特異点の白夜   作:DOS

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『黒曜組特訓後編』

 

 

 

 

夜。

 

どっぷりと暗くなり、暗い山の中を俺たちは歩いていた。

朝菜にはすでに連絡してあるので問題ない。

しかしなぜ俺たちが帰らないのか?それは帰り道がわからないという理由。

普通に一本を歩いているはずなのに、気がついたら妙な道を歩いている。

クロームの感覚で言うと、幻覚に近い何かが自然に張り巡らされているらしい。

 

幻覚そのままではなく、幻覚ではない別のものを混ぜ込んで、より複雑な迷宮に山が改造されてるみたい。つまり簡単に言ってしまえば、この山は普通に迷宮だが幻覚でブーストされてさらにめんどい。

 

ヒュヒュヒュヒュ。

 

上から降ってきたのは槍。数十本もあるほどの大量の槍。

だが目を凝らすと、もっと少なく見える。

まるでちゃちな3D映像みたいに違和感のあるほどぼやけた姿に見える。ようは幻覚。あの槍の半分程は幻覚で出来てる。

なるほど、確かに術師の特訓もできるな。

 

「クローム、犬、千種!本物だけを叩き落せ!」

 

「わかった!」

 

「へっ、軽いびょん!」

 

「・・・わかった」

 

クロームは骸の持っていた三叉槍を匠に振るい、落ちてきた槍を叩き落とす。

あの槍は先ほどの歯車よりも威力が低い。それにクロームの動き、骸が使用していた六道輪廻の能力の一つ、格闘能力の修羅道。

犬はコングチャンネルにより、槍を掴み、叩き折り、へし折る。

千種もヘッジホッグでうまく槍を彈く。

そこまで苦もなく三人は飛んできた槍を全て叩き落とした。

 

幻覚でできた槍は無視し、落ちてきた幻覚の槍は霧が晴れるように霧散した。

 

ところでなぜこの三人に任せ俺自身は何もしないのか?

答えは簡単、両手がふさがってる。それに素早く動けない。これじゃ躱しようがないよな。少し嘆息するように、目の前と背中にあるものをちらりと見る。

 

「むにゃ・・」

 

「すー、すー」

 

背中でおんぶするようにコルが、正面で抱っこするようにリルが寝ている。

そりゃもう深夜だしな。この二人はいつもなら寝てる時間帯だし。

おかげで機動力が落ちてしまったが、

 

「「すぅ、すぅ」」

 

ちょいちょい、にょーん。

 

子供の頬って割と伸びるな。

まあ黒曜組が何とかしてくれるから大丈夫だな。

 

暫く歩くと、洞窟のような物が見えて来た。

洞窟というかなんというか、周り全てレンガでできてるような作りの洞窟。

山の中だとかなり違和感あるな。

 

「よし、中に入ろうか」

 

「でも、多分中も罠だらけ」

 

「つっても外も罠だらけなんらけどね」

 

「別にどっちでもいい」

 

「じゃあ中入るか」

 

カツンカツン。

 

レンガ造りの洞窟を歩いていく。

壁の所々に松明があり、炎が灯っていたので特に問題もない。ていうか今のところ何もないな。かれこれ洞窟に入って10分くらいだけど、罠らしい罠が無い。

 

こいつは一体どうしようかと思ったら少し広い部屋に出た。

しかしその部屋でも特に罠らしいものもない。部屋の向こうには続きの通路も見える。

 

一旦ここで休憩するか。何事も、やりすぎるのは良くないからな。

 

「ん?なんかあるびょん」

 

と思ったら犬がそんな声を上げる。

 

部屋の隅にいた犬の元へ皆で行くと何やら壁にくぼみがあり、その中にスイッチのような物が備わっていた。妙なものがついていたが、さらに妙なことにこのスイッチには押したあとのような痕跡がある。

 

「・・・・犬」

 

「なんびょん柿ピー」

 

「これ・・・もしかして押した?」

 

「?問題あんの?」

 

「・・・・・・」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

 

「な、なんびょん!」

 

「多分100%お前のせいだよ」

 

「犬・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

異変はすぐにわかった。見れば一目瞭然、バカでもわかる。しかも簡単なこと。

 

壁が動いている。

 

左右の壁が挟むように迫ってきている。が、特に問題はない。

なぜなら、迫っている壁は少し広いこの小部屋の左右の壁のみ。しかも速度はあまり早くない。なのでこのまま奥の通路に入れば簡単に回避出来る。

というわけで普通に歩いて通路に入ると、後ろの方で壁同士がゼロ距離になり入口がふさがってしまった。

 

「「「・・・・・・・」」」

 

 

「よし!あとは先に進むだけびょん!」

 

「開き直るな!」

 

ガン!

 

「ぎゃん!」

 

よし!犬は置いといて、行くぞ!

 

ギュルルルルル!

 

「この音、何?」

 

「もしかして・・・」

 

ギュイイィイィィン!!

 

先ほどの超高速歯車が飛んできた。

――――――――――――さっきの倍の大きさで。

 

「うわああぁぁ!!どうするびょん!」

 

「・・・っ!」

 

「狭くてよけられないし、入口もふさがってる!」

 

「いいぜ、全員下がってろ!あとリルとコルよろしく」

 

クロームにリル、千種にコルを放り投げ、二人がキャッチしたのを確認して歯車に向き直る。

 

「光努!」

 

ボゴッ!

 

光努は壁に手を当て、レンガを一つ無理やり引き抜いて飛んできた歯車に視線を向ける。

 

右手に持ったレンガを、軽く中に放る。そして、ちょうど歯車が放り投げたレンガの横に差し掛かった時、光努は動いた。

歯車は光努の正面から接近し、その横には光努が投げたレンガ。到底レンガなんかで防げるものでもなく、投げた位置も横なので的外れ。

だが、光努はそのまま斜めにツッコミ、右足の膝を振り上げて、放ったレンガを間に挟むように歯車の側面中央に叩き込んだ。

 

ギイイィイイィィン!!

 

歯車はその場にとどまったが、まだまだ超高速回転したまま。

光努の膝と歯車のあいだにあるレンガがだんだんと削れてなくなっていく。

 

「光努!」

 

ついにレンガが全て削れてなくなった。歯車が再び正面に切り込む前に、光努は高速で膝を戻して拳を叩き込んだ。

 

「オラァア!!」

 

ガガアァン!

 

歯車が真ん中から真っ二つに割れ、壁に突き刺さった。

 

「おお!やった!」

 

「光努!手が!」

 

クロームがが見ると光努の右手の拳から血が滲んでいた。

レンガで威力を殺したが、それでも凄まじい程の回転速度だった。

 

「予想以上の罠だったな。・・・・・主催者いつかぶん殴る」

 

物騒なことをいいつつ、光努は懐から簡易救急セットを取り出すと怪我した手に包帯を巻きつけて処置を終えた。

 

それから俺たちは、あれよこれよと罠を突き進み、幻覚の街を破り、森を進み、そして頂上にたどり着いた。

 

やってきた場所には、森が切り拓けた広い場所。その中央には一つの灯篭がぽつんと建っていた。高さ3メートるはあるかというほどの大きな燈籠。

 

「ついに・・・ついに来たぞ!」

 

「うん・・辛い道のりだった・・」

 

「やっとついたびょん・・・」

 

「・・・・疲れた・・」

 

「わぁ、きれーい」

 

「絶景かな」

 

俺たちは疲れたと言ってるが、リルたちは山の頂上から見える朝日を見て目をキラキラさせている。少し前まで眠っていたからこの二人は元気だな。

燈籠の前に移動すると、すぐそばに看板が建てられていた。

 

『おめでとう。これで君も最強に一歩近づいた。帰りは燈籠の下にある階段から帰ってね☆』

 

イラッ。

この星マークすごくムカつくな。

リルとコル以外、この場にいた全員が思った。

 

ゴゴゴ。

巨大な燈籠はスライドして地中深くに伸びる階段が現れた。

 

「なんか終わりは随分とあっさりしてるね」

 

「ご褒美とかないのかびょん!」

 

「なさそうだよ、犬」

 

少し不満気に全員でブツブツと言いながら階段を降りて行き、少し通路を歩いてまた階段を上がる。そして天井がスライドして階段から外に出るとそこは、

 

「あ!鳥居だ」

 

鳥居のすぐ前から出てきた。

随分とあっさりと出てきたな。てっきり帰り道にも罠を仕掛けられていたのかと思ったが。

 

しかし本当に頂上まで登ったのに何か不満だな。

もっとレベルアップしたという分かりやすい物が欲しかった。

うん、やっぱり主催者に会ったらぶっ飛ばそう。

 

「さてと、帰って飯でも食うか」

 

「ひゃー、お腹すいたびょん」

 

「私も、疲れた」

 

「早くシャワー浴びたい」

 

「ご飯!ご飯!」

 

「眠い・・・:」

 

なんだかよくわからない試練をクリアして、なんだかよくわからないパワーアップをしたのでったとさ。

 

めでたしめでたし?

 

 

 

 

 





クローム、犬、千種は対幻覚能力、格闘能力、回避能力、反射神経、その他よくわからない力とか技術とかがぐんと上がった。

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