俺の名前はベル・フェゴール。
ボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーに所属している天才。そして王子。
だから何をしても許される。
けど王子だって痛いものは痛い。だから今は部屋の隅でマーモンと観戦してる。
スクアーロと光努の戦いを。
「う"お"ぉい!」
「ふん!」
真剣白刃取り。
スクアーロの振り下ろした剣を、両手で挟むようにして受け止める。
スクアーロの剣を止めるというのは、敵ながらさすが昔ヴァリアー本部で暴れただけのことはある。が、相手がスクアーロの場合に限っては失策。
スクアーロの剣には仕込み爆弾が仕込まれてるから、相手が剣等で受け止めると爆発を直に浴びる。
ビュビュビュ!!
予想通り、剣の刃の部分から小さな爆弾が光努めがけて飛び出した。
「それ、見たことあるぞ」
タン!
白刃取りをしたまま、床を蹴ってスクアーロの剣の上を通るように一回転して正面から来た爆発を避けた。
そのままかかと落としの要領で足を振り下ろしてスクアーロを狙う。
「あめぇぞ!」
スクアーロは右手で落ちてきた足を掴んで受け止める。
「そっちもな」
ベキ!
スクアーロの足元の床が少し割れた。スクアーロが受け止めきれていない?
まああいつの馬鹿力は厄介だからな。だがそれだけじゃなく、かなり身軽に動けるみたいだ。
「大丈夫かな、スクアーロ」
「ま、スクアーロなら大丈夫じゃねーの?」
正直スクアーロが負ける姿って思い浮かばないし。
まてよ?これでもし倒されたら次の作戦隊長って俺じゃね?
「う"お"ぉい!ベル!なんか余計なこと考えなかったかぁ!!」
「気のせいだ!」
戦いながらなんて勘のいいやつ・・・・・。
「そういえばマーモン」
「どうしたの?」
「さっきなんでスクアーロにわざわざ標的確認みたいなのしてたの?あれ意味なくね?」
「ああ、あれね。リルとコルは狙わない方が面倒事が少なく済むってことさ」
「どうしてよ?」
「ベルは、『魔天剣豪』って聞いたことあるかい?」
「それって、確かイリスの『アヤメ』のリーダーじゃん」
「しかも、あのリルとコルの父親なんだって」
あの子供の父親か。それは知らなかったな。
イリスファミリーの『アヤメ』といえば、マフィア界において知らぬものなしと言われた戦闘部隊。たった3人しかいないため、その3人はマフィア界でも有名人ばかり。そしてそのリーダーのクルドも『魔天剣豪』と恐れられる存在。
なるほど、あいつら狙うと奴が怒るということか。
「そりゃ、確かに面倒ってことか」
「ベルの考えてることは大体想像つくけど、考えが甘いよ」
「あん?」
「もしもリルとコルに何かあったら、戦争が起こるかも」
「?それって」
「昔、『魔天』に一回だけあったことあるんだよ」
「そーなの?どうだった」
「正直事前情報と比べていいやつだったよ」
「へぇ」
それは意外な情報。マーモンの昔ってのがどれほど昔かは知らないが、『アヤメ』のリーダーと面識があるってのにもびっくりだが、それ以上にマーモンの評価が割といいやつってのもびっくり。
なんかどこが『魔』なのかわかんねーな。
「けど、」
「?」
「とんでもない親バカだった」
「・・・・」
マーモンが珍しくなんだか疲れたような表情をして語っている。
「子供の話がすごく面倒だったよ。正直かなり疲れた」
マーモンがここまで言うとは。結構気になるところだ・・・。
「それで、実力は結局どうなわけ?俺は『アヤメ』って見たことないからさ」
「僕も全力を見たわけじゃないけど、あれは一言で表すなら・・・・化物」
「・・・・・・」
笑いつつ、俺の頬を一筋の汗が流れる。
まだ見ぬ強敵の恐ろしさと、戦うかもしれないという楽しみに笑ってるのかもしれないが、実際に戦うのは面倒だから避けたいところ・・・・。
ま、触らぬ神に祟りなしってやつだな。
「正直今の僕じゃ勝てないかも。・・・・・・・呪いが無いならどうかわからないけど」
「ん?なんか言った?」
「別に」
どうしたんだ?
だけど、そうこう雑談してるあいだも二人は戦い続けてる。
ていうかあの二人、確かリルとコルはどこいった?さっきまで光努の横にいたような気がしたが。
「わぁい!かわいー!」
「よしよし」
「むむ!離せー!」
と横から声がしたから向いてみると、隣でマーモンが子供のおもちゃにされていた。よくある子供が抱きしめる人形みたいになってるし。
さすがに力だけじゃかなわないからされるがまま。というか今更だがこの二人って俺と同じで双子か。正直服装まで同じだったら見分けつかねー。
「ええい、離せ!」
「!」
あたりが一変してブリザードに包まれた。
やべ、マーモンが幻覚を始めたツンドラ地帯みたいなホテルの部屋。これ以上何か会ったらこっちまで被害被る。逃げるか。
「ん?」
服の裾が引っ張られる感触。後ろを見ると、俺よりも低い身長の子供。
こっちは確かコル。顔じゃ見分けつかないから服装で判断したけど間違いないはず。ていうかなにこの手?逃がさないつもり?いくらけが人の俺でも子供に負けるつもりはないんだけど。
チャキリ。
「えっと・・・・なに?」
「逃げたら、ダメ」
なんか日本刀を突きつけられてんだけど。ていうかまわり寒っ。マーモンどこいったんだ?というよりこれ偽物?偽物だよな?普通こんな刃物持たないって。え、人のこと言えないって?関係ないし、俺王子だし。
***
「う"お"ぉい!!おらぁああぁぁ!!」
「らっ!!」
スパンスパンスパン!!ガガガガガガ!
壁が床が天井が、砕け削れ切り裂かれ、ホテルの一室は崩壊の一途を辿っていた。
ベル、マーモン、リルとコルがあれやこれやとしている間、光努とスクアーロの戦いも無事じゃ済まなかった。
ヒュォ!!
「「!」」
ブリザード。吹雪が一瞬で部屋の中を覆った。
地面は凍り、どこからともなく雪の嵐が降り注ぐ。
一気に視界が悪くなった為、さすがのスクアーロと光努も一瞬攻撃を中断した。
だがそれも一瞬だけ。
「う"お"ぉい!!」
「ふん!」
すぐに攻撃を再開した。
光努は拳を、足を匠に動かしてスクアーロの剣を払い、防ぎ、避け、攻撃を仕掛ける。パワーがあり、一撃一撃が重い攻撃。さらにスピードも高い。しかも肉体的にはかなり頑丈と来た。攻守ともに異常なバランスのとれた力を持った光努は、スクアーロの力をもってしても手に余っていた。
(ちぃ、正直ベル達の話しか聞いてないからどんなものかと思いきや、こいつはかなり面倒な部類だな)
弱点らしい弱点が見当たらない。
バランスのとれた者は、弱点が見つけにくい。
しかも光努の場合は、決定打を簡単に浴びせてくる。防御力がバランスよく高い者は、かなり厄介である。
「おらぁあ!!」
スクアーロの剣技の技の一つ。
正面の空間を、全て削り取るように、剣を相手に大量に突き刺す技。
突くという技であるが、そのスピードと手数と威力は、まるで空間をかじりとる鮫の牙のようでもある。
「ふっ」
ダン!地面を砕き、光努は後ろへと跳んだ。
そうすることで、スクアーロの剣の射程範囲から一瞬で外へと脱出した。
だがスクアーロも、追うように追撃を仕掛け剣撃を浴びせる。
後ろの壁に背中がぶつかったとき、スクアーロの目がキラリと光ったような気がしたかと思うと、渾身の一突きを光努に向かって放った。
「何ぃ!?」
が、壁に突き刺さっただけ。光努の姿は、一瞬でスクアーロの視界から消した。
(どこだ!)
タン!
突き刺した形をとった剣の上に、光努が降り立った。
「くっ!」
その状態から剣の腹に手を付き、体を回してスクアーロの顔の左側から蹴りを放った。光努の蹴りは速く、しかも、スクアーロの剣は光努の手の下にあるため剣で受けることもできず、咄嗟に肩をすくめてかすめ、威力を緩和した。だが所詮それも気休め。モロに蹴りを受けて、壁まで吹き飛んだ。
「ぐあぁ!」
ドゴン!!
壁と言うよりもはや氷というような感じの壁。幻覚と侮るべからず、実力の高い幻術士の作り出す幻覚は、よりリアルに体現する。ヴァリアーの幹部であるマーモンが放つ幻覚は、そこらへんの術師の比でなく優秀。
さすがのスクアーロも、若干の寒さに少し感覚がわずかに鈍り始めていた。
だからというわけでもないが、壁を壊しながら喰らい、すぐに立ち上がったがダメージは受けている様子。最初より動きが悪くなっている。
「よし、とどめさすか」
しかも光努が何か物騒なこと言い始めた。