黒曜ランド中央施設の屋上に座っている光努と獄燈籠。
小型のモニターをいくつか並べ、そこから室内に置ける監視カメラの見た映像を光努達も見ていた。
「けどよく監視カメラハッキングとかできたよな」
「何を言っとる、別にハッキングなどしておらんぞ」
「そうなのか?」
「この場所の仕掛け作ったのわしじゃし」
「え、まじで?」
ルイがイリスの建築業者を使い、知り合いが監督をしたといったが、その知り合いって獄燈籠だったのかと光努は思い出す。
イリス母屋周辺に作ってあった罠も獄燈籠製だったし、罠関係の詳しいのか。
自分で作ったのなら見るのも造作もないよな。この場所の罠を素通りするために必要な、シルバーリングに龍の模様が彫っていあるドラゴンリング(仮称)ももちろん持っているため、光努と獄燈籠は罠を素通りして屋上まで来た。このリングをつけていなかったら全ての罠が作動するため、屋上にすら入れないのである。
「けどこの罠郡はどんなもんなんだ?ミルフィオーレのA級も倒せるのか?」
「ま、それはわからんの。罠なんて人の隙をつくものが多いからの、人によって簡単にかかるし」
「それもそうか」
「しかし、あのフクロウだけじゃ今後の罠は突破するのは難しいがのぅ」
「へぇ、何仕掛けたんだよ」
「わし特性の嵐の炎を練りこんだ、仕掛け満載じゃよ」
「おっかねぇな」
死ぬ気の炎チャージするシステムも搭載されているらしく、獄燈籠の嵐の炎を練りこんだ破壊力抜群の兵器も入っているらしい。そのほか、よくわからない仕掛け満載。普通なら目的地にたどり着くのは困難を極める。
が、そこは6弔花の一人と名高いグロ・キシニア。
一件あり得なさそうな事柄や、予想外の事態が起こっても、冷静な判断力によって正しい対応を考えつくことができる男。
伊達に強いと言われていないのである。その為、飛んでくる罠も冷静に回避し、着々と目的地まで進んでいた。
もちろん、たまに全力で回避せざるを得ない罠も存在するのだが、今のところ間一髪で回避に成功している。
「しかし、相手がグロ・キシニアじゃと、ここに住んでるクロームって子には大丈夫じゃろうか?」
「そこは多分大丈夫だろ。クローム強いし・・・・ん?」
一瞬、モニターに映っていた
(いま一瞬だけど、フクロウの炎の色は変わったように見えたんだが・・・・・・気のせいか)
相変わらず青い雨の炎を纏ったフクロウを連れているグロが、モニターには映っているだけだった。
***
カコン。
グロの踏みしめた床が凹むと、何かのスイッチが作動したような乾いた音が響いた。
その瞬間、カタカタと壁の一部が開き、筒のようなものが出てきた。
「なんだか嫌な予感がするな」
グロの予感は当たった。
筒の中から発射されたのは、銛。それも高速回転しながら嵐の炎を纏って飛んできた銛は、寸分なくグロを狙っていた。
「く!いけ!」
そう命令すると、フクロウは一声鳴き、水に酷似した死ぬ気の炎の波を作り出して、嵐の銛を包み込んだ。
これで問題なく消化完了。後は威力が弱まったのを自分が打ち落とせばいいだけとタカをくくったグロが薄らわらいを浮かべたが、その認識は甘かった。
バシュッ!!
「何ぃ!?」
銛が波の壁を突き抜けてきた。もちろん嵐の炎は纏ったまま。
これで防げると思っていただけに、反応が遅れたグロだが、咄嗟に避けたのはさすがの一言。だが攻撃が肩に少しかすり、右肩の毛皮が全て燃え落ちて少し血が吹き出した。
「ぐっ!」
そのまま後ろまで飛んでいったが、そこにはちょうど開けた、というかガラスが割れてなくなった窓があったため、特に何も壊さずに外まで飛んでいった。その後森の木を削り倒していったのを見てグロは少しぞっとしたのであった。
そして壁の筒から第二射が装填されつつあるのを見て慌てて次の部屋へと続く扉を空けて、中に入って扉をしめた。一瞬締め出されそうだったフクロウもドアの隙間から入ってグロと一緒にひとまずほっとしていたのは中々笑える光景だった。
ピクピク。
グロには、興奮したりすると右側頭部の血管をピクピクさせるという癖があったのだが、この黒曜ランドに来てからも、罠が飛び込んでくるたびに動かしていた。その度に落ち着かせ冷静になることができるグロだが、だんだんと我慢の限界が近づいてきていた。
クロームがいるのはただの廃墟。だからすぐにクロームの元まで来れると思っていたのに、待っているのは罠ばかり。苛立ちや予測不可能なことに直面しても、すぐに冷静さを取り戻して冷静に対処を行える。
が、こうも罠だらけだと、だんだんと冷静に対処してきたグロの堪忍袋の尾も切れ
かけてきた。
そしてこう結論をだした。
「まとめて壊してやろう!」
ボゥ!!
雨のマーレリングから青い炎を一際強く出し、取り出した海の波を思わせるような青い匣に炎を注入した。
匣の中から飛び出すように出てきた生物は、その大きさから出た瞬間に壁を壊し始めた。
「何、あれ?イカ・・・かな?」
モニターを見ていたクロームだが、グロのいた部屋は小さめなため、出てきた生物の全体像がカメラだけでは把握できず、白い物が写りこんでいるのがわかり、なんとなく生物がイカではないかと推測した。
そしてその推測は正しく、全身白く、さらにその人間を優に超える巨大な生物は、ダイオウイカとも呼べそうなイカであった。
が、窮屈そうなイカはその10本の触手を振い、部屋の壁を破壊していった。
壁を壊した先の廊下から、嵐の炎を纏ったクナイが大量に飛んできた。壁を壊したことで仕掛けられていた罠が作動したのだろう。
「そんなもの、この
雨の死ぬ気の炎を回転するように10本全ての触手に纏、嵐の炎の付いたクナイを叩き落とした。
通常の雨の死ぬ気の炎を纏うことに加え、回転を加えることで破壊力と防御力をさらに増幅させている。しかもその数が10本あり、1本1本が巨大なため、大抵の攻撃手段に対応することができる。
ホワイトスペルの6弔花は、白蘭よりメイン匣とサブ匣の二つを授けられており、グロの持つ
黒曜ランドの罠を一つ簡単に迎撃できたことに、先ほど苛立っていたグロも気分をよくし、再び笑みを浮かべながら足を動かし始めた。
「待っておれ、クローム髑髏」
部屋の天井付近から羽を広げて羽ばたく姿から後ろから巨大イカを従え、歩くグロをじっと見つめる目があったこと、をグロはまだ知らなかった。
***
「どうしよう・・・」
クロームは思案していた。
黒曜ランドの罠や機械を全て作動させることが可能な装置と、中の監視カメラが全て見ることができるモニターが大量に設置されているモニタールームの中で、一人クロームは思案げに指を顎に当てていた。
フクロウも強力だったが、それ以上に強力な兵器が出てきた。
防御力も高そうだし、なにより攻撃力も高いため、壁を突っ切って来ることも容易に可能だと思う。罠があるとは言え、チャージしてある死ぬ気の炎も無限大ではないはず。このままで黒曜ランドの罠も炎尽きて〝地獄の方がマシな程に危険な罠〟から〝ただの危険な罠〟になってしまう。
タイヤ付きの椅子の上に体育座りでくるくる回りながら、黒曜ランドの3D図面にピコンピコンと移動するグロの位置を見る。
確実にこちらに迫っている、とは言わない。
そもそもグロはクロームがどこにいるのかも分かっていないのだから当然といえば当然。位置的には近づいているといえば近づいているが、このまま行けばグロは2階に上がりそうなのでやはり遠ざかりそう。
その間に何かしらの対策を立てないと、端から端まで建物を破壊してしまおうという強硬手段に出ないとも限らない。そうなったらとてつもなく困るので、どうにかしなくてはならない。が、現状よいアイディアが思い浮かばない。
「ここの装置の中で、あの生物に対抗できそうなのは・・・・・」
①『自爆』・・・黒曜ランド全爆破。後には平らな地面のみ残った。
②『針山業火の刑』・・・黒曜ランドは全て針で出来ているのであった。
③『撃退ロボMUKURO・SIX』・・・よくわからない。
画面に映る三つの文を眺めながら、無表情になるクローム。
できれば③が見たいなと思ったが、よくわからないので一旦保留、後は①と②は危ないからちょっと使ったらダメかもと思う。
「うーん・・・・やっぱりどうしよう」
ガチャ。
「!」
その時、突然モニタールームの入口の扉が静かに開いた。
いきなりの扉が開く音に、クロームは身をこわばらせる。静かだった室内に、いきなり入る人影。扉を開けるまで、ここに降りてくる気配や音すら全く立てなかった人物は、躊躇なく歩いてくるとクロームの前に立ち止まった。
「・・・誰?」
深緑色の服装に、白い顎鬚と白髪の頭に巻かれたバンダナ。
顔に刻まれた深いシワから、60代をすぎるほどに高齢だと思われるが、その瞳は鋭く、全くの衰えとは無縁だった。懐から一冊の小さめの本を取り出し、黙ったクロームに差し出した。
クロームは疑問符を浮かべながらも、恐る恐るというふうに本を受け取ると、相手の老人はそのまま来た入口へと戻り、扉を閉めていった。
その光景を見ていたクロームはぽかんとした表情をしたまま、渡された本を握っていたことが今のは幻覚でもなんでもないということを実感していた。
***
「あ、おかえり籠。何してたの?」
「ん?ちょっと嬢ちゃんに説明書を渡してきた」
「説明書?」
屋上に座ってモニターを見ていた光努のところへ、獄燈籠が中から出てきた。
先ほど、正確にはグロが
「あの小僧とスルメを潰せる罠の動かし方を書き記した、わし特性の本じゃ」
「え、何?もしかして自分の作った罠とかランド壊されて少し怒ってる?」
「なんじゃろう。発動前の罠を壊されると、無性に壊した奴を壊したくなるのぅ」
「こえーよ!それ冗談だよな?」
「冗談じゃ」
「・・・・・・」
カッカッカと笑いながらどっこいしょと座る獄燈籠。
どうやら冗談というは本当らしく、愉快そうに笑っている。
「じゃが、嬢ちゃんに渡した本の内容は本物じゃぞ。ちょっと見ものじゃな」
「楽しみだな。どんな罠仕掛けてあるんだ?」
「その前に」
ガコン。
屋上の床の一部を開くと、そこには機械がむき出しになっており、中央には小さな丸いくぼみがあった。どこかで見たようなこの窪み。もしかして・・・・。
「さて」
懐から取り出したのは、全身が透明感のある真紅のリング。東洋の竜が円を描き、自分の尾を加えているようなデザインのそのリングは、どこか不思議な雰囲気が溢れていた。
リングを自分の指にはめ、かすかに笑うと、
ボゥ!!
溢れる程の嵐の炎が吹き荒れた。
真っ赤な炎に、嵐のような黒い波紋が揺らめく。嵐の波動が、炎の当たらないコンクリートの屋上の床をチリチリと焼き付け、その余波の中にいる光努は、相変わらず楽しそうに笑ったままだった。
そのまま炎を、先ほどあけた中の窪みに注入した。
「これは?」
「儂の炎を定期的に注入せんと動かない装置もあるからのぅ。たま~にここに来て炎を入れていくんじゃよ」
「へぇ。それで、どんな罠クロームに教えたんだ?」
「そうじゃのう、危険じゃけど自分には危険が及ばないような罠かのぅ」
まあたしかに自爆装置とかは相手を倒せても自分もやられるから論外だしな。
だんだんとグロがかわいそうになってきた光努だが、これもしょうがないかと思い再び観戦モードに入って行ったのであった。
***
少し開けた部屋のなかに出たグロだが、歩いた瞬間にどこかのセンサーが作動したのか、ピピっという電子音がした。
性懲りもなく、と思ったグロであったが、何か地響きのような唸り声がしたと思ったら、その罠の正体はすぐにわかった。
「壁が突っ込んでくるだと?しかもあの壁は、」
全身が嵐の炎に纏われている。嵐の炎を纏った赤い壁が、正面からグロに迫ってきた。
「ふん、やれ!
触手に回転をくわえた雨の炎を纏わせ、壁に向かって炸裂させる。
ギイイィン!
「何!?」
壁に突撃をくわえたイカの触手が、跳ね返された。
予想以上に硬い素材。耐死ぬ気の炎用の素材がおそらく使われ、死ぬ気の炎を軽減し、なおかつ衝撃にも強い壁を使ってあるのだろう。
くわえて纏われている嵐の炎で攻撃した相手に炎を飛ばし、カウンターを仕掛けている。現に触手で攻撃をしたイカに嵐の炎が少し燃え移り、苦しんでいたが、すぐに雨の炎によって鎮火させてグロの周りでうねうねと触手を問題ないというふうに動かす。
だがそうこうしているあいだにも壁が迫ってくる。
引き返す、という手もあるのだが、グロのプライドがそれを許さない。
というよりそれ以前に、このような状況でもグロは余裕の表情をしていた。
「ふっ、この程度で、私の攻撃を防げるとでも?やれ!」
グロのその声と同時に、雨の死ぬ気の炎を激しく燃え立たせた巨大イカは、10本の触手の先を一点に集め、ギュルギュルとドリルのように回転させた。
一点に集めた触手と雨の死ぬ気の炎が、通常の何倍もの破壊力を生み出す。
嵐の炎の赤い壁にぶつかった攻撃は、いびつな音を立てながら、壁を削り取り、ついに壁を貫通していった。
「はっはぁ!この程度、当然な―――」
最後までその言葉は続かず、グロはその場に倒れた。
なぜ倒れたのか、自分でもわからない。体を動かそうとしたけど、全身がしびれるようになり動かすことができない。炎を出すこともできなくなったため、次第に巨大イカも力が衰えていった。薄れゆく意識の中、自分の目の前に立つ人物と、その肩にとまる生物をかすかに見た気がしたが、グロの意識は闇のなかに沈んでいった。
あっさりとやられても、特に問題なし!
だってこのあとの展開に特に支障は来さないから。
でもこのあとは都合良くいろいろと細部を変える必要が出てくるかも。