でもそうなるとムクロウが出るところをどうにかしないとな~。
そんなことを思う今日この頃。
飛行機で第8グリチネ隊が日本へと飛び立って早数時間。
飛行場からおり、メローネ基地へとやってきたグリチネ隊は、支部長をしている入江正一と面会、その後はひとまず待機となった。
そして次の日、第8グリチネ隊の隊長であり、雨のマーレリングを持つ6弔花のひとり、グロ・キシニアは、とあるところから情報を経て、黒曜町に来ていた。
グロ・キシニアの得た情報というのは、黒曜ランドにて、クローム髑髏がいるという情報。
ミルフィオーレはボンゴレ狩りとして、ボンゴレの守護者も積極的に見つけ出して始末しようと画策しているが、グロとクローム、もしくはグロと骸は浅からぬ因縁とも呼べるようなことが存在した。
グロと骸は一度戦っており、骸が敗れたという情報。
が、骸は10年前からいまだに|復讐者(ヴィンディチェ》の牢獄入っているため、戦ったのはおそらく骸が憑依した誰かという結論もある。
だが、グロと骸が戦ったのはグロ本人から発せられた噂話なので、信憑性は高い。
しかし、それでも骸はまだ生きているという結論。
その根拠は、イタリアの空港でクロームが生きているのを目撃したという情報。
クロームは昔失った内蔵を、骸の幻覚能力を使って代用して生きながらえているため、骸がやられ死亡したのなら、クロームも内蔵を失い死亡する。片方しか生きていないというのは、中々に考えられない状態。
グロ・キシニアは、クロームが黒曜ランドに潜伏しているという情報をどこからか入手し、特にメローネ基地の支部長である入江正一に報告することなく、独り占めするために部下にも内緒で単独で行動して、黒曜ランドへとやってきた。
すでに10年以上も前から廃墟になったテーマパーク。ボロボロの廃墟に足を踏み入れながら、グロ・キシニアは一番大きな建物の入口に来ていた。
少し長めのおかっぱ頭にメガネをかけた顔。ミルフィオーレホワイトスペルらしく真っ白な装束に身を包んでいるが、肩や腕に毛皮をあしらえ、マントもつけていることから中々に自分好みに改造が施されている。馬上鞭を持ったその手の指には、青色の楕円形の宝石に、畳まれた羽の装飾が施された、雨のマーレリングがはめられていた。
「くくく、ここにクローム髑髏がいると思うと、中々に胸躍る」
白蘭曰く、「下種なのに強い」グロ・キシニア。部下から見てもこの人下種だなと思われるくらいに下種である。上の言葉を吐いてる間にも、結構顔は下種くなっているのは余談である。
その為、
カチリ。
「ん?」
自分を圧倒的有利だと思っている生物は、油断もする。
ゴゥ!!
突如床から立ち上った火柱(まじもんの炎)が上に立っていたグロを包み込んだ。
否、包み込んだと思ったが、間一髪転がるようにして火柱を避けることに成功した。
が、結構ギリギリで咄嗟に動いたため、しばし四つん這いになって呼吸を整える。
「く・・・くくく。この私に対してこのような仕打ち」
が、ゆらゆらと立ち上がりながら薄らわらいを浮かべる。笑っているがメガネの奥の瞳は全然笑ってない。むしろ不気味にみえる。
「いいだろう、クローム髑髏よ。徹底的にやってやろうじゃないか」
ボゥ!
「開匣!」
カチ!
マーレリングから燃え上がらせたのは、雨属性の青い炎。
海の波を思わせるような装飾の匣に炎を注入し、匣の中から出てきたのは、フクロウ。
鋭い嘴と鉤爪。バサリと羽を広げ、身に纏った美しい青い炎が、グロと違って中々に優雅な佇まいを見せる。
ドドドドドドドド!
その瞬間、死ぬ気の炎に反応してなのか、壁から穴が現れ、中から飛び出して来たのは、矢。それもただの矢ではなく、鏃に真っ赤な嵐の炎が纏われた矢。
通常の矢よりも圧倒的に破壊力の高い矢。
嵐の炎の特性は〝分解〟。
人体を分解して破壊しようとするその威力は、触れたらやばいものだが、相手は普通の人間ではなかった。「下種だけど強い」と言わしめるほどに、グロは戦闘能力は高く、強かった。
「この程度の罠など造作もない。しかし、これならクローム髑髏がいるという情報も期待できそうだな」
ここでグロはいくつか勘違いをしていた。
まず、この罠は基本的に侵入者防止用に最初から自動で仕掛けられているので、この罠が作動してもクロームがいるとは限らない。
しかし今回に限ってはあながちグロの予想も間違ってなかった。
そしてもう一つは、そう簡単にクロームに勝てるとは限らないということ。
一階の正面入口にいるグロを見下ろすように、3階の窓から見る人影が一つあったことに、グロ・キシニアはまだ気づかなった。
***
少し前に、クローム髑髏は10年後の世界に来ていた。
特に何かするというわけでもなく、黒曜中の制服を来て学校指定の鞄を持ち、道路を普通に歩いていたとき、突如振ってきた10年バズーカの弾に当たり、飛ばされてきた。
気がついたときにいた場所は黒曜ランドの中。10年後の世界とわかったのは、自分の部屋に飾ってあったカレンダーを見たらすぐにわかった。間違えてかけたにしては年数がずれすぎている。
よくよくと見れば周りも少し違っている。どうしようかと思い、ひとまず知っている場所だが、知らない場所なために動き回るのも良くないと思い、黒曜ランド内にて普通に生活をしていた。
幸いにも黒曜ランドを改造したとき、保存食なども大量に置いてあり、なおかつ10年後の自分が買ってきたか、新鮮な野菜やお肉等も冷蔵庫に入っているため、食べることにはあまり困らなかった。というか困るところが全くなかった。せいぜいこれからどうしようと思うくらい。
そんな生活を数日していたら、来訪者があった。
第一印象は、何か変な人。
第二印象も、何か変な人。というかあまり近づきたくない雰囲気の人。
第一印象よりも評価が下がったのは相手が相手なだけしょうがない。
妥当な判断である。
敵か味方も分からないが、多分敵だなと思った。特に理由があったわけではないが、部屋備え付けのTVに自動で映る監視カメラの映像を見ていると、それは勘であっても間違いではないと思った。
最初の罠である『火炙りの刑』を間一髪ながら避けた。見た感じ油断していたらしいが、それでも避けるのだからそれなりに動ける人らしい。
ちなみにこの名前は考えたのは千種と犬があーだこーだいって考えた。犬が『○○の刑』とかかっこよくねと、本当に唐突に言ったのは確実に余談である。骸→六道輪廻→地獄→刑罰?とか頭の中で微妙な連想した犬に関しては本当に余談である。
次の罠である『火串の刑』、炎の付いた矢も迎撃された。
けどその迎撃方法が、クロームの予想を超えていた。
青い炎のフクロウ。突如現れた大波。
見たことのない道具を使い、見たことのない技を使った。リングから出ている炎もわからない。いろいろとわからないことだらけ。
あれほどのよくわからないが強大な力なら、すぐにここまで来るかもしれない。
もっとも、クロームは正面からここに来るまでどんな罠があるかよく知らないけど。
「あ、そうだ。確か・・・・」
グロが正面から入ろうとしている間に、クロームは黒曜ランド内の一室に入る。
そして探るように壁を触ると、ある一箇所の壁に触れてぐっと押す。手のひらに収まるくらいの壁が押し込まれ、
ガコン!ゴゴゴゴゴ!
床がスライドし、隠し穴が出現!そして下の梯子を降りて、正面の扉を開く。
「!」
中の部屋は、機械が積まれ、配線が壁を這い、数多くのモニターが壁に設置されていた。
が、10年前のその光景にプラスされ、多くの本が積まれ、何か書かれたメモが大量に落ちたり壁に貼り付けられたりしていた。新品の部屋でなく、使い込まれた感のある部屋にここ10年でなっていたのに、クロームは少し驚いた。
ひとまずモニターの全電源をオンにすると、各場所に付けられた監視カメラが作動し、黒曜ランドの中を映し出す。
ひとつのモニターに映ったグロ・キシニアの姿。
周りをゆっくりとフクロウを飛びながら、正面入口の罠を突破したらしく、一階ホールに入ってきた。
キョロキョロとあたりを見渡すようにして床を踏んで歩く。その度にいろいろと降ってくるが、手に持った馬上鞭を振るって迎撃する。たまに本当に危ない鉄球(蛇鋼球くらいの大きさ)が飛んでくるときは本気でフクロウと一緒に回避していた。
「あ、あれって」
クロームがポツリとつぶやいた視線の先のモニターに映っていたのは、一階ホールの壁際の棚上に置かれていた500ミリのペットボトルサイズの、コルクで栓をしてあるガラス瓶。
中に入っているのはなんの変哲もない小さなビー玉。
昔犬が一時期綺麗なビー玉集めに凝った時のものである。
懐かしいことを思い出して、自然と微笑ましい表情になるクロームだった。
「くそ、邪魔だ!」
ガシャァン!
罠を避けた拍子に壁際にぶつかり、振り払った手が瓶にあたって床に落ちて砕けた。
「・・・・・・」
ピッ。
ためらわず机に並んだキーボードのスイッチを一つ押すと、グロのいた床がパッカリと開き、下へと落ちていった。
「く、ぬぅん」
が、咄嗟に穴の淵を手で掴んでなんとか這い上がってくるグロ。その上をくるくると飛んでいるフクロウ。ひとまず無事であったグロ・キシニアを見て、クロームは少し残念そうな表情をしたが、すぐに何かを意気込むように拳を握った。
「よし、頑張って追い返そう」
仲間の物を壊す者は、撃退あるのみ!
***
「おお、中々に部隊長殿は善戦してるな」
「あの魔の正面玄関を突破するとは、性格は腐っとるが伊達に6弔花やっておらんのぅ」
「魔の正面玄関って何?」
「中々に面白いじゃろ?」
「だな♪」
黒曜ランド周辺の森の中。背の高い木の上から覗いていたのは、光努と獄燈籠。
既にミルフィオーレの部隊服は処分して、普通の格好に戻っている。
潜入した部隊の隊長がたった一人で出かけたのでこっそりとつけてみれば、中々にラッキーな展開にであった。
グロ・キシニアVS黒曜ランド+α。
「さっきの落とし穴の罠は、モニタールームから手動で動かさないと作動しない仕掛けの一つ。いまあの黒曜ランドは誰かいるな」
「ほぅ、知っとるやつか?」
獄燈籠の質問に、光努は楽しげに笑って答えた。
「多分知ってるぜ。なんせ、あいつらの中であの仕掛け操れるのあいつくらいだしな」
モニタールームの操作方法を教えた少女を思い浮かべながら、再び観戦ムードに入った光努達であった。