特異点の白夜   作:DOS

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『いえ、ただ寄っただけですよ』

 

 

 

「すいませーん。宅配便でーす」

 

「はーい」

 

黒道家の前に止められた宅配業者のトラックから荷物を引っ張り出して玄関の中に持ってきていた。インターホンを押したところ、中にいた朝菜が出てきて印鑑を押して荷物を受け取った。届いた荷物は縦が2メートルに横幅が30センチ程もある大きな箱。上等そうなケースに入っており、鍵がかかっているのに鍵は入ってなかった。

 

「朝菜、荷物か?」

 

「ええ、この荷物あの人のみたいですよ」

 

「そうか」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

イリスファミリーには戦闘出来る人員が割と少ない。

 

全体的に会社経営や工場などを持っていたり、幅広く企業を展開していのでマフィアと企業とでは、企業のほうが有名なほどである。

そんなイリスファミリーだが他のマフィアが襲撃しても全て返り討ちにしている。

 

それは戦う人員がいないわけではないから。

 

少数精鋭とも呼ばれるほどに、怪物どもがイリスの中にはいた。

 

その中でもトップクラスの戦闘能力を持つのが、イリスの戦闘部隊である『アヤメ』。構成人数はわずか3人。

それでも他のマフィアを牽制するほどに強大な力を持っていた。

その一人が今、ツナ達の目の前にいた。

 

海棠槍時。

 

普段一箇所にとどまらない『アヤメ』の一人が日本へ来ていた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

強盗が警察に引き渡されたその頃、ツナとリボーンと槍時は警察が来る前にはコンビニから出ていた。

 

「君が、噂のボンゴレ10代目ですか。9代目も思い切ったことをしますね」

 

「俺が鍛えてるから問題ねーぞ」

 

「確かに、リボーンは信頼できますね。少々荒っぽい気がしますけど」

 

「少々どころじゃないけど・・・・」

 

ツナとリボーン、そして槍時は並んで歩きながら会話をしていた。

 

「それで、槍時さんってどういう人なの?やっぱマフィア?」

 

ツナ的にはコンビニ強盗の一件からもうこの人マフィアじゃねとあたりをつけていたが見事に的中。さすがマフィア関係者に囲まれているだけはある。

 

「ああ、僕はイリスファミリーってところに所属しているんですよ」

 

「イリス!光努のファミリーじゃん」

 

「光努?」

 

「あれ?知らないの?」

 

イリスファミリー、という名前にはもうツナは驚かなくなった

けどイリスに所属しているのにボスの光努を知らないというのはツナは不思議がった。ボスの知らない部下とかいるのだろうか、と。

 

だけどツナはそもそもイリスというマフィアについてあまり詳しくない。

 

これまでボスがいなかったマフィアというと有名だが今までマフィアとかかわらなかったのだからそこは無理もない。リボーンに軽く説明されてツナも改めてイリスというマフィアの特異性に驚いた。

 

槍時が知らなかったのも、ボスが新しく決まったとただ知らされてなかったというだけである。実はこの『アヤメ』というイリスの戦闘部隊、携帯端末を持っていないのである。理由は様々だが、メンバーの全員が「別になくてもいい」と言ったのである。彼らにしてみれば通信手段などいくらでもあるのだから携帯などなくても問題ないと考えたのであった。灯夜達からしてみれば非常時に連絡が取れないから逆に迷惑と考えたが、非常時には大抵向こうから来るからまあいいかとという結論に至った。

 

「イリスって変わってるんだね」

 

「はは、まあ否定はしませんね」

 

「それで、おめーがこんなところにいるってことは何かあったのか?」

 

リボーンはじっと探るような視線を槍時に向けた。

数少ないイリスの戦闘部門が動くということは、マフィア方面で何か動きがあった証拠。しかも日本に来るというのだからリボーンは槍時の用事が気になった。

 

「いえ、ただ寄っただけですよ。用事のついでに」

 

何もないとは隠さない。でも口にはしないとも言っている。リボーンは「そうか」と言ってこれ以上の追求をやめた。

 

「けどボンゴレ10代目とは大変ですね。それにリボーンの指導は結構大変ではないのですか?」

 

「えっ!」

 

ツナは槍時の思っても見ない言葉に思わず涙腺が緩んだ。

今までリボーンのでたらめな修行や過剰なお仕置き、今まで周りにいた人間で山本は遊びだと思って楽しみ、獄寺はツナを10代目にしようと奮起し、ビアンキやランボ、イーピンなど元々ツナを仕留めに来た殺し屋。ツナに同情する余地なし。ツナの母親は山本並なので楽しそうねという感覚。

 

つまり、ツナの指導(もしくは虐待?)に疑問を抱く人間がいなかった。

が、今ツナは「大変では?」と言われた。つまり、

 

「この人めっちゃいい人だー!!」

 

槍時の発言にツナは思い切り感動した。

 

(正直マフィアだから禄な人じゃないと思っていたけど、この人良い人だ!)

 

「辛くない修行なんて、甘いこと俺がするわけねーじゃねーか」

 

「あはは、まあそれもそうですけど」

 

「おまえ辛いってわかっててやってるのか!?」

 

リボーンの指導はスパルタ指導なのでそこはまあ当然っちゃ当然である。

 

「あはは、まあ綱吉君も頑張ってくださいね。あまり無理のしないように」

 

「あれ?同情してくれてる?なんだか目から涙が出てきたよ。俺感動しちゃって・・・」

 

あまりにも良い人な槍時にツナはまたしても感動した。

 

「けど、新しいボスですか。早く会ってみたいですね。どんな人ですか?」

 

「えっと、髪が白くっていつも楽しそうに笑ってる、ちょうどあんな感じの」

 

ツナが指を指した先にいたのは白い髪をした少年、光努。手に紙袋を持っており、美味しそうに鯛焼きを頬張っていた。光努の隣には光努よりも小さく、黒い髪をして光努と同じように鯛焼きを頬張っているコルの姿があった。

 

「光努!」

 

「はむ、ん?ツナ、それにリボーンと・・・誰?」

 

「あ、そーじ」

 

光努は槍時を見て頭に「?」を浮かべたけどコルの方は槍時の名前を口にした。

 

「やあコル。久しぶりですね」

 

タン!

コルが跳躍をし、空中で一回転。そして槍時の背中にくっついた。

 

「久しぶり~」

 

「元気そうですね」

 

「ツナの知り合い?」

 

「え?いや、どっちかって言うと光努の知り合いじゃ」

 

「?俺の知り合いじゃないけど」

 

「君が、白神光努君?」

 

鯛焼きを食べている光努に槍時が声をかけた。

 

「えっと・・どちら様?」

 

「初めまして、イリス『アヤメ』所属の海棠槍時。よろしく」

 

「『アヤメ』の!しかも海棠って・・・」

 

光努は記憶を探った。

 

 

 

 

『昔まだ捕まる前の話ですが、犬が出かけに『アヤメ』の一人と会ったことがあるそうなんですよ、偶然にも』

 

『・・・・あのときの犬は目も当てられない有様でしたね。その日からしばらくト

ラウマになってましたし・・・』

 

『喧嘩を挑んだらしいのですが、ボコボコの返り討ちにあったそうです』

 

『名を、海棠というそうですよ』

 

 

 

そして骸との精神世界での会話を思い出した。

 

「犬をフルボッコにしたやつだ」

 

「「「は?」」」

 

予想外の光努の返答に思わず全員ポカンとしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「くく、あははは。ああ、あの時のですか、あははは」

 

「え?笑い事?」

 

骸が言っていた犬の話を槍時にしたら、おかしそうに笑い始めた。

 

「いやぁ、まさかここでその話を聞くとは思いませんでしたよ」

 

本当に、心底おかしそうに笑う槍時はひとしきり笑ったら「ふぅ」と息を吐いて笑うのを止めた。

 

「それで犬をボコボコにしたんだって?」

 

「いや、勘違いですよ。どうやら犬君はその骸君にはちゃんと説明をしていないみたいですね」

 

「というと?」

 

「実は・・・・」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

数年前。

 

 

骸達が復讐者(ヴィンディチェ)でなくマフィアが収監されている牢獄に入る前の話。

 

その時骸が拠点としていたとある町の中で。

犬は手に持ったリンゴを食べながら歩いていたとき、その時その場所には人が多く、露店が多く出ていて活気があり、荷物を持った人も多く歩いたり馬車に乗せて移動したりといろんな人がいた。

 

犬が歩いていると前の方から歩いてきたのは槍時。この時、別の場所に行く途中でこの街を通過する最中だった。

 

二人の距離が縮まって数メートルとなったとき、偶然が起こった。

 

果物屋でバナナを食べていた男が食べ終わってバナナの皮を後ろに放った。

そしてナイスタイミングで犬がその上に足を乗せた。

その後の展開は予想通り。転びはしなかったけど犬は前のめりにつんのめってしまい、片足ケンケンという風になり前にいた槍時とぶつかった。

 

ドン!

 

「おっと」

 

「おわっ」

 

ぶつかった拍子に、犬は食べかけのリンゴを落としコロコロと転がった。

槍時は思わず後ろに一歩下がった。

ぐしゃり。

 

「あ・・・」

 

槍時の一歩下がった足がちょうどよく転がり込んできた犬のりんごを潰してしまった。ちょうどかじりかけの部分に足を乗せたので槍時は転がることなく潰してしまった。

 

「あー!俺のりんご!てめー何すんだびょん!!名を名乗れびょん!」

 

「え?海棠ですけど、僕のせいですか?どっちかというと君の不注意のような」

 

「海棠?この野郎!食物の恨みは怖いびょん!」

 

犬は口に手を入れたかと思うと、風貌を少し変えて軽快な動きで槍時に飛びかかった。人間離れした瞬発力に、周りは驚いてしまったが槍時は、

ひょい。軽く躱して飛び上がった足を自分の足で引っ掛けて犬の足を上に持ち上げるようにした。バランスを崩した犬の背中をとんと押した。

 

「わわわわ!」

 

犬は地面をゴロゴロと転がり、露店に突っ込んだ。

 

ドガシャァアン!!

 

金物屋だった店のフライパンに埋もれてしまった。

 

ガシャ。

フライパンの中から犬が出てきて当たりが悪かったのか少しふらっとしている。

 

「こ・・こんにゃろ~」

 

ガタリ。

 

犬がたった表紙で露店の棚が外れた。その上には大量の鍋が。

 

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!

 

「・・・・・・・・」

 

槍時と周りの人は犬の頭に大量の鍋が落ちていくのを唖然として見ていた。

犬は鍋とフライパンに埋もれてあちこち打たれながら目を回してしまった。

 

「えっと、とりあえずサルベージしてっと・・・・後はここに寝かせて」

 

槍時は気絶した犬を引っ張り出して近くのベンチに置いた。そして近くの露店で買ってきたリンゴを犬の体の上に置いてその場をあとにしたのであった。

 

その後、犬はフラフラの状態で大量の鍋をくらったので実際記憶が曖昧だったそうで、槍時にボコボコにされたと思ってしばらくトラウマになったそうだ。そしてバナナがしばらく嫌いになったとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「だっはっははは!犬だっせぇ!今度会ったら笑ってやろ!」

 

あまりの犬の自業自得っぷりに光努とコルとリボーンは笑ってツナは苦笑いするしかなかった。結局全部偶然起こったことだが犬が少々間抜けすぎた。あまりにも間抜けすぎて逆に不憫に思えてくるのだった。

 

「けどイリスにボスがいたとは驚きですね。まあ最近戻ってませんでしたししょうがないですね」

 

「ああ、ボスの白神光努だ。よろしくな、槍時」

 

「ええ、よろしく」

 

 

 

 

 

 




槍時回パート2。

次で日常編も終わり。

そろそろヴァリアー襲来!

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