“自称”何でも屋の幻想郷―――生活   作:牙の道化師

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今回で蹴りを付けたい序章―――もしくは第一章。
一応、ご都合主義ではあるけれど、人間には解る訳が無い人知を超えた恐ろしさを味あわせるから問題なし。


“自称”囮作戦 前編

何でも屋前に数人の男達が居た。

 

そして、戸を叩く。

 

「おい、居るか?」

 

その声に反応したかのように、戸が開かれる。

 

「おや、ご依頼人。3日振りですね。」

 

彼―――直人はそう口を開く。

 

「……それで?見つかったのか?俺らでも“殺せそう”な妖怪は?」

 

殺す―――そんな言葉を平気で告げる辺り、並々ならぬ怨念を感じた。

とりあえず、それを無視する形で彼は“作り笑顔”を浮べ告げる。

 

「えぇ、見つけましたよ。それでは今宵、新月の夜に霧の湖に続く林道の入り口でお待ち願えますか?」

「今からでは無いのか?」

 

はやる気持ちを抑えようともしない依頼人の男。

周りの男達もそんな感じだ。

 

「いえ、どうやらその妖怪は真っ黒い球体の様な物で身を隠しており、夜だと極めて発見が困難だったんです。相手に見つからず相手を見つけられたのは幸運だったでしょう。」

「だが、どうやってそいつをおびき寄せる?暗くては連携も取れない。」

「どうやらその妖怪は、新月の夜だと暗闇を発揮する事が出来ないそうです。」

「……どうして解る?」

 

依頼人の取り巻きの1人が尋ねる。

 

「昨日、稗田家の庭の手入れをした際、当主がやってきたのです。その際、妖怪の事を聞き今さっき挙げた妖怪の事を話してくださったのです。」

「なるほど、あの家は妖怪の事については専門的知識があったな。解った、今夜その場所に向う。」

「……ご確認しますが、本当におやりに?」

「あぁ、憎き妖怪達をこの手で殺せるのだからな。」

「差し支えなければ理由を聞いても?」

「よかろう。この幻想郷は妖怪の楽園と言われている。したがって、やつ等は我々人間を飼い殺しているのだよ、恐怖を生み出させる為に。恐怖が無ければ妖怪は存在価値が無くなるらしいからな。我々は飼い殺される為に生きている訳ではないのだ!」

 

至極真っ当な理由ではある。

あるが、だからと言ってそれが正しいと言えるだろうか?

確かにこの男が言うように飼い殺されているのかもしれない。

だからと言って、この男がやろうとしている事は命を奪う事である。

しかも、囮を餌にである。

 

「……なるほど、お覚悟は良く解りました。それでは、規定の時間で会いましょう。」

 

 

 

 

 

―――深夜、霧の湖に続く林道に彼と男達が歩いていた。

新月の夜は暗く、遠くが見えない。

 

「……まだか?」

「もうすぐです。」

 

男が焦れた様に尋ね、淡々と返す直人。

松明をつけていないのは、相手に気づかれてしまうからと言う理由でつけていない。

そして、彼が不意に立ち止まり告げる。

 

「……居ましたよ。」

 

真夜中の林道に小さな女の子が居た。

 

「どうやらあれが昨日見た黒い球体の主でしょうね。」

「……そうか。では手筈通り、あれの接触し此方に誘導しろ。」

「解りましたが……もし、失敗したら?」

「その時は“1人”の外来人が死ぬだけだ。」

「………どういう意味で?」

「…………。」

 

この男、どうやら彼を生かす気は最初から無かった様だ。

黙り込んだ男の代わりに、取り巻きの男が教えた。

彼の背後に刃物を突きつけて。

 

「……女を口説こうとは、新参者にしちゃ良い度胸だが……礼儀がなってないな。」

「……そういう事ですか。」

 

基本、彼は行く先々で女性を口説いてはいるが、軽くあしらわれている。

しかし、人当たりが良い為あしらわれてはいるが嫌悪感は持たれてはいなかった。

つまり、何らかの嫉妬・危機感を抱いた為に彼を選んだんだろう。

 

「……さぁ行け。」

「……解りましたよ。」

 

もし、彼が行動をしてなかったら彼の生存確率は0のままだったろう。

しかし、彼は自身の手で生存する権利を手に入れた。

そして、作戦が始まる。




そして後編へ……。

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