鎮守府の日常   作:弥識

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前回の『青葉シリーズ』の番外編、といった位置付けです。
今回は長門さんのお話。彼女の『戦艦』としての史実は纏めサイト及びwikiを参照してくださいね。

※警告※今回はいつになくシリアスです。というか、人として彼女の過去を面白おかしく書くことは出来ませんでした。
R-15程度の表現・描写をしているので、閲覧にはご注意を。


長門の場合:前編

―――あの光ではなく、戦いの中で果てる事が出来るのなら。

―――ただの的ではなく、戦士として散る事が出来るのなら。

 

―――私は、それが本望だと思った。

 

 

 

 

「私が『戦艦長門』だ。宜しく頼むぞ。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ」

 

 

私は今、舞鶴鎮守府の提督執務室にいる。

本日付で、此処の艦隊に配属される事となった為である。

そして文字通りその身を預ける事となる、艦隊司令官は目の前に立つ男だ。

 

「神林貴仁(かんばやし たかひと)…階級は少佐だ。此処の司令官を務めている」

 

言葉少なくそう告げた提督に改めて目を向ける。

年齢は三十代前半、といったところだろうか。背はかなり高い。

司令官、という要職に就いている割には若い方だと思うが、まぁそれ程珍しい事ではない。

少々目つきが悪いというか、若干不機嫌そうなイメージを受けるが、自分も似たようなものなので大して気にはならない。

後は能力次第か、と結論付ける事にした。無能な指揮官に従う以上の不幸はないからな。

 

 

「早速で悪いが、君には第一艦隊に入ってもらう。旗艦はそこに居る『扶桑・改』だ。扶桑、案内してやってくれ」

「了解しました。長門さん、これからよろしくお願いしますね」

 

提督の隣に立っていた女性が応える。

『扶桑』といえば、日本初の『超弩級戦艦』…所謂、自身の先輩である。

…というか彼女は第一艦隊の旗艦だったのか。艤装を付けていなかったから、提督の秘書か何かと思っていた。

 

※これは後に扶桑から説明を受けた事なのだが、『第一艦隊旗艦』は『提督の秘書艦』も兼任しているんだそうだ。艤装は紆余曲折あって執務室では外す事になったらしい。

 

 

 

「さぁ、敵は待ってはくれない。世界に誇る『ビッグ7』の力…期待しているぞ?」

 

自身を試すように告げる提督に、長門は不敵に笑って応える。

 

「あぁ、期待に応えて見せるとも。艦隊の勝利を以って、な」

 

 

 

 

 

 

長門が加入したにより、第一艦隊の火力は目に見えて向上した。

 

扶桑や山城などの『航空戦艦』、金剛をはじめとした『高速戦艦』等、カテゴリー『戦艦』の艦娘は以前から所属していた。

だが、それぞれ『航空戦艦』・『高速戦艦』としての特性上、前者は艦船の性能に、後者は艦船の装備に制限があり、純粋な火力は長門型戦艦に劣っていたのだ。

 

勿論、『高火力=必勝』と言う訳ではないので、彼女達が一概に劣っているわけではない。

『航空戦艦』の艦載機による開幕爆撃や『高速戦艦』の高機動が可能にする高い回避力などは、長門型戦艦には無いものだ。

 

それでも、扶桑や金剛達では撃沈しきれない相手を容易く沈める長門の火力は、第一艦隊の勝利に大いに貢献した。

また『一撃必殺の火力を持った味方がいてくれる』という事実は艦隊に所属する艦娘達の士気を大きく上げ、結果的に艦隊の被害も減少していった。

 

 

長門は最初の宣言通り、『勝利で以って期待に応えた』のである。

 

 

 

 

しかし、真の意味で『無敵の艦船』など存在しない。

 

彼女達『艦娘』は艦船時代、それぞれ様々な理由で散っており、現存している艦船はほぼ存在しないのだ。

 

それは『ビッグ7』と謳われた『戦艦長門』も例外ではない。

そして、彼女の『最後』は、他の艦船達と比べても『特殊』なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

ふと気が付くと、長門は大海原の真ん中に一人立っていた。

 

「ここは…?」

 

周りを見渡しても、陸地はおろか第一艦隊の面々も見当たらない。

 

「…戻ろう」

 

そういって何処とも知れぬ方向へ足を進めようとして、ふと自身の異常に気付く。

 

「装備が…ない?」

 

彼女が普段纏っている数々の兵装が、すべて取り払われている。

最低限の艤装はあるため、航行不能になることはないが、それでも不安は拭えない。

どんな状況であれ、丸腰で大海原の真ん中に立つなど、自殺行為でしかないのだから。

 

『一体何処なんだ此処は…?』

 

 

改めてまわりを見渡す。すると、視界に妙な物をとらえる。

 

「あれは…せんか……え?」

 

視界に映った物を認識した瞬間、長門は言葉を失った。

 

「な…なんでこれが…ここに?」

 

此処にあるはずが無い。だって、この戦艦はあの日…!

 

「戦艦ネバダ…何故これが此処にいるんだ!?」

 

 

 

『戦艦:ネバダ』

アメリカ海軍に所属していた、ネバダ級戦艦のネームシップ。

起工、就役開始年月共に長門の起工より前、という旧型艦。

第二次大戦終結後、『とある作戦』において、長門と共に行動した。

 

 

 

『コレが此処にある…じゃぁ、今私が居るのは…!』

 

咄嗟に空を見上げる。しかし、『ソレ』は既に投下された後であった。

 

 

 

数瞬後、強烈な閃光と爆音が奔る。

全てを焼き尽くす破壊の意思は、高熱と爆風を伴って長門に襲い掛かった。

 

 

「くっ…!あぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

全身にはしる激痛に長門は苦悶の声を上げる。皮膚が焼け、髪が焼け、申し訳程度に残された艤装の表面を融解していく。

 

しかし、『戦艦長門』はこの程度では沈まない。

本来長門は『予定地』から400mの地点にいる筈だった。

しかし、爆弾が風に流され、最終的な地点は長門から1500m近く離れた所になってしまった。

その結果、『爆心地』方向の装甲表面が融解したのみで、航行には問題なかったのだ。

 

 

「うぅ、くぁぁ…」

 

 

破壊の嵐から開放された長門は苦悶の声を上げる。

航行には支障はない。だが体の表面が溶けたのだ。無事であるはずが無かった。

 

 

 

そして彼女の苦痛は終わらない。

 

 

 

『アレ』は、一度ではないのだ。

 

 

 

「あぁ…やめろ、やめてくれ!」

 

身動きが取れない長門の体に、機雷が巻きつけられる。

 

 

『いやだ、もういやだ!たのむ、たのむから!もうやめて!』

 

 

長門の懇願も虚しく、『悪魔の兵器』がまたしても投入される。

 

 

「あ…いや…」

 

 

また『アレ』が襲ってくる。

『今度』は、耐えられない。

また、私は沈む。

 

 

 

 

閃光・爆発。

破壊の意思が、再び長門に襲い掛かる。

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぁぁ!!」

 

寝台から飛び起きる。

視界に映るのは、見慣れた壁。

 

「あ……?」

 

回りを見渡す。配備された日から、大して私物が増えていない、簡素な部屋。

長門の寝室だ。

 

『夢…?』

 

一先ず、『あの海』に居ない事を理解して安堵する。随分うなされたのか、汗で長い髪が纏わりついて気持ち悪い。

時刻を確認すると、少し前に日付を超えたようだ。夜が明けるには随分と時間がある。

寝ていたと言うのに、体が重い。それに酷く喉が渇いていた。

 

「顔でも洗おう…」

 

寝台から抜け出し、洗面所に向かった。

 

 

 

 

洗面所に備え付けのコップで水を飲み、顔を洗う。

タオルで拭きつつ、ふと鏡に映った自分の顔を見る。それは半分が焼け爛れていて―――

 

「ひっ!?」

 

―――いなかった。何時も通り…よりも少々顔色の悪い自分の顔が映る。

 

どうやら、まだ頭の中に夢の残滓が漂っているようだ。

 

 

「最近は…頻度が減ってきてたんだけどな…」

 

自身の最後を思い出し、また少し気が滅入る。

 

あの夢を見るようになって、随分経った。

最初は、目が覚めても体の震えが止まらなかった。

泣きながら目が覚めた事もある。

 

「あと、何回あの夢を見るんだろうな」

 

何気無く口に出してみたが、その問いに答えられる者などいない。

 

「さて、どうするか…」

 

一応顔を洗って多少はスッキリしたものの、正直このまま直に寝台へ戻る気分にはなれない。

体に纏わりつく不快感が鬱陶しいので、外の空気でも吸って払ってくるか、と思い窓の外を見る。

 

「ん?」

 

鎮守府の一角に人影を見つけた。

 

もしや侵入者か、と思ったがそれにしてはコソコソしていない。

尤も、此処の艦隊には『夜戦』が大好きな所謂『夜型』の艦娘も多いので、その中の誰かかも知れないが…

だがそこは演習場やドックから離れた場所。その先にあるのは出撃用の港だけだ。

 

「いや、あれは…」

 

寝室を後にして、先程の人影を追う。

あの後姿には見覚えがあった。

 

 

 

 

 

神林提督は、港で一人海を眺めていた。

灯台等で照らされているものの、夜の海は暗い。

 

ふと思い出したように、後ろに声を掛ける。

 

「…今夜は夜戦出撃の予定は無い筈だが?」

「…気付いていたか」

 

現れたのは長門である。…正直意外な相手だった。

先程から後ろで気配がしていたので、またどこぞの夜戦好きか…と思って釘を刺すつもりで声を掛けたのだが。

 

「大した察知能力だ。電探でも積んでいるのか?」

 

長門の問いに肩を竦める。

 

「仕事柄周りの気配には敏感でね。『常在戦場』とはよく言ったものだよ」

「提督は戦場を知っているのか」

「ん?君達が闘っているのは戦場ではないのか?」

「いや、そう言う意味では…まぁいい」

 

ここで問い詰める事でもないだろう、と長門は話を打ち切る。

 

「ところで、夜更かしは感心しないな。美容にも悪いぞ?」

「そう言う提督は良いのか?」

「…いい年した男が美容も何も無いだろう」

「ちょっと寝つきが悪くてな。外の空気を吸いに来た」

 

直に戻る、と続けようとしたが、提督の言葉に動きが止まる。

 

「…悪い夢でも見たか?」

「…貴方は心が読めるんだな」

 

隠し事が見つかった子供のような顔をした長門を見て、切り出し方を間違えたか、と後悔する。

だがそのまま放っておく気にもなれなかったので、話を続ける。

 

「表情…特に目を見ればわかるさ。何しろ…」

 

ほんの数十分前に鏡で見てるんだから。とは言えなかった。

 

「何しろ…なんだ?」

「いや、仕事柄似た様な目をした者に合う機会が多くてね」

「仕事柄か」

「あぁ、仕事柄な」

 

そういって肩を竦めると、ようやく長門の表情が和らいだ。

 

「しかし…ふむ」

「どうかしたのか?」

「いや、此処で雑談してても良いんだが…体を冷やすのはよくない」

「今は夏だぞ?」

「夜の海風は冷える。過信は禁物だ。という事で…」

「事で?」

「少し時間はあるか?」

「大丈夫だが…」

「俺も中々寝付けなくてね。話し相手が欲しかったんだ。少し付き合ってくれ」

 

 




長門さんの詳しい過去を知りたい方は、『戦艦長門』もしくは『クロスロード作戦』で検索を。

次回はちょっとお酒も絡む大人な話にする予定ですよ。
で、長門さんのフラグが立つかと。

俺提督は捻くれ者のう○こですが、神林提督は外見も中身もイケメンです。

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