「それでどういうわけだ」
「リルとコルじゃ相手にならなかったか。二人とも弱くはないんだがな」
「「きゅ~」」
光努の両手の中で二人の子供は仲良く気絶していた。
「ほら」
「どうも。二人が迷惑をかけたな。まあ中に入れ」
お前のせいじゃないのか?と思ったが光努はあえて突っ込まないでおいた。
リルとコルを引き渡して灯夜と一緒に壊れた建物とは別の建物に入っていく。
「それでここどこ?俺何も知らずに落ちてきたからさ」
「まあ見てればなんとなくわかる。ひとまずお互いに情報交換をしようか」
「了解♪」
リルとコルはそばにあるソファの上に寝かせておいて二人はテーブルについて紅茶を飲みながら話を始めた。
「俺から話すことは一つ。名前は白神光努。気がついたら空中ダイブしていた。以上」
「随分とわかりやすいな。内容は全然わからないけどな」
「それでここどこ?」
「ここはイリスファミリーの敷地内。ここは母屋だ」
「ファミリーってことはマフィア?」
「まあそうとも言えるけどそうとも言えない。どちらかと言うと企業に近いかな」
「企業?何か売ってるの?」
「まあいろいろだな。幅広く企業してるからな。俺が社長代理だ」
「代理?社長は?」
「いない」
「は?」
「この企業、というよりイリスファミリーには昔からこのファミリーを作った初代
ボス以降、ボスがいないんだ」
「どうして?まさか初代ボスがずっと生きてるとでもいうのか?」
「まさか。まあ死んでるのか分からないが」
「どういうこと?」
「初代イリスは消えた。そしてボスになるのに証が必要なんだ」
「証」
「初代イリスが深い森の中に証であるリングを隠した」
「リング?」
「ボスの証は初代ボスが持っていたとされるフィオーレリングだ。これがレプリカだ」
そう言って懐から取り出したのは指輪。真ん中に透き通るような白い石がはめ込まれ装飾の施された指輪、光努が手に入れた指輪と同じものだった。
「!?」
「どこにあるのかはわかっているが入っている箱を開くことができるものが初代以
降、一人も出ていない。これまで多くのチャレンジャーが試してみたが全く開かなかったそうだ」
「・・・そうか」
光努は服の中に入れていたチェーンに通したリングを取り出した。
「!・・・・お前・・・それって」
「ああ、あんたが言っていた深い森の中で手にれた、フィオーレリングだ」
灯夜の表情は驚きの色で染められていた。思わずレプリカリングを落としてしまうほどに。
「あの箱を開けたのか?」
「まあな」
「・・・・・・なるほど、お前は初代からボスと認められたってことか」
「そうなるのかな」
「ふぅん・・・・少しイリスについて教えてやるよ」
***
初代イリスファミリーボスはどこからか現れた。
古い記録を見ても初代がイリスファミリーを作った以前の記録が出てきていない。周りの人間のことなどは出てきたが初代個人のこととなると全くと言っていいほどわからない。
ファミリーを作った後のことなら記されているがそれ以前の経歴など、他はわからない。
そんな謎のある初代が作ったイリスファミリーが、現代でも知られる企業だった。
一節によれば初代の友人がに対抗をして作ったとか。
一節によれば初代の暇つぶしが企業に発展したとか。
一節によれば初代が権力が欲しくて作ったとか。
説は多くあるが初代がなぜこの組織を作ったのかは正確には伝わっていなかった。
今や知っているのは本人とその当時いた仲間のみである。
昔は食料や武器などを仲間と生産して別の組織などに売っていた。
今ではそれに加えて多くの製品を取り扱っていくうちに大きな企業のようになっていたのだった。ちなみに悪徳商売や人体に被害の及ぼす薬物などは扱っていないのであしからず。しかし人も多くなったのに依然として初代以降のボスはいなかった。
初代は圧倒的な頭脳や技術力を持っていて、それにより数々の起業や取引に成功していた。そんな初代がファミリーをある程度大きくしていきなり消息をたった。
何の前触れもなく、誰にも告げず。最後に会話したのは、その時ファミリーにナンバー2でもあった男だった。
「なあ、次のボスだけどさ」
「どうした、いきなり」
「このリングをボスの証にしようと思うけど、どうだ?」
「お前がつけてるフィオーレリングか。とんでもない代物だからボスくらいでないと使えないってことか?」
「いや逆だ」
「逆?」
「ボスに与えるんじゃなくて与えられた者がボス。ボスはリングが選ぶということさ」
「リングに?どういうことだ」
「いずれわかる。どんなことがあろうとボスはこのリングを持つ者だけとする」
「フッ。お前の無茶は今に始まったことじゃないからな。いいぜ。そのリングに合うやつが見つかるのを待っててやるよ」
「助かるよ。生きてるうちにいるか分からないがいつか現れるだろう」
「他の奴らにも言っとくよ」
「頼むよ。これで再び花が咲く手立ては揃ったからな。後は次の世代に任せるか」
「なんだ。まるでもうボスをやめるみたいな言い方だな」
「ハッハッハ、リングはどっかに置いておくかな」
それ以降初代の姿を見たものはいなかった。
そしてボスの言いつけ通りに、新しいボスはリングを箱から取り出せないことにより現れることはなかった。
そしてファミリーは待った。再びボスが現れる日を。
***
「妙な話だな。ボスがいないのにボスを作らないとは。リーダーの存在は組織には大きいのに。よほどその男は初代を信頼していたってことか」
「ああ。初代は仲間と絆で結ばれとても仲が良かったらしい」
「それで、俺はどうなる?」
「まあ初代の言うとおりボスになるかな」
「いいのか?いくら初代が言ったからって企業のボスにそんな簡単になって」
「まあ俺としては別に構わないんだがな。ボスがいなくても今までやってきたのも事実だし。ボスがいようがいまいがあまり関係ないしな。形だけボスでいてもさ」
カチン。
光努の中で何かスイッチが入った。
「形だけとは言ってくれるね。いいよ。ボスになってもいいならボスになってやろうじゃない」
「まあ頑張れ」
「言っておくがやるからには俺はボスをやるぞ。形だけでなくな」
そう言ったら灯夜は少し驚いたような表情をしたけど直ぐに笑った。
「いいぜ。お前がどうなるのか楽しみにしてるよ」
光努がボスになるため険しいような険しくないような道が始まった。
光努がボスになる日は近いのだろうか?