や、その、クッキー作ってたら…ハイ。
恐るべしグランマ。
さて、今回も閑話です。
『青葉の突撃取材』にて陸奥が話してたエピソードをちょっと掘り下げます。
一応元ネタを意識して書いたつもりです。
陸奥(戦艦)に関する情報は関連サイトで確認していただければ…
火遊びダメ・ゼッタイ。
バシー島沖―――
「皆さん、敵影を発見です!戦闘準備を!」
偵察機『彩雲』を飛ばしていた正規空母『飛龍』の声が響く。
それを聞いた旗艦の長門が応えた。
「了解だ、総員、第一戦闘配備!飛龍、敵艦の数は!?」
「重巡艦二、輸送艦四です!」
「了解だ。私と日向で重巡を抑える。日向、いけるか?」
「大丈夫だ、問題ない」
長門の指示に、装備を確認していた航空戦艦『日向・改』が応える。
「よし、では他の艦は輸送艦を叩いてくれ!」
「了解です!さぁ、友永隊、頼んだわよ!」
飛龍が艦載機を展開し、先制の航空戦を開始した。
長門率いる第二艦隊は、バシー島沖にて敵輸送船団の撃沈任務を行っていた。
いつの時代でも、『敵の補給路の寸断』は大きな戦術的価値を持つのだ。
ついでに言うと、最近配属された新人艦娘達の育成任務も兼ねている。輸送船相手なら、新人でも危険は低い。
今回の編成では、戦艦である長門と日向、それに正規空母の飛龍が新人の駆逐艦娘達を率いていた。
一応最低限の訓練は積んでいるため『戦場で棒立ち』という事は無いものの、やはり動きの硬さは拭えない。
『狙いが少し甘いな…まぁ、初めての戦闘にしては上々か。…背中を預けるにはまだまだだが』
彼女達の初陣を横目に見つつ、目の前の敵に集中する。
重巡一隻程度に遅れを取ったとあっては、『ビッグ7』の名折れである。
新人艦娘が安心して戦えるように、脅威は速やかに排除せねば!
…長門本人に自覚は無いが、重巡相手に本気で掛かる彼女は結構な『過保護』である。
まぁ新人艦娘の護衛に戦艦2隻と正規空母を充てる編成をした司令官も大概だが。
「ビッグ7の力、侮るなよ…そこだ!」
長門の放った砲撃が、敵艦に命中する。艦隊が誇る最高火力の直撃を受けた敵艦は、そのまま轟沈した。
日向の方に目を向けると、彼女も危なげなく敵艦を沈めている。
程なくして、飛龍から輸送船団の撃滅の通信が届いた。
「此方も重巡二隻の轟沈を確認した。念のため、偵察機での伏兵探索を頼む。日向?」
目の前の敵は排除したが、念には念を…だ。帰還中に背中を撃たれては堪らない。
「ふむ、此方も電探で探索しているが…反応は無いな」
『偵察機での探索でも、伏兵は確認されませんでした』
日向と飛龍の言葉に、ようやく肩の力を抜く。任務完了だ。
「よし、任務完了だな。これより、鎮守府に帰還する」
「了解」
『了解です』
任務からの帰還中、長門に日向が話しかけてきた。
「さて、新入りの艦娘はどうだった?」
「流石は『陽炎型』…と言ったところか。やはり個々の能力は高い」
今回参加していたのは、『陽炎型駆逐艦』の『陽炎』『不知火』『黒潮』の三隻だ。
『陽炎型』は戦艦史においても後期に開発された型で、いわば『帝国海軍駆逐艦の集大成』と言った存在だ。
図抜けて、というわけでもないが、やはり駆逐艦の中でも能力値は高い。
「だがまだまだだな。砲撃の狙いが甘い」
長門の辛口な評価に、日向が苦笑する。
「厳しいな」
「性能が良くても、最後にモノを言うのは『経験』だ。これからに期待だな」
そう言う長門だが、その表情は明るい。大きな損害も無く、敵艦を殲滅したのだ。初戦にしては上々だろう。
旗艦としても鼻が高いに違いない。
「随分機嫌が良いな」
「まぁ、大した損害も無く帰還できるからな」
「それだけじゃないだろう?聞いた話じゃ、『今日』だそうじゃないか」
「う…や、その」
日向の言葉に、長門は少々顔が赤くなる。やはり気付かれていたか。
「気持ちはわからなくも無いがね。ウチも似たようなものだった」
「…やはり嬉しかったか?」
「それは、まぁ。尤も、ウチは妹の私のほうが先だったがね」
長門にはそう応えたものの、『本人』の前では口に出して言う事はないだろう。狂喜乱舞しかねない。
『扶桑型』や『金剛型』姉妹ほどではないにせよ、日向の姉も結構な『姉妹艦想い(妹スキーとも言う)』なのだ。
「さぁ、任務は終わったんだ。早く戻ろう」
「そうだな、そうしよう」
鎮守府に帰還した後、補給等を終えた長門は、後の事を日向と飛龍に任せ、一足先にドックに向かうことにした。
ドックに向かう長門の足取りは軽い。
本日付で、艦隊に長門の『妹』が配属される事になっていた。
ドックの真ん中に、彼女はいた。
『艦娘』状態の彼女を見るのは初めてだが、姉の自分が見間違えるハズが無い。
※姉妹艦なんだから艤装みれば判るだろ…などという無粋な話はナシである。
「…長門?」
「あぁ、そうだ。久しぶりだな、陸奥」
改めて挨拶すると少々気恥ずかしい。
「えぇ、久しぶりね。元気してた…って聞くのもなんだけど、元気そうね」
「あぁ、あれから『色々』あったが…今は楽しくやっているよ。割と…な」
恐らく、陸奥は『あの日以降』の事は知らないのだろう。…いや、知る必要もないことか。
「さて、積もる話も在るが…まずはついて来てくれ」
「何処に行くの?」
「まずはウチの司令官に挨拶しないとな。心配するな、悪い人じゃない」
「提督なんて…どれも一緒でしょ?無能じゃなきゃ誰でも良いわ」
「安心しろ。此処の提督は有能だ。この私が認めるくらいにな」
「それって判断基準としてどうなのかしら」
む、なにを言う。ビッグ7である私が認めるとは、それはもう凄い事なんだぞ。
「説明が面倒だ。まぁ、会えば判る」
そういって、提督執務室に陸奥を連れて行くのだった。
「君が『陸奥』か。私は神林。階級は中佐だ。宜しく頼む」
「えぇ、長門型戦艦二番艦の陸奥よ。よろしくね。あまり…」
「ん、どうした、陸奥」
自己紹介の途中で言葉が止まった妹に目を向ける。彼女の目線の先には…
『あぁ、成程…』と、長門は思う。
陸奥の目線は提督の執務机、その上においてある金属製の灰皿に注がれていた。
「貴方…煙草を吸うの?」
「いや、吸わないが…どうした?」
先程とはうって変わって硬い口調になった陸奥を不思議に思いながら彼は答える。
「…本当に?」
「随分疑うんだな。吸わないのは本当だぞ?」
なぁ…と言って長門に目を向ける。
『フォローしてくれ』という事だと受け取った長門は記憶をめぐらせ、確かに彼が煙草を吸っているところを見たことが無い事を思い出す。
「そういえば…私も提督が喫煙家、という事は聞いたことは無いな。…珍しい」
「あまり気にした事はなかったが…そんなに珍しい事なのか?」
「まぁ吸わないのなら自覚が無いかもしれないが…かなり珍しい部類だと思うぞ」
海軍の士官は愛煙家が多い、と聴いたことがある。細巻と呼ばれる部類の煙草は嗜好品の中でも高級品として取引されている。
「生憎そう言うものに憧れる歳の頃はそれどころではなくてね。細巻なんぞ触った事もない」
そう言って、彼は肩を竦めるが、陸奥の表情は硬いままだ。
「じゃぁ、それは?」
そう言って陸奥が指差したのは机の上にある灰皿だ。
「ん?これか?」
そういって灰皿を手に取る。
「確か何時ぞやに支給品か何かで貰ったような気が…煙草は吸わないが、まぁ小物入れ位には使えるだろうと思ってな」
ポンポンと灰皿を放り投げながら、記憶を辿る。
確かに良く見れば、灰皿には焦げなどがついていない。本当に未使用のようだ。
「灰皿を小物入れか。確かに非喫煙者らしい発想ではあるか」
「というか、そもそも煙草の臭いは好きじゃない」
「え、そうなのか?」
提督の発言に長門は目を丸くする。
「あぁ、普段嗜んでいないせいか、どうも違和感があってな」
「道理でこの部屋は煙草臭くないわけだ」
そう言って、長門は執務室を見回す。この部屋には、ヤニのシミ一つ無い。
「そりゃぁ着任時に家具を総取っ替えしたからな」
「…それは露骨過ぎやしないか?」
「前任者が吸ってたのか、酷く臭かったんだよ。壁紙に床に家具に…結構高くついた」
そういって指折り数えながらため息をつく。…着任時という事は、相応の額を自腹で切ったハズだ。
「そこまで来ると嫌煙家に近いな…」
「他所にまで文句を言う事はないがな。それにしても…」
改めて、陸奥に目を向ける。
「すまない、配慮が足りなかった」
突然の謝罪に、流石の陸奥も慌てる。
「べ、別に其処まで気にしてるわけじゃ…」
「いや、君の資料には目を通していた。もっと配慮するべきだったな」
その言葉に、陸奥は驚く。
「じゃぁ、私のことを…?」
「艦娘の史実には全て目を通してある。君も例外じゃない」
陸奥は随分驚いている様だが、長門は以前似た様なことを言われているので、それ程の驚きは無い。
「しかし、確かにコレはこの部屋には必要ないな」
改めて灰皿を手に取る。
「まぁこの部屋に喫煙者が来る事は無いだろうが…妙な勘違いをされても困るし…な」
そう言って手に力を込める。薄いアルミで出来た灰皿は、小さな音を立てて握り潰された。
「よし…長門、適当に処分しといてくれ。この量じゃ資材の足しにもならんだろうが」
そういって、小さなアルミの塊と化した灰皿を長門に放る。
「っとと、判った。適当に処分しておくよ」
それを受け取った長門は、苦笑しながら応える。
その様子を、何ともいえない表情で陸奥は見詰ていた。
「さて、会ってみてどうだった?ウチの提督は」
鎮守府内を一通り案内し終え、休憩室で一息つきつつ、長門は陸奥に訊ねた。
「まぁ…悪い人じゃないってのは、認めるわ」
先程のやり取りを思い出し、陸奥は呟くように答える。
正直、自分達艦娘の史実にまで目を通しているとは思わなかった。
陸奥の過去を理解しつつ、配慮する気遣いを持っている。
「でも、だからって、有能とは限らないんじゃない?」
「随分疑り深いな」
陸奥の拗ねたような口調に苦笑する。此処まで来ると意地みたいなものだ。
「そう言うなら、しばらく秘書艦をやってみると良い。彼の人となりが判る筈だ」
「…気が進まないわね」
「まぁそう言うな。提督には私から話を通しておく。艦隊の仕事も知って貰いたいし、良い機会だ」
「…長門!」
そういって立ち上がる長門に、陸奥が声を掛ける。
「…どうした?」
縋る様な声色に振り返ると、其処にはいつか見たような表情の陸奥がいた。
「貴方は…『最後の日』を覚えてる?そうなった『原因』を…許せるの?」
「…お前の『最後』が特殊だったのは理解している。時代も悪かった」
「だったら…「だが」」
「それでも、私は、今の生活を悲観してはいない。そしてコレはとある人の受け売りだが…」
『あの日』の彼の言葉を思い出す。
「忘れろ、とは言わない。…出来る筈ないからな。でも、もう怖がらなくても良いように、努力はしよう」
改めて、陸奥を見る。『あの日』の自分も、こんな顔をしていたのだろうか。
「…本当に、そんな日が来るのかしら」
「直ぐにとは言えない。だが悲観的になるのも美容に悪いぞ?」
そうやって悪戯っぽく言う長門に苦笑しつつ、陸奥は尋ねる。
「…それも『誰か』の受け売り?」
「いや、『長門おりじなる』だ」
「ふふっ、なによそれ」
「む、外したか?」
「まぁ、貴方にしては上々なんじゃない?」
「お前の中で、私はどんな性格をしているんだ…」
結構本気でうな垂れる長門に苦笑しつつ、陸奥はコレからの日々に思いを馳せていた。
―――此処なら、少しは穏やかに過ごせるかしら。
一先ずやって来るであろう『秘書艦配属』の日々が、少し楽しみになった陸奥であった。
むっちゃん回かと思いきや、ながもんの方が出番が多かった不思議。
たまには艦隊戦っぽい描写をしたいなって思った結果でございます。
ウチの艦隊でも、陽炎三姉妹は大体同じ時期に揃いました。
え、雪風?ウチには実装されてないみたいです。島風は結構早くに来たんだけどねー。
後編はちゃんとむっちゃん回になると思いますので。