「つーわけで連れてきた」
「久しぶりですね、灯夜さん」
「・・・・槍時か。お前の荷物が家に届いてたぞ」
そう言って取り出したのは少し前に届いた上等そうな大きめのケース。
「流石イリスの宅配業者。時間に正確でしたね」
灯夜から受け取って問題がないか確かめる。
「やっほーい!そーじー!」
玄関から入ってきた槍時に廊下の向こうからリルが飛んできて飛びかかってきた。
「久しぶりですねリル。はい、お土産のマンゴスチンですよ」
「わーい!やったー!」
どこからか取り出したのは黒っぽい果実のマンゴスチン。
見た目は黒っぽいが中の実は真っ白で結構うまい。
「あれ?槍時じゃん。珍しいな」
部屋から出てきたルイが槍時を見て少し驚いていた。
「いや、こっちのセリフですよ。ルイがここに居るとは思いませんでしたよ・・・」
逆に槍時の方は割と驚いているみたい。
まあルイのいつもがいつもだけにしょうがないけど。
「ああそうだ。灯夜さんこれ」
懐から取り出した封筒を灯夜に渡した。
「ふむ、確かに受け取った」
そう言って灯夜の方ももらった封筒をすぐに懐にしまった。
「灯夜、それなんだ?」
「ん?重要な書類だ」
「重要?見せて」
「まあ順序よく、ということでまた今度な」
そのまま奥の部屋に入っていった。
「けどボスになるなんて、もの好きなんですね」
「そうか?ボス面白そうじゃね?」
「イリスといえば社長も兼任するから大変ではないですか?」
普段は灯夜がPC一つで仕事ができるようにしているので光努はあまりあっちこっち行かずに仕事をしている。まあそれでもやることがいろいろとあるので定期的に世界中を飛び回る。学校の合間を縫って色々としていたのであった。学校にいるときでも普通にいろいろとしているのだが・・・・。
「仕事というのは割と面白いぞ」
「ちなみに最近した少し大きい仕事は何ですか?」
「とあるマフィアのところに一人で出向いて交渉しにいったら攻撃してきたので全員潰して有利に取引を勧めた」
「・・・・・・随分とまあ妙な仕事をしますね・・」
ちなみに、この仕事をするときに、灯夜の方で取引先のマフィアが割と好戦的で光努一人で出向けば絶対に取引を有利にしようと光努を攻撃してくると予想して光努を送ったので、正当防衛の攻撃で有利に取引を勧めたという計画的なことだった。
灯夜的に、ボスとなった光努の戦闘能力が高かったのも幸いとしたのでこんな仕事もたまにやるのである。まあ光努からしたらかなり不本意なんだけどね。
「ほら、向こうが暴力的に交渉しようとしてくるなら逆に叩きのめせばこっちがさらに有利に進められるわけ、こんなにいい話ってないと思うんだ」
(それはお前だからできることだろうが!)
と、寝転がっていたルイは思ったが面倒だったので口には出さなかった。
「ねぇそーじ~。パパはー?」
「は?」
唐突にリルが言った言葉に光努は珍しくポカンとしてしまった。
ていうか今のセリフは・・・・。
「クルドさん?今は確かアメリカの方にいるんじゃないでしょうかね」
「一緒じゃなかったの?」
「基本的に僕らは別々に仕事をしていますからね。皆でする時もありますけど」
「なあ槍時。一応聞くがそのクルドって・・・・」
「クルドさん?『アヤメ』のリーダーでリルとコルの父上のことですよ」
「・・・リルとコルって両親いたんだな」
まあ両親がいるかどうかわからない人間が多すぎるからそれもしょうがない。ツナの家には何者かもわからない子供だってたくさんいるし。
しかも『アヤメ』のリーダーときた。
「クルドねぇ・・・それであともう一人の『アヤメ』ってどこにいるの?」
「確か・・・・アフリカとかでしょうか」
「ワールドワイドな部隊だな。というかなんで三人しかいないの?もっと増やせば?」
「まあ理由としては、三人で事足りるからですかね。あまり多すぎても面倒ですしね」
「少数過ぎるのもどうかと思うけど・・・・」
「まあイリスは企業ですから、そんなに戦わなくてもいいのですよ。そこまで
強い組織が攻めてくるわけでもありませんしね」
確かに、と光努も思う。
実際普通に攻めてきたのは光努がイリスの本部にいたときに来たカルカッサファミリーくらい(他にも暗殺者とかもいたけど気づかず撃退した)でそれ以降は普通に取引にくるマフィアとか企業の人とかしか来ない。というかこれが普通で基本的に攻めて来るのは無謀かバカのどちらかである。
「まあ新しくボスもできたし大丈夫そうですね。こちらも期待してるんですよ、光努」
「ま、期待には答えるつもり。どんと来いや」
「フフ、他の二人にも教えてあげましょうかね」
そう言って手をパチンと鳴らすと、開け放たれていた窓から鳥が飛んで入ってきて槍時の肩に二匹停まった。
「キュイ」
「ジャグ、ルグ。よしよし、これ届けてくださいね」
頭部分が黒く、嘴と足がオレンジっぽい体が白と灰色の鳥。二匹の足に手紙を巻きつけると、二匹は入ってきた窓から出て行って空高く飛んでいった。
「あれは、アジサシ。確かめっちゃ飛ぶ距離の長い鳥だったな」
「槍時の鳥なの。ジャグとルグだよ」
「ちなみにジャグがお兄さんでルグが弟なのですよ」
「いや、どっちがどっちかわかないけど・・・」
さすがの光努も初対面の鳥のどっちが兄でどっちが弟か判別するのは不可能であった。
***
「中々楽しかったですよ光努。そろそろ僕は行きますね」
そう言って肩に大きいケースを背負って玄関にいるのは槍時。
夕食は食べていったけどまだ用事があるそうなのでそろそろ出るそうだ。
ちなみに、あのケースの中身は何か聞いたけどまた今度と言われてしまった。
「槍時、どれくらい日本にいるんだ?」
「そうですね、もうしばらくは。機会が会ったらまた顔を出しますよ」
「じゃーねー」
「またねー」
「気をつけてくださいね」
「また来いよー」
光努を含めた皆に見送られ、槍時は夜の闇の中、黒道家をあとにするのであった。
***
コツコツ。
真っ暗な夜、街灯の灯りしか光源のない道路を歩く足音が響く。
「いやはや、新しいボスというのもいいですね。灯夜さんはこれで正式な副社長ってところでしょうか」
海棠槍時は気分よく、先ほど会っていた新しい自分のボスのことを思い浮かべながら自然と笑みを浮かべる。少しズレ落ちた後ろの荷物を背負い直しながら、目的地のホテルの中に入る。
数階建てもある大きいホテル。光り輝く高級感の溢れる場所だった。
ガシャン。
「!」
入った瞬間、入口の扉がしまった。そして上から防護シャッターが降りてきて完全に入口を塞いだ。よく見たら周りの窓も全て閉まり始め、あっという間にホテルの中は完全な密室となってしまった。
「『アヤメ』の海棠槍時だな」
「あなたは・・・ルチェルトラファミリーのボス、ヴィンゴ」
ホテルの二階の通路から槍時を見下ろすように現れたのは、一人の男。オールバックの黒髪に黒い髭を蓄え、黒いスーツを来た黒ずくめの男。
あまりいい噂を聞かないルチェルトラファミリーのボスである男。
目元にある傷と、その眼光からは威厳が感じられるがあまりよい雰囲気ではない。
「僕はここに別用で来たのですけど、何か用ですか?」
「まさかこんなところに一人でのこのこ来るとはな。所詮は『アヤメ』というのも
噂に過ぎないということか」
「それはどういう」
パチン。
ヴィンゴが指を鳴らすと、あちこちの扉が開き、奥の通路から黒服の男達がぞろぞろと現れた。中には軍人や傭兵のような人物、明らかに下っ端とは思えない程の人物も混じっている。手にはそれぞれ、銃やナイフ、刀に洋剣といった武器を持っていた。
「・・・これは、どういうことでしょうか?」
「お前を人質にしてイリスから有利に交渉を進める。悪く思うなよ。恨むなら一人
で行かせたお前のボスを恨むんだな」
そう言われると槍時はボスと聞いて光努の顔を思い浮かべた。思い浮かべた光努はピースをしながら楽しげに笑っていいた。
「ふむ、恨むのは・・・・筋違いですね」
思い出した光努の顔を消して、目の前のマフィアたちを見た。
「やれ、お前ら。人質として生かしておけ」
「オーケー、ボス」
銃を構えた男たちは、一斉に槍時に向かって発射した。
周りからいくつもの弾丸が槍時に降り注ぐ。
***
奴はその射撃で終わりだと思った。かろうじて生きる程度に重傷を与えるように支持してあるから海棠の身柄はもらったと思った。
そう、思ったのに・・・・。
ドゴオォ!!
ドゴオォ!!
ドゴオォ!!
ドゴオォ!!
ドゴオォ!!
ドゴオォ!!
ドゴオォ!!
ドゴオォ!!
ドゴオォ!!
ドゴオォ!!
ドゴオォ!!
壁に、床に、部下共がめり込まれていく。
弾丸を交わし、剣を交わし、頭を掴んで叩きつけていく。攻撃が単調なのに、まったく部下どもの攻撃が当たらない。
「何をしている!たった一人だぞ!!」
現役の傭兵団に所属している傭兵共が海棠の前に立ちはだかった。
やはり下っ端どもには任せておけん。あいつらなら・・・・・。
「さっきの人達とは格が違うようですね。でも」
カシャンカシャンシャキン!
懐に手を入れて取り出したのは4本の束になっている棒。手を振ると全て自動的に組み合わさり、一本の棒となった。
その先端には刃渡り30センチ程ある漆黒の刃が備わっていた。
つまり槍。
海棠槍時の主武器は槍。
あの槍はありえない程の硬度を誇る海棠槍時の槍、『黒星』。
圧倒的硬度が特徴の仕込み槍。海棠槍時が普段好んで使う武器である。
すべてが黒く、その先端についている漆黒の刃が、禍々しく見えた。
「たかだか槍一本!やれ!!」
傭兵たちは剣を持ち、海棠に襲いかかったのだが、
「たかが槍、されど槍・・・ですよ」
ガガガガガガガ!!
一瞬、海棠の手と槍が消えたと思ったら、奴の正面にいた傭兵団と部下どもが一瞬吹き飛ばされた。一体何をした!?
ガガガガガガガ!!
まるでゴミのように吹き飛ばされていく。
だが!まだ数のはこちらのほうが上!いくらやつでも所詮は人の子。
いつか疲れが生じてくるはず!!
「数が多いですね。では、少しだけ本気でやりましょうかね」
ゾクリ!!
奴の目がこちらを捕らえたとき、私は恐怖した。
手を出してはいけないものに、私は手を出してしまった。
三人しかいない『アヤメ』。
やつらは一人一人が怪物だったということだ。
あれが、『アヤメ』の一人!海棠槍時!
気づいたときには、立っているのは私だけだった。
「おやすみなさい、ヴィンゴ。後は、こちらで処理をしておきます」
もう二度と、イリスには逆らわない。
命がいくつあっても足りない。
これでまだ一人だと?イリスは、化物ぞろいだ。
一瞬で迫った海棠槍時を目に、私は意識を手放した。
この日、一つのマフィアが壊滅した。
日常編も終わり!
次からは噂のロン毛さんがやってくる。
来週に向けての一言をどうぞ。
「う"お"ぉい!!」