特異点の白夜   作:DOS

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光努が10年後に行ったのは、ツナが10年後に行った時より時系列的には少し後。


『古きを侮るべからず』

 

 

 

対峙した光努と突如現れた男。

男の仕業によって、ミルフィオーレファミリー第13バルサミーナ隊は燃え盛る赤い炎に包まれ、取り残された光努と、その手にナイフを持つ高齢の男がお互いに距離を取る。

 

チリチリと突き刺すような殺気ををぶつけられているが、光努は特に気にした様子もなく男を観察している。

 

くるくるとナイフを弄びながら、男も光努をじっと見ていたが、不意に目線をそらし、燃え上がっている火柱に目を向けた。光努も見てみると、火柱の中から何かが飛び出し、光努と男を襲いかかった。

 

「これは?」

 

飛んできのは、一筋の青い炎。水のようなその蒼海な色の炎は、レーザーのごとく真っ直ぐに飛んできて、光努と男のいた場所の地面へとぶつかった。すぐに回避した二人だったが、ぶつかった地面を見てみると、綺麗に炎の形に丸い穴が空いている。

 

赤い炎を突き破り、空中へと躍り出た者に、二人は視線を向けた。

 

バッティスタ。この部隊の隊長である男。

 

火が消化され、部下たちは全員地面に倒れふしている。隊長である彼も決して軽傷とは言えなかったが、それでもまだまだ戦えるような様はさすが隊長を任されているだけあるとも言える。

 

光努が目を見張ったのは、あの炎の中を無事に出てきたバッティスタに大してではない。彼のその周りを、空中を泳ぐ魚たちだった。

 

全長はおよそ40センチ程、タイと似たような平たい体型に、下顎が上顎よりも前に出て上方に突き出すように尖った口。おそらく、テッポウウオと呼ばれる魚。

よく知られているのは、口に含んだ水を発射して、葉に止まった昆虫を撃ち落とし餌とする行動が有名な魚である。

 

その魚の数がおよそ10匹。そしてバッティスタを上空にとどまらせているFシューズから噴出されている青い炎と同じ炎を、全ての魚がその全身に纏っていた。

空中に佇むバッティスタの周りをゆらゆらと泳ぐ青い炎を纏う魚たち。

なかなかにその光景は優雅に見えた。

 

「私の雨射手魚(アルチェーレ・ディ・ピオッジャ)は、その口から雨の炎を超高速のレーザーのように放出し、敵を仕留める。なぜ貴様がここにいるかわからないが、見つけた以上仕留めさせてもらおうか!やれ!」

 

その掛け声と同時に、周りを泳いでいた魚達が、3匹ずつ光努と男の方に向けられて、その口から青い炎を吹き出した。

 

「なあ、あんた」

「ん?なんじゃ」

「雨の炎とか言ってたけど、それって死ぬ気の炎と同じもの?」

「そんなこともしらんかったのか。正しいリングをつければ、その者の属性の炎が出る。結構常識的な話じゃが。お主一般人か?」

「うーん、ここらへんの常識には詳しくないんだよ」

 

ビシュ!

お互いに会話をしているが、炎の高速レーザーはそのあいだにも降っている。

自分の身を守るように4匹バッティスタはその身の周りに配置して、残りの6匹を2分割して光努と男の二人に差し向けている。たった三匹とはいえ、その威力やスピードはなかなかに速い。にもかかわらず、まるで遊んでいるかのように二人は避け続け、なかつ互いに会話すらしていた。その光景に、バッティスタは戦慄していた。

 

(あの子供はわからないが、あいつはまずい!早めに片付けない!)

 

「しょうがないのぅ。お主はまあ敵でもなさそうじゃし、今回はわしがなんとかしてやろう」

「まじか、サンキュ。まだ情報不足だから助かるよ」

「カッカッカ。まあそこで見ておれ」

 

男が懐から取り出したのは、指輪。赤い宝石のついて装飾の施された指輪を、右手につけ、そのままその手でナイフの柄を握る。そしてリングの宝石が光ったと思ったら、赤い炎がナイフを刃を覆って燃え上がった。

 

「嵐の炎か!」

「じゃ、小手調べじゃな」

 

懐から取り出したのは、黒い弾。というかどこからどう見ても、

 

「手榴弾!」

 

ピンを口で引き抜き、上空へと放り投げる。

だがバッティスタは、自分のところに来る前に、自分の周りの魚に命じて空中の手榴弾を打ち抜いた。だが光努は見ていた。手榴弾が打ち抜かれる寸前、男の口角が笑っているのは。まるで、いたずら成功した子供のように。

 

ボフン!

 

(!煙幕か)

 

打ち抜いてから気づいたバッティスタだが、すでに遅く、あたりは煙に包まれた。

真っ白な煙幕によって、この場にいるものの視界が白一色に染まる。咄嗟にバッティスタは自分の魚を自らの周りに近づけ、対処できるように陣形をとったが、遅かった。

 

気づいた時には、自分の横には地面から飛び上がっていた男がいた。

 

ドゴォ!

 

男が放った蹴りが、的確に魚と槍を抜けて、バッティスタのボディへと入り込む。

近接戦闘を想定した防弾仕様の上着を来ていたおかげか、ダメージを多少分散させることには成功したが、そのまま森の方へと飛ばされる。

 

煙幕の中、魚を踏みつけるようにしてバッティスタの方へと向かった。

飛ばさたバッティスタだが、すぐに足元の炎を噴射して態勢を立て直す。空中から森の中へと飛ばされたがとくに問題のない。少し遅れて自分の魚がこちらに戻ってきた。

 

「煙幕とはな。旧時代の兵器を使うとは」

「あまり昔の道具を馬鹿にするもんじゃないぞ、若造」

「ふん!」

 

手に持った炎を纏った槍を声のした方に振るう。

甲高い音とともに、木の上に立っていた男のコンバットナイフによって防がれた。

その瞬間、魚の口から圧縮された雨の炎が男に向かって打ち出された。

だが男は、ぶつかる寸前に離脱し、木の上を巧みに動きながらバッティスタの周りの木の上を走る。

 

(速いな。だが)

 

バッティスタは冷静に目で相手を追うのをやめ、10匹の雨射手魚(アルチェーレ・ディ・ピオッジャ)を、体の周りを取り囲むように、全匹周りを向くように円状に配置した。

 

雨の円盤(ディスコ・ディ・ピオッジャ)!!

 

雨のレーザーを吐きだしながら魚が円状に高速回転したその姿は、全てを切り倒す丸ノコのようでもあった。周りにあるバッティスタと同じ高さにあった木は、全て回転した雨の炎によって切断された。

 

切り裂かれる木の中で、バッティスタは妙な物を見た。

 

切断された木と一緒に、切断された四角い箱のようなもの。だがそれが何かわかった瞬間、視界が光に包まれた。

 

ドゴオォ!!

 

「爆発か。罠を仕掛けていたは、あの爺さんやるな」

 

森の外から中を見ていた光努。

光努の驚異的な動体視力が捉えたのは、木の上を走る男が動く間に、バッティスタからは見えない角度に箱を、おそらく爆発物質を木に設置するところだった。

それを知らずに周りの木ごとに切断した為、バッティスタは爆発をモロに浴びたはず。

 

「しかし、この敵の隙をついて追い詰めるような戦い方・・・。どこかで見たことあるような」

 

再び爆発音。いくつか爆発物質を仕掛けていたらしく、森の中から死ぬ気の炎ではなくリアルな炎が燃え上がった。

 

木の焦げる匂い、黒い煙。目を凝らしてみれば、まだかすかに青い炎が見える。だがそれでもバッティスタの雨射手魚(アルチェーレ・ディ・ピオッジャ)の数が3匹しかいない。残りは地面に倒れている。

 

「しかし、死ぬ気の炎を纏った生物が爆発くらいで7匹も一気にやられるか?いや、違うな」

 

見ると、2匹くらいは至近距離爆発でやられたらしい焦げ跡が見えるが、残りの5匹

は切り傷と、対象を燃えつくそうとしている赤い炎が魚に纏われていた。いや、纏われてるというより普通に燃やされてるな。

 

あの切り傷を見る限り、さっきの赤い炎を纏ったナイフで切りつけられたらしい。爆発の中で空中を泳ぐ魚を切るとはな。

 

ボフン!

 

煙の中から飛び出して来たのは、すでに満身創痍なバッティスタ。

荒い息と爆発後の傷が目立つ。あと一階爆発を受ければ普通にやられそうなほどに。

 

「ん?あいつまだ動けるみたいだけどいいのか?」

 

いつの間にか横に戻ってきていた男に光努は言う。

ナイフはしまい、左手には何か黒い箱みたいな物を持っている。

反対の右手でタバコを口にくわえ、リングから出した炎で火をつける。中々に斬新な炎の使い方だなと光努は思った。

 

「もう仕掛けは済んでるからのぅ。後はこいつで」

 

そう言って掲げたのは左手の黒い箱。だがよくよくと見れば、一つだけスイッチのようなものがついていた。そしてバッティスタは気づかない。自分の体にいつの間にか取り付けられていた小型の箱に。

 

「終わり」

 

カチリ。

スイッチを押したとき、上空のバッティスタから爆発音がした。空中のやつは爆発に包まれ、そのまま墜落して森の木の上に落ちた。

あの状態ならとりあえず死んではいなさそうだけど。

 

「随分えげつないことするんだな」

「面倒なのはゴメンでな。ひとまずさっさと終わらせもてらった。それより、お主も来るか?ここにいたら少し面倒じゃよ」

「面倒?」

「一部隊が来たにしては10人は少なすぎる。おそらくもうそろそろ増援が来る頃じゃろう」

「じゃ、面倒だけど潰せばいいんじゃないの?」

「お主は結構過激じゃな。あんなのほっとくに限るんじゃよ。ほれ」

 

ひょいと投げて横したのは、鎖。10センチ程の小さな鎖を光努は受け止め、しかし何かがわからないが頭に疑問符を浮かべる。

 

「わしも巨大なリング反応を見てこっちに来たんじゃ。多分お主がリングを持ってる人物じゃろうし、それを巻きつけておけ。レーダーに映らないから敵に見つからなくなるぞ」

「なるほど。むき出しだとここだとすぐに見つかるのか。じゃ早速」

 

首から鎖で下げていたフィオーレリングを取り出し、手早く鎖を巻き付きた。

 

「!そのリング、フィオーレリングか?」

「そうだけど、知ってるのか?」

「ふむ、なるほど。お主、もしかして白神光努という名前か?」

 

男の言う言葉に、光努も目を細める。

リングだけでなく、名前も知っているとは。だがイリスファミリーのボスということは考えればそこまで不思議ではないのかもしれない。

 

「確かに、俺は光努。だけどそんなこと知ってるあんたは一体」

「話はあとじゃ。敵がぞろぞろ来たみたいじゃし、気づかれる前にひとまず隠れるぞ」

 

そう言って男と光努の二人は、母屋の跡地へと向かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

どこかのホテルのような一室。

 

巨大なビルの高い位置に備え付けられたその広い部屋からは、ガラス張りの窓を覗いて外の景色がよく見える。

部屋の扉が自動で開き、外の廊下から部下と思われる男が一人歩いてきた。

 

「白蘭様!ホワイトスペル第13バルサミーナ隊より情報が入りました」

 

高級そうなソファや机やモニターなど、快適に過ごせそうな家具が置いてある中、窓際で立って外の景色を眺めている人物が一人。

 

ところどころはねているような白髪に、左目の下ついている三つ爪のマーク。肩に何かの花を模したような紋章の付きの肩当ての付いた真っ白な上着。楽しそうに笑っているその顔はまだ若い青年だった。

 

手に持った袋から、白いマシュマロを取り出し、口の中に頬る。

甘さの広がる柔らかい感触を楽しみながら飲み込むと、部屋に来た部下の方へと向き直った。

 

「やあレオ君、ご苦労。早速だけど、その情報っての見せてくれないかい」

「はっ」

 

笑みを絶やさない、白蘭と呼ばれた青年が言うと、部下の男は手にもった端末を操作する。すると部屋に備え付けられていたモニターからはイリス跡地の映像が映し出された。

 

壊れているイリスの母屋や技術舎。そして倒れている部下。さらに、そこに映し出されていた、男。白髪をバンダナで留め、手に持ったナイフ、口にくわえた火の付いたタバコ。顔に刻まれシワから、およそ60歳くらいに見えるほどに高齢な男がそこには写っていた。

 

「へぇ」

 

その姿を見た瞬間、白蘭の目が少し細く鋭くなり、その口角がわずかにつり上がった。楽しそうに、面白い物を見つけたかのように。

 

「彼がいたんじゃ、バルサミーナ隊じゃかなわないだろうね」

「?白蘭様。この老兵は一体・・・」

「ああ、レオ君は新入りだから多分知らないだろーね」

 

部下の無知さも当然と言わんばかりに軽く話し、手に持った袋に手を入れてがさりと音を鳴らしながら新しいマシュマロを手に取る。。

マシュマロを手で弄びながら、白蘭はさらに楽しそうに笑って言葉を出した。

 

「たった3人だけしかいない、イリスファミリー第一戦闘部隊『アヤメ』の一人、獄燈籠(ごくとうろう)

 

 

 

 

 




匣兵器名はそれっぽいのを考えたけど、間違ってたら教えてください。
今後もオリジナル匣が出てくると思います。後技名とかも。

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