時雨蒼燕流。
山本が、父親の剛から教わった、僅かな時間ながら磨き上げた剣技。
元々、戦国時代頃に生み出された殺人の剣。だが別に今は暗殺に使っているわけでもない。守型四式、攻式四式の計八式の型を持つこの剣技は、状況に応じて使い分けることのできる。
山本は、守護者の戦いがないときは、ひたすらこの剣を磨いた。
ひたすらに竹刀を振り、教わった型を反復する。他にもいろいろとあったトレーニングを、山本はひたすらに打ち込んだ。
それにより、わずか一週間ながらにして、剣士としての力をつけた。
だけどまだ足りない。剣帝を倒した男、スクアーロ。
彼には、いくら剣士として才のあ山本といえど届かなかった。
今のままだったら。
***
「あれは!」
「あれが山本の時雨蒼燕流、守式七の型。繁吹き雨」
大空のリング戦の開始と共に、各地で勃発した守護者の戦い。
場所によっては戦わずに別のところへ行くものもいたが、山本とスクアーロの二人は戦いあった。
なし崩し的に雨の守護者の戦いがなくなってしまったが、こうして戦う機会が得られた。どちらにしろ山本は、スクアーロを倒してからでないと出ることもできなさそうな状態。ならば戦って、リングを手に入れようと考えた。
そして、スクアーロの剣を時雨金時で防御した時に打ち込まれた爆弾。
至近距離の爆発にも関わらず、煙が晴れたところにいたのは、水に濡れながら無傷の山本だった。
時雨蒼燕流の守式四式の内の一つ、『守式七の型、繁吹き雨』。
足元に流れる水を、刀で巻き上げて爆弾を包み込み、防御することに成功した。同時刻にモニターで観戦していた他の守護者達も、その様子に喜んだ。
最初に襲来したヴァリアーのスクアーロ。
あの時は全く手も足も出なかったが、今の武は、スクアーロの攻撃を防ぐことに成功している。
「う"お"ぉい!図に乗るなよ、ヒヨっ子がぁ!!」
スクアーロが剣を振ると、仕込み爆弾が飛び出し、山本の両脇で爆発して左右の退路を絶たれすかさず正面から特攻を仕掛けるスクアーロに対して、山本は刀で足元の水で水柱を作った。水柱の影響で、完全に山本の姿が隠れ、スクアーロは水柱を切り裂いただけで済んだ。
時雨蒼燕流、『守式弐の型、逆巻く雨』。
刀によって水を巻き上げて姿を隠し、身をかがめて刀で防御する技。
退路の立たれた攻撃に、山本は正しい選択をして技を繰り出し、防ぐことに成功した。ここまで見れば、山本もまだまだ荒いながら、スクアーロの剣技に対抗している。
だが、その様子を観戦しているディーノにはぬぐいきれないような不安が渦巻いていた。
***
光努side
全てのフィールドは、校舎に付けられた大型モニターに映し出されている。しかもそれぞれの参加者達には、小型のカメラとモニターの搭載されたリストバンドが付けられているため、リアルタイムで他の守護者達の状態がわかる。
スクアーロと武の戦っている状況も、ツナとXANXUSの戦いも、全て見える。
というわけで、他の守護者の状況を伝えようと思う。
え?俺が今どこにいるかって?
グラウンドで勃発しているツナとXANXUSの戦いを屋上から見てる。
さっきはXANXUSに屋上からいたところを狙われたが、雲隠れして再び屋上に戻る。これが俗に言う・・・・灯台下暮らし?
まあそんなこんなで、他にもこっそりと移動しながら実況をしておこうと思う。
それぞれの守護者の戦っているところには、宝箱が隠されている。
宝箱といっても、ほんの手のひらに収まるくらいの指輪のケース。
中に入っているのは、完全な形をしたボンゴレリング。それぞれの守護者の模様がケースには描かれている。
戦いながら、先にそれを見つけることも重要。この勝負の勝利条件は、全てのリングを手に入れることだから。
「さてと、最初はどこを見るか」
そう言いつつ、屋上から下の階を窓から覗く。
そこには、爆発痕を残した廊下が見える。
さきほどまで、隼人とベルが軽く戦っていたところ。
だけどベルは一時撤退した。さすがに怪我をしたあの足じゃ、隼人のロケットボムから逃げるのも少々面倒だと思ったのか、下の階へと逃げていった。
そして隼人も、他の場所へと移動を開始している。
よくよくと見れば、廊下には嵐のマークが記されたケースが転がっているため、隼人とベルのどちらかが嵐のボンゴレリングを見つけて持っていったみたい。
多方、ベルが逃げたあとに隼人が探し出したんだろう。
キィン、キィン。
・・・・?金属音がする。
廊下の窓から下を見てみると、誰かが戦ってる姿があった。
大量のナイフを、自身の周りに浮かせているベルフェゴールと、両手にトンファーを握る雲雀恭弥。
両者共に武器を構え、二人で戦っていた。
「どっちが不利かといえば、普通に怪我してるベルだな」
だが、今のところ恭弥が不利に見える。
見たところ、恭弥はベルの戦い方を知らないみたい。
視認しにくい程に細いワイヤーとナイフの併用。ベルの投げつけるナイフは簡単にトンファーでガードしているが、そのあとに続くワイヤーの攻撃には対処できていない。現にワイヤーに触れた頬や腕に切り傷ができて、少なくない出血をしている。
「そして、向こうの屋上では隼人とレヴィか」
怪我でまだ意識不明のため動けないランボのところに向かったか。よく間に合ったな。ま、なんだかんだ言って隼人も隼人だし。
そして相手がレヴィか。この場合どっちが勝つのだろうか。普通に接近戦だったら隼人負けるんじゃね?武器ないし。ダイナマイトって遠距離だし。
あ、レヴィ負けた。
普通にパラボラ開いてロケットボムで撃ち落とされるとか、レヴィも浅はかだな。
パラボラなくなったら後は丸腰。ダイナマイトくらって一発だったな。
じゃ、俺はこっちに参加するか。
「俺もまぜろぉ!」
そう言って、恭弥とベルの元へと飛び出した。
***
「「!!」」
タン。
3階から飛び降りたと思えないような軽い着地音。
一瞬戦いに気を取られて気づかないほどに静かだか、二人ともすぐに気がついてそちらにも注意を向ける。
そして人物を確認した瞬間、問答無用でベルのナイフが飛び交う。
パシ、パシ。
雲雀と光努、二人に向けて放たれたナイフは、二人ともいとも簡単に手で受け止めた。
「!」
「へぇ、なるほど。ナイフにワイヤーがついてたんだ」
「恭弥ボロボロ。大丈夫?」
「余計なお世話だよ」
バシュ!
雲雀がナイフを掴むために一度手を離したトンファーを再び両手で握り、何か操作をすると、トンファーの下が開き、中から鎖と、先端には刺のような物がついている分銅が現れた。
ヒュンヒュンヒュン!!
そしてトンファーとともに回転させると、あっという間に周りに張られていたワイヤーを切り裂いた。
「・・・やっべ」
さすがのベルもまずいと思った。
ナイフもワイヤーも防がれる。かと言ってあの回転するトンファーと鎖をかいくぐり攻撃するのも難しい。となれば、後はやることは一つ。
「バイビー」
これは逃げるのではない、戦略的撤退。
ベル的には、これだけ傷つければ勝ちも同然じゃん、だけどな。
「あ、逃げた。なあ恭弥」
「ふん」
「危な!」
普通に光努を攻撃する。雲雀から見ればベルも光努も敵、というかここに居る奴らの大半は敵も同然だからな。するりと鎖とトンファーをかいくぐり、恭弥とすれ違うようにして通り抜けていった光努は、ベルの元へと動いた。
「どこ行くんだよ、ベル」
脚も怪我してるため、できるだけ走ってるベルの横で並走する光努。
その顔を見ると、さすがのベルも「げっ」といった表情を出す。
「何しに来たんだよ」
「いや、いろいろと見て回ってるんだが」
光努は現在、他の守護者の状況を見て回っている。光努の持つフィオーレリングも勝利条件の中に入っているため、通常なら光努も狙われるところだが、勝利条件は全てのリングの奪取。そのため、他の守護者同士の戦いもあたりで起こっているため、光努は割と遠目から眺めているだけで済んでいる。
今のところ、他の守護者の状況は、
晴れの守護者の良平は校内を移動して、ルッスーリアは怪我の為動けない。
雷の守護者のランボは、レヴィにやられるところを獄寺に助けられ、レヴィは獄寺に倒される。
嵐の守護者の隼人はレヴィを倒してランボを助ける。ベル獄寺から逃げて、雲雀と少し戦ったあと撤退。現在は光努と一緒に移動中。
雨の守護者の山本とスクアーロは目下交戦中。
霧の守護者のクロームとマーモン体育館で戦っている。
雲の守護者の雲雀は、ベルと戦ったあとは校内を移動し、モスカはすでにいない。
そして、大空のボスであるツナとXANXUSは、今も戦い続けている。
相手をボスにしないため、己がボスになるため、負けられない戦いがある。
ドゴォン!
その戦いの余波は、遠くで観戦している者たちにもわかるほどに大きい。
「あの方角はグラウンドか。戦いは互角ってところか」
「互角?あんな奴にうちのボスが負けるかよ」
「お前だったら瞬殺だな」
「うわー、コイツムカつく」
怪我のためにある程度に走っているベルと、その隣を並走している光努。
大事な決戦とは思えないほどに緊張感のかけらのない会話。
「ところでベル。思うんだけどさ」
「ん?」
「もしも
「!!・・・確かに・・・」
「なんかさー、濡れ衣とか着せられたりしたしさ」
「・・・・」
「9代目がモスカから出てきてさ、俺も個人的に割とムカつくしさー」
つー、とベルの頬を冷や汗が落ちる。
前にいるため顔が見えないが、ベルの超直感ほどではないが鋭い直感がなにかやばいという感じがしている。顔が見えないというのが逆に怖い。
「それに、大空のリング戦とか俺と関係ないし」
「・・・・・」
「お前ら全員、潰してもいいか?」
返答を間違えたら消される。こちらをちらりと向いている光努の顔には黒い影がかかり、目だけ光っているような気がした。
が、それもすぐに元に戻った。ベルはほっとしたが、一体どうしたのかと思ったが、その理由はすぐにわかった。
「「!!」」
ベルと光努。二人は立ち止まってその場から飛び退いた。
その瞬間、上から降ってくる影が地面に突き刺さる。
鈍い輝きを放って地面に突き刺さっていたのは、真っ直ぐな両刃を備えた一本のロングソード。そしてその柄を持つ黒い影。
全身黒ずくめの格好に、顔には十字架を模して装飾の施されたような模様が描かれていた。明らかにチェルベッロの者達でもない人物。明らかにボンゴレやイリスの人間でもなさそうな人物。突如現れた襲来者は、見たところ、今この場にいるベルと光努を狙って剣を構えた。
「ベル、こいつお前の知り合いか?」
「いや、知らねぇし。ん?あの模様って確か・・・・・」
ザザザ。
「!!」
複数の足音。
ベルも光努もむやみに動こうとしなかったが、気がつけば、先ほどの襲撃者と同じような格好の人物たちが複数、光努達を取り囲んでいた。
黒い出で立ちに全員同じ模様の入った仮面。そしてその手には、剣を握るものもいれば槍の者、もしくは弓矢という者達もいた。
「どうやら、敵なのは間違いないみたいだな」
その様子を、遠くから見ている影が三つ。
並盛中の外の建物の上から、様子を伺うように見ている。
「今日はとってもMe達にはInterestingな戦いになりそうだ」
全身黒ずくめ。黒いプロテクターを体中に付け、顔には黒いマスクとゴーグルに帽子。肌の見える箇所はなく、ゴーグルのレンズ部分のみ不気味に赤く光っていた。
「速く終わらないかな。あいつらだけで済めば楽なんだけど」
子供っぽい口調だが、その言葉に感情らしいものは入っておらず棒読みに近いような口調。真っ白いローブを着てフードを被り、その顔には、ピエロのような仮面がつけられていた。
「そりゃとってもDifficultだ。役不足」
もとより部下たちには期待していないという言葉。
でもしっかりとは働いてくれそうという言葉。
「準備はいいかい、ウィーラ?」
横に声をかけると、隣で座っていた人物はどっこらせというふうに腰を上げて立ち上がる。頭にはバンダナを巻きつけ、そこからは黒い髪がこぼれており、後ろでひとくくりにしている。黒いタンクトップ姿に、鍛えられたような浅黒い肌。腰に巻かれた太いベルトには、三本の槌が備え付けられていた。
顔の右側を隠すように付けられた茶色い木目の入った木の仮面に、反対側には赤い瞳が並中を見ていた。
「気は乗らないが、これも必然。行こうか」
同時進行でお送りします。
都合上デスヒーターはないです。