パッ!
「くっ、眩しい・・・・ここは?」
目を覚ましたグロ・キシニアは、突如顔の前から降ってきた眩しいばかりの光に目を細めた。降ってきたというより、上から光が来たことから、自分が寝かされている状態ということを把握した。服装は最初と同じ白装束。せいぜいマントが外されていないくらい。そしてもう一つわかったのは、自分は何か台のような物に固定されていること。一切に身動きがとれない状態。まるで病院の手術台のような場所だった。
周りを見渡すと、上からライトで照らされているからか周りは暗く、何か機械のような物が大量に設置されている。ふと見てみると、小さな机の上にトレーが置かれ、その中に自身の匣と雨のマーリングが入っているのが見えた。
状況が全く理解できない。
いくら予想外のことが起きてもすぐに冷静な判断できるグロだが、さすがにこれは予想外の様相外。自分の最後の記憶を探るが、暗く霞がかっているように記憶がはっきりしない。
かすかに覚えているのは、自分の前に誰かがたっていたということだけ。だがそれも、暗く、記憶が曖昧で誰がいたのかも覚えていない。
「目を覚ましたか」
声のした方に、唯一動く顔を向けると、そこにいたのはひとりの人物。
目元を覆うゴーグルをして白い帽子を被り、大きめのマスクを付けて着ている服は・・・・・・手術衣。
白い手袋したその手は、自分の胸のあたりで指先を上に向けて掌を自分に向けるような、いわゆる手術前の人間の行うポーズをしていた。
動けない自分。
理解できない現状。
そして、となりに立つ手術する気満々の人間。
(超怖えええぇぇ!!)
リングも匣も全て没収され、もはや次に想像できるのは、拷問尋問、脅迫という物騒な単語しか思い浮かばない。
顔が見えないのが一層恐怖を駆り立てる。
そして手術衣を来た人物は、隣の台の上のメスを手に取り、キラリと光るメスを構えたのだった。
***
そして、手術室の隣の部屋では、
「・・・ねぇ光努、あの人隣の部屋で何してるの?」
「籠か?さぁ、自分の罠を壊した奴に嫌がらせでもしてんじゃねぇか?」
「だがあの状態は極限に相手も不憫に思えるな」
白い丸いテーブルの上に乗っているティーカップから甘い香りのする湯気が立ち上っている。澄んだ紅色の紅茶から立ち上るいい匂いが、部屋の中の雰囲気を和ましているような気がした。隣の部屋との温度差はかなりあるのだが。
丸いテーブルの周りに座ってる人数は3人。
一人は目は少年。柔らかそうな白い髪をして楽しそうに笑っている少年。髪色と対照的な黒いパーカーと青いジーンズという特筆すべき点の無い服を着ている少年。その右手には、透き通るような白い宝石と装飾の施された指輪がつけられていた。
二人目は少女。ショートの黒髪と後頭部で少し逆立たせたような、どこかの南国のフルーツを思い立たせるような特徴的な髪型。右目に付けられた黒字に髑髏のマークの付いた眼帯。黒曜中学の女子用制服を着用して右手には、霧の刻印のされたシルバーのリングをつけていた。
三人目は男性。スポーツ選手のような短髪と、鼻に貼られた絆創膏が特徴的なおよそ20代程の大人の男性。黒いスーツを着用し、隣の部屋で横たわる人物に同情するような表情をしながら紅茶を飲み干した。
ガチャリ。
隣の扉の上の手術中というランプの点灯が消え、扉が開いて中から出てきたのは、迷彩柄の軍服を着てバンダナで頭を覆った男、獄燈籠(推定60歳以上)だった。
白いテーブルと一緒にあった空の椅子にどっこいしょというふうに座り、自分も机の上の紅茶を飲み干して一息付いた。
「ふぅ、人仕事後の紅茶はうまいのぅ」
「なあ籠。グロに何してたの?」
「ん?二度と戦うことのできないようなトラウマを植え付けていた」
「思ったより黒いことしてた!」
「カッカッカ。半分冗談じゃ」
(・・・半分?)
クロームは少し首をかしげたが、光努と了平はあえてスルーすることにした。
先ほどの描写でお気づきかもしれないが、一人目光努と二人目クローム。
そして三人目は、笹川了平。しかも10年後の世界にて大人となった了平である。
今はボンゴレに所属しており、しっかりと昔と違って現状も全て理解している。
今回この黒曜ランドに来たのは、クロームをボンゴレ基地へと迎えにきたということ。そしてここに来てクロームだけでなく、光努と獄燈籠とも会って現在は休憩しているのであった。
「ただちょっと細工しただけじゃよ」
(極限に気になる内容だが・・・)
(何したのか聞くのが怖い・・・・・)
(・・・あとで見てみようかな)
了平とクロームはあえて気にしないように新しい紅茶を入れて飲み、光努はチラリと手術室の扉を見てから二人と同じように紅茶に手を付けた。
「それで、了平はこれからボンゴレアジトに行くんだっけ」
「うむ。元々クロームを迎えに来て行くつもりだったのだが、お前たちも来るか?
ツナ達も極限に大歓迎だろう」
「そうだな、ちょっといこうか。籠はどうする?」
「そうじゃのう。グロ・キシニアを処理してからわしも行こうかのぅ」
「よし!極限に決まったな!」
「ちょっと待ってください」
声が聞こえた。だが、この場にいる光努、獄燈籠、クローム、了平の誰とも違う声。声のしたところは、テーブルのすぐ脇に備え付けられた、T字型の立てられた木の棒に止まっていたフクロウからだった。
しかもそのフクロウは、藍色の炎を纏っており、その右目の部分は赤く染まり、中に〝六〟の文字が刻まれていた。
「どうしたんだよ、骸」
六道骸。
肉体は
通常は匣兵器に憑依など考えられないが、そこは骸曰く「出来てしまったものはしょうがないです」らしい。
「途中から絶対に僕のことを忘れていたでしょう」
「そ・・そんなことはないぞ」
「うん、そんなことはないぞ」
「ならなぜ目をそらすのですか!しかも光努に至っては棒読みですよ!」
「骸様、私は忘れてないよ」
「ああ、そうですねクローム。クロームに忘れられたらさすがの僕も泣きます」
「今更だがフクロウと会話って中々シュールな光景だな」
「光努、君はわざと話の腰を折ってますよね?そうですよね?」
「いや、大真面目に言っただけだ」
「なお悪いですよ!」
「まあまあ、お前たち。極限に一旦落ち着け。誰も忘れてないし話の腰は元々曲がっとる」
「それはそれで問題があるのだが」
ひとまず全員でボンゴレアジトに行くということで話はまとまった。
別に黒曜ランドのリング反応がミルフィオーレにバレたとかそういうのは全く関係無い。元々この黒曜ランド全体は死ぬ気の炎の反応が外に出ないように改造されているため、この中で匣兵器を使おうがリングから炎を出そうが外に漏れることは決してないのである。
「ところで骸、そのフクロウの姿でずっといるのは無理だろ?」
憑依ができてしまったのだが、元々シンクロ率だって高くないし、骸も匣兵器を憑依したのは初めてなのでまだ長い時間、しかもどの程度乗っ取れるかがわからないのである。
だが、骸は感覚からもう少しの時間で憑依も解けてしまうだろうと予想していた。
「クフフ、よくわかりましたね。正直もう終わりですね。本当はグロを簡単に倒すように細工したのですが、使うこともなかったですね」
その為、強敵を少ない労力で倒すようにしてグロのフクロウを配下においたが、その必要もなくなりこれだけ長く会話に使うことができたのである。
けど、そろそろタイムリミットが近づいてきた。
「ま、また何かあったら連絡してこいよ」
「クフフ、そうですね。今度はお土産でも持ってきましょうかね」
「骸様・・・」
「クローム、あまり無理はしないようにしてくださいね」
「はい」
「クフフ、それではそろそろ」
すぅっとフクロウは瞳を閉じ、倒れこむように木の枝からふらりと落ちるところを、クロームが咄嗟に受け止めた。抱きとめたフクロウを見てみると、すやすやと眠っていた。
骸が離れた今でも、藍色の炎が少し見えてることから、もうグロの
フクロウはすやすやと寝ているが、匣に戻る気配は特に見せない。
「匣に入らないとか、どこのピカ○ュウ・・・」
「ん?どうした光努」
「いや、なんでもない。それより早速ボンゴレアジト行こーか」
「うむ、そうだな」
目指すは、現時点ボンゴレの日本アジト。
ミルフィオーレの手もまだ届かない、並盛町の地下施設。
今現在そこいるのは、10年前のツナ達だった。