「いたぞ!こっちだ、手を貸してくれ!」
一人の声に、他の仲間が集まる。
全身真っ白い装束に身を包んだ人物たち。
ミルフィオーレファミリー第13バルサミーナ隊の部下達である。
最初に来た10人は、一応の偵察に来た者達。その中には、敵が出たときに対処できるように隊長も一緒にきたが、それでも彼らは倒されてしまった。
地面に倒れふしている自分たちの隊長と部下達を担ぎ上げ、ひとまず連れ帰る。
つまり撤退。一応の探索をしたが、出てくる物は破壊されたイリスファミリーの跡地だけ。もはや敵はここを去ったと考えるのが妥当だろう。
さて、それでは光努たちは一体どこへ行ったのか?
その答えは、割とすぐ近くにあった。
イリスファミリーの敷地内、元母屋となっていた破壊された建物。その一階ホールの階段横。そこに付けられていたのは、目立たないような隠し扉。そこから伸びている地下への階段を下りている影が二つあった。
コツンコツンという音を響かせながら、先頭を歩いている男。
白髪と白い顎鬚。頭を覆うバンダナをつけ、口には火のついたタバコを咥えている。顔に刻まれたシワ、鋭い眼光。年齢的には60歳を超えてそうな初老の男性だった。年齢とは裏腹にその身体能力や実力は相当高いが。
先頭で立ち、手には旧式のランプを持ちながら歩いていた。
後ろで歩いていたのは少年。
柔らかそうな白い髪に、楽しそうな笑み。周りを見ながら楽しそうしているのを、男の後ろからついてくるように歩いている。
「へぇ、イリスの地下にこんなところがあったんだ」
「元々地下倉庫のような場所だったんじゃが、緊急時に使えるように数年前にわし
が改造して作ったんじゃよ」
光努がイリスファミリーに来てから結構な時間が過ぎたが、全体的に見ればイリスの本拠で過ごした時間よりも日本で過ごした期間の方が長いかもしれない。正確にはわからないが、それでもイリスの敷地内や母屋を全て探索するには短い期間だったのだろう。
地下に降り立ち扉を開けると、そこに広がっていたのはホテルのスイートルームのような部屋だった。ソファに机にTV、小型のキッチンなどもついて部屋で過ごす分には快適に過ごせそうな場所。
壁際を見てみる、いくつか扉があるから他にも部屋があるのだろう。
「そういや名前を聞いてなかったな」
ふと思い出したように光努が男に言う。光努の名前は名乗ったし、元々相手も知っていたから問題ないが、敵から身を隠すつもりだったため、話をあとにしたために男の名前を聞きそびれてしまった。
「わしは
そう言いつつ、獄燈籠は部屋にあった扉を一つ開くと、そこにも別の部屋。
シンプルな机に壁に設置されたモニター。部屋の周りをぐるりと囲うような棚には多くの機械が載っていた。
「ここは?」
「通信室ってところかのぅ。こっちから連絡をとる」
「連絡か。誰にするんだ?」
「まあ見ておれ」
カチカチと機械をいじると、モニターの電源が入り、いくつかの回線が開いてどこかと通信を始める。
モニターが映り、どこかの光景が映し出された。中々に快適そうな室内。どこのホテルのスイートルームだこれ?というような室内。というかさっき最初に入った部屋と同じ構造してるのか。
『籠じゃん。そっちから連絡してくるなんて珍しいが、どうしたんだ?』
部屋に備え付けのスピーカーから声が聞こえてくると同時に、モニターに映ったのは、一人の男。
長い金髪を後ろで一つにくくり、背中に垂らしている20代後半程の大人の男性の姿。白衣を来てメガネをかけたその男は、モニター備え付けのレンズからこちらの様子を見て少し驚いたような表情をした。
『・・・・おまえ、光努か?』
こちらもモニターに映った男の顔に少し驚いたが、楽しそうに笑って、たった少し前まで顔を合わせていたはずの男に向かって口を開いた。
「こっちからしたら、さっきぶりだな、ルイ」
モニターに映っていたのは、最近顔を合わせたけど全くの別人。
10年後のルイだった。
***
ミルフィオーレファミリー本部の一室にある広大な会議室。
中央に設置された巨大な会議用の机の周りを取り囲むように、壁際に飾られた鮮やかな大量の花の中、机を囲うようにして置かれている椅子の数は、18個。
片側のエンドに座る男は、白髪に左目の下の三つ爪のマーク。愉快層に笑っている表情のまだ若い男の名は、白蘭。このミルフィオーレファミリーを統べる、若きボス。
椅子を埋めるように座る複数の人物たち。誰も座らない椅子もあったが、遠くにいるためこの場に来れない者のために用意された、円柱状の機械が椅子の前の机に置かれている。その機械の中から、ホログラムによって遠くにいる人物の姿が映し出されて会議に参加できるようになっている。
そして、欠席者を含め、計16人が会議に参加していた。
この時代において、最も強大な勢力を誇るミルフィオーレファミリー。
その中は、全部で17の部隊に分かれている。そして、滅多なことでは開かれない、全部隊長会議の参加者15名(内2名負傷の為欠席)と、ボスである白蘭を含めた16人。これが、今回の会議の参加者。
議題は、『タイムトラベル』について。
この部隊長会議に持ち込まれた情報にあったのは、『過去のボンゴレファミリーがこの時代にタイムトラベルした』ということ。
だが、その内容を見ても、納得できる人物など、この中には多くなかった。
いきなり突拍子もないようなおとぎ話をはなされたような感覚。一部鋭いものや、タイムトラベルに関わる者達を除き、ほとんどの部隊長は信じられない思い出いっぱいだった。
「正ちゃんが頑張ってくれたからできたんだけどね。そりゃもう、10年バズーカを莫大な時間をかけて研究してさ」
楽しそうな白蘭の言葉に、正ちゃんと呼ばれ、ホログラムとして参加していたメガネをかけた青年は特にコメントをすることなく無言だった。
むしろそのことよりも、後に言った単語の方にみんな反応した。
「10年バズーカですと!しかしあれは言い伝えレベルの架空の兵器のはず!」
確かに。当たれば10年後に行ける、などと言われても信じる者の方がごくわずか。実際に見てみないことには、常識が頭に固まった大人たちでは考えにくいのが現状。
「それを言うならボンゴレの死ぬ気弾だって言い伝えだと思われてたし、
「むぅ・・・・」
白蘭の言うとおり。そう言ってしまえば確かに、存在しないと思われていたものが実際はしっかりと存在していた。
ボンゴレと関わりのあるツナ達や骸一味、光努達から見れば死ぬ気弾もさほど珍しくないが、他の接点のないマフィアから見れば、やはり言い伝え。また聞きした程度の噂程度。実際には存在しないと思っていても特に不思議ではない。
他の部隊長から、なぜ白蘭は過去のボンゴレファミリーが来るという重要案件を一部の人間としか情報を共有していなかったのか、と問うたが、その答えは明確単純。
「そんなのこの様子を見ればわかるだろ?タイムトラベルの話をしたところで、君達信じないから」
あっけらかんと楽しそうに笑いながら言う白蘭に、質問した部隊長も押し黙るしかない。
けどもう一つ疑問が浮上してきた。
ミルフィオーレは、すでに大々的にボンゴレ狩りと称して、ボンゴレファミリーをほぼ壊滅に追い込んでいる。
にもかかわらず、なぜわざわざボンゴレファミリーを過去から呼ぶ必要があったのか?
だが、その疑問に答えたのは一人の部隊長だった。ホログラム装置から除く細い目つき。おかっぱ頭にメガネという、どこかで見たことあるヘアースタイルをした男は、愉快そうに軽く歌っていた。
「リング、リング、ボンゴレリーング♪」
「な!ボス、まさか!」
「うん。やっとわかってくれたみたいだね」
狙いは、ボンゴレリング。この時代のボンゴレリングは、ツナ達自身の手によってすでに砕かれていた。戦いを好まず、血で血を争うのを嫌った現代のボンゴレ10代目であるツナが、真意は分からないが、おそらく争いの種になるくらいならと、自らの決断で砕いて永久的に消滅させたのである。
その為、白蘭がとった策というのが、ボンゴレリングを持っている時代のボンゴレファミリーを、ボンゴレリングごとこちらに呼ぼうということ。
白蘭が机のスイッチを押すと、天井から下がって降りてきたのは、石版。
装飾の周りに彫られた石版には、円を描くように付けられた、リングをはめるようなくぼみ。2種類のタイプのリングのくぼみががそれぞれ7つ。そしておしゃぶりの形のくぼみがさらに7つ。計21のくぼみには、すでに5つのおしゃぶりがはめ込まれていた。
「それに、バルミサーナ隊の報告で、いいことを聞いたよ」
「そういえば、バッティスタ殿は負傷して欠席ですが、それと関係が?」
本来なら部隊長会議には、第13バルサミーナ隊の隊長であるバッティスタも出席の予定だったのだが、今回は獄燈籠によって負わされた負傷により欠席となった。
ちなみにもうひとりの欠席は、第3アフェランドラ隊の隊長、電光の
「うん。出先で『アヤメ』と当たっちゃったらしくてさ。でもそれと引き変えに送られてきたのは、とびきりの情報だよ」
『アヤメ』の言葉が出た瞬間、他の部隊長達も目を見開いたが、白蘭が全員の手元の端末に映した写真を見て、驚きからすぐに疑問符を浮かべた。
端末に写っていたのは少年。柔らかそうな白い髪に、楽しそうな顔をした、およそ中学生くらいに見える少年だった。
「ボス、この少年はいったい?」
「ああ、この子の資料はかなり少なかったからね。多分見たことはないだろーけど、聞いたことはあるんじゃない?10年前に現れた、イリスファミリー2代目ボス」
「!この少年が、イリスのボスだと!?だがたしかイリスのボスは、10年前に行方不明になったと聞きましたが」
「そうなんだけど、なんでかここにいるんだよね。おそらく、フィオーレリングを持って」
「我々のマーレリングや、ボンゴレリングと同等の威力を持つと言われている、あのフィオーレリングをですか!?」
「そ、そしてこれも目的。僕が欲しいのは究極権力の鍵、
再び机のスイッチを押して天井から降りてきたのは、先ほどの7つのマーレリングと7つのボンゴレリング、そして7つのおしゃぶりをはめ込む石版よりも、ふたまわり程サイズの小さな石版。
もう一つの石版同様にその石版にはおしゃぶりとリング、それぞれ一つずつ窪みがつけられていた。