「ずずず、ぷは。さてと。全員そろったか」
「もしゃもしゃ、ごっくん。そうだな」
「バリバリ。あ、おかわりあるか?」
『お前らの緊張感のなさは呆れるな』
光努、リボーン、家光、灯夜。
時刻はほとんどの人間がまだ夢の中を彷徨っている午前3時。モニター上の灯夜と、丸い机を囲むように座布団の上に座る光努達三人。光努は湯呑に入った暖かい緑茶を、リボーンは爪楊枝に刺さった芋ようかんを、家光は皿に入った海苔煎餅を手に、モニターの中の灯夜はカメラ越しにそんな三人を見てすでに疲れたような表情をしていた。
「じゃ、会議とやらを始めるか」
***
場所は黒道邸の一室。
家の住人、朝菜、夕輝、リル、コルの4人は当然のごとく眠っており、静寂に包まれた家の一室だけ灯りがついていた。
10畳程の和室の中央に置かれているちゃぶ台。壁際にはいくつかの機械が積まれ、そこから伸びたコードは畳の上を貼ってちゃぶ台の上にまで伸びている。
上にあるのは小さめのモニター。
そこに写っているのは家主、黒道灯夜。
どこかのホテルのような一室が背景から見てとれる、黒いスーツをきた灯夜がモニターに写っていた。モニターのそばにあるカメラからこちらの様子も分かることだろう。そして灯夜の映るモニターと一緒にちゃぶ台を囲むように座っているのは、イリスファミリーボスの光努とボンゴレ門外顧問家光、さらにツナの家庭教師リボーン。
メンバーがメンバーだけに一体何事だというメンツだが、内三人があまりにも普通に寛いでいるのでモニターの向こうの灯夜は嘆息している。
「さてと、定時連絡を先に済ませるか」
「今回のヴァリアーとの晴れのリング戦。勝者はツナ側の守護者、笹川了平。少々
危なかったが辛くも最初の勝ち越しだな。ちなみにルッスーリアは暫くは動けなさそうだ」
「弱者は消す・・・か。まあ確かに弱いものを切り捨てれば必然的に最強にはなっていくが」
家光の報告にその場にいなかった光努はつぶやく。
「それで、そっちはどうだったんだ?光努」
「ああ。いたのは数人の部下と"暗殺者"という名の殺し屋、アドルフォ。リング戦が終わったらすぐに帰っていったな」
"暗殺者"アドルフォ、という名前が出たとき、家光の眉がピクリと動いた。表情に
出さないが、リボーンも何かを感じたようだ。
「アドルフォか。面倒なやつが出てきたな」
「確かに。口調は面倒だけど、あいつの実力はにやばい部類だ」
「それで、結局あいつらが何者かはわかったのか?」
自分以外で知っている風な口調をするのが癪だったのか面倒だったのか、光努はモニターの灯夜に訪ねた。
『どこのマフィアかはまだ捜索中だ。だが、
「やっぱりか」
「そいつは面倒なことになってるな」
「で、墓造会って何?」
『お前と戦ったアドルフォの所属する組織でな。簡単に言うなら殺し屋派遣会社っ
て言ったところか』
墓造会。
トップ不明。組織構成不明。所在地不明。
唯一わかるのは、殺し屋を他の組織に派遣するということ。
しかし派遣といっても連絡手段は全くの不明。
この組織のメンバーがどういう経緯でマフィア達と接触しているのか全くわからないのも謎の一つである。
他にわかっていることはこの墓造会のメンバーが一筋縄じゃ行かないという事。
後は幾人かのメンバーの名前。
「それで、今は誰が来ているかはわかるのか?」
『今のところ確定しているのは、"暗殺者"が日本に、"道化師"、"棟梁"がもうすぐ日本に来るというところだ』
「本当に面倒だな。しかしまずいな・・・」
「ああ。今は目下ヴァリアーと交戦中だし、横から狙われたら厄介だな」
「ま、その為の俺らなんだけどな」
光努がなぜ昨夜アドルフォと戦っていたのか。
原因は、奴らの狙いがボンゴレであるということ。
そして家光からの、イリスへの依頼。
本来なら狙われたのがボンゴレなのだからボンゴレ内で解決したいというところなのだが、そうも簡単な話ではない。
現段階でヴァリアーが好き勝手に行動を起こしているということは、ボンゴレ本部の方がそれを容認、もしくは手が出せない状態であるということ。
チェルベッロという謎の組織、動向の探れない9代目、ボンゴレは現在不安定な状態なのは確実である。
つまり、ボンゴレからの救援はあまり宛にできないと言ってもいい状態。
頼れるのは、門外顧問組織の数人と現在日本にいる同盟ファミリーであるキャバッローネとその他、後は個々に己を身を守ること。
なので、同盟ではないが確かな戦力、イリスの助力を頼った。
その為、並中の周りを警戒していた家光達門外顧問組織、ディーノ率いるキャバッローネ、そして光努。
あの日光努のところ以外にも来ていた人物たちは家光たちのところにも来ていた。無論家光はツナ達に気づかれる前に片付けてリング戦に合流したのだが、光努のところには手練が一人来たのだった。
「もしも戦いの後で来たら面倒だな。戦った方はどちらも疲弊してるだろうし。ヴァリアー側に至っては助け合いとかなさそうだしな」
「そうだな。ツナ達もまだ特訓は終わってないしな」
『ひとまず俺は敵を探る。それまでは警戒をしておいてくれ。時期に槍時もそちらに向かうだろう』
槍時とは、海棠槍時。
イリスの誇る戦闘部隊『アヤメ』の一人。
単体でマフィアを一つ、あるいは軍隊を敵に回しても勝ち越せるだけの化物並みの戦闘能力を持つ人物である。いつ頃に合流するかは今のところ不明だが、来たのなら光努達にとってはかなり助かる。
「あいつが来るのか。それまでなんとかするか」
「そうだな。ディーノ達にも俺から言っておくぞ」
「じゃあ今後の方針は、敵はリング戦の最中を狙ってくるみたいだし、その時には十分に警戒するか。それにツナ達にも話しとくか」
「ああ。一応日中の間にも狙うかもしれないからそこも警戒しないとな」
「ヴァリアーにも話しとくか?」
「あいつらが話を聞くような奴らとは思えないけどな。ていうか多少の敵なら返り討ちにしそうだし」
『まあ奴らは奴らでなんとかするだろう。今は自分たちをなんとかしないとな』
敵の正体は灯夜に任せるとして、光努達はリング戦に集中するツナ達の周辺の警戒。
一応はこのスタンスで行くことが決まったのであった。
「それにしても、わざわざこんな時に来なくてもいいのにな」
「まあボンゴレを落とす絶好の機会っちゃ機会だしな」
「ていうかそのどこぞマフィアの目的ってボンゴレ潰すことなのか?」
『まあ絶対とは言い切れないが、ボンゴレが狙われてるのは確かだな。一応光努も気をつけろよ』
「ああ。気をつけるさ。リング争奪戦を潰させてなるものか。あんな面白いイベントを!」
「おい、本音が漏れてるぞ」
「できればヴァリアーが負けるところを是非とも見てみたいが、あの中の何人かは自分で叩き伏せたいとも思ってみたり」
「とんでもねーこと言ってるな」
まあなんにしてもひとまず警戒は怠るなということで。
ガラリ。
『「「「!」」」』
突如空いた襖。
何者かと空いた襖の方を見るとすぐに警戒を解いた。
「ん~・・」
とろんとした目を擦りつつ、歩いて入ってきたのはリル。
黒い艶やかな髪はところどころはねており、寝起きなのがすぐわかる。
左手に持っている抜き見の小太刀を見たとき、家光が一瞬固まったのは余談である。というか普通は寝る時に刃物を持たない。
「おはようリル。ほら、顔洗いに行くよ」
「ん~、おはよ・・・こーどぉ?」
光努が立ってリルを抱えると、リルも光努に気づいたのか、でも眠そうに片目を開けてぽーっとしている。
「コルはどうした?」
「こる?ねてる?」
「疑問形なんだ。じゃ、そろそろ起こそうか」
「うん・・・」
外を見てみると、空もそろそろ明るくなり、早いものなら起きてくる時間帯。
といっても普通は8歳の子供が起きてるような時間帯ではないのだが、リルとコルに常識は通用しなかったらしい。
灯夜もモニターをオフにして、今夜の会議をお開きとなった。