カチン!
骸の手には、いつの間にかとったのか、霧のハーフボンゴレリングが二つ合わせ、完全な霧のリングとなったボンゴレリングが乗せられていた。
「これで、いいですか?」
そう言ったかと思うと、さっきまでの渦巻いた空間が消えて、元の体育館の景色が戻った。
・・・・・・・・出て行くタイミング見逃した!どうしよ。
マーモンの姿は見当たらない。と思ったら、こっち来た。
マーモンはもはや戦うほどの力は残ってないが、逃走用の力を残していたらしいので、それで姿を消しながら逃げ出す算段だったらしい。
まあヴァリアーの弱者は消すという掟があるとは言え、そう簡単に死にたくはないだろうしね。見たところ、マーモンは欲が強そう。
ていうか、わざわざこっちに来なくても、と思ってたら小窓から出てきたので、
「捕まえた」
「むぅ!白神光努!なんでここに!?」
「よう、逃げていいのかな~」
「み、見逃せ!というかなんでお前はこんなところにいるんだ!」
ひとまず体育館から離れて校舎の屋上に立つ。
そして、もはや飛ぶ力すら残ってなさそうなマーモンを降ろして向かい合う。
「どうするつもりだ」
「え?いや別にどうも・・・・どうしてやろうか」
「なんで言い直した!そのまま見逃せ!」
「で?」
「?」
「いくら出す?」
(なにぃいい!!こいつ!この僕をゆするつもりか!)
マーモン驚愕。金にシビアなマーモンがまさかゆすられるとは。
まあ光努にゆするつもりなど対してないのだが(つまり少しはある)今のマーモンは逃げられる程の力がなく(まあ全開でも光努とハクリの二人から逃げられるかどうかは微妙だが)まさに八方塞がり。このままヴァリアーに突き出されたら、マーモンの命危うし!
「まあ、別に金などどうでもいいんだがな。イリスは大企業。やろうと思えばいく
らでも金が沸く」
「こいつ最低だ!」
「まあ今のは冗談として、この後ヴァリアーに見つかったらやばいんじゃないのか?」
「うっ!」
「それで、どうするつもりさ光努」
「そうだな、ああそういえばマーモン。まだ聞いてないことがあった」
アルコバレーノに会ったら言おうと思っていたこと。半ば聞いた後の反応楽しみで聞いてる節があるのだが。
「なんだ?」
「数ヶ月くらい前に、おしゃぶりにすっごい反応なかったかい?」
「!」
マーモンにはあった。心当たり。
おしゃぶりの機能を封じていたにも関わらず、眩い輝きがあったことを。
何かが来た。他のアルコバレーノ同様にそう直感した。一体何が来たのか、どういう意図なのか、全くわからないが、確かな存在を知った。
しかし、そのことを知っているのは自分と、どこかにいた他のアルコバレーノのみ。なんでこいつがそれを知っているのか?マーモンの中で疑問が占めてた。
今や戦える状態ではないのに、相手は自分しか知らないことまで知っている。
知らず知らずに、マーモンは光努に対して畏怖していた。
そりゃ相手が自分の個人情報をなぜか知ってたら怖いよな。
「まあ元凶俺らなんだけど」
「そゆこと」
くるりん。
光努の後ろから一回転しながらカランと、下駄を鳴らしてマーモンの前に立つハクリ。マーモンは最初誰だこいつ?というようにいくぶかしげていたが、その胸元の白いおしゃぶりを見て、みるみる表情が驚愕に染まった。
「そのおしゃぶりは!!」
コオォ!!
暗い闇夜に光が照らされた。
ハクリとマーモン、二人のおしゃぶりが共鳴するように輝く。
「お前は、一体」
「神とでも言っておこうか」
「ふざけてるのか?」
「割とマジなのだが、まあ別にアルコバレーノが一人増えようがどうでもいいと思っている」
「まあそういえばそうだな」
「いや、大アリだよ!」
もしかしたらというマーモンの希望。
どこからか現れたアルコバレーノのおしゃぶりを持つ者。
もしかしたら、マーモンの求めるもの、アルコバレーノの呪いを解く手がかりがあるかもしれないと。
「確かに、俺は手がかりを知っているといえば知っている(かも)」
「本当か!」
(なんか余計なの入ってたような・・・・。
「が、教えるわけにはいかない」
「何!?」
ハクリの回答は、「ノー」。
「もし、俺を倒せたなら、教えてもいいが」
「やってやる!」
フードの中から大量の槍を出して、ハクリに飛ばす。
さっきの会話の中で、あるていど幻覚能力が回復した様子。
幻覚と分かっていても、リアルな質感の槍が大量に飛び出す。
「今のままじゃ無理だろ」
「!」
真後ろ。いつの間にか、マーモンの後ろにいたハクリ。いくら幻術士のマーモンとは言え、ヴァリアーの一員でありアルコバレーノのマーモンすら反応出来なかった。気づいたら後ろにいた。そう感じることしかできなかった。
(あの炎を使うのは少しずるいけど、どっちにしろ今のマーモンは力を使い果たしている状態。無理だな)
「当身」
ビシリ!
「むぎゃ!」
ドサり。
瞬殺。まさに瞬殺。
まあ当然といえば当然の結果なのだが。
とりあえず光努はマーモンを袋に詰めて、よっこいしょと言うように肩に背負う。
「でもいいんじゃないの?呪いとか何か知らんけど」
「まあそのうち」
「負けたらどうするつもりだよ」
「ないだろ」
「・・・・・・・」
当然だろとでも言うように、悠々と自信を語るハクリ。光努から見ても、その自信は決して虚勢などではない、そうわかる。
一番身近にいたからこそ、一番長い時間を共にしたからこそ、わかる。
「じゃ、帰るか」
そう言って、夜の闇に消えるように、二人の姿は掻き消えた。
***
「光努、前々から言おうと思っていたが、お前の神経を疑うびょん」
「今日ばかりは、犬に同感」
「ふ、二人とも・・・」
「ほぅ。その心は?」
「「なんでこいつがいる(びょん)!」」
黒道家の食卓。
朝の朝食を食べようと犬や千種、それにクローム達が食卓に着いたと思ったら叫びだした。
そこにいたのは、すでに幼稚園に言った夕輝を除いて、光努、朝菜、クローム、犬、千種、そして・・・・・・マーモン。
昨日の夜に死闘を繰り広げた(後半圧倒したけど)相手が次の日の朝食で同じ飯の前に座っているのは、なかなかな光景。というか普通はやらない、やるやつはどこかおかしいのかもしれない。
やった本人はなんのこともないように朝食を食べているのだが。
「あらあら、二人ともどうしたの?ご飯が冷めるわよ」
「いただくびょん」
「いただきます」
動物の本能なのか、この家で一番偉いらしい朝菜の言葉には素直に従い食べ始める犬達だが、すぐにはっとなり食器を割らないように机の上に置いて手を机にバンとつく。
「て、違うびょん!」
「うるさいなぁ」
「んだとぉ!」
さすがに自分がここにいるのもどうかと思っていたマーモンだが、光努に連れてこられたし、別に出て行けとも(家主の朝菜に)言われてないし、正直行くあても特に無いのでここにいるのだが、さすがに犬が騒いでいるのは面倒だったのか、ついぽろりと本音が漏れる。
「まあまあ二人とも別にいいだろ。戦っただけなんだし」
千種もよく考えてみる。
確かに死闘を繰り広げたが、結局最終的には骸によってボロボロに打ち負かされた。しかもこの戦いも、向こうは暗殺部隊に所属しているが、別にクローム(骸)を狙っているというわけでもないし、戦う理由ができたから戦っていただけであって戦いの終わった今、戦う理由な無くなった。つまり別にいても問題ないんじゃ?
なんかあれば光努がなんとかしそうだし、というか任せればよくね?
「まぁ・・・いいか」
別にいいかという結論に達したのか、千種は黙々と朝食を食べ続けた。
クロームも別に気にしてないのか、黙々と朝食を食べ、もはや騒いでいるのは犬だけである。
そしていつの間にか食べ終わる朝食。
「じゃ、僕はそろそろ行くよ」
「もう少しゆっくりしていけばいいのに」
すぐにでも帰ろうとするマーモンに、光努はずっといればという風に引き止める。
光努的にも、家主の朝菜的にも特に問題はないのでいてもいいと言っているが、なぜかすぐに出ようとするマーモン。
怪しげた光努だが、その理由は案外すぐにわかった。
ドゴン!!
「なんらびょん!」
「庭に何かいる!」
縁側にでて庭を見てみると、庭に生えていた草が燃え、土埃が充満していた。
その場所から何やらウィーンといった機械音がしているような気がする。
すぐに煙が晴れ、やってきた襲来者の正体を暴いた。
ガスマスクでも付けているかのような顔面に、ゴーグルのようなレンズの眼。
というか全く人間の面影のない機械じみた巨人。手は銃、体もでかく頑丈そう。
どこからどう見てもサイボーグでできた黒服の襲撃者、ゴーラモスカ。
「もう来たか」
悔しそうに、マーモンがつぶやいた。
コル「モスカがしゅーらい」
リル「何話もつかな?」
コル「次の話で撃沈じゃない?」
リル「じゃあ私は次の次くらいで撃沈」
マーモン「モスカがひどいあつかいだよ・・・」