「ヴァリアー?」
その夜、黒道邸。あのあとディーノ達と別れ、家に帰って灯夜と話をしている。
「ああ。スクアーロはボンゴレの独立暗殺部隊ヴァリアー所属の男だ。やっぱこの近くに来てたのか」
「知ってたのか灯夜?」
「槍時に聞いてな。ヴァリアーが一人日本に来ていると」
イリスの戦闘部隊『アヤメ』所属の海棠槍時。
少し前に家に来た時に灯夜に封筒を渡してたけど、いろんな情報が入ってたみたいだ。というか知ってたなら教えろよ。そんな物騒なやつら。
「それでスクアーロは何しに来てたんだ」
「ああ、ボンゴレリングを奪って帰ったよ」
「ボンゴレリングを?」
ボンゴレリングとは、ボンゴレを継ぐものに受け継がれるというボンゴレの家宝。
つまり、10代目候補であるツナにいずれ渡されるはずらしいのだが、
「まさかヴァリアーが奪うとは。ボンゴレの方も大変みたいだな」
「まあ偽物みたいだから安心じゃないか?今のところはだけど」
「そうだな。その偽物がどれほどのものかは知らないが、すぐにでもヴァリアー本
隊が日本へと来るかもな」
いよいよと物騒な話になってきたな・・・。組織が大きくなると内部争いとか大変みたいだな。その点うちの場合はそもそも戦闘できる奴らが少ないし、企業が乗っ取られないように色々と細工してあるからとくに問題ないけどな。内部の企業、もしくは他企業が何かしてきたら・・・・・・・・・・みなさんのご想像にお任せしよう。というか他を寄せ付けないコンセプトでやってますからね。
ん?灯夜が何やら思案顔をしているが何考えてるんだ?
「そういえばまだヴァリアーには挨拶してなかったな」
「は?」
何かとんでもないこと言い始めたんだけど・・・・。
「もしヴァリアー来たらお前挨拶くらいしとけよ」
「今言うことかよ、それ・・・」
暗殺部隊って殺し屋だろ。あんなスクアーロみたいな戦闘狂がごろごろと来たら面倒だな。いや、でも標的はツナみたいだしいいか?
冷たいようだが、これも組織を守るため。許してくれツナ。
まあ個人的には興味大だからもちろん行くけどな。組織?いやいやただの社長のプライベートのことだから問題なし。ていうかよく考えたらイリスって同盟ファミリーがいないんだよな。
こちらから他のマフィアに好きに干渉していいという特権(勝手な解釈です。被虐に考えたら普通は孤立してると狙われやすい)。
「ま、明日になったら色々とわかるか」
「光努終わったー!」
バンと襖を開けて入ってきたリルが飛び込んできたのを、リルの入ってきた部屋からロープがリルに伸びてきた。
なんの、とリルがロープを一瞬で切り裂いたが、今度は向こうから硬質のロープが飛んできてリルをぐるぐるに巻いて元の部屋にリルを引っ張って言って襖がしまった。
「コールー!離してー!」
「はいはい、話の邪魔しちゃダメだよ」
「ルーイー!」
「会話くらい後で聞かせてやるから、マンゴスチン食うか?」
「食べる!」
襖の向こうからそんな会話が聞こえてきたが、まあ楽しそうだからいいかな。・・・・・・・・・いや待てルイ!お前今何て言った!
『ああ、ボンゴレリングを奪って帰ったよ』
あれ~、おかしいな。今襖の向こうで俺の声がしたような気がしたのだが。気のせいだよな?もちろん気のせいだよな?
『ボンゴレリングを?』
灯夜の声が聞こたきがするぞ!あれ、俺のそばにいるのは誰だっけな~。
灯夜だよ!俺の対面に座って茶をすすってるのは灯夜だよ!襖の向こうから聞こえるはずないだろうが!
「おい灯夜!」
「ん・・まあ、いつものことじゃないか?」
「プライバシーの侵害だろ!」
「大丈夫。重要そうな話にしか作動しないからプライバシーは侵害されない」
「もっととんでもないものが侵害されてるじゃないか」
『そういえばまだヴァリアーには挨拶してなかったな』
「ルイィィィィ!!」
襖を吹き飛ばして向こうの部屋に踏み込んだ。
「おい光努。ボンゴレ大変なことになってるみたいだな」
「それよりも今もっと大変なことが目の前にある気がするんじゃないか?」
「確かに、ボンゴレリング何て家宝が出てくるとはな。大丈夫かな」
「いやそれもだけどさ、お前今の声どっから出したんだよ!盗聴か?お前
絶対盗聴してただろ!」
「いや、会話を少し録音したのを再生しただけだ」
「同じだあぁぁ!!」
***
空が薄暗い。
深夜というには明るく、朝というにはまだ暗い時間帯。
どこかの川。
気温は肌寒く、川の水は冷たい。
そんな人のいなさそうな時間帯に一人の人間が川のそばに座っていた。
体格の良い男性。下は作業着を着て、上半身は白いシャツのみ。
座っている男の手には一本の釣竿。隣にはバケツが置いてあり、中には水と数匹の魚が入っていた。
「♪~♪~」
釣竿を持ち、鼻歌を歌いながら釣りを楽しんでいたのは、沢田家光。ツナの父親である。なんでこんなところでこんな時間に釣りをしているのかと言うと、朝から息子に釣り行こうぜと声をかけたけど断られたので一人で朝ごはんを釣りに来たのである。ちなみに朝といっても今の時間帯は4時くらいなのでツナが断ったのも当然といえば当然である。学校だって普通にあるし。
そんな家光がしばらく釣りをしていると、
「釣れるか?」
「まあまあだなぁ。けどこれ食えるのか」
「ちゃんとリリースしろよ」
後ろから声が聞こえた。家光はその声に従ってバケツを手に持った。
ポチャポチャ。
バケツをひっくり返して、取った魚を全て川に返した。
川に入った魚は元気よく泳いですぐにどこかへ行ってしまった。
「魚は無邪気だな。俺ももっと楽に生きたいな」
「サラリーマンにでも転職するのか?」
「ははは、冗談きついぞ。灯夜」
家光の後ろにいたのは、黒いスーツを着て立っている灯夜。
そのままスタスタと家光のとなりまで歩いてきた。
「まさかお前が日本に来るとは思わなかったな」
「おいおい、そりゃ俺のセリフだぜ?」
「しかもこんなところで釣りをしてるとはな」
「いや~、息子誘ったんだけど断られてよ」
「普通はこんな朝早くに釣りする奴はいないと思うが」
「だよな」
ガハハと笑いながら釣竿の糸を手繰り寄せて竿に巻きつける。
よっこいしょ、と言いながらバケツを持ち、竿を肩に担いで立ち上がる。
「随分と、面倒事を持ち込んだな」
「・・・・・・・まあな」
そう答える家光の眼光は、さっきまでとは違って鋭く、灯夜を見ていた。
「そっちの争いごと、もしかしたら家の奴が少し邪魔でもするかもしれないが、そん時はよろしく頼むよ」
「お前の所、今誰が来てるんだ?」
「今家にいるのが、リルとコルとルイ、そして光努だな」
「イリスの新ボスだったな。白神光努。面白い子供だって9代目に聞いたぞ」
にやり、と笑って光努の話題を持ってくる。
職業柄、多くの情報を入手している家光。まあそれとは別に9代目に普通に聞いた、というより新しくイリスのボスとなった光努はマフィア間で噂になっている。
まだ10代の少年が一マフィアのボスとなった。しかもそのマフィアが、大企業イリスとなればまた驚く。普通のマフィアのボスというだけもあれなのに、イリスは社長兼任何で割と噂は広まるのは早かった。
「まあな、面白すぎるのも時々問題なんだがな」
「いいじゃないか元気で。うちのツナも見習ってもらいたいもんだよ」
「中々難しいだろう。だが、俺も見てみたいな、お前の息子」
「俺もだ、お前のところの新しいボス。見てみたいな」
暫く、お互いの間で静寂が流れたが、ふっと空気が軽くなった気がした。
「ま、光努は今回の騒動には面白がってるみたいだけど、機会が会ったらすぐに見つかるだろう」
「そうか、楽しみにしてるよ。だがよ、もしかしたらヴァリアー連中何かしでかすかもしれないぜ?」
「・・・なあ家光」
「ん?灯夜?」
家光は思わず少し驚いてしまった。
横顔だけだが、灯夜には似つかわしくないほどに、微妙に口角を上げて少し、楽しそうに笑ってるように見えた。
「もしそれでヴァリアーに何かあっても、イリスは一切責任取らないからな」
「・・ふっ、そうか」
ボンゴレ門外顧問、沢田家光。ボンゴレファミリーの実質ナンバー2の男。
灯夜の言葉を聞いて、家光の方も楽しげに笑っていた。