転生オリ主チートハーレムでGO(仮)~アイテムアビリティこれだけあれば大丈夫~   作:バンダースナッチ

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サブタイトルはある意味再開です


外伝1

 ――それは400年後の話

 

 

 

 

 木々がひしめく森の中、一人の男が駆けていた。

 その肩口からは血が流れ出ており、これ以上の失血を抑えるために必死で手を押し付けていた。

 

 血を垂らしながらも、男はひたすらに走る。後方から迫る自分を狙う者たちから逃げるために。しかしいつまでもこのままという訳には行かない。自分の体力の限界は近づき、肩の怪我も運動量が増えているために出血が酷くなっている。

 酷い疲労感と倦怠感に襲われながらも、それでも足を止めることは出来ない。幼少の頃田舎で育ち、多少なりとも山の中で走るという行為に慣れていても、追っ手の連中とは根本の体力が違う。ならばどうすればいいか?

 

 男は頭の中で詠唱を紡ぎ、その術式を組み上げていく。すでに幾つかの強化魔法を使ってはいるが、それでもあと一つくらいならばどうにか出来る。

 

『――バニシュ』

 

 一際大きな木を通り過ぎようとしたときに、強引に横へ飛びその影へと潜り込む。そして同時に魔法を完成させた。

 バニッシュ。時魔法に分類されるそれだが、その効果は時間に干渉するよりもむしろ空間に干渉する魔法である。己の周囲に魔力でベールを貼り、視覚的探知を断つ効果をもつ。

 さらに男は血に汚れた上着を茂みの中へと放り投げ、シャツを使い強引に止血をしていく。後ろから追っ手の足音が聞こえてくるが、荒くなった呼吸をどうにか抑えながら別の木の影に隠れていく。

 

 そうして僅かな時間の後に、男を追っていた連中がやって来た。黒装束を纏い、その顔すら分からないようにマスクをつけている。数は二人……他にもいるならばお手上げであるが、この二人だけならば……そう考え、新たに魔法を作り上げていく。

 

『――スリプル』

 

 うすら甘い匂いが風にのって追っ手たちのところへと流れていく。そうして異変に気づいた時には既に遅く、二人の追っ手は深い眠りに堕ちていった……。

 男は息を潜め、周囲を探っていく。そうして数分の時間が過ぎても周囲に変化がないのを確認し、その場所からゆっくりと離れていく。

 

 

 傷を白魔法で治療し、地面に座り込む。木を背もたれに男はゆっくりと思い返す。どうしてこうなったのか……男の記憶は数時間前へと遡る。

 

 

―――――

 

 男の名前はアズラエル・デュライ。歴史学者であり、神学者であるアラズラム・J・デュライを祖父に持つ魔道学士である。

 アズラエルは祖父や父のように神学などには進まず、魔道学こそ自分の道と定めこれまでの人生を歩んできた。しかし、その学ぶ魔法も古代魔法などに傾倒したあたり、やはり血は争えないのだろうか。

 

 彼の人生は順調であった。祖父や父の下から離れ、一人魔道学の研究へと明け暮れ、そして周囲からも一定の評価を得ていたのだ。それが一体いつ歯車が狂ったのかと問われれば、それは父が亡くなった時からだろう。

 父の友人である神父、ストーン司教から手紙が届いたのだ。その中身は父が亡くなった事について書かれていた。確かにここ暫く体調を崩しているという話を聞いてはいたが、それでも寝耳に水な出来事であった。

 アズラエルは急ぎ父の家へと急ぎ、その事実を改めて確認させられる事になった。

 

 しかし、ここまでなら誰もが通る道である。アズラエルの年齢は30を超えており、周囲を見れば同様の経験をしている者も居るだろう。しかし、問題は父の遺品の整理から始まった。

 

 祖父と父、この二人が歴史学者としてかつてのイヴァリースの歴史を調べていた事は知っていた。祖父に関して言えば祖先にあたるオーラン・デュライが残したとされる『デュライ白書』をどこからか入手し、それについての解釈書を出版しようとした。

 祖父はそれまでにも現教会の最大派閥であるミュロンド派と対立するような著書を出し、時に世間を騒がせていた。

 しかし、過去に出版した本で実際にそれほど大きな問題にはなっていなかった。よくある歴史解釈、様々な視点の一つから読み取った歴史。方向性の違いはあれど、同じような本はいくらでもある。だが、『デュライ白書・400年目の真実』……これだけは違った。

 その本は教会の名誉を著しく傷つけ、かつその情報の正誤が確認出来ないとし、グレバドス教会から裁判所を通じて差止めがかかったのだ。

 これに対し祖父、そして父も激しく反論。教会との大きな議論を巻き起こした……しかしそれも出版される前の状態であったため、公にはあまり知られない結果となっていた。

 結局この本についてはごく一部にのみ出版されるだけに留まり、教会から有害指定図書として認定された。これについては久しぶりに実家に帰った時に、祖父と父が大いに憤慨していた事が今も思い出される。

 

 この問題についてアズラエル自身が知っている事はこれだけである。その後祖父が亡くなり、自身も魔道学という道へ進むために実家を離れる事になっていたからだ。

 

 遺品の整理をしつつ、葬儀の準備に追われている中、家に数名の集団が訪ねてきたのだ。

 その集団の先頭は法衣姿であり、グレバドス教会の人間であることは分かったが、その人物の引き連れていた連中はいかにも怪しい姿をしていた。

 黒いローブに、顔全体を覆う三角の頭巾。思わずどこのカルト集団かと叫びたくなったが、既のところで思いとどまる事ができた。

 こちらの様子などお構いなしに、先頭の男は名前を名乗り、そしていくつかの質問をしてきた。

 

 男は名前をアイザックと名乗った。質問とはかつて父達が編集した『デュライ白書・400年目の真実』その原本の在処であった。

 不審を絵に書いたような連中である、警戒をしながら知らないと返事をした。実際にアズラエルはまだ遺品の整理に手をつけてはいるが、それより先にすべき事は山積みであったから、本当にその原本を把握していなかった。

 こちらのその様子を察したのか、無駄だと感じたのか、男たちは暫くすると家から出て行った。帰り際にもし見つけたら連絡が欲しいと、一枚の紙切れを渡すだけ渡してだ。こちらの質問を受け付ける様子もなく、父のなんなのだ という問いかけにすら無視して……。

 

 そのことがあってから半年ほど、膨大な量である祖父……いや、それ以前から集められた蔵書を整理し、祖父達が趣味で集めた古びた品々を片付けていった。蔵書の中にはアズラエルも惹かれるような本もあったが、以前訪ねてきた怪しい連中たちが言っていた原本は存在しなかった。彼らからはその後の連絡はないし、大きな問題もないのかと考え、徐々にその記憶は薄れていった。

 母に聞けばもしかしたらわかるのかもしれないが、生憎とすでに離婚し、この家から離れて久しい。父の葬儀にも参加することは無かった。

 

 

 蔵書の整理に一段落がつき、色々なことに整理が付き始めた頃再びノックの音が聞こえてきた。

 玄関へと向かい、訪ねてきた人物を確認するとそこにはストーン司教が立っていた。白髪交じりの髪に、ややゆったりとした司祭服、目は閉じてるように細く薄いメガネをかけている。

 ストーン司教はデュライ家とはそれなりの付き合いの長い人物である。グレバドス教会の一員であり、本来なら祖父や父たちとは対立する側の人間なのだが、昔から祖父たちと語り合う事が多かった。その内容も単純な糾弾や批判などの類ではなく、歴史学に基づいた観点から方向性は違えどお互いに尊重し合う関係であると感じていた。

 また、父の死に関しても一番に連絡をくれた人物であり、アズラエル自身も信頼をおいていた。

 

 「こんにちわ、アズラエルさん。気持ちの整理はつきましたか?」

 

 そう言いながら温和な笑顔をこちらに向けてきた。父の葬儀に関しても良くしてもらい、その後についても色々とお世話になっている。身近な人の死というものについてもフォローをしてもらったのだ。アズラエルも祖父たちの影響や半年前に訪ねてきた連中のイメージから教会というものに良い印象をもっていなかったが、このストーンという人物こそ司祭とはこうあるべきと感じていた。

 

 「お久しぶりです、司教。おかげさまでなんとかなっています……もうそろそろここの整理も終わりますし。そうしたらまた自分の居た場所に戻ろうかと思ってます。」

 

 ストーンを家に案内し、お茶を用意する。対面の席へと座り、自分のこれからを相談しようと話をすすめた。

 

 「そうですか……ここはどうするつもりですか?」

 

 「しばらくはこのままにしておこうかと、これだの蔵書量ですし、祖父たちの研究なども残ってますから……父が所属していた学会に寄与してもいいですしね」

 

 魔道学を学んでいる自分には宝の持ち腐れです……と付け足し、苦笑いを浮かべながらふと思い出した事をストーンに尋ねた。

 内容は半年前に訪ねてきた連中のことだ。あれから音沙汰がないために忘れがちであったが、ストーンに合う機会があったら聞こうと思いだし、落ち着いたいい機会だと感じ話し始めた。

 

 一通りの内容を話し終えたところで、ストーンの様子がおかしいこちに気づいた。普段から温和な表情を浮かべている彼にしては珍しく、焦りのような表情が見て取れる。

 

 「司教? 顔色が悪いですが大丈夫ですか……」

 

 「ええ、すいません……大丈夫。それで、その人たちはいつ頃?それにその後は?」

 

 汗を拭う動作を入れながらこちらに訪ねてくる。気のせいか僅かばかり語調が早くなってきている。

 

 「あれから……もう半年になりますか。あれっきり連絡もないですね。それに尋ねられた祖父たちの書いた原本というものも見つかりませんでしたしね。」

 

 アズラエルにはストーンが何故そんなに焦っているのかわからず、肩をすくめながらそう答えた。嘘を言うつもりもないし、そもそも無いものは仕方ないのだ。希望するなら家の中を調べさせてもいい。

 しかし、そんなアズラエルの胸中とは裏腹にストーンは勢いよく立ち上がると窓の側へと近づいた。しきりに外を確認しながら鍵をかけ、カーテンを閉めていく。

 ストーンの変わりようと急な行動に驚きながら、その不可解さに不安が生まれてくる。

 

 「司教……一体どうしたっていうんですか? 彼らは何かあるんですか?」

 

 「大事な事です、いいですかアズラエルさん。彼らの言った原本の在処は?」

 

 こちらの質問には答えず、こちらに詰め寄り訪ねてくる。その様子を見るに状況が逼迫しているように見える。

 

 「司教まで……原本はみつかりませんでした。蔵書の整理は終わったばかりですがそれらしいものはありませんし、父や祖父の部屋にも……それで一体なにをそんなに焦っているんですか?」

 

 状況を理解しようと尋ねるほどにストーンの焦りが大きくなっているように見える。一通りのカーテンを閉め終え、普段から見えているのか分からない目がそうとわかるように開かれている。

 

 「彼らは『神殿騎士団』と呼ばれる者たちです……教会の中でも過激な思想を持ち、目的にためには手段を選ばない……そんな連中です。」

 

 「手段を選ばないって……一体なんなんですかそれは!? それに目的って……」

 

 そんな馬鹿な話が……そう思いながらさらに訪ねていく。それに神殿騎士団……その名前自体は聞いたことがあるが、それはもう遥か過去の話だ。それこそ父達が纏めていた時代の……。

 

 「それはわかりません……ですが彼らがここに来たという事は、絶対に何かしらの目的があるのでしょう。それも、あなたの父達に関わる事が。いいですか、今すぐあなたの母のところに……!」

 

 「わからないってそんな……それにっ!」

 

 問答を続けようとしたところで、玄関口の方から大きな音が響いてきた。それは……そう、扉をこじ開けるような、破るような……そんな不穏な音が。

 

 「なんだっ!?」

 

 「こんな時にっ! アズラエルさん、いいから早くここから逃げてください!」

 

 ストーンはこちらの腕をつかみ、見た目からは想像できないほどの力で引っ張っていく。

 裏口のほうへと走る、途中の棚などを倒し、ドアを塞ぎながら進みその場所に着きやっと腕を離された。そして次はこちらの両肩をつかみ息を切らせながら早口しゃべり出してきた。未だに現状を理解しきれない混乱しながらもその言葉を聞き逃さないようにと耳を傾けた。

 

 「いいですか、アズラエルさん。あなたの母の居場所は知っていますか?」

 

 「それは……一応わかりますが、一体この状況はなんなんですか!」

 

 「詳しい話しをしている時間はありません。私はここで時間を稼ぎます……とにかく逃げて下さい、そして彼女のところへと急いで!」

 

 そう言いながらもストーンはドアを塞いでいく。家族が数人いた頃でも大きいと感じていたこの家でも、やはり玄関口から裏口ではそう距離は無い。それでも身を隠す場所を探しながら、司祭服のなから銀色の銃を取り出していた。

 

 「司祭……それは……」

 

 「急ぎなさい! 彼らがすぐそこまで来ています! さあ早く……!」

 

 言いながらも裏口に通じる扉に衝撃が走り始めている。状況は理解できないままに、アズラエルは走りだした。外へと飛び出し、そして体力の続く限り走り続けた。

 この家は街から少し外れた場所に建っており、町までは歩きでは少々かかる場所にある。それでも街につけば誰かに助けを求められるだろうと考えたが、当然相手もそう考えていたのだろう。街へと続く道がある方角からもかつて見た怪しい装束を着た連中が走ってくるのが見えた。走る向きを変え、森の方角へと向かう。

 後ろで銃声が響きだし、恐怖心を掻き立てられる。森の入口へと入る直前にその一発がアズラエルの肩へと当たってしまった。

 

 「ぐっ……!!」

 

 それでも……いや、だからこそ走り続けなければならない。足を止めず、とにかく走り出していく。一体自分の身に何が起こっているかもわからずに……空は曇りだし、やがて雨が降りだしていく。まるでこれからの道を示すように……。

 

 

 




更新ペースは遅くなりますが、また投稿していきます
次回からチャプター2本編です

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