翌日、彼は考えて居た。
因みに草むしりの仕事を終えた後にご飯を食べて、店から出た後に歩きながらである。
(さて、どうするか……。少なくとも俺にあの男共を無力化できる力なんて無いし……。)
考えを纏めていると。
「ふぅ、早く師匠の下に帰らないと……。」
―――女性の声がしたので、直人は声の主を探す。
直人が目にした女性は―――頭にヨレヨレのウサギの耳があった。
「あの、そこのお嬢さん。」
「はい?」
振り返った女性の姿は、足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪に、紅い瞳を持っており、平たく言ってしまえばほぼ女子高生の制服姿。
よく見てみると、ウサギの耳の部分に付け根の様な物があった。
そういえば、お尻の部分に尻尾があったかもしれない。
「あの……何か?」
「あっと、失礼。……お嬢さん、今宵は一緒にお酒でも如何ですか?」
空気が止まった。
「………。」
2・3歩、ウサギ耳の少女が後ろに下がる。
「あー、またお断りされましたね。」
「……他にもそういう感じで口説いているんですか?」
「否定はしない。」
ウサギ耳の少女は思う。
(適当にあしらって帰ろう……。)
そう思い、少女は口を開こうとして―――
「所で話は変わるんだけど、この辺りに薬に詳しくて売ってる人を知らないかな?」
―――言葉は出なかった。
「………何故ですか?」
「んー、そうだねぇ。強いて言えば……。」
その時、彼の眼は少女の“瞳”を見る。
「っ!見ちゃ―――!!!」
少女が声を荒げ、目を逸らそうとして―――
「無理。」
彼が回りこんで瞳を除かれてしまった。
「―――!?」
「ふむ、中々に綺麗な色だね。」
「何とも……無いの!?」
「えっ?」
直人は何の事か解らなかった。
あの後、人里を離れある森に付いた“2人”。
「まったく……おかしいわよ貴方。」
「と言われてもね……。その狂気に陥るって言われても陥った事無いから解らないんだよ。」
「本当に人間?」
「生粋の人間ですが何か?と言うか名前くらい聞かせて欲しいんですが?」
「普通は自分から名乗るでしょ。」
「俺の名前は直人。自称何でも屋店長さ。」
「何でも屋って……絶対荒事とか向いて無いわね……。」
「んじゃそっちの名前は?ウサギのお嬢さん?」
「……鈴仙。鈴仙・優曇華院・イナバよ。」
「長い上に舌を噛みそうだな。」
「鈴仙で良いわよ。」
「んじゃ俺の事も直人で良いよ。」
「それで、薬を売っていて詳しい人を探してるのよね?」
「そうだよ。」
「なんで?その何でも屋の依頼?」
「まぁそういう事かな。少なくとも相手の動きを止めないと洒落にならないんだよね。」
「………何に使うつもりよ?」
訝しげな目で直人を睨む鈴仙。
「まぁ言いたい事は解るけど、決して悪行に使わないよ。と言うか、今回の依頼は断りたかったんだけど、断れなかったんだよねぇ……。」
ため息を付く。
「どんな依頼なのよ?」
「本当は守秘義務があるけど、こんな依頼に守秘も義務もいらないから暴露しちゃうけど……少しばかり手をかしてくれますかい?報酬も払うんで。」
「………師匠の許可しだいね。それで、内容は?」
「妖怪の抹殺。」
ズルッ!
鈴仙がこけそうになった。
「………何でそんな依頼受けるのよ……と言うかそんな依頼を出す方も出す方よ。」
「まぁ理由としてはだ、あそこで断れば実力行使に出たかもしれないんだよ。もしあいつらが妖怪を抹殺したら寝覚めが悪くなるだけだよ。まぁ相手の妖怪が自分以外死ねば良いとか考えてる奴なら放置したけど。」
「なるほど、以外に考えてるのね。でも、大丈夫なの?制限日数とかは?」
「条件付きでこの依頼を受けたんだ。日数制限は無期限。目標は俺が決めるまで他の妖怪を襲わない。報酬は前払い。」
「何で前払いなのよ?」
「後払いだと尻尾きりに会いかねないし、俺が妖怪を殺した犯人に仕立て上げられちまうからだよ。」
「なるほど…。それで、どうやってその依頼を“成功”させるの?」
「良いかい?あいつ等は俺に“囮”になってくれと言う意味で妖怪の抹殺を依頼してきたんだ。つまり囮の仕事だけをしてれば良いんだよ。それで依頼は達成。」
「……悪どい。」
「否定はしない。さて、そろそろ着かないかな?」
「もう見えてくるわよ。」
そして、目の前に門が見えた―――
まぁ尻尾きりは怖いですよね。