特異点の白夜   作:DOS

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『よくわかる匣講座』

 

 

 

(ボックス)とは、10年後の未来の世界において、マフィア間において最も主流となっている最先端の兵器。この匣と呼ばれる兵器は、死ぬ気の炎を中に送り込むことで開くことが可能となっている。

 

用途は様々。小さな匣の中から大きな物体、もしくは大量の物を出すことが可能となっているため、動物を模したアニマル匣が多数、その他にも道具を携帯できるように作られた匣も多く存在する。

 

このアニマル匣によって出てくる動物達は、普通の動物とは違い、注入した死ぬ気の炎を動力として、通常の動物ではありえない破壊力をもつ戦闘能力を誇る。

光努が出会ったバッティスタの持っていた魚型のボックス兵器も、テッポウウオの水を飛ばす性質を、死ぬ気の炎をレーザー状に飛ばす性質として、虫を取るのとは別物の破壊力を生み出した匣兵器となった。

 

普通の刀剣や重火器もまだまだ使われているが、匣一つあるだけで戦力がガラリと変わることもざらにある。ミルフィオーレが10年後の世界において最大勢力となっているのは、この匣兵器の多量保持、そしてリングの所有が大きな原因。

 

このリングとは、ボンゴレリングやフィオーレリングなど、マフィア代々伝わるリングを指す。伝統あるリングの他にも、マフィアの間には実に多くのリングが存在する。

 

10年前まではボンゴレ内で秘匿された死ぬ気の炎だが、10年後の世界では実によく見かける。これは、マフィアが持つリングから死ぬ気の炎を出せるということが発見されたことに起因する。

 

人間の体には、目に見えない生命エネルギーが、波動となって体内を駆け巡っている。波動には7種類あり、リングにも7種類ある。

 

大空、嵐、雨、晴れ、雷、雲、霧。

 

自らの持つ波動と、つけたリングの属性が一致したとき、同じ属性の死ぬ気の炎を出すことができる。

 

大空の波動を持つ者が大空のリングをつけたとき、リングから大空の属性の死ぬ気の炎を生み出すことができる。同様に、自分に合ったリングをつければ大丈夫。

が、たとえリングをつけてもそう簡単に炎を出せるとは限らない。

 

炎を出すのに必要なのは、覚悟。

 

死ぬ気を炎に、自分の覚悟を炎に変えるイメージ。人によって多少異なるものの、その根幹は同じ、自分の覚悟を死ぬ気の炎にする。

そして生成した炎を匣に入れて使用する。

 

「10年後なのに随分と進歩してるんだな」

「じゃが、この匣にはいろいろと謎が多くてのう。普通に考えたらいま実用化されているのも中々におかしな話なんじゃよ」

「どうしてさ?」

「理論自体は4世紀も前からできていたんじゃ。じゃがこれまで多くの研究者が作り出そうと画策したが、ついぞできなかったそうじゃ」

 

匣の元となっているのは、4世紀前の生物学者である『ジェペット・ロレンツェニ』が残した343の設計書。ジェペットの考え出した匣は、当時では技術的に追いつかず、全てが机上の空論として誰からも見向きもされなかったが、現代の三人の科学者、イノチェンティ、ケーニッヒ、ヴェルデの三人がその設計書を徹底的に解析し、さらに自分たちの持つ技術を集め、マフィアに伝わるリングから発せられる死ぬ気の炎が動力として最適ということを発見し、わずか5年で試作型(プロトタイプ)を開発したという。

 

そして今では資金調達のため、多くのマフィアに作った匣を安価で売っているという。

 

「それでどこがおかしいんだよ。開発者が頑張って作ったってことだろ?」

「この開発段階が味噌なんじゃ」

「?」

「かつての偉人たちは、己の身の回りに起きた些細の出来事から、画期的な大発明をすることに成功した。そう言った偶然が、匣開発だけで何度も起きてるんじゃよ」

 

偶然という言葉で片付けてしまえばいいが、あまりにも偶然が頻発すると、何者かの意図が関係してくるのではないかと思ってしまう。

それほどにおかしな偶然が多様に起こっているのが匣の不思議の一つであった。

 

「確かに不思議だな。でもそんなの関係なしに使ってるんだよな、みんな」

「ま、それもそうなんじゃがな」

 

からからと笑う獄燈籠。手に持っていたマジックのキャップを閉じ、ホワイトボードをひとまず片付ける。ちなみにこれは光努に匣とリングの講義をするのに使っていたのである。

 

「そんなわけで、光努もしばらくこの時代にいるのなら、リングと匣を使えるよう

になったほうがいいじゃろう」

「このフィオーレリングでも炎って出るの?」

「それは代々イリスに伝わるリング。お主が選ばれたのなら問題ないはず。後は覚悟を炎に変えるだけじゃよ」

「ちなみに籠はどんな炎と匣持ってんの?」

「わしか?わしは、ほれ」

 

ボゥ!!

手に持った赤い宝石のついたリングから、真っ赤な炎が燃え上がった。

死ぬ気の炎は属性と色が別れ、大空の炎ならオレンジ。

 

嵐は赤、雨は青、晴れは黄色、雷は緑、雲は紫、霧は藍色。

 

獄燈籠の灯した死ぬ気の炎は赤いため、これは嵐の死ぬ気の炎であるということ。

 

「そのリングもどっかのマフィアのリングだったりするのか?」

「ま、リングというよりこの宝石部分がマフィアに伝わるものの一部を加工してリング状にしたもの。ま、リングにもいろいろあるからのぅ。このリングはC(ランク)ってとこじゃよ」

「リングにも(ランク)とかあるんだ」

 

同じリングでも、それぞれ大きく価値が変わってくる。

ボンゴレリングはマフィアのリングでも最高峰の精製度A(ランク)以上のリング。もしもランク付けるとしたらSS級(ダブルエス)といったところだろうか。

 

「ほれ、光努も炎を出してみぃ。はじめはそこからじゃ」

「フィオーレリングを付けるのは何気に初めてだな」

 

光努は右手の中指にフィオーレリングをはめる。

 

(覚悟・・・か)

 

ボゥ!!

光努が静かに目を閉じて、再び開いた瞬間、炎が吹き出した。

リングを中心に、溢れんばかりの炎が修行場を埋め尽くさんとばかりにん溢れ出ている。

 

獄燈籠も驚いた。

 

自分がそこまで動じないタイプだというのは知っている。

自分を驚かそうとするのにはそう簡単にはいかないと自覚しているが、それでも今回のはかなり驚いた。

 

光努がいきなり炎を出したことにも、溢れんばかりの炎を出したことにも、放出した炎の色が、()()()()()()()()()()()()()ことにも。

 

(この炎の色は、大空の7種類の炎ともどれも違う。光努、お主は一体・・)

 

白い炎の中佇む光努は、獄燈籠の方を向いて楽しそうに笑った。

 

「な、これでいいのか?」

「・・・・・カッカッカ!面白いのぅ光努。お主は10年前も謎が多かったと灯夜

に聞いたが、10年後のこの時代においてもお主は謎だらけじゃのう」

 

自分の懐から、ナイフと匣を取り出して、獄燈籠は笑いながら閉じていた目を開いた。

 

その瞬間、開いた眼光から、相手を射殺さんとする程の威圧感が放たれた。

リングから真っ赤な嵐の死ぬ気の炎が燃え上がり、ナイフの刀身にも赤い炎が燃え上がる。荒々しく、全てを喰いつくさんと燃え盛る嵐の炎。

 

「その白い炎、わしに見せてみろ。少々この時代の戦いを見せてやろう」

 

光努は全身で威圧感を受けながら、己の右手で拳を作る。激しく炎を燃え上がらせるその姿は、まるでリングから発せられる炎が、拳を通って腕を伝い、全身で白い炎を纏っているかのようだった。

 

「いいぜ、来いよ!もともとここは修行場、『アヤメ』の力見せてもらおうか」

 

大胆に不敵に。光努も獄燈籠もお互いににやりと笑い、激しく衝突した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ぐはぁ」

 

どさどさ。

突如物陰から現れた人物により、首筋に通る神経を的確に強打され、たまたま歩いていた人物は意識を失った。

 

その為道端には、全身真っ白な服装に、覆面をした人物が二人ほど倒れていた。

倒された二人共同じ格好なため、所属している組織が同じ人間、なおかつ肩についたショルダーアーマーの紋章から、おそらくミルフィオーレファミリーの人間だと容易に推測することができた。

 

二人を襲った人物も二人。

 

軽々と人間二人を一人が持ち上げて、近くの倉庫に連れ込み一旦扉を閉じて鍵を締める。

 

10分ほどしたとき、倉庫の扉が開いて出てきたのは、先ほど倒れた人物と同じ格好をした二人だった。

 

おそらく襲った人物に、服だけ奪われたといったところだろう。倉庫の中ではミルフィオーレに所属する二人の部下が眠らされている。

代わりに白装束を来た人間は、他にも同じ格好をした集団とまぎれ、ミルフィオーレのマークの入った飛行機乗り場に集まった。

 

「なあ、隊長と副隊長ってどうした?」

「ん?知らねえのか?隊長はファーストクラス。副隊長はビジネスクラスだよ。そ

んで、部下の俺らはエコノミーってわけさ」

「随分とわかりやすいな」

 

一応この飛行機もミルフィオーレの所有物なのだが、そこはしっかりと階級ごとに飛行機のシートも分かれているらしい。

 

ミルフィオーレには兵の戦闘能力やその他もろもろで階級がつけられている。

その中でもA級の階級を持つ者はわずか6人。その6人を6弔花としてマーレリング保持者としている。

 

一応C++級から上位を、とりあえずの即戦力と考えているらしい。

部隊数が全部で17部隊もあるミルフィオーレファミリーだが、そのうちA級が6人しかいないため、他の11部隊の隊長達は全てA級以下、B級やB++級の者達で構成されている。今回この飛行機を利用する一部隊の隊長は、A級。雨のマーレリングを持つ男。

 

第8グリチネ隊隊長、グロ・キシニア。

 

白蘭に「下種なのに強い」と言わせるほどに下種な性格をしているらしい。

白蘭が、日本の6弔花がひとり倒されたため、戦力増強に向かわせるために呼んだそうだ。

 

部下たちは隊長とはシートのクラスが違ってエコノミーなため、同じ飛行機内でも個室である隊長と副隊長と違って別の部屋に入ってシートに座る。

 

「いやー。楽しみだな、籠」

「あまりはしゃぐとばれるぞ、光努」

 

周りに聞こえない程度に呟く程の会話をする二人に周りの者たちは気づくことなく、飛行機は離陸し、日本へと進路を向けていくのであった。

 

 

 

 

 




光努、日本へ立つ。

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