『人間大砲の威力は人によって変わるぞ』
「確かこの辺だったな」
手に下げたビニール袋の中にあるのは二つのハーゲンダッツ。これだけ見るとあたかもコンビニに行ってアイスを買ってきた帰りみたいだが光努が行ってきたのはマフィアの屋敷。
ディーノに平和的にもらったアイスを持って再びこの地へやってきた時の森の中へ戻って来た。
「おっかえりー♪」
声をかけて来たのは赤ん坊姿のハクリ。いつからいたのか、もしかしたら最初からいたかもしれないな。
「ほらよ。2個もらったから一つな」
袋から取り出したアイスを放り投げるとハクリはうまくキャッチして蓋を開けてすぐさま食べ始めた。
え?仮面があるのにどうやって食べたかって?箱ごと仮面の下に入れて数秒したら空っぽの箱と蓋だけ取り出したよ。正直ドン引きだ。まあこいつの奇行にはもう慣れっこだけどね。
「いやー、やっぱりアイスはうまいな。特にハーゲンダッツはうまい」
「それでこれからどうするの?」
「大丈夫。この世界はなるように出来てるからな。それとこの世界の人間に別世界の話はするなよ」
「なんで?」
「もし話をしたその瞬間」
「どうなるんだ?」
「世界が歪むかもね」
「歪むって・・・」
「わかったか?それじゃあそいうことでちょっと行くか、来い」
「は?」
光努はハクリとともにまた炎に飲まれて消えた。
***
ここは秘境ともよばれる程の森。巨大な木が生い茂って入ったら迷いそうである。
そんな森の中にぽつんと置かれるように木の影になるように目立たないように家があった。
石造りでできた2メートル程の立方体の建物。窓の類は無く、石でできたドアだけがあった不思議な家だった。
「なんだこれ?随分とシンプルなデザイン。古代人の家?」
「まあ確かに昔の物だけど。それより中入ろう」
家の前にいたのは先ほどイタリアの某所から移動した光努とハクリ。
妙な森の中、妙な石造りの家とも呼べるか分からない小さな建物に入る二人。
鍵は特にかかってないらしくドアを開けて普通に入る。
入ると目の前には地下へと続く階段があった。
コツンコツン。
「ここって昔の遺跡か何かか?」
「もちろん。かれこれ100年以上は軽くたってるかな」
「それにしては・・・・・・随分と綺麗だな。最近綺麗に加工されたばっかりみたいだぞ」
「ふーん。不思議だね~♪」
(こいつ絶対何か隠してるな!)
そうこうしているうちに階段も終わって地面に降り立つ。幅は約1メートルほど。目の前には地面にくっついている大きさ30センチ程の立方体の石でできた箱。
「なんだこれ?」
「(にやり)光努、ちょっとこの箱壊してみてくれよ」
「ん?まあ別にいいけど」
そう言って光努は足を上げて箱の上に振り下ろした。
ガアァン!!
「!?」
光努の足のしたにはヒビ一つない石の箱があった。
光努の力なら石程度、簡単に砕くことができるはずなのに目の前にある石には壊れるどころかヒビ一つ見当たらなかった。
「なんだこれ?そんな頑丈には見えねーぞ」
「ククク、アッハッハッハ!そりゃ無理だよ」
「・・・・・・どういうことだよ」
「とりあえずこの石造りの箱も、この空間も、建物も全て力だけでは崩れないようになってるんだよ」
「それわかってて壊してみろって言ったのかよ・・・・・」
「アハハ、まあいいじゃないか。それよりその箱に触ってみてくれ」
「こうか?」
光努が手の平を箱の上に乗せると箱が光った。
「な!?」
そうすると光努の体から何かが溢れ出た。
「これは!白い炎!?」
「予想通りだ。光努、危険じゃないからそのまま待ってろ」
「マジかよ・・・」
光努の体から出た白い炎が箱に吸い込まれていった。すると箱の蓋がひとりでに外れて床に落ちた。
「箱が開いた!ハクリ、今の炎はなんだ?」
「とりあえず中身見てみー」
「ん?なんだこれ?」
入っていたのは小さい箱。それ以外何もない。
箱を取り出して開けて見ると中に入っていたのは一つの指輪だった。
中心に透き通るような白い石がはめ込まれて装飾の施された指輪だった。
「指輪?」
「おー、おめでとー。それ今から光努の物だからね」
「え、マジ?もらっていいのか」
「開けたのは光努だからな。大事にしろよ」
「・・・まあもらえるのならもらっとくよ」
「じゃあこれで首から下げとけば?」
ハクリが銀色のチェーンを取り出して光努に渡した。準備がいいなと思いつつ光努は指輪をチェーンに通して首から下げて服の下に入れといた。
「じゃあ、封印開放したところで」
「封印開放?おい、これ開けて良かったのか・・・・・ってちょっと待て!」
光努はそこでハクリの出した炎に飲まれて消えた。
***
白い雲が浮かび、太陽だよく出ている晴れ間。
誰かの所有地なのか、どこなのか、広大な敷地の中央ほどに位置する大きな屋敷。
その玄関前からなにやら楽しげな子供の声が聞こえてきた。
「「隊長ー」」
話しかけたのは2人の子供。およそ小学生くらいの少年少女。
二人とも傍から見たら同じような顔をしているのでおそらく双子だと思われる。
お互い肩にかかる程度の少し長めの黒髪をして似た髪型でいるからやっぱり傍から見たら服装しか違いがわからない。若干女の子のほうが活発そうかなという程度。
「どうした、リコール」
答えたのはそばにいた男性。
黒い髪と黒い背広。ネクタイまで黒い黒ずくめの20代から30代程に見える男性は、声をかけてきた双子の方を振り向いた。
「あたしはリルだよ?」
「僕はコルだよ。略さないでよ」
「そうだな。ちなみに俺は隊長じゃなくて灯夜だ」
「ねえ灯夜ー」
「どうしたコル」
「なんか降ってきたー」
「降ってきた?」
ドオォーン!!
その瞬間近くで何かが爆発したような大きな音が響いた。
「なんだ!」
「あー、落っこちた」
「空からね。びゅーんって」
「わかったわかった。それで落ちたのはどこだ?」
「火薬庫かダイナマイト倉庫か危険薬物保管庫のどれかかも」
「なんでそんな危険なところしか選択肢がないんだ!それで何が落ちてきた?」
「子供ー」
「多分中学生くらい」
「子供?じゃあ生きてないな。埋葬してこよう」
「自分だってやること早すぎ」
「ていうか考えすぎ」
たわいもない(?)会話をしながら落下物が落ちた地点にやってきた3人。
どうやら落ちた場所は危険な物がない建物だったようで特に爆発などはなく2階建ての建物が崩壊してるくらいだ。
「新しく建てるにはまずは瓦礫をどかさないとな。コル、リル、今すぐルイを呼んでこい!パワーショベルで一気に終わらせろ」
「いやいや、その前に人命救助が先でしょ!」
ドガシャーン!!
二人の子供と一人の男性が会話をしていると、話の中心に位置していた瓦礫の中から激しい音が聞こえ、内側から爆ぜるようにがれきが吹き飛び、中から人影が出てきた。
「灯夜、誰かいるよ。生きてるよ。びっくり(棒読み)」
「ホントびっくりだね(棒読み)」
「お前たち、絶対驚いてないだろ」
ガラガラガラ。
瓦礫を外側に押し出しながら一人の人間が出てきた。
柔らかそうな白い髪をした中学性くらいの少年。体のあちこちくっついた瓦礫の破片が立ち上がって動くたびにこぼれ落ちた。
「あー、ついてないな。あのヤロー・・・絶対後でシめてやる」
誰にも聞こえないくらいに呟かれたその言葉には明らかに殺意が含まれていた。
「灯夜ー。ほらほら。私の言ったとおり」
「そうだな。どこの子供だろうか。ひとまず無事なところを見るとただの子供じゃないみたいだな。リル、コル、迎撃だ」
「いいの?」
「やっちゃって?」
「子供には子供。あいつが敵かどうかも分からないからな。ひとまずあいつを戦闘不能にしてから事情聴取だ」
「普通逆じゃないの?」
「気にするな。行ってこい」
「「りょうかーい」」
双子の姉弟は瓦礫の山に向かっていった。
***
光努side
「あー、ついてないな。あのヤロー・・・絶対後でシめてやる」
さすがにこう何度もポンポン飛ばされると温厚な俺も怒っちゃうぞ?
しかしあの移動術は是非とも覚えたいな。いろいろと便利そうだし。でも俺炎を出す曲芸とかできないしな。どうするか?やっぱ直接ぶっ飛ばすしかないよな。
「それで・・・殺気はないけど何の用かな。少女よ」
「てい」
脚をかがめてしゃがむとさっきまで頭のあったところを刀が横に通った。
いや。刀だけどあの大きさだと脇差、いや小太刀?。使い手が子供だから普通の刀に見えたよ。
後ろを振り向いたら黒髪の女の子が脇差を振った状態で止まってた。
「あれ?避けられちゃった」
「なんの用だい?俺は別に父親の敵ってわけでもないぞ?」
そう言いながらその場で飛び上がるとさっきまでいた場所に今度は後ろから別の刀が突かれた。そのまま一回転して少し離れて地面に降り立つと眼前には脇差を一本ずつ構える同じ顔の少年少女(どっちがどっちかは服装からすぐわかった)がいた。
「迎撃ー」
「いざ尋常に」
どうやら俺を迎撃するみたいだ。なんでか知らないが。ここ私有地だったのかな?だった悪いことしちゃったかな?建物一戸壊しちゃったし。
「まあ待て待て。ここは話し合おうじゃないか」
「むりー」
「灯夜が事情聴取は戦闘不能にした後だってさ」
「ふーん。つまりどうあがいても戦えと」
「「あったり~」」
「はぁ・・・」
しょうがないな。子供相手に気が乗らないけど。
「軽く説教でもしてやるかな♪」