イリスファミリーの屋敷。
広大な敷地内には、一番大きな建物の母屋。周りには倉庫や技術者、他にも数多くの施設や森や川などが存在する中々に広々として快適な場所。
敷地内で森林浴やピクニックができるくらいにすごい場所である。
母屋と技術者などの人が働くところには、備え付けで寝泊り可能な部屋も用意されているため、そこで働く者は同時に住むことも可能となっている。
他にはヘリポートや球技場、公園や図書館と言った施設の多くも存在する。
一般のマフィアと違い、企業でもあるイリスファミリーは、様々なことに幅広く手を広げいているため、それに対応するべく多くの施設を取り扱っているのである。
一応マフィアの本部とも呼べるし、世界中にある傘下の企業の上に立つ本社とも呼べる場所。
そこが、イリスファミリーの屋敷。
母屋となっている屋敷の中は、主に仕事をしていた灯夜や、一緒にいたリルやコル達がしばらくの日本旅行をしているため、他の建物に比べて少しがらんとしている。それでもしっかりと掃除が施され、いつでも使用可能状態を維持しているのは中々に、イリスお抱えの使用人達は優秀である。
そしてそのがらんどうになった母屋に歩いてくる人影が見えた。
「よっし!着いたぞー、ルイ」
「おう、ご苦労」
リヤカーに乗ったルイを引きながら母屋まで来たのは光努。
敷地内に入るときにいる守衛さんが、リヤカーの光景に若干苦い顔を・・・・・特にしないでいつもどおりだねと笑っていたは大抵ルイはこんな感じと認知されているからである。逆に普通に歩いて来たら驚かれる。
ちなみに、イリス敷地内には、その施設を管理する人など存在する。敷地内から入るときは基本的に門の横についている守衛室にいる守衛さんに声をかけるのが常識。まあ最初の光努の場合は問答無用で上から降ってきたのだが。
「それで、どこ行けばいいんだ?」
リヤカーから降りたルイと一緒に母屋に入って歩く。
一階ホールに入ったが、誇りっぽさなど微塵も感じさせない手入れが行き届いている。
「ひとまずオレの私室に行くか」
昔光努の発案で
2階に上がってルイの私室に入り、そこからさらに中にある壁際の扉を開く。
「けどタイムマシンなんてどうやって作るんだ?」
「安心しろ、そこはツテがある」
ルイの私室は廊下から入った部屋の中には机とベッド、クローゼットにソファ。広々として中々に快適な空間が広がっている。そして入った扉と別の扉が壁際に設置されており、その奥には大量の機械とパーツ、モニター等、後はいろいろな物が
置いてあるまさに技術主任という感じの部屋である。
その第二部屋の中でガサガサと何かを探しているルイ。光努はその間、第一部屋のソファに座り、ケーキを食べながら紅茶を飲むという優雅なティータイムを過ごしている。
(それにしてもルイよく動くな。趣味(?)の範囲だと普通以上に動くから不思議だよなぁ)
普段はすぐに疲れてぐったりとしているルイだが、こと自分の分野になるとありえないほど動く。徹夜もするし走るし重いものだって持てる。18歳という年齢なら割と普通だがルイ的にはかなり珍しい光景である。
「お、光努!あったぞ」
「(むしゃむしゃむしゃ)クリームうま」
「ケーキは置いといて、ほら」
コトリ。
ルイがおいたのは、銀色の鉄の箱。少し大きめの長方形の箱の形。鍵が掛かって丈夫な箱に入ってる為、割と厳重に管理されていたらしい。その割には探すのに時間がかかったような気がしたが、そこは光努はあえて突っ込まないでいておいた。
というか全部が鉄のため結構重量がある気がするが、よくルイ持ってきたなとも思ったが、こちらも突っ込まないでおいた。
「それで鍵は?」
「これ」
そう言って懐から出した鍵の束を取り出して、そのうちの一つを一発で取り出した。全部似たような形の鍵なのによく簡単に見つけるなー、と光努は思ったが、自分もできるからそうでもないかと思う。
「それで、こん中って結局何が入ってるの?こんな頑丈な箱に入れてるなんてさ」
「どれ、開けてみるか」
カチリ。
鍵を外して中を開くと、中に入っていたのはミサイル。正確にミサイルのような形の弾丸らしきもの。だが大きさ的にはバズーカのような物の弾かもしれない。つまりは小型ミサイルということ。
箱の中で丁寧に布にくるまれていたソレは、光努から見てもなんの変哲もない弾にしか見えなかった。
「核爆弾?」
「そんな物騒な物のわけないだろ」
「といってももはや爆発物危険物にしか見えないんだから」
「まあ爆発物だし危険物だからな」
「それは言ってよかったのか?」
本当に爆発物だった。
「これは10年バズーカの弾だよ」
「10年バズーカの?」
10年バズーカ。そのバズーカで撃たれたもの、正確にはバズーカの弾に当たったものを10年後の世界に飛ばす謎のアイテム。代わりに10年後の人物をこちらに連れて来るという。つまり、当たった人物は10年後の自分と入れ替わる。
効力は5分間だが、それでも想像上のような夢アイテム。
どういう原理でどういうふうに召喚するのか一切不明の、やはり謎アイテム。
かなり小さなマフィア、ボヴィーノファミリーに代々存在するというアイテムで、ボンゴレの死ぬ気の炎のように、基本的に門外不出の品である。
が、このアイテムはツナ達は頻繁に見かける。
ボヴィーノファミリーの少年ヒットマンであるランボ(5歳)は事あるごとに、10年バズーカを使ってはいけないというボスのいいつけを忘れて乱射しまくり、10年後の自分を召喚したり10年後のイーピンを召喚したり、一般人にはなぜか公にならないでいるがマフィア関係者には丸分かりに公である。
「でもなんで持ってんだ?」
「うん。ちょっとボヴィーノにツテがあってね、一つだけこっそりともらってきた」
「こっそりと?」
「ああ、こっそりと」
「・・・・・いいのかそれ?」
「まあ門外不出とか言っても結構一般人の目に止まってるからいいんじゃないのか?」
「いいのかそれって」
まあよそはよそってことでここではあえて多くは語らないが。
「それでこれ調べてタイムマシンを作ろうと」
「そういうこと。というわけで俺は技術舎から少し機材運んでくるから少し待ってろ」
「一人で大丈夫か?」
ルイ一人だと母屋から技術舎まで到達できないのに。
という言葉を光努は出す前に飲み込んだ。
「技術舎の連中に手伝ってもらうから平気だ。あと迎えに来てもらうし」
「・・・・・・」
「ま、光努はボスらしくそこで待ってろ」
「へーい」
そう言って部屋から出るルイを見送って、自分はいつの間にか冷めた紅茶を少し見つめたあとに一気に飲み干した。ケーキはすでに空っぽ。
新しい紅茶をカップに入れて少し飲み、再び机の上に置く。
机の上にある鉄の箱に入った十年弾(光努命名)を手にとって眺めてみる。
「特に変わったことはないよなぁ」
この小さな弾に当たると10年後の自分と交換するというのも中々に考えにくい。もしも10年後の自分がいなかったとしたら交換はできないが自分が10年後に行くだけになりそうだな。
指の先に乗せてくるくると弄びながら、10年バズーカの考察をする光努。
タイムトラベル、と言ってしまえばいいが、理論的に10年後の行くというのは現代の技術ではどう考えても不可能。
だが、世の中には偶然の産物と呼ばれるものも多く存在する。
実験をしていたらたまたま出来てしまった。ありえない組み合わせをしたらとんでもないものができた。そう言った偶然が重なり合い、億兆分の1の確率で出来たのかもしれない。
「とまぁ、いろいろと考えても、今の理論で組み立てるのは難しいよな」
あくまでいまの、だが。
「ま、そういうことでも、何年かしたらあっさりと理論的に説明できる時が来るのかもしれないな」
ポンポンと弾を弄び、楽しそうに笑う。
まだ見ぬことに、知らないことに、わからないことに。
だが知っていけばいい。考えればいい。
まだまだ時間はあるのだから。
「おっと」
少し思考が逸れたためか、つい手に持った弾を床に落としてしまった。
そう、この光努にしては珍しいわずかな失敗。
それがこのあとの戦いへの扉を開ける鍵だとは、さすがの光努も知る由もなかった。
***
「光努、待たせたな・・・・って、光努?」
ガラガラと台車に乗せた機械を部屋に運んできたルイは、部屋の中に入っておかしなことに気づいた。
光努がいない。いるはずなのに、いない。
ケーキの皿は空っぽ。だが、カップに入った紅茶はまだ湯気が立っているため、入れてからそう時間が立っていない。ケーキを取りに行ったのかと思ったが、ケーキならこの部屋備えの冷蔵庫の中に入ってるから、わざわざ出るとは考えにくい。
「一体、どこいったんだ」
ぷつりと消えた光努を探しに、台車は部屋に置いておいて部屋を出た。
少し予想外のことが起こったため、ルイは気づくことができなかった。
机の下に落ちている鉄の箱を。そして光努と一緒に、その中に本来入っているべきはずのものが、影も形もなくなっていたことを。
未来編、来る!