は戦いが大好きで仕方がないのだろう。

だがそれを悲観的に捉えることは出来ない。

 

きっと、自分は何処か狂っているのだろう―――そう考えると、少し気分が楽になった気がした。

 

 

 

 

暫くして、『青葉』から『敵前衛艦隊発見』の通信が届く。

先手必勝、とばかりに彼女たちは攻撃を仕掛け、危なげなく勝利を収めた。

その後、特に損害が無いことを確認すると、神林は艦隊に進撃の指示を出すのであった。

 

 

 

青葉達に指示を出してしばらく後、執務室の扉がノックされた。

 

「入れ」

「失礼しまーす。提督、大井っち達は?」

「先程、前衛部隊に完全勝利した。今進撃の指示を出した所だ」

「ふんふん、出だしは上々…ってわけか」

 

入って来たのは『北上』だ。彼女は今回留守番だった。

最初は彼女も艦隊に入れる心算だったのだが、他でもない大井がそれを拒否したのだ。

 

雷巡になって随分経つ北上と違い、大井はまだ雷巡としての練度が低い。

親友であり、ある意味ライバルでもある北上の前で、あまり不甲斐無い姿を見せたくなかったのだろう。

 

北上は『そんなこと気にしなくても良いのに』と思ったが、自分がもし逆の立場だったら同じような事をするだろうな、とも思った。

 

「あ、そーだ提督。さっき私に仕事押し付けたでしょ?」

「ん?何の事だ?」

「とぼけても無駄だよ。大体、何で大井っちの改造に立ち会わなかったのさ」

 

そう、艦娘の近代化改造には普段の神林なら立ち会っていた。北上の時もそうだ。

 

「あぁ、その事か。『大井』の希望だったからな」

「大井っちの?」

「そうだ。『一番最初に北上さんに見せたい』だと」

「そういえば、大井っちそんなこと言ってたっけ」

「微笑ましい話だ。実に羨ましい」

「…本当にそう思ってる?」

「勿論だ。話したことが無かったか?俺には兄弟という者がいない」

 

そういえば、と北上は記憶を探る。

北上が神林の秘書艦だった頃、自分の姉妹艦の話しが出た事があった。

 

史実にある通り、多くの艦船には同じ型の姉妹艦が存在する。

全ての艦娘がそうしている訳ではないが、それでも自身の姉妹艦を『姉さん』又は『妹』と呼ぶ艦娘は多い。

 

尤も、北上は姉妹艦である大井の事を『親友』だと思っているが。

 

「じゃぁ、『甲標的』の件は?」

「何か問題でも在ったか?」

「在った、というか、私が説明してなかったら大井っち提督のトコに殴りこんでたかもよ?」

 

そう、大井は『甲標的』の事を知らなかった。

もし北上が説明しなかったら……要らぬトラブルが起きていたかも知れない。

 

「それも問題ない」

「と言うと?」

「アイツは『最初に北上に見せる』と言っていたからな。まず間違いなくその話が出ると思っていた。それに」

「それに?」

「『この件』については、俺よりも北上…お前の方が適任だ」

 

神林は『提督』である。ある意味、過去に『あの兵器』を搭載するように命令した側の存在なのだ。

そんな自分の言葉よりも、北上の言葉のほうが大井に届く。そう思ったのだ。

 

「…まぁ、そう言うことにしとく」

「あぁ、そう言うことにしといてくれ」

 

その後、雑談をしていると、一つのファイルが北上の目に入る。

 

「ねー提督ー。コレ何?」

「それか?大井の近代化改造の報告書だ」

「ふーん……ちょっと見ても良い?」

「あぁ、別に問題ないが」

 

そういって、北上はファイルを手に取る。

同じ重雷装艦、やはり気になるのだろう。

大井の改造前、そして改造後の数値に目を通していく。

 

『ふーん、そりゃまぁ、私とほぼ一緒だよね。同じ型だし……って、ん?』

 

さほど自分の時と変わらぬ変化をしている数値の中で、一つの数値が目に留まる。

 

『アレ……ココ、改造『前』より下がってる?こんなことってあるんだ…』

 

北上の目に留まったのは、『大井』の『運』の数値だ。

その数値が、改造前と比べて著しく低下していたのである。確か、北上の場合は変化はなかった筈だ。

現在も具体的にどんな変化があるのかわかっていない『運』であるが、それでも気になった。

 

「ねぇ提督、この『運』ってやつさ……」

 

北上が神林にこの事について問おうとした時―――

 

 

 

『ドガァァァァァン!!』

『しま…きゃぁぁぁぁ!!』

 

神林の目の前に置いてある通信機から、爆発音と艦娘の悲鳴が聞こえた。

 

「え……?」

 

その声に覚えがある北上の思考が停止する。

 

「大井っち……?」

 

そう、その悲鳴は『大井』のものであった。




たまにはこういう引きの終わりも良いかなって。
あ、冒頭の『彼女達』の歴史は、wiki辺りに行けば詳しくわかると思いますよ。

因みに、ゲームの中でも、『アレ』は具体的な明記はされてないんですよね。
要所で北上は『積みたくない』と明言しておりますが。まぁ、その辺もwikiにありますので。

後編はかなりシリアスになる予定です。
勿論『彼女』を沈ませるつもりはありませんがね!そこはこの場でハッキリ名言させて頂きます!

できる限り、後編の更新は早くしますので。


26.1.23追記:北上の『運』についての台詞を修正しました。詳しくは活動報告にて。

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