鎮守府の日常   作:弥識

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今回はちょっと短め。第二艦隊の面々です。



臆病者の意地:2

「…今日の提督随分と怒ってたネー」

 

任務に向かう道中、顎に指を当てつつ金剛が呟いた。

因みに今回の艦隊編成は金剛型戦艦『金剛』と『霧島』、高雄型重巡『高雄』『愛宕』、更に千歳型軽母『千代田・航』に球磨型雷巡『北上・改』の六隻だ。

 

「やっぱりそう思います?珍しいですよね」

「滅多に怒んないんだけどねーあの人」

「まぁ、気持ちは解らない事もないですが…」

 

金剛の呟きに、愛宕や北上も同意し、千代田も苦笑しながらも肯定した。

 

「…そうなんですか?」

「確かにいつもと雰囲気が違う気はしましたが…」

 

彼女達の言葉に首を傾げるのは霧島と高雄だ。

 

「まぁ二人にはマダ分からないかもネー」

 

装備の確認をしながら金剛が応える。霧島と高雄はまだこの鎮守府に着任してから日が浅い。

対する金剛や愛宕は秘書艦の扶桑ほどではないが古株である。改造を受けた千代田や北上達は言わずもがなだ。

 

「私も此処に配属されて長いけど、艦娘を投げ飛ばすのは初めて見たわね」

「あたしも初めて見たかも。『貴様』とか言ってたし。まーでもアレは天龍が悪いっしょ」

 

千代田の呟きに北上も頷く。彼女達は一時期秘書艦だったこともあった。

 

「天龍の気持ちも分かんない事ないけどさー。やっぱアレは禁句だよ」

「アレ…って、『腰抜けだと周りに言われてる』ってことですか?」

「あー違う違う。もっと後に言ってた奴」

「『死ぬまで』ってところよ」

 

高雄の言葉を北上が否定し、愛宕が解説を入れる。

そう、この艦隊において『命を粗末にする』事はご法度なのだ。

 

「天龍の好戦的な性格は勝負事では『買い』なんだけど…今回ばっかりは提督の逆鱗に触れちゃったかしら」

 

あの子も不器用よね、と愛宕が呟く。そうそう、と北上も同意した。

 

「あの人異様に嫌がるからねー、私等が傷つくの。理由は良くわかんないけどさ」

 

確かに、艦娘(部下)を失うということは、ある意味指揮官の能力の低さの証左と言えないこともない。

だが先程提督が言っていたように、彼は自身の評価をさほど気にしていないように思える。

北上をはじめとした艦娘の何人かは、提督が轟沈を嫌うのはもっと深い、それこそ『生理的』なレベルの何かを感じていた。

 

秘書艦時代、北上は提督に理由を聞いたことがあったが、彼には曖昧な返事しかもらえなかった。

納得はいかなかったが、それ以上の答えを提督が示さなかったので、きっと聞かれたくない理由なんだろうなと北上は思うことにした。

気にならないと言えば嘘になるが、不快には思わなかった。むしろ、好意的に解釈している。

どんな理由であれ、自分たちを纏めて生還させてくれる指揮官の下で戦えることは紛れもない幸運だと思えた。

 

 

 

 

「ともかく!私達は提督の命令通りヤツらをブッ飛ばすだけデース!」

「ま、そーだねー、提督も『見つけ次第沈めろ』って言ってたし。雷撃戦頑張っちゃおうかな」

「あれ、珍しくやる気じゃないですか北上さん」

「まーねー。普段冷静な提督の熱い部分が見れて気が逸ってるのかも。てか、そういう千代田だってノリノリじゃん」

「ふふ、わかります?今日はいつもより気分が良いので、艦載機戦が凄い事になっちゃうかもしれません」

「ふーん、所謂『提督効果』ってやつ?」

「あ、ソレ私知ってマス!『ギャップ萌え』ってやつデスネ!」

「「いや、それは違うと思う(います)…」」

「何故!?(思わず標準語)」

 

 

「……」

「意外に思ったかしら?」

いつもに増して好戦的な彼女達の様子を見ていた霧島と高雄に、愛宕が話しかける。

 

「え、いえ…」

「なんだか提督が良く分からなくなった気がして…」

 

色々と考える事が多くて、つい曖昧な答えになってしまう。

 

「提督はとても良い人よ?それは間違いないわ」

 

それを聞いた愛宕は小さく笑いながら応え、さらに続ける。

 

「私は提督を信じてる。あの人なら、少しはまともな戦場に連れて行ってくれるから」

「まともなって…それでも戦場なのは変わらないでしょう?」

 

「あら、雲泥の差よ?自分が戦いたいと思える戦場に行ける事ほど、運が良い事はないんだから」

 

 

呆れたような高雄の問いに、愛宕は優しく応えるのだった。




新人の霧島さんと高雄さんが割と空気。
何故!?(思わず標準語)
ウチの艦隊でも二人は最近やってきました。あと金剛型でいないのは『ひえ~』の人のみ。
次回は天龍・龍田姉妹のお話です。

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