特異点の白夜   作:DOS

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『考えず戦い考え戦う』

 

 

 

ベルの、タービンから発せられる突風を利用して、ボムを無力化するという作戦はさすがのもの。普通はタービンから風が来るタイミングを読むのもそう簡単にはいかない。それをやってのけるからこそベルは天才と呼ばれている。

 

だが今回はそれが裏目に出た。

 

隼人のボムを同じように無力化するために、自分の前後で突風が吹くタイミングを読み取り、それに合わせて動いて盾とする。たとえ前から後ろからとボムを投げられたとしても、風に流して無力とするような態勢。

 

が、そのため身動きが取れなかった。

体重が300キロにでもならないととてもじゃないが耐えられないような突風。

隼人の新技、二度の方向転換を可能にするロケットボムに意表を疲れたというのもあるが、ただ逃げれないというのもまた事実。

 

結果として、隼人の投げたロケットボムは、確実にベルフェゴールに命中した。

だが、その結果に喜ぶツナ達とは違い、ヴァリアー側は難しい顔をしていた。いわゆる「やってしまった」というような表情。その表情の訳は、すぐに分かった。

 

「あ"はあ"ぁ~~~!!」

 

常識が吹き飛んだ、理性がなくなったような狂気を孕んだ声。

爆煙の中から聞こえて来たその声を聞いたとき、隼人は何が起きたのかと目を見張った。晴れた爆煙の中から現れたベルフェゴール。怪我もしてるし少なくない量の血も流れている。にも関わらず、彼の顔に浮かんでいるのは苦悩の表情ではなく、むしろ逆。愉快そうに、快感そうに、狂ったように笑っていた。

 

「自分の血を見てから始まるのさ。切り裂き王子(プリンス・ザ・リッパー)の本領は」

 

そう言ったマーモンの声は、彼らは聞いたのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ベルは自分の血を見ると狂ったように興奮し、狂人となって本領を発揮する。

 

ベルはとある王国の王子だったのだが、彼には自分に瓜二つの双子の兄がいた。

 

そう、いた。その兄は、ベルによってメッタ刺しに惨殺されたという。

 

その時の殺しの快感が忘れられず、ベルは暗殺部隊ヴァリアーに入隊した。

 

ベルが自分の血をみて興奮するのは、自分が殺した兄の姿をその血に見るから。

 

幼少のころ自らが行った殺人。まだヴァリアーの修練などせず、任務などしたこともない、そんな子供が自らの兄を手にかけた。ベルの天才的と言われる殺しの才が現れた瞬間だった。

 

自分の殺した兄の影を、傷ついた自分の血から見る。

自分の幼少を振り返り、身体能力関係なしに最も天賦の才が冴え渡り、殺すことに最もたけた時代が蘇り、ベルの技は鋭さが増し、動きにまったくの無駄がなくなり、彼の殺人鬼としての本領が発揮される。

 

子供のように無邪気でむき出しの残虐性が、今のベルにはよく出ていた。

 

「ロケットボム!」

 

再び飛び交う突風をものともせず方向転換して回避し、ベルに向かってまっすぐ飛ぶボムの嵐。先ほどと同じ光景、だが結果は全く違った。

 

「!」

 

ふらりとしていたかと思うと、前に向かって駆け出す。

ロケットボムの隙間に体を入れるように走り、すれ違い様に目にも止まらぬナイフ裁きを持ってボムの導火線を切り裂く。さらに数本のロケットボムは、あえて導火線をそのままにして後ろに流す。

 

ダイナマイトという性質上、導火線を伝って中の火薬に火が届くまで爆発はしない。隼人はそこも計算してピンポイントで爆発するようにスピードや導火線の長さに火の強さ、相手に届く時間など変えて相手に投げつける。

 

そのため、今回のベルのように、爆発予想地点であった最初にベルの立っていた場所から前に向かって動くことで、爆発地点を自分の後ろに持ってくる。そしてベルが目の前を通っている突風に向かって跳んだ時、タイミングよく後ろで爆発が起きる。あらかじめ手をつけていなかったダイナマイトと、前にでた自分の近くで爆発する可能性のあった導火線を切ったダイナマイトも連鎖的に爆発し、爆風が生まれる。

 

ベルが跳んだと同時に起こったその爆発は、ベルを後ろから高く持ち上げるように、そしてそのまま隼人の元に向かう。

 

動きに無駄がなくなっている。

これがヴァリアーの中でも天才と呼ばれるベルの本領か。

 

「ししっ!」

 

前に進みながらナイフを投げつける。だが突風に阻まれ、さっきまでの隼人よろしく、ベルのナイフは隼人の顔の横を通るだけで当たっていない。

 

バシュ!

 

(なに!)

 

が、ナイフに触れてないはずの隼人の顔には、行く本もの切り傷ができていた。

 

今のはナイフとワイヤーの応用技。ベルのオリジナルナイフの柄頭には小さな穴があり、そこに細長いワイヤーを通して投げつける。隼人の横をスルーして通ったがそのあと、隼人の後ろの突風にぶつかり横へと流れる。そのため、必然的にナイフが横に流れるのと同時にワイヤーも横に流れて、隼人の顔に当たって切り傷を生む。

 

ツナ達がまだ分かっていないのは、ベルの戦術をナイフとワイヤーの別々に考えていることと、最初のワイヤーが問題。最初のホーミングのタネを知ったため、ベルは隼人に攻撃を当てる為ワイヤーを使用した、という認識が生まれた。

 

つまりこれにより、「ベルは普段はナイフを使っているが、策に応じて様々な道具を使う」とういうよう認識にもとれる。だからこそ、最初から知っている俺やヴァリアー連中と違い、まだまだ隼人の顔に切り傷が生まれたわけが分かっていない。

ベルの基本戦術が、ナイフとワイヤーを両方併用した戦術をとっているということをあまり考えなかった。

 

そして、座り込んで思考をしている隼人の前に、疾走していたベルがナイフを手に飛びかかってきた。

 

「どっかーん!血ぃ!」

 

血に濡れ、ナイフを持つその姿は、まさに狂気に満ちていた。

 

ピシ!

 

だが、隼人もただではやられない。

右手首のリストバンドに仕込まれた人差し指程の大きさのミニボムを、ベルと自分の間に入れ、衝撃に耐えるように腕をクロスにする。

 

ドゴン!

 

「肉を切らせて骨を断つ、か。小さいけど痛そう」

 

隼人の策略に、飛びかかったベルは小さい爆発をモロに喰らう。隼人もガードしたとはいえダメージは受けてるはずだ。

 

あのままだったら確実に隼人は殺られていたからな。多少の怪我は覚悟すれば、相手にもダメージを与えられる。

が、ベルは一度倒れたが、またすぐにむくりと起き上がっていた。相変わらず酔ったように楽しげに笑いながら血を流す。

 

脳内の快楽神経のエンドルフィンの多量分泌により、正気を失って痛みも鈍く、というか感じてないな。

 

隼人はベルと違って傷つけばその分動きが鈍る。それに比べベルはかなり動けるが、やつとて不死身というわけではない。

どんなに意識が元気だろうと、怪我をすれば動かせない部位だって現れる。つまり、だんだんと動きが鈍くなっている隼人か、しばらくは元気に動けるが、限界が来たら動けなくなるベル。早めに決着をつけないと、傷がすぐに動きに影響する隼人が不利だな。

 

ベルの攻撃のタネが全部見抜けてないから、隼人は一旦図書室に隠れたが、すぐに廊下側の窓から牽制するようにナイフが何本も中に放たれ、そこからベルが飛び込んで来た。

 

「飛べば身動きがとれねぇ、喰らいやがれ!」

 

ベルが空中にいる時を狙い、ボムを放つ。

明らかに避けることができないタイミング。だが、ベルがナイフを何本も投げると、あるものは縦に、斜めに、横にと、投げられた幾本ものダイナマイトがベルに届く前に切り裂かれた。

 

「!」

 

「ああ!また当たってないのに!」

 

確かに不思議、だが隼人は考えている。さっきのベルの反撃は、明らかに切り口の方向、切られた箇所など不自然な点が多すぎる。

あとはどうやって答えにたどり着くか。

 

「反撃開始ぃ~っ!!」

 

ヒュヒュ!!

 

図書室に入り込んできたベルは、ナイフを何本も隼人に追いかけながら投げつける。いくらか当たるが、外れるものもある。ひとまず攻撃をくらうのはまずいのか、隼人は逃げる。

 

「妙だと思わねーか?」

 

シャマルの肩に座っていたリボーンが言う。

 

「ああ、敵はわざと外してるようにも見える」

 

シャマルの言う通り。さっきまで無駄のない動きだったベルなのに、隼人が避けようが避けまいが構わず投げている。かすったものも、外れたものも、図書室にある本棚に突き刺さる。

狭い本棚と本棚の間を逃げる隼人の動きが、急に止まった。

 

「獄寺殿!止まってはダメです!」

 

「速く逃げないと!」

 

「いや、これじゃ逃げれない」

 

「え!?」

 

モニターじゃ見にくいが、今の隼人の周りには、大量のワイヤーが張られていた。一本一本がごく細の営利なワイヤー。まさに見えない凶器、刃物の檻。

 

うかつに動けば全身が切り刻まれるほどに凶悪なトラップ。いつこんなのを仕掛けたのかというと、先程からベルが無駄に投げていたナイフ。

 

図書室に入る前からベルのナイフの柄頭には全てワイヤーが取り付けられていた。そのため図書室に入る前に投げ入れたワイヤーも壁や本棚に突き刺さり、空中に設置、そのあとに隼人の投げたダイナマイトは、不自然な方向に切断された。全て空中に仕掛けられたワイヤーに触れたために切れたということ。

 

それと同じ要領で、逃げる隼人に投げつけ、余分に投げつけ、ついにはワイヤーで隼人を閉じ込めることに成功した。天才的な殺しのセンスに、常人に不可能なことを成し遂げる体技、そして獲物を確実に仕留める為の策をはる戦略。全てにおいて、ベルは確かに天才と言ってもいい。

 

「ししし、おっしま~い」

 

見た目はボロボロだが、余裕そうに楽しそうに、隼人の敗北宣言をした。だがベ

ル、それは早急すぎるぞ。

 

「お前がな・・・」

 

「?」

 

ヂヂヂヂヂヂヂ。

何かの音が隼人の足元からする。

線状の火薬の糸が何本も隼人の足元から伸び、周りの本棚のしたまで伸びている。さっき立ち止まった隼人が落としたライターの火が、隼人の足元にある火薬の線の大本を燃やしたことで、導火線のように本棚のしたへと火がうつる。

そして、

 

ドガガガガ!!

 

足元から爆発した本棚は傾き、倒れ、本棚に取り付けられていた為、ピンと張られたワイヤーは弛んでしまった。これでは切り裂くことはできないな。

 

隼人は途中から、ベルのワイヤーのトリックを見破っていた。

そのため、本棚を使ってトラップを仕掛けると予測し、あらかじめベルに切られた

ダイナマイトを持ち、火薬をこぼしながら逃げ回った。

そして隼人の策は、ベルの策を打ち破った。

 

「そして、このボムの行き先は」

 

ロケットボムを構え、一斉に投げつける。

だが隼人の手から放られるのではなく、一直線にある場所に加速して向かう。

 

「てめーのワイヤーに案内してもらうぜ!」

 

周りに張られたベルのワイヤーに、フックをつけたダイナマイトを引っ掛ける。

全ての糸はベルから放たれ、策を作り出す。ベルによって行われた行為は、今この場を持って自らの首を絞めることになる。

 

最初のベルのナイフは、隼人に取り付けたワイヤーを伝って突き刺さった。今回はその逆、自らの体から出した糸を利用され、必ずベルのもとへ行くように糸を使われた。

 

咄嗟に糸を切り離すこともできず、全てのロケットボムは加速して糸を手繰り寄せ、ベルへと真っ直ぐに向かった。

 

「これが、嵐の守護者の怒涛の攻めだぜ」

 

ドガガガガガン!!

 

 

 

 

 

 




次回で嵐戦もラストだ!

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