これは祐巳ちゃん至上主義なお話です。
約3年半ぶりに続きを書いているので、矛盾点があればご指摘下さい。
ご迷惑おかけします。
#01 —前編—
(1)
大学の入学式の一週間前、この日祐巳は学科のオリエンテーションに参加するため、指定の講堂を探し校内をウロウロしていた。何もかも平均点―――と、言い張る祐巳も、努力の甲斐あり、この春からお姉さまと同じリリアン女子大学に通えることになった。しかも、学科は違うが、由乃と志摩子もリリアンなのだ。
「それにしても…ここ…どこ……」
大学の敷地がこんなに広いとは思わなかった。こんなことなら、由乃や志摩子がついてきてくれるというのを断らなければよかったと後悔する。しかし、あの二人は祐巳とはオリエンテーションの日が違うのだ。本来なら休みの日を祐巳のためだけに大学まで連れ出すというのは、気が引ける。
それでも、由乃も志摩子も最後まで譲らなかったため、お姉さまが案内してくれるから大丈夫、と嘘を吐いて説得したのだった。
ここ最近、祐巳の周りの人たちの祐巳への態度は、過保護すぎると感じていた。お姉さまも本当は、今日、付いて来ようとしていたのだけど、由乃と志摩子がいるから大丈夫、と同じような嘘を吐いて断っていた。いくら歌手としてデビューするからといって、こんな何もかも平均点な私を心配する必要なんかないというのに。祐巳にはみんなの不安が理解できない。今までと同じように接してほしいと願っていた。そんな少し憂鬱な気分でぼうっとしていると―――急に背後に気配を感じ——、振り返る間もなく
「祐~~巳ちゃんっっ」
「っ!!?~~~っせ、聖さまっっ」
聖さまに抱き着かれた。
「…どうして!?」
「どうしてって、祐巳ちゃん私と同じ学科でしょ?私はオリエンテーションのお手伝いに来てるの」
「あ…あぁ、なるほど。…それは分かりましたが、いい加減っ離してください~」
こんな往来でおもいっきり抱きしめられては、なんだか恥ずかしい。私は、少し力を入れて聖さまを引きはがそうとしてみるが、びくともしなかった。それどころか、余計に力を入れられる。
「だぁ~めっ!祐巳ちゃんこそこんなところで何してるの?講堂はあっちだよ!?」
意地の悪い笑みを浮かべながら聖さまが聞いてくる。
「っう゛~~~」
「ははっ!うそうそ!大学は広いからね。講堂まで案内してあげるよ」
「……お願いします」
そうして、やっと解放してくれた聖さまに連れられて、祐巳は無事講堂へたどり着くことができたのだった。
(2)
春休みだというのに、私は大学に来ていた。今日開かれる学科オリエンテーションの手伝いのためにだ。普段ならそんな面倒なこと絶対に引き受けないのだが、かわいい後輩のことが少し心配で参加していた。私は講堂の入り口付近で案内をする係りなのだが、いつまでたってもあの子が来ない。迷子にでもなったのか、はたまた来る途中に何かあったのかもしれない。考え出すといてもたってもいられなくなって、私は持ち場を離れて走り出していた。
会場の講堂から離れた別の学部の棟の側に祐巳の姿はあった。広い敷地、オリエンテーションのためか、人も多かったが、祐巳はすぐに見つかった。祐巳の周りだけなんというか空気が違うのだ。オーラというのかもしれない。凛とした――それでいて暖かく柔らかいそんな雰囲気を漂わせている。―――きれいだ――と思う。彼女はここ一、二年で遅い成長期を迎えていた。身長は、高二の頃から比べてずいぶんと伸びていたし、顏も元々パーツ自体は整っていたと思うのだけど、丸みを帯びた狸顔がすっきりとし、くりくりとしたおおきな瞳、すっとした小さな鼻、ぷっくりとした唇がより洗練されて、繊細で可憐な美しさを纏っていた。
周りを歩く人たちもそんな祐巳に目を奪われ、ちらちらと視線をよこしている。かくいう祐巳は、自分が見られていることなどまったく気づいていない様子だ。鈍感というかなんというか。本人は自分のことを未だに子狸だと思っているのだから厄介だ。
ほんの数瞬、祐巳のことを見つめて突っ立ていたが、何組かのグループが祐巳に近づこうとしているのに気づき、はっとする。あれはサークルの勧誘か何かだろう。祐巳にはサークルに入っている暇なんてないというのに。もうすぐデビューするのだから。それでも気の優しい彼女は丁寧に相手をしてしまうかもしれない。
聖は咄嗟に祐巳に駆け寄り、後ろから抱きしめた。―――周囲から祐巳を守るように。
(3)
「ふぅ~。やっと終わったぁ」
なが~い説明も終わり、今はたまたま近い席に座っていた子たちと談笑したりしている。
「ねえねえ、祐巳は履修登録どうする~?」
ずっとリリアンに通っていた祐巳にとって、由乃と志摩子以外の同級生から呼び捨てにされるのは新鮮だった。
「うーん。私は…聖さまに聞いてみようかな」
「えぇっ?様?」
「誰?何者??」
「彼氏?!とか?」
私のなんでもない一言にアリサ、優子、玲奈が一斉に反応した。外部の人間にとって、やはりリリアンの制度は驚きらしい。
「ごめんごめん。ただの先輩だよ。聖さまは二個上のリリアンの先輩なの。それに、私に彼氏なんているわけないって」
祐巳はハハハっと苦笑しながら答える。
「な~んだ。リリアンって変わってるね~」
「でも、祐巳に彼氏いないなんて意外」
「そうそう。こん~なきれいなのに」
「なっ何言ってるの!アリサたちの方が全然きれいだよ!おしゃれだし!?」
「祐巳にいわれてもね~?」
「彼氏いないならさ、今度合コン行こうよ!すぐできるって!」
「あ~アリアリ!」
「ごっ合コンって…私は別に…いいよ」
「まっこの話はまた今度ね!祐巳逃がさないから!」
そう言い残して、三人は帰っていった。これから遊びに行くらしい。祐巳は誘われはしたが、用事があるから、と断った。何しろこれからヴォイストレーニングがあるのだ。一週間後、大学の入学式の日から、祐巳のファーストシングルの曲がCMで流れはじめる。更にその後からは、各種音楽番組への出演や雑誌のインタヴューなどの予定が控えていると聞かされている。今はまだ山百合会の仲間たちしかそのことを知らないし、わざわざ言うものでもないだろう。祐巳も配られた書類をまとめ、席から立ち上がり、出口へと向かう。扉の側には聖さまが立っていて、私に声をかけてくれる。
「祐巳ちゃん、お疲れ!友達できた?」
「お疲れ様です。聖さま。まぁ、たぶん」
「さすがだね。祐巳ちゃんならすぐできると思ってたけど。でも気を付けないとだめだよ、祐巳ちゃん」
何を気をつけろと言うのだろう聖さまは。祐巳は怪訝そうにちょこんと首をかしげる。
「こりゃだめだ。みんなが心配するのも分かるなぁ」
聖はなぜか頭を抱えて唸っていた。
「それじゃあ、聖さま、ごき…」
ごきげんようといいかけて聖さまに阻まれる。
「待って!祐巳ちゃん。これからレッスン?」
「そうですけど?」
「一人で大丈夫?」
「もうっ!大丈夫ですよっ!それに、マネージャーさんが学校のそばに迎えに来てくれているはずなので」
祐巳はふくれながら応える。
「ははっ!ごめんごめん祐巳ちゃん。じゃあ、そこまで一緒に行こう。ね?」
子ども扱いされているようで、少し不満ではあったが、聖さまと久しぶりに話せたのがうれしくて、結局、門を出たところまで二人仲良く並んでゆっくりと歩いたのだった。
かなり自己満足な物語です。今のところ、聖×祐巳みたいになっていますが、メインは祥子×祐巳な祐巳ハーレムです。
では、拙い文章ですが、お付き合いくださりありがとうございました。