特異点の白夜   作:DOS

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『驚愕、零地点突破』

 

 

 

 

ガッ!

何度かになるぶつかり合い。

ツナの振るう腕と、XANXUSの防御の腕が空中でぶつかるが、弾かれたのはXANXUSの腕。最初よりも、明らかにツナの攻撃力、スピードが共に上昇している。

だんだんと、XANXUSがついていけないスピードになっていく。

 

「なるほど。それで〝改〟なんだな」

「?」

「ツナの奴、XANXUSの炎を吸収するだけでなく、自分の力に変えてるんだ」

 

最初にツナが覚えた死ぬ気の零地点突破は、相手の技を吸収するだけの技。

 

自分の死ぬ気を一度零を通過し、マイナス状態にすることで、XANXUSの撃ってきた炎を自分のものにし、炎を中和する技のはずだった。

だがその技は、XANXUSの炎を吸収しきれずにツナは見た目に疲労が残っていた。

 

しかし、それも少し前までの話。

死ぬ気の零地点を超えるという、ある種の境地へとたどり着いたツナは、新たな自分の零地点突破を編み出した。

 

それこそ、〝死ぬ気の零地点突破・改〟。

 

相手の炎を吸収して中和するだけでなく、その炎を自分の力へと変える技。

XANXUSの銃の弾丸は、全て死ぬ気の炎の弾丸。その為、XANXUSが銃撃を放てば放つほどにツナはその炎を吸収し、力へと変える。

 

お互いに傷だらけだが、それでもXANXUSの方が疲労感が多い。力を回復させることのできるツナと比べ、自分のエネルギーの炎を弾として撃ちだす為、XANXUSの方が圧倒的に不利。XANXUSにはヴァリアーとして多くの経験もあるが、もはやその差などないようなものだった。

 

骸との戦いを経て、リボーンの特訓を経て、ツナは確実に成長している。

 

「ぐはぁ!」

 

炎を纏うツナの拳がXANXUSにクリーンヒットして吹き飛んだ。

地面から起き上がり、膝を立てたが、少なくない出血もしている。

荒く息を吐きながら、その鋭い眼光は眼前で平然と炎を纏って立ち尽くすツナを睨んでいる。

 

「くそが、俺があんなまがい物の零地点突破に・・・くそっ!この、ド畜生が!!」

「!」

 

XANXUSの怒りの咆哮。

それと同時に、XANXUSの顔や全身に浮かび上がったのは、古傷。

額や頬に傷をもつXANXUSだったが、今は顔中覆うように傷が浮かび、服で隠れているが、おそらく全身にも同じような古傷が浮かび上がっているはず。

 

そしてそれと同時に、尋常でない死ぬ気の炎が、立ち上がったXANXUSの体から吹き出した。ここにきて、さらにその炎を増幅させて。怒りがXANXUSの力を吐き出す。

 

誰も寄せ付けない圧倒的な力を。

 

全てを破壊する圧倒的な炎を。

 

目の前に立ちはだかるものを全てねじ伏せるように。

 

「おおおおお!!」

 

お互いに推進力となる炎を吹き出し、先に攻撃を当てたのはツナだった。

向かってくるXANXUSの力も利用した炎を纏う左拳が、XANXUSの右頬に突き刺さる。

だがそれでも、関係ないとばかりに向かってくるXANXUSに向かい、反対の右拳をXANXUSの体に叩き込んだ。

 

XANXUSの炎を吸収したことによりパワーが上がったため、その威力にXANXUSは思わず吐血するが、その眼光はさらに鋭く、ツナを睨みつけた。

 

「それが・・・・どうした!!」

「!」

 

XANXUSの絞り出す声に、ツナの超直感は何を感じたのか、炎を噴出させて後ろに飛び、一旦距離を取ろうとする。

 

そんなツナに向けて、XANXUSは二丁の銃口を向けて炎を蓄積し、炎の弾丸を吐き出した。その光景を見れば、意味のない行動だとも見える。ツナは先程からXANXUSの撃ち込んだ炎を全て吸収して力に変え、そのパワーとスピードを上げている。その為、ツナは再び構え、吸収態勢に入ったが、そう簡単にはいかなかった。

 

「・・・・!!」

 

ツナは飛んでいたXANXUSの炎を()()()

零地点突破・改は万能ではない。

 

いくら相手の死ぬ気の炎を吸収して自分の力に帰ることができるとはいえ、限度というものが存在する。初めに炎を吸収し、次に力へと変化する。

当たり前のことだが、このことから最初の段階で吸収しきれないと、その場でツナが壊れてしまう。死ぬ気の炎にだって個々によって許容量があるため、それを超える量を吸収できない。

 

今XANXUSが撃ちだした炎の塊は、明らかにツナの許容量を超えていた為、ツナは回避せざるを得なかった。ここまでの戦いで疲弊しているにも関わらず、今もなおその怒りによって死ぬ気の炎を増幅させているXANXUSは、さすがにヴァリアーのボスであり、ボンゴレの10代目候補であるといえる。

 

ツナがXANXUSの弾丸を吸収できない以上、これで戦いは降り出しとも言えるし、炎をあまりにも出し切っているため、どちらかが先にダウンするかもしれない。

 

この二人の戦況はそろそろ最終局面へと迫っていた。

 

「カッ消す!!」

 

避けたツナを応用に、銃から最大級の炎を噴射して一瞬にしてツナに追いつく。そしてツナの方も、空中から炎を噴射してXANXUSへと接近する。

 

XANUXSは左の銃で噴射したまま、右手に渾身の光を放ち、ツナは迎え撃つように、右腕の炎を高め、お互いに手のひら同士で組み合った。ぶつかり会った手からは、ツナとXANXUS、二人の炎が溢れ、辺りを閃光となって駆け抜けた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ドガァ!

向こうでは炎による激しい戦い。さらに向こうでは幻覚合戦刃物合戦の最中。

深夜の並盛中では多くの戦いが行われていた。

基本的な戦いは、ツナ達とヴァリアーの戦いだったが、今では第三勢力が加入して戦況を引っ掻き回していた。

 

プレギエーラファミリー。

そこまで大きく対して強い戦力もないファミリーだが、ボスであるヴァスコ・プレギエーラはボンゴレ9代目の旧友の年老いた男。それも温厚な人物であり、決してむやみに戦いを仕掛ける人物、ましてや同盟ファミリーであるボンゴレにたいして兵を送り込むことなどしない人物であった。

 

その為、現在進行形でプレギエーラの紋章をつけた仮面の黒服達を相手している者たちにとっては、疑問が占めるばかり。だが、それでも自分たちの前に立ちはだかるものをは倒す。そうしなければこちらがやられる。

 

具体的な名前を挙げるとすれば、獄寺隼人と笹川了平の二人は、怪我人であり動くことのできないルッスーリアとランボを守るようにして襲撃者と戦っていた。晴れの戦いのあとに制裁を受けたルッスーリアは、まだベッドに縛り付けられたままで連れてこられたために動けず、雷の戦いで強力な雷に撃たれたランボは、意識は何度か回復したがそれでも今はまだ昏睡状態。

 

かくゆう獄寺と了平も、決して万全の状態とはいかず、それぞれの戦いの傷がまだ残っているために、正直に言うと二人を守りながら戦うのはきつかった。

 

「くそっ!やっぱりしぶてぇ」

「極限に、厄介だな」

 

数が多い。

人海戦術という手もあり、多人数というのはたとえ実力がそこそこでも厄介なのは間違いない。ランボと、なし崩し的にルッスーリアも守って戦っている為、だんだんと追い詰められている。

 

「!後ろだ芝生!」

「!」

 

疲労、痛み、怪我と疲れにより、了平は自分の後ろでゆらりと現れた黒服の敵に、一瞬だが致命的に遅れてしまった。

すでに振り向いた時には、剣を持ち両手で振りかぶっている状態。

鈍い光を放つ西洋風の剣が、良平に向かって振り下ろされた。

 

キィン!

 

だが、咄嗟に入った影が、振り下ろされた剣を受け止めた。

鍔元に描かれた燕をあしらった刻印の日本刀。柄を持ち腰を落とすように相手の剣を受け止めている、山本の姿があった。

 

「山本!」

「よっ、獄寺に先輩。大丈夫か?」

 

底抜けに明るくさわやかな笑顔の山本が二人に笑いかける。

 

「それはこっちのセリフだ。思いっきりボロボロにされてたんじゃねぇか」

 

獄寺の言うとおりに、眼前にいる山本はすでにスクアーロと戦った後なためにボロボロの状態。着ている制服は所々に切り刻まれ、あちこちが山本の出血により血が滲んでいる。それもにかっと笑っているところが山本のすごいところでもある。

受け止めた剣を弾き、相手に刀、時雨金時の峰を当てて戦闘不能に追い込む。

 

「だけど、勝ったぜ」

「ふん。十代目の守護者なら当然だ」

「極限によくやったぞ」

 

といっている間にも剣と拳とダイナマイトで敵を戦闘不能にしていく。

けが人だが、一人増えたことにより自分たちを囲うようにして配置していた敵のあらかたの始末は終わった。

ようやく一段落したので、獄寺も疲れたように息を吐く。

 

「それにしても何なんだこいつら。ヴァリアーか?」

「はぁ!?知らねーのかよ。並中にいたのに戦ってなかったのか」

 

並中のいたるところにいる黒服達だが、山本が見ていないのも無理はない。

山本とスクアーロの戦っていたフィールドである『アクエリオン』は、校舎の内部を1階から3階までブチ抜いて作られたフィールドに、大量の水が常時流れて下に溜まっていく雨の守護者専用のフィールド。その為構造上、密閉されているので黒服も入ってこなかったのだろう。

 

山本も、リストバンド型ディスプレイで外の様子がわかるが、ずっと見ていられるほどに余裕もなかったのが事実である。XANXUSの一撃で天井が崩壊したために外に出ることができたが、もしそうでなかったとしたらどうやってフィールドから出ていたのだろうか。案外近くに扉があったかもしれないが、壊れてしまったので知っているものはチェルベッロのみとなってしまったが、正直この話はどうでもよい。

 

「それで光努はどうした?」

「俺とスクアーロを助けた後は獄寺達の居場所を教えてくれてどっか行っちまった」

「何がしたいんだあいつ・・・・」

 

光努の考えは読めない。

最終的にどうしたいかが分からない。

この戦いに勝つためには光努の持つフィオーレリングとボンゴレリングが必要。

そのためにいずれは戦うが、今はそれどころではないために全員から保留されている。その為、光努は今最も自由に動いている存在。

 

そもそも光努には勝利条件なるものがないために、自分から何かをする必要がない。ただ向かってくる相手と戦えばいいだけの話。それでも向かってくる相手がいなかったらどうしようもないとしか言えない。

 

いったい今どこで何をしているのやら。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「一人、二人・・・・今のところ確認できるのは二人だけか」

 

屋上の給水塔の上。最も高い位置にいるのは光努。

特徴的な真っ白な髪を揺らしながら、己の腕のディスプレイとその驚異的な視力によって校内の様子を見ている。

 

その隣に座り込んでいるのはスクアーロ。だが好戦的というわけでもなく、まだ動きが鈍っているらしく今は回復中。山本から受けたダメージは人の急所でもある後頭部から攻撃をうけて脳を揺らした。大きなダメージというわけではないが、しばらくはうまく戦闘に参加できない。できないこともないのだが、脳が揺れて三半規管も満足でない状態だとバランス感覚もつかめず、勝つことは非常に難しい。

 

その為不本意ながら今は光努の隣で腰を下ろしている。

ちなみに別にスクアーロが自分からついてきたわけでなく、山本と共に助けられた際にまだうまく動けなかったために光努に連れてこられただけである。

 

「雑魚どもはあいつらがあらかた片したみてぇだな。残ってるのは〝暗殺者〟と〝道化師〟の二人か?」

「クローム、マーモン、ベルの三人が体育館で〝暗殺者〟と交戦中。そんで三階廊下で恭弥が〝道化師〟戦ってるな。後はツナとXANXUSの戦いだけど」

 

あぐらをかいて座っているスクアーロの隣で立ち、辺りを見ている光努。

方角的には校庭の方向を向き、見てみるとまるで蒸気のような煙が立ち上がっていた。何事かと思っていたが、わずかに見えた物に、光努は一瞬目を見開いた。

 

「・・・・スクアーロ、()()何か知ってるか?ほれ」

 

スクアーロが山本との戦いで壊れたリストバンド型のディスプレイの代わりに、自分の持ってるディスプレイをほうって渡す。

 

「?」

 

怪訝そうに受け取り、画面を見たスクアーロの顔には、驚愕の表情が浮かんでいた。手はわなわなと震え、冷や汗を流し、目を見開いている。尋常ではない驚き用に、渡した光努も思わず目をぱちくりとさせる。

 

「これは・・・・!まさか・・・あの時の!!」

「スクアーロ?」

 

光努はもう一度、校庭の方を見る。

 

そこにいたのは二人の人間。二人の死ぬ気の炎を込めた手が衝突し、激しい蒸気となってあたりを取り巻く。徐々に晴れていく蒸気の中から出てきたのは二人の人間。さきほど戦っていた二人なのだが、蒸気の中から現れたその姿に驚愕したのは、スクアーロだけではなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

校庭を埋め尽くさんばかりの蒸気の山。

ぶつかり合った二人を中心として渦を巻くようにして激しい蒸気が流れ、二人の姿は見えなくなったが、徐々に晴れてきた。

 

そして最初に見せた顔は、XANXUS。

 

ツナの攻撃により、顔や体から血を流しながらも、蒸気の中から立ち尽くす。

その顔を見たとき、ある者は喜び、ある者は驚愕したが、XANXUSの口から漏れた言葉は、ツナに打ち勝った喜びの咆哮などではなく、信じられないものを見た反応だった。

 

その目線の先は、()()()()()右手があった。

 

「そんな・・・・バカな・・・!こんなことが!!」

 

少し離れたところにいたツナも、炎の消えている自分の右腕をみて、呆然としていた。

 

あの時、ツナは零地点突破・改を使えなかった。

 

零地点突破・改は、手のひらを交互に向けるようにして、両手の人差指と親指で正方形を造るような独特の構えを必要とする。そうしなければ、相手の死ぬ気の炎を吸収することも、ましては自分の力に変えることなどできない。

 

ツナとXANXUSのぶつかりあった態勢は、お互いの右手に炎を込め、手のひらで組み合う形だった。その為、ツナはXANXUSの炎を吸収することなどできず、しかもXANXUSの憤怒の炎の破壊力はツナの死ぬ気の炎を上回る。

 

一度XANXUSの憤怒の炎を破ることに成功したが、それは重力による落下と拳、そして自らの死ぬ気の炎を拳の一箇所に集中することで、いかに破壊力があるとはいえ、広範囲を消し飛ばす憤怒の炎を正面からぶち破った。

 

だが、今回の二人のぶつかり合いは、状況がまるで違う。

 

いくら炎を集中しようと、XANXUSの憤怒の炎は、その名のとおりにXANXUSの怒りによりその威力を跳ね上げ、ツナの零地点突破・改をもってしても吸収できないほどに強大な力を出した。しかも今回は組み合ったため、逃げることもできず、正面から炎を受け止める。

 

そのことを知ったヴァリアー達からしてみれば、当然のようにXANXUSの勝利は揺るぎなかった。観戦していたバジルやディーノ達でさえ、あきらかにツナの方が部が悪いのは目に見えている。予測するに難しくない結果であったが、出てきたのは全く別の結末だった。

 

「そうか。おそらく・・・これが初代のあみだした零地点突破」

 

リボーンの言葉に一同は再び驚く。

 

死ぬ気の逆の境地、零地点突破。その境地へと至ったボンゴレの血統は、その超直感から新たな技を編み出す。それは個々によって異なり、必ずしも同じ技が出るとは限らない。ツナの場合は、相手の炎を吸収して力に変える技となったが、初代ボンゴレが生み出した零地点突破は、()()()()()()()()()()()()()()

 

炎とは逆の状態、つまり冷気。まるで死ぬ気の炎を封じ込めるためにあるような初代の技。おそらく初代ボンゴレⅠ世は危惧していたのか、予感していたのかもしれない。死ぬ気の炎という強大な力を持つボンゴレが、お互いに争う日が来るかもしれないということを。

 

「なぜだ!ありえん!お前みてぇなカスに、ボンゴレの奥義など・・・!」

 

認めない、信じたくない。自分の炎ごと凍りついた右手を呆然と、だがやはり信じられないものを見るように睨みつける。それに対し、ツナは何かを探るように、そして全てを見透かすような瞳でXANXUSを見ていた。

 

「その凍った右手に炎が灯されることはない。おまえの負けだ、XANXUS」

 

その言葉に否定できる者などこの場にいようか。

凍りついたXANXUSの手から炎が出ず、もはや戦いの結末など目に見えていた。長いリング争奪戦も、終止符を打つ時が来た。

 

 

 

 

 


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